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⑤ 私なりにあなたを思っていたのに。
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盗賊系列の最上職トリックスターは、トリッキーなスキルを用いて場をひっかきまわし、勝ち星を掠めとる陰の立役者。知能戦に参入することが多く、白兵戦の戦力としてはイマイチなのだが。
「ねぇねぇ、ラッキーセブンって何?」
知らない学生も多いでしょう。だってこれは対戦で使う派手な技ではなく、あくまで自分に掛ける受動スキル。まぁせっかくだから見せてあげよう。
私は軽くフィンガースナップをした。
「わわわっ! 7色のオーラが見える!」
レア度の高い受動スキルの発現オーラを目にした周囲は、もちろん感動している。
「ラッキーセブンはね、午前7時から午後7時までに限り、自身の“回避”ステータスを+77するのよ」
「ええっ……? +77って、それもう無敵じゃない……」
「そうね、上級戦士なら+77の回避も突破してくる奴いるけど。まぁそういうわけで、あなたのこざかしい奪取は、ずっと回避していたの」
「……私、盗めてなかったの……?」
「そう。同じ盗賊職で高レベルの私が気付かないわけないし。あなたのコソ泥の手に気付いてからは、こちらから分けてあげていたから。“驚くほど向上した”でしょ?」
「そんな……。私の魔力増強は……盗んだと思ってたスキルは……」
「魔力は私からの施し。スキルはお試し72時間有効」
彼女の顔は夜の海のごとく真っ青になった。圧倒的上位の存在を前にして、捕食される側の恐怖を思い知るがいい。
「待て、アネモネ。受動スキルをあらかじめ掛けていたというのか? こうなることを予知して!? いくら君の魔力量でも、永続的に使うのは重荷のはずだ」
「予知なんかしてない……。私はずっとラッキーセブンを掛けていたわ。アドニス、あなたのために」
「は? 私のため……?」
「だって私、あなたの婚約者だったもの……。他の男と慣れ合うつもりは一切なくて。この学院にいる時間帯は、男の視線、誘いかけ、すべて“回避”していた」
「なんだって……」
「そこのお嬢さんは知らないだろうけど、努力に裏打ちされた自信の伴う実力を持つ女はね、上目づかいも甘え声も必要ないの。そこにいるだけで人を呼び寄せてしまうものなの」
私は見本を見せるため、いったんラッキーセブンを解除した。
「掛け直すのもMP消費するんだけどね……」
「アネモネ様! 食後のお茶をどうぞ!」
「アネモネ様!! お靴をお磨きいたします!」
「アネモネ様~~! 俺を踏んでいただけないでしょうか!!」
わらわらと下級生の男たちが寄ってくる。これが鬱陶しいから毎日スキルを掛けていたのだ。こういうの、婚約者のある身にはトラブルの元だし。
「あっ、あなたたち! 私を裏切るのね!?」
「あら、彼らとお知り合い? ああそうだったわね、あなたがヒールだけで4年まで上がれたのは、彼らのおかげだったものね」
「あの手この手で癒してあげたのにぃ……」
「あと、あなたが私を利用して行った宿題は全て不正だって、先生に報告しておいたから。全科目追試がんばって。まぁこれからはそこの男、頼りなさいな」
私はアドニスを見下して言ってみた。
「そんな……。アネモネ様の婚約者じゃなきゃ意味ない……」
「そうね。試験もクリアすることができず留年が決まり、こんな情けなく転がっている男のためにずっと貴重なMPを消費していたなんて、情けなくて涙が出るわ」
スキルの掛け直し疲れでまた小腹が空いた私は、デザートを頼もうとキッチンカウンターに向かい出した。が、
「ま、待ってくれ……」
彼の弱々しい声に、同情が残っていたのか一瞬立ち止まってしまった。
「ごめん……やっぱり君と卒業したい。これからもずっと君と……うわぁぁあ!」
振り向きざまに雷落としてみた。三日は目覚めないだろう。
「ミルアさん、来年はちゃんとその人、卒業させてあげてくださいね」
私は言い捨てながらカウンターへ向かう。彼女の顔なんて確認しない。そのうち親切な下級生らが救護室に運んだようだ。
「ねぇねぇ、ラッキーセブンって何?」
知らない学生も多いでしょう。だってこれは対戦で使う派手な技ではなく、あくまで自分に掛ける受動スキル。まぁせっかくだから見せてあげよう。
私は軽くフィンガースナップをした。
「わわわっ! 7色のオーラが見える!」
レア度の高い受動スキルの発現オーラを目にした周囲は、もちろん感動している。
「ラッキーセブンはね、午前7時から午後7時までに限り、自身の“回避”ステータスを+77するのよ」
「ええっ……? +77って、それもう無敵じゃない……」
「そうね、上級戦士なら+77の回避も突破してくる奴いるけど。まぁそういうわけで、あなたのこざかしい奪取は、ずっと回避していたの」
「……私、盗めてなかったの……?」
「そう。同じ盗賊職で高レベルの私が気付かないわけないし。あなたのコソ泥の手に気付いてからは、こちらから分けてあげていたから。“驚くほど向上した”でしょ?」
「そんな……。私の魔力増強は……盗んだと思ってたスキルは……」
「魔力は私からの施し。スキルはお試し72時間有効」
彼女の顔は夜の海のごとく真っ青になった。圧倒的上位の存在を前にして、捕食される側の恐怖を思い知るがいい。
「待て、アネモネ。受動スキルをあらかじめ掛けていたというのか? こうなることを予知して!? いくら君の魔力量でも、永続的に使うのは重荷のはずだ」
「予知なんかしてない……。私はずっとラッキーセブンを掛けていたわ。アドニス、あなたのために」
「は? 私のため……?」
「だって私、あなたの婚約者だったもの……。他の男と慣れ合うつもりは一切なくて。この学院にいる時間帯は、男の視線、誘いかけ、すべて“回避”していた」
「なんだって……」
「そこのお嬢さんは知らないだろうけど、努力に裏打ちされた自信の伴う実力を持つ女はね、上目づかいも甘え声も必要ないの。そこにいるだけで人を呼び寄せてしまうものなの」
私は見本を見せるため、いったんラッキーセブンを解除した。
「掛け直すのもMP消費するんだけどね……」
「アネモネ様! 食後のお茶をどうぞ!」
「アネモネ様!! お靴をお磨きいたします!」
「アネモネ様~~! 俺を踏んでいただけないでしょうか!!」
わらわらと下級生の男たちが寄ってくる。これが鬱陶しいから毎日スキルを掛けていたのだ。こういうの、婚約者のある身にはトラブルの元だし。
「あっ、あなたたち! 私を裏切るのね!?」
「あら、彼らとお知り合い? ああそうだったわね、あなたがヒールだけで4年まで上がれたのは、彼らのおかげだったものね」
「あの手この手で癒してあげたのにぃ……」
「あと、あなたが私を利用して行った宿題は全て不正だって、先生に報告しておいたから。全科目追試がんばって。まぁこれからはそこの男、頼りなさいな」
私はアドニスを見下して言ってみた。
「そんな……。アネモネ様の婚約者じゃなきゃ意味ない……」
「そうね。試験もクリアすることができず留年が決まり、こんな情けなく転がっている男のためにずっと貴重なMPを消費していたなんて、情けなくて涙が出るわ」
スキルの掛け直し疲れでまた小腹が空いた私は、デザートを頼もうとキッチンカウンターに向かい出した。が、
「ま、待ってくれ……」
彼の弱々しい声に、同情が残っていたのか一瞬立ち止まってしまった。
「ごめん……やっぱり君と卒業したい。これからもずっと君と……うわぁぁあ!」
振り向きざまに雷落としてみた。三日は目覚めないだろう。
「ミルアさん、来年はちゃんとその人、卒業させてあげてくださいね」
私は言い捨てながらカウンターへ向かう。彼女の顔なんて確認しない。そのうち親切な下級生らが救護室に運んだようだ。
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