「恋もお付き合いもまだいいかなって思ってるんです~」と言いながら婚約者を盗んでいった聖女には、そいつ以外のすべてを盗み返してさしあげますわ

松ノ木るな

文字の大きさ
4 / 6

④ そのさらに上ゆくタネあかし

しおりを挟む
 あんなことがあってから3日たち、私は今日も食堂にて、コクの深い煮込み料理をひとり静かに食している。

「おお、アネモネ様が“熟成肉の丸煮込み・魚介の酢漬けを添えて”を召し上がっていらっしゃる!」
「私たちもそれを頼もう!」

 ええ、これは本日限定メニューだから、あなたたちも存分に味わうといいわ。


 食事を済ませ席を立ち上がろうとしたとき、食堂の地面を這う一筋のいかずちが。

 周囲は何事かと刮目した。そこに浮かぶ時空の割れた隙間から、放り出されるように転がってきたのは。

「アドニス様!?」
「4年のミルア・ロネスも一緒だ!」
「ふたりとも伸びているぞ! 怪我もひどい状態だ!」

 試験から帰ってきたわね。瀕死で。

 試験中、受験者のHPが危険帯に入ると学院に強制送還されるようになっている。もちろんミッションは失敗に終わり、今回は特に、卒業を賭けた試験なので……。

「ん……。あら、ここは……」
「お早いお帰りね。それで? 結果はどうでした?」
「……アネモネ様……」

 地面に這いつくばる彼女、ミルアは立ちはだかる私を見上げ、気まずさを顔に浮かばせた。

「あんな意気揚々と戦地に赴いて、まさかコテンパンにされて帰ってきたんじゃないわよね」

「どうしてこうなったの……あなたのあり余るMPと強力なスキルを盗んだはずなのに……」

「先輩としてあなたにはちゃんと考えさせたいけれど、お昼の休憩時間も有限なので早速回答してあげるわ。っとその前に、隣で転がってるコレも気付きつけして」

 視線で観衆に依頼したが、さすがに6年の級長に対し無礼な振る舞いを、とのことで物怖じしているようだ。

「大丈夫よ、この人もうHP底をついていて動けやしないし、頭も働かないだろうから」
 先輩らしくにっこり言ってみた。

「アネモネ様! 私めにやらせてください!」
「いや、俺が!」
「俺も! 俺も!」

 みんなで冷水ぶっかけちゃって。下級生の彼らに任せ私は椅子に腰掛けた。

「ぶはっ……。はぁーはぁー……はっ!」
「やだぁ冷たいぃ」
「なんでアネモネがここに……ん!? ここは学食!?」

「さてと。答えは簡単よ。あなたは最初から私のスキルを盗めていなかったの」

「ええ!? どうしてっ…。私の奪取スティールは多くの物を盗めない…だから3ヶ月かけて少しずつやった……。多くは盗めないけど盗賊の基礎ベーシックスキルだもの、戦士相手でも魔術師相手でも失敗することはないのに……」

「ふふ。そうね、戦士や魔術師相手ならね。そこがあなたのビッカビカに塗りたくった爪の甘いところよ」

 私は立ち上がり、彼女がやったのを真似るように、今着ている女戦士の武装を解いた。

「おおっ! アネモネ様のその装束は!」
「まるで妖精のようにユニセックスな魅力が! これは、きっとあれだっ……」

 今日あたり帰ってくると見立てて、下に着込んでおいたの。

「盗賊職最高位レア職、トリックスター!!」
隠者ハーミットを極め更にスキルを磨いた、幻の職と言われる……」

 これを目にしたふたりの顔が青くなった。

「まさか……あなたは剣士と魔術師のハーフでしょ……。盗賊のスキルを取得できる余地はない」

「あなたも盗賊の端くれなら情報はすべて盗みなさい。あなたが偉そうに自身の盗賊の血筋を明かしていた時、笑いを堪えるのに苦労したわ。だって私にはその最上級ジョブの血が流れているのだもの」

 解説しながら前進し、再び彼らの頭の先に立った。

「私ね、盗賊クオーターなのよ。雷魔の母が魔と賊のミックスなの」
「クオーター!? ……そんなのアリなのぉ……」

 まぁ4分の1の血の能力なんて、たいていの者には発現しないけど。そこは血の強さと修行量ね。

「そうか、分かったぞ……お前、“あのスキル”を取得してるんだろ」
「あら、アドニス。一応頭まわるのね」

 そこで気付いた周囲が感嘆の声を上げる。

「まさか……幻のスキル“幸運の7ラッキーセブン”!?」

「なんとアネモネ様はラッキーセブンを所持しているのか!」

 ふふっ。知る人ぞ知る、最強トリッキースキルよ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

私を捨てた婚約者へ――あなたのおかげで幸せです

有賀冬馬
恋愛
「役立たずは消えろ」 理不尽な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢アンナ。 涙の底で彼女を救ったのは、かつて密かに想いを寄せてくれた完璧すぎる男性―― 名門貴族、セシル・グラスフィット。 美しさ、強さ、優しさ、すべてを兼ね備えた彼に愛され、 アンナはようやく本当の幸せを手に入れる。 そんな中、落ちぶれた元婚約者が復縁を迫ってくるけれど―― 心優しき令嬢が報われ、誰よりも愛される、ざまぁ&スカッと恋愛ファンタジー

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

ご愁傷様です~「冴えない女」と捨てられた私が、王妃になりました~

有賀冬馬
恋愛
「地味な君とは釣り合わない」――私は、婚約者の騎士エルマーにそう告げられ、婚約破棄された。病弱で目立たない私は、美しい妹と比べられ、家族からも冷遇されてきた。 居場所を失い、ひっそり暮らしていたある日、市場で助けた老人が、なんとこの国の若き国王陛下で!? 彼と私は密かに逢瀬を重ねるように。 「愚かな男には一生かかっても分かるまい。私は、彼女のような女性を誇りに思う」妃選びの場で告げられた国王陛下の一言に、貴族社会は騒然。

処理中です...