3 / 6
③ 腹黒女のタネあかし
しおりを挟む
────「そういうのはまだいい」? 「みっともない」?? どの口が言った!? いつの間にアドニスに接近した!?
「やだぁ! アネモネ様、私のほっぺつねって引っ張ろうと戦意満々ですぅ!」
アドニスがささっと彼女を後ろに隠す。
「アネモネ。補助魔法に特化したかよわい聖魔の彼女を、剣豪の君が威圧するなんて卑怯だ」
「アドニス、今なら何も聞かなかったことにしてあげる。私とダブルで行きましょう。落第したら1年無駄にするだけでは済まない。エリート揃いの家の出の、あなたの経歴に傷がつく。跡取りの座だってどうなるか……」
「オルタ家を継ぐというならこれしきの事、自身の力で成してみせる! なに、ミルアがいれば百人力だ!」
「アドニス様、ステキですぅ!」
あなたのためを思って言っているのに……! ため息が出るわ。
「確かに、この3ヶ月でミルアさんの魔力は驚くほど向上したと思うわ。私が保証する。でもさすがに卒業試験の同伴としては力不足よ。無理しない方がいい」
「……力不足、ですって?」
そこでアドニスの背後からヌゥっと、聖魔にそぐわぬ不穏なオーラを放出させ彼女は出てきた。
「それは聞き捨てなりませんわ。アネモネ様、人を表面だけで判断していては足元をすくわれましてよ」
いつもの甘えたタレ目が睨み目に。人相が変わった彼女を、私はじっと見つめてみた。
「私、爪を隠していただけですから♡」
「堂々とネイル塗りたくってたわよね?」
「先輩、今ここで“雷の鎖”、出してください」
「は?」
指示されたので私はみんなの前で右手を前に掲げ、魔力を手に集中させた。初級魔法だ、そんなのはすぐに。
「…………」
この悶着をヒヤヒヤしながら見守る周囲がここでどよめく。
「アネモネ様の手から鎖が出てこない!?」
「そんなバカな。アネモネ様が消費MPの少ない簡易魔法をしくじるはずがない。まだお食事前で本調子でないのでは!」
観衆のみなさん、実況ありがとう。
「出ないでしょ? 実は実はぁ、なんと! あなたの魔力、私が3ヶ月かけて徐々に盗んでいったのでぇす」
「盗む……?」
「あなたは私の“脆弱な聖魔”という表面でしか判断しなかった。聖魔がそんなスキル持ってるわけないって、油断してしまったのですねぇ。でも私、超絶便利スキル・“奪取”が使えるんで~す!」
「そ、そうなのかミルア!?」
「それは暗殺者・隠者系列のスキルよね……」
そこで彼女は聖魔用の淑やかなローブを脱ぎ捨て、女盗賊職専用の、身体にフィットした装束に包まれる自身を堂々と見せつけてきた。
「脱いだら意外とセクシーだ、とお思いでしょ?」
「隠者職が隠す気ない胸元だ、とお思いです」
「でも驚くポイントはそこではありませんわ! 私、聖魔と盗賊のハーフなんです! 誰もご存じないようですわねっ!」
誰も存じられないような微弱なスキルしか持ってないということでは。強者の潜在スキルはなかなか隠し切れないものだからね、うまいこと隠す人以外。
「少ぉしずつ持ちモノ盗まれてるの気付かないなんて、脳ミソまで筋肉でカッチカチなんですね!」
「しょせん盗んだスキルなんて、本人以上に操れるわけないわ。そんなので合格できると思って?」
「もちろんあなたほど使いこなせるとは思ってませんわ。それでも盗んだ魔力の総量はなかなかですし、スキルも試してみたらさすがに強くて十分でしたっ」
自信たっぷりに宣言しながら、彼女は私のところへ寄ってきた。そして耳元で、甲高い声でささやくのだった。
「MPも高次魔法スキルもありがとうおばさん! この試験クリアして、あなたのカレも奪取しちゃいますねっ」
彼女は私の耳元でにやりと笑っただろう。私はなんとなく放心していて、それを目にすることもなかった。ただ、勝利を確信したような表情の元婚約者アドニスが踵を返し、それを彼女が追って睦まじく去っていくのを無言で見ていた。
「……さて。昼食をいただくとするわ。“魚とカブの辛味煮込み”と“玉ねぎのグラタンスープ”と“ベリー風味のキジロースト”をお願いします」
「おお、さすがアネモネ様! 昼間から快活でいらっしゃる!」
「メニューに対する決断力、いつも素晴らしい!」
観衆のみなさん、いつも激励ありがとう。
「やだぁ! アネモネ様、私のほっぺつねって引っ張ろうと戦意満々ですぅ!」
アドニスがささっと彼女を後ろに隠す。
「アネモネ。補助魔法に特化したかよわい聖魔の彼女を、剣豪の君が威圧するなんて卑怯だ」
「アドニス、今なら何も聞かなかったことにしてあげる。私とダブルで行きましょう。落第したら1年無駄にするだけでは済まない。エリート揃いの家の出の、あなたの経歴に傷がつく。跡取りの座だってどうなるか……」
「オルタ家を継ぐというならこれしきの事、自身の力で成してみせる! なに、ミルアがいれば百人力だ!」
「アドニス様、ステキですぅ!」
あなたのためを思って言っているのに……! ため息が出るわ。
「確かに、この3ヶ月でミルアさんの魔力は驚くほど向上したと思うわ。私が保証する。でもさすがに卒業試験の同伴としては力不足よ。無理しない方がいい」
「……力不足、ですって?」
そこでアドニスの背後からヌゥっと、聖魔にそぐわぬ不穏なオーラを放出させ彼女は出てきた。
「それは聞き捨てなりませんわ。アネモネ様、人を表面だけで判断していては足元をすくわれましてよ」
いつもの甘えたタレ目が睨み目に。人相が変わった彼女を、私はじっと見つめてみた。
「私、爪を隠していただけですから♡」
「堂々とネイル塗りたくってたわよね?」
「先輩、今ここで“雷の鎖”、出してください」
「は?」
指示されたので私はみんなの前で右手を前に掲げ、魔力を手に集中させた。初級魔法だ、そんなのはすぐに。
「…………」
この悶着をヒヤヒヤしながら見守る周囲がここでどよめく。
「アネモネ様の手から鎖が出てこない!?」
「そんなバカな。アネモネ様が消費MPの少ない簡易魔法をしくじるはずがない。まだお食事前で本調子でないのでは!」
観衆のみなさん、実況ありがとう。
「出ないでしょ? 実は実はぁ、なんと! あなたの魔力、私が3ヶ月かけて徐々に盗んでいったのでぇす」
「盗む……?」
「あなたは私の“脆弱な聖魔”という表面でしか判断しなかった。聖魔がそんなスキル持ってるわけないって、油断してしまったのですねぇ。でも私、超絶便利スキル・“奪取”が使えるんで~す!」
「そ、そうなのかミルア!?」
「それは暗殺者・隠者系列のスキルよね……」
そこで彼女は聖魔用の淑やかなローブを脱ぎ捨て、女盗賊職専用の、身体にフィットした装束に包まれる自身を堂々と見せつけてきた。
「脱いだら意外とセクシーだ、とお思いでしょ?」
「隠者職が隠す気ない胸元だ、とお思いです」
「でも驚くポイントはそこではありませんわ! 私、聖魔と盗賊のハーフなんです! 誰もご存じないようですわねっ!」
誰も存じられないような微弱なスキルしか持ってないということでは。強者の潜在スキルはなかなか隠し切れないものだからね、うまいこと隠す人以外。
「少ぉしずつ持ちモノ盗まれてるの気付かないなんて、脳ミソまで筋肉でカッチカチなんですね!」
「しょせん盗んだスキルなんて、本人以上に操れるわけないわ。そんなので合格できると思って?」
「もちろんあなたほど使いこなせるとは思ってませんわ。それでも盗んだ魔力の総量はなかなかですし、スキルも試してみたらさすがに強くて十分でしたっ」
自信たっぷりに宣言しながら、彼女は私のところへ寄ってきた。そして耳元で、甲高い声でささやくのだった。
「MPも高次魔法スキルもありがとうおばさん! この試験クリアして、あなたのカレも奪取しちゃいますねっ」
彼女は私の耳元でにやりと笑っただろう。私はなんとなく放心していて、それを目にすることもなかった。ただ、勝利を確信したような表情の元婚約者アドニスが踵を返し、それを彼女が追って睦まじく去っていくのを無言で見ていた。
「……さて。昼食をいただくとするわ。“魚とカブの辛味煮込み”と“玉ねぎのグラタンスープ”と“ベリー風味のキジロースト”をお願いします」
「おお、さすがアネモネ様! 昼間から快活でいらっしゃる!」
「メニューに対する決断力、いつも素晴らしい!」
観衆のみなさん、いつも激励ありがとう。
33
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
「輝きがない」と言って婚約破棄した元婚約者様へ、私は隣国の皇后になりました
reva
恋愛
「君のような輝きのない女性を、妻にするわけにはいかない」――そう言って、近衛騎士カイルは私との婚約を一方的に破棄した。
私は傷つき、絶望の淵に落ちたけれど、森で出会った傷だらけの青年を助けたことが、私の人生を大きく変えることになる。
彼こそ、隣国の若き皇子、ルイス様だった。
彼の心優しさに触れ、皇后として迎え入れられた私は、見違えるほど美しく、そして強く生まれ変わる。
数年後、権力を失い、みすぼらしい姿になったカイルが、私の目の前に現れる。
「お久しぶりですわ、カイル様。私を見捨てたあなたが、今さら縋るなんて滑稽ですわね」。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
婚約破棄が、実はドッキリだった? わかりました。それなら、今からそれを本当にしましょう。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエルフィリナは、自己中心的なルグファドという侯爵令息と婚約していた。
ある日、彼女は彼から婚約破棄を告げられる。突然のことに驚くエルフィリナだったが、その日は急用ができたため帰らざるを得ず、結局まともにそのことについて議論することはできなかった。
婚約破棄されて家に戻ったエルフィリナは、幼馴染の公爵令息ソルガードと出会った。
彼女は、とある事情から婚約破棄されたことを彼に告げることになった。すると、ソルガードはエルフィリナに婚約して欲しいと言ってきた。なんでも、彼は幼少期から彼女に思いを寄せていたらしいのだ。
突然のことに驚くエルフィリナだったが、彼の誠実な人となりはよく知っていたため、快くその婚約を受け入れることにした。
しかし、そんなエルフィリナの元にルグファドがやって来た。
そこで、彼は自分が言った婚約破棄が実はドッキリであると言い出した。そのため、自分とエルフィリナの婚約はまだ続いていると主張したのだ。
当然、エルフィリナもソルガードもそんな彼の言葉を素直に受け止められなかった。
エルフィリナは、ドッキリだった婚約破棄を本当のことにするのだった。
【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!
五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。
「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」
「え・・・と・・・。」
私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。
「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」
義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。
「な・・・なぜですか・・・?」
両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。
「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」
彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。
どうしよう・・・
家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。
この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。
この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。
婚約破棄を言い渡された私は、元婚約者の弟に溺愛されています
天宮有
恋愛
「魔法が使えない無能より貴様の妹ミレナと婚約する」と伯爵令息ラドンに言われ、私ルーナは婚約破棄を言い渡されてしまう。
家族には勘当を言い渡されて国外追放となった私の元に、家を捨てたラドンの弟ニコラスが現れる。
ニコラスは魔法の力が低く、蔑まれている者同士仲がよかった。
一緒に隣国で生活することを決めて、ニコラスは今まで力を隠していたこと、そして私の本来の力について話してくれる。
私の本来の力は凄いけど、それを知ればラドンが酷使するから今まで黙っていてくれた。
ニコラスは私を守る為の準備をしていたようで、婚約破棄は予想外だったから家を捨てたと教えてくれる。
その後――私は本来の力を扱えるようになり、隣国でニコラスと幸せな日々を送る。
無意識に使っていた私の力によって繁栄していたラドン達は、真実を知り破滅することとなっていた。
【26話完結】日照りだから帰ってこい?泣きつかれても、貴方のために流す涙はございません。婚約破棄された私は砂漠の王と結婚します。
西東友一
恋愛
「やっぱり、お前といると辛気臭くなるから婚約破棄な?あと、お前がいると雨ばっかで気が滅入るからこの国から出てってくんない?」
雨乞いの巫女で、涙と共に雨を降らせる能力があると言われている主人公のミシェルは、緑豊かな国エバーガーデニアの王子ジェイドにそう言われて、婚約破棄されてしまう。大人しい彼女はそのままジェイドの言葉を受け入れて一人涙を流していた。
するとその日に滝のような雨がエバーガーデニアに降り続いた。そんな雨の中、ミシェルが泣いていると、一人の男がハンカチを渡してくれた。
ミシェルはその男マハラジャと共に砂漠の国ガラハラを目指すことに決めた。
すると、不思議なことにエバーガーデニアの雨雲に異変が・・・
ミシェルの運命は?エバーガーデニアとガラハラはどうなっていくのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる