「恋もお付き合いもまだいいかなって思ってるんです~」と言いながら婚約者を盗んでいった聖女には、そいつ以外のすべてを盗み返してさしあげますわ

松ノ木るな

文字の大きさ
6 / 6

⑥ 見られてたなんて──!!

しおりを挟む
 デザートのフィッシュサンドを食べ終え、私は大きくため息を吐く。

「はぁ。私も早いところパートナーを見繕わないと」

 そこで周囲の目がギラっと光る。ガタっと椅子から立ち上がった者もいる。しかし彼らは何も言えないでいる。

 それはそうだ。私と組めば確実に合格できることは分かっている、が、その後のことを考えると誰しも躊躇するだろう。私の隣で任務の重責に耐えられる者など、そういるものではない。いたとしてもとっくに組む相手など決まって……。

「お前、卒試の相手いないのか」

 ずいぶん鷹揚おうような、よく通る逞しい声が私の背後から上がった。
 振り返るとそこにいたのは、“特盛カレーライス山鳥の親子添え”をがつがつと食している居丈高な男だった。体格の良い……と言っても、戦士クラスならこれが普通だろう。飄々とした態度であるのに、ギラギラした青い目から赤い闘志が隠し切れていない。

「あなたは……6年、戦士クラスの級長」

「ジオライオン・グラセスだ」

 まぁ、知っている。だって彼は私の実家、ヴァレロの政務上のライバル、グラセス侯爵家の跡取り息子。同じ剣士最上級職・剣聖ソードエスカトスを何代にも渡り排出している同士、代々しのぎを削ってきた。

 そんな家の次期当主が、私の家名を知ってて声を掛けたというの?

「そういうあなたは? まだ契約ダブル相手いないの?」

せんせい独りソロで行きたいと言ったら却下されたんだ」

 周囲もさすがに彼には敵わないと、私の相方ポジを得る意欲を引っ込めたようだ。さすがジオライオン様だ、という声も聞こえる。

「私と一緒に行きたいの?」
「そうだな、まぁ来い」
「は?」



**

 唐突に試験会場にでも連れていかれるかと思ったら、ここは学院内の「寂れた女神の塔」。

 もう鳴ることはない、大きな鐘が吊るされている。その屋根に彼はひょいひょいと跳び乗っていった。

「あ、ちょっと待ってよ」
 私もそれに付いていく。

 私をダブルに誘っているのではないの? どういうつもりなのか。

 正直、私も時間の余裕がそれほどないし、多少はこちらから歩み寄ってあげる。

「あなたほどの実力者でも、私の才能を欲しているの? まぁ素直に頼んでくるなら、ダブル組んであげなくもないわ。私もちょうどいい相手がいなくて」

「才能? お前ポンコツじゃねえか」

 ……は??

「なに? あなた私の何を知っててそう言うの? 私のこと何も知らないの??」

「まぁ、はっきり言ってあんまり知らないんだが」
「私を知らないって何!? ずっと登校拒否してた!?」

「いや、聞けよ。みんなが思っているほど天才の塊じゃねえだろってことだ」
「どういう意味よ」

「魔クラスにいて剣技の腕が落ちないように、休み時間にこっそり素振りしてたりな。6年間」

「えっ!!」

 なんで知ってるの!

 そう、私はこの6年間、いつも休み時間この人気ひとけのない塔に来て、この鐘の下で腕立てと腹筋と素振りをしていた。なんでこの人知ってるの……。

「俺6年間ずっと、休み時間ここで昼寝してたんだよ」

 ずっと見られてた~~!? 誰にもバレない様にここに来ていたのに……。

「それをポンコツって、ひどいわ……」

 顔が一気に熱くなってしまった。見られてたなんて、恥ずかしい……。

「ああ、どんな課題もなんてことないなんて涼しい顔しておいて、こんなところで汗振り乱して素振りしてるのはポンコツ精神だろ」

「何度もポンコツって……!」

 そこで彼は私の後ろ頭を大きな手で包み寄せた。

「でも俺は嫌いじゃねえよ」

「え?」

「血筋の才能に慢心せず、努力を怠らない。そんな人間でなきゃ組む気にならねえ」

「……!」

 分かるわ。私もそう思ってる。努力を人に見せつける気は更々ないけど、努力を認められる人が好き。

「俺と組むか?」

「そんなあっさり……。先のことを考えているの? あなたの家と私の家は……」

「あ──なんかいろいろメンドくさいこともあるが、いいさ。親父でもなんでもぶん殴ってやろう」

 ものすごい脳筋!

「……でも、いいか」

「ん?」

「組んであげるわ! 私の足引っ張らないでよ!」

「いや、俺が先を行くからな。お前はサポやれ」
「ダメよ私が前衛。ボスのトドメは私が刺す」

「じゃあ競争だ。卒試までに狩ったモンスターの総量でボス戦の役割決めるぞ」

 彼は立ち上がった。今日は昼寝しないようだ。

 私には分かる、彼は今、ウズウズしている。とにかく狩りたがってる。実力を見せつけたがってる。戦意がオーラとなって身体中から逆立ってる!

────なにこれ、もう。ゾクゾクするぅ!

「望むところよ。負ける気はないから」



 数日後、私たちは勇んで卒業試験に飛び込んで、制限時間の半分でクリアしてきた。

 盗賊の血を一滴も汲んでいないこの男に、いろんな大事なものを私が“奪取スティール”されてしまうのは、もうちょっとだけ先の話である。



                ~FIN~

しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

おゆう
2023.01.02 おゆう

悠然としているようで、見えないとこでは白鳥のように足をバタバタさせていたなんてギャップがまたたまりません(*´艸`*)。ヒーローとはアッサリエンドでしたね(笑)。

2023.01.02 松ノ木るな

ギャップ萌ぇ……げふん、努力を認めていただけるとアネモネ喜びます~♪

うーん、このふたりのイチャイチャ(=このストーリーの先)書きたかったのですけど、
脳筋×脳筋って
恋愛ジャンルというよりファンタジージャンル一直線になってしまいそうで。
しばらく脳筋カップルのラブ構想の修行に行ってきますε=(((((ノ`・Д・)ノ

解除
おゆう
2023.01.02 おゆう

圧倒的強者感、最高です😆。こんな男に費やした全てがもったいなくなりますね(笑)。

2023.01.02 松ノ木るな

赤髪スレンダー剣豪美女、気に入っていただけたら嬉しいです!
そのうえ情に厚い生真面目優等生なので、イキり系ダメ男を面倒見ちゃうのもお約束(笑)

解除
おゆう
2023.01.02 おゆう

これは自業自得なスカッとざまぁが期待出来そう(((*≧艸≦)ププッ。

2023.01.02 松ノ木るな

いやぁざまぁスベりに定評あるヘタレ作者なので、期待値7割引きでお願いしますっ!(滝汗)(←値引き求めすぎやん…。

解除

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

私を捨てた婚約者へ――あなたのおかげで幸せです

有賀冬馬
恋愛
「役立たずは消えろ」 理不尽な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢アンナ。 涙の底で彼女を救ったのは、かつて密かに想いを寄せてくれた完璧すぎる男性―― 名門貴族、セシル・グラスフィット。 美しさ、強さ、優しさ、すべてを兼ね備えた彼に愛され、 アンナはようやく本当の幸せを手に入れる。 そんな中、落ちぶれた元婚約者が復縁を迫ってくるけれど―― 心優しき令嬢が報われ、誰よりも愛される、ざまぁ&スカッと恋愛ファンタジー

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

ご愁傷様です~「冴えない女」と捨てられた私が、王妃になりました~

有賀冬馬
恋愛
「地味な君とは釣り合わない」――私は、婚約者の騎士エルマーにそう告げられ、婚約破棄された。病弱で目立たない私は、美しい妹と比べられ、家族からも冷遇されてきた。 居場所を失い、ひっそり暮らしていたある日、市場で助けた老人が、なんとこの国の若き国王陛下で!? 彼と私は密かに逢瀬を重ねるように。 「愚かな男には一生かかっても分かるまい。私は、彼女のような女性を誇りに思う」妃選びの場で告げられた国王陛下の一言に、貴族社会は騒然。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。