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オルフェンの珍道中記:最高の人材《タレント》を連れて
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僕がマイアをデメトリア王国から連れ出した日から、三日が経った。
我が帝国へ向かう道中は、実に――実に刺激的だ。
「オルフェン様、見てください! あの橋、ひび割れてますよ!」
マイアが、街道沿いの石橋を指差した。
確かに、古い橋だ。数百年前に建てられたもので、あちこちにひび割れがある。だが、まだ十分に使える。補修の予定も立っている。
「ああ、あれは」
僕が説明しようとした瞬間、マイアは既に橋に駆け寄っていた。
「直しますね!」
「マイア――」
遅かった。
マイアが素手で橋に触れた瞬間、石橋全体が淡く光り始めた。ひび割れが消えていく。
「……あれは」
エドワルドが呆然と呟く。
石橋は消えるどころか新品同様になっていた。
いや、新品以上だ。
橋の欄干には、何故か装飾が追加されている。魔力で強化された石材が、朝日を受けて虹色に輝いている。
「完璧です! これなら、あと千年は持ちますよ!」
マイアが満足そうに笑う。
「これはまた、素晴らしい改修だね」
僕は感心しながら呟いた。
「殿下。あの橋、この街の名物だったのですが」
エドワルドが小声で囁いてくる。
「ああ、知ってるよ。『百年前の英雄が渡った古橋』だったね」
「今、完全に別物になりましたが」
「そうだね。これからは『伝説の乙女が蘇らせた虹の橋』とでも呼ばれるんじゃないかな」
僕は笑った。
彼女と出会ってから僕はずっと心底楽しい。
どうしてエドワルドはこの楽しさがわからないんだろうね。
「新しい伝説の誕生だよ、エドワルド。観光資源としての価値は、むしろ上がったんじゃないかな」
僕たちは、何事もなかったかのように街を後にした。
背後で、橋を見た村人たちの歓声が聞こえた。
喜んでくれているようで、何よりだ。
◇
次の街に着いた時、マイアは市場に興味を示した。
「わあ、色々なものが売ってますね!」
「ああ、この街は商業都市でね。各地から商人が集まるんだ」
「しょうぎょうとし……?」
「盛んに物を売ったり買ったりする街のことだよ」
「へえ!」
マイアが目を輝かせる。
その姿は実に無邪気で、そして、実に危険だ。
案の定、マイアは露店の一つで足を止めた。
「あの、この杖、折れてますよ?」
「ああ、それは――」
商人が説明しようとする前に、マイアは杖を手に取った。
「直しますね!」
止める間もなく発せられる光。
杖が、完全に修復された。
「……何だ、あれは」
エドワルドが目を見開く。
杖の先端に、巨大な宝石が埋め込まれていた。
魔力が渦巻いている。
あの杖を振れば、おそらく山の一つや二つは吹き飛ぶだろう。
「はい! これで完璧です!」
マイアが満足そうに杖を商人に返す。
「え、あ、あの」
青ざめた顔の商人が震える手で杖を受け取る。
その目には、恐怖と、そして、強欲の色が混ざっていた。
「お代は――」
「いりませんよ! ただの修理《めいんてなんす》ですから!」
「メンテナンスだよ、マイア」
「めぇんてなんす!」
マイアはにっこり笑って、次の露店に向かった。
「……殿下」
「いやぁ、いい光景だったね、エドワルド」
僕は楽しくてたまらなかった。
ほぼ賢者の石なんじゃないかな。あの宝石。
「あの杖、王宮の宝物庫級の神器になりましたが」
「ああ、見事だね」
「あの商人、明日には大富豪になりますよ」
「素晴らしい経済効果じゃないか。
一人の成功者が、街全体に希望を与える。
これぞ理想的な地域活性化だよ」
僕たちは、何事もなかったかのように市場を後にした。
背後で、商人が神に感謝する声が聞こえた。
いや、感謝すべきはマイアだろうけれどね。
◇
その夜、僕たちは街道沿いの宿に泊まった。
食堂で夕食を取っていると、マイアが不思議そうに首を傾げた。
「オルフェン様、あの方々、とても疲れていらっしゃるみたいですね」
マイアが指差したのは、隅のテーブルに座っている冒険者たちだ。
確かに、疲れ切った様子だ。
装備も傷だらけで、杖を持った魔法使いは魔力切れのようだ。
「ああ、彼らは冒険者だよ。依頼を受けて人を守ったり、魔物を倒したりする職業だ」
「魔物……怖いですね」
「そうだね。だから、彼らは疲れているんだ」
「……助けてあげたいです」
言うが早いか、マイアは既に冒険者たちのテーブルに近づいていた。
判断が早いのは美徳かな。
僕はのんびりとマイアの背後に向かう。
フォロー要らないとは思うけど、エドワルドが死にそうな顔してるから
少しでも安心させてあげようかな。
「あの、お疲れのようですね。お手伝いできることはありますか?」
「え? ああ、いや……俺たちの装備、ボロボロでさ。明日の依頼、受けられるかどうか……」
「装備が壊れてるんですか? じゃあ直しますね!」
「いや、別にいいよ。修理代もないし――」
まぶしい光が食堂に広がる。
今度、遮光眼鏡|《サングラス》でも作ってもらおうか。
マイアに頼むと金ピカになってしまうかもしれないけど。
それはそれで面白いかもしれない。
冒険者たちの装備が、一斉に光り始めた。
剣が、鎧が、杖が、全てが完全に修復された。
まあ、修復だけで終わらないのがマイアのすごいところだ。
「……嘘、だろ」
冒険者のリーダーらしき男が、自分の剣を見つめて呟いた。
その剣は、先ほどまでただの鉄剣だったはずだ。
だが今は魔力を帯びた、伝説級の魔剣になっていた。
どこからどう見ても、魔剣。
「これで、明日も頑張れますね!」
マイアが満足そうに笑う。
冒険者たちは、呆然と装備を見つめている。
「え、ああ、ありがとう……ございます……?」
「いえいえ! 困った時はお互い様ですから!」
マイアはにっこり笑って冒険者たちに手を降る。
僕たちはテーブルに戻った。
「……殿下」
エドワルドが、もはや諦めたような声で囁く。
「あの冒険者たち、明日には伝説になりますね」
「ああ、楽しみだね」
僕はワインを一口飲んだ。
「装備を見た冒険者ギルドが、大騒ぎになりますね」
「それもまた、いいプロモーションになるだろう」
「我が国に着く前に、マイア様の存在が各地で噂になりますね」
「完璧な事前市場戦略じゃないか」
僕はにやりと笑った。
「彼女の価値を、みんなに知ってもらえる。
帝都に着く頃には、彼女の名声が先に届いているだろう。
これ以上の広報活動はないよ」
背後で、冒険者たちが装備を見て泣き出す声が聞こえた。
喜びの涙だろう。
伝説級の冒険者が爆誕した。
実に素晴らしい光景だ。
◇
僕たちが国境を越えてから四日目の朝、た。
我が帝国の首都が近づいてきた。
「わあ! 建物の形が、デメトリアと全然違いますね!」
マイアが目を輝かせる。
「ああ、我が国は初代皇帝イシキ・高杉の教えに基づいて、
効率性を重視した都市設計をしているからね」
「こうりつせい……?」
「無駄を省いて、最も良い結果を出すことだよ」
「へえ! 素敵ですね!」
マイアが嬉しそうに笑う。
「マイア、君はこれから我が国で――」
僕が説明しようとした時、前方から悲鳴が聞こえた。
「助けてくれ! 娘が病気で――!」
一人の農夫が、街道を走ってきた。
「娘が高熱で苦しんでる! 医者を呼ぶ金もない! 誰か――」
マイアが、僕を見上げた。
「オルフェン様、助けてあげてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
僕が頷くと、マイアは農夫に駆け寄った。
「大丈夫ですよ。娘さんを見せてください」
農夫の家に着くと、幼い少女がベッドで苦しそうに息をしていた。
高熱だ。おそらく、風邪がこじれたのだろう。
マイアが少女の額に手を当てた。
柔らかな白い光。
少女の顔色が、みるみる良くなっていく。
熱が下がり、呼吸が安定する。
「……そんな、治癒魔法まで」
エドワルドが呟く。
「あれは、上級治癒魔法……いや、それ以上だ」
少女が目を開けた。
「お父さん……?」
「ああ! よかった……!」
農夫が娘を抱きしめる。
マイアは満足そうに頷いて立ち上がった。
「よかったです。元気になりましたね」
「あ、ありがとうございます! 恩人様! お名前を――」
「いえいえ、お名前なんて。お嬢さん、お大事にしてくださいね」
僕たちが馬車に戻ろうとした時、エドワルドが呟いた。
「……殿下、あの治癒を受けた少女」
「ああ」
「魔力が、覚醒していました」
「気づいたか」
マイアの治癒魔法は、ただ病気を治すだけではなかった。
少女の潜在能力を引き出し、魔力を覚醒させていた。
あの少女は、おそらく将来――優秀な魔法使いになるだろう。
「……殿下、本当によろしいのですか」
エドワルドが真剣な顔で訊いてくる。
「マイア様を我が国に迎えて。彼女が通った後には、必ず何かが変わる。それも、劇的に」
「だからいいんだよ、エドワルド」
僕は笑った。
「我が国の建国皇帝は仰った。『変化を恐れるな。革新こそが、国を強くする』とね」
「はあ……殿下は、本当に楽しんでおられますね」
「ああ、とても楽しい。僕は確信しているんだよ」
僕はマイアを見た。
彼女は馬車の窓から、我が国の風景を嬉しそうに眺めている。
「彼女は、我が国を――いや、世界を変える」
そう。
マイアは、破壊者ではない。
彼女は、破壊と創造を同時に行う、究極の革新者だ。
既存の価値観を破壊し、新しい価値を創造する。
それも、完全に無自覚に。
「さあ、エドワルド。帰ったら忙しくなるぞ」
「……何をなさるおつもりですか」
「決まってるだろう。マイアのための専属部署を作る。
彼女の才能を最大限に活用するためにね」
「……殿下の『活用』が、一番恐ろしい気がします」
エドワルドが溜息をついた。
僕は笑いながら、向かいに座るマイアに声をかけた。
「マイア、もうすぐ帝都に着くよ」
「本当ですか! 楽しみです、オルフェン様!」
マイアの無邪気な笑顔。
その笑顔の裏で、我が国がどれほど変わることになるのか――
彼女は、きっと最後まで気づかないだろう。
それもいい。僕がすべて見ていればいいだけだ。
ああ、楽しみだ。
これから我が国で、どんな伝説が生まれるのか。
今から楽しみで仕方がない。
我が帝国へ向かう道中は、実に――実に刺激的だ。
「オルフェン様、見てください! あの橋、ひび割れてますよ!」
マイアが、街道沿いの石橋を指差した。
確かに、古い橋だ。数百年前に建てられたもので、あちこちにひび割れがある。だが、まだ十分に使える。補修の予定も立っている。
「ああ、あれは」
僕が説明しようとした瞬間、マイアは既に橋に駆け寄っていた。
「直しますね!」
「マイア――」
遅かった。
マイアが素手で橋に触れた瞬間、石橋全体が淡く光り始めた。ひび割れが消えていく。
「……あれは」
エドワルドが呆然と呟く。
石橋は消えるどころか新品同様になっていた。
いや、新品以上だ。
橋の欄干には、何故か装飾が追加されている。魔力で強化された石材が、朝日を受けて虹色に輝いている。
「完璧です! これなら、あと千年は持ちますよ!」
マイアが満足そうに笑う。
「これはまた、素晴らしい改修だね」
僕は感心しながら呟いた。
「殿下。あの橋、この街の名物だったのですが」
エドワルドが小声で囁いてくる。
「ああ、知ってるよ。『百年前の英雄が渡った古橋』だったね」
「今、完全に別物になりましたが」
「そうだね。これからは『伝説の乙女が蘇らせた虹の橋』とでも呼ばれるんじゃないかな」
僕は笑った。
彼女と出会ってから僕はずっと心底楽しい。
どうしてエドワルドはこの楽しさがわからないんだろうね。
「新しい伝説の誕生だよ、エドワルド。観光資源としての価値は、むしろ上がったんじゃないかな」
僕たちは、何事もなかったかのように街を後にした。
背後で、橋を見た村人たちの歓声が聞こえた。
喜んでくれているようで、何よりだ。
◇
次の街に着いた時、マイアは市場に興味を示した。
「わあ、色々なものが売ってますね!」
「ああ、この街は商業都市でね。各地から商人が集まるんだ」
「しょうぎょうとし……?」
「盛んに物を売ったり買ったりする街のことだよ」
「へえ!」
マイアが目を輝かせる。
その姿は実に無邪気で、そして、実に危険だ。
案の定、マイアは露店の一つで足を止めた。
「あの、この杖、折れてますよ?」
「ああ、それは――」
商人が説明しようとする前に、マイアは杖を手に取った。
「直しますね!」
止める間もなく発せられる光。
杖が、完全に修復された。
「……何だ、あれは」
エドワルドが目を見開く。
杖の先端に、巨大な宝石が埋め込まれていた。
魔力が渦巻いている。
あの杖を振れば、おそらく山の一つや二つは吹き飛ぶだろう。
「はい! これで完璧です!」
マイアが満足そうに杖を商人に返す。
「え、あ、あの」
青ざめた顔の商人が震える手で杖を受け取る。
その目には、恐怖と、そして、強欲の色が混ざっていた。
「お代は――」
「いりませんよ! ただの修理《めいんてなんす》ですから!」
「メンテナンスだよ、マイア」
「めぇんてなんす!」
マイアはにっこり笑って、次の露店に向かった。
「……殿下」
「いやぁ、いい光景だったね、エドワルド」
僕は楽しくてたまらなかった。
ほぼ賢者の石なんじゃないかな。あの宝石。
「あの杖、王宮の宝物庫級の神器になりましたが」
「ああ、見事だね」
「あの商人、明日には大富豪になりますよ」
「素晴らしい経済効果じゃないか。
一人の成功者が、街全体に希望を与える。
これぞ理想的な地域活性化だよ」
僕たちは、何事もなかったかのように市場を後にした。
背後で、商人が神に感謝する声が聞こえた。
いや、感謝すべきはマイアだろうけれどね。
◇
その夜、僕たちは街道沿いの宿に泊まった。
食堂で夕食を取っていると、マイアが不思議そうに首を傾げた。
「オルフェン様、あの方々、とても疲れていらっしゃるみたいですね」
マイアが指差したのは、隅のテーブルに座っている冒険者たちだ。
確かに、疲れ切った様子だ。
装備も傷だらけで、杖を持った魔法使いは魔力切れのようだ。
「ああ、彼らは冒険者だよ。依頼を受けて人を守ったり、魔物を倒したりする職業だ」
「魔物……怖いですね」
「そうだね。だから、彼らは疲れているんだ」
「……助けてあげたいです」
言うが早いか、マイアは既に冒険者たちのテーブルに近づいていた。
判断が早いのは美徳かな。
僕はのんびりとマイアの背後に向かう。
フォロー要らないとは思うけど、エドワルドが死にそうな顔してるから
少しでも安心させてあげようかな。
「あの、お疲れのようですね。お手伝いできることはありますか?」
「え? ああ、いや……俺たちの装備、ボロボロでさ。明日の依頼、受けられるかどうか……」
「装備が壊れてるんですか? じゃあ直しますね!」
「いや、別にいいよ。修理代もないし――」
まぶしい光が食堂に広がる。
今度、遮光眼鏡|《サングラス》でも作ってもらおうか。
マイアに頼むと金ピカになってしまうかもしれないけど。
それはそれで面白いかもしれない。
冒険者たちの装備が、一斉に光り始めた。
剣が、鎧が、杖が、全てが完全に修復された。
まあ、修復だけで終わらないのがマイアのすごいところだ。
「……嘘、だろ」
冒険者のリーダーらしき男が、自分の剣を見つめて呟いた。
その剣は、先ほどまでただの鉄剣だったはずだ。
だが今は魔力を帯びた、伝説級の魔剣になっていた。
どこからどう見ても、魔剣。
「これで、明日も頑張れますね!」
マイアが満足そうに笑う。
冒険者たちは、呆然と装備を見つめている。
「え、ああ、ありがとう……ございます……?」
「いえいえ! 困った時はお互い様ですから!」
マイアはにっこり笑って冒険者たちに手を降る。
僕たちはテーブルに戻った。
「……殿下」
エドワルドが、もはや諦めたような声で囁く。
「あの冒険者たち、明日には伝説になりますね」
「ああ、楽しみだね」
僕はワインを一口飲んだ。
「装備を見た冒険者ギルドが、大騒ぎになりますね」
「それもまた、いいプロモーションになるだろう」
「我が国に着く前に、マイア様の存在が各地で噂になりますね」
「完璧な事前市場戦略じゃないか」
僕はにやりと笑った。
「彼女の価値を、みんなに知ってもらえる。
帝都に着く頃には、彼女の名声が先に届いているだろう。
これ以上の広報活動はないよ」
背後で、冒険者たちが装備を見て泣き出す声が聞こえた。
喜びの涙だろう。
伝説級の冒険者が爆誕した。
実に素晴らしい光景だ。
◇
僕たちが国境を越えてから四日目の朝、た。
我が帝国の首都が近づいてきた。
「わあ! 建物の形が、デメトリアと全然違いますね!」
マイアが目を輝かせる。
「ああ、我が国は初代皇帝イシキ・高杉の教えに基づいて、
効率性を重視した都市設計をしているからね」
「こうりつせい……?」
「無駄を省いて、最も良い結果を出すことだよ」
「へえ! 素敵ですね!」
マイアが嬉しそうに笑う。
「マイア、君はこれから我が国で――」
僕が説明しようとした時、前方から悲鳴が聞こえた。
「助けてくれ! 娘が病気で――!」
一人の農夫が、街道を走ってきた。
「娘が高熱で苦しんでる! 医者を呼ぶ金もない! 誰か――」
マイアが、僕を見上げた。
「オルフェン様、助けてあげてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
僕が頷くと、マイアは農夫に駆け寄った。
「大丈夫ですよ。娘さんを見せてください」
農夫の家に着くと、幼い少女がベッドで苦しそうに息をしていた。
高熱だ。おそらく、風邪がこじれたのだろう。
マイアが少女の額に手を当てた。
柔らかな白い光。
少女の顔色が、みるみる良くなっていく。
熱が下がり、呼吸が安定する。
「……そんな、治癒魔法まで」
エドワルドが呟く。
「あれは、上級治癒魔法……いや、それ以上だ」
少女が目を開けた。
「お父さん……?」
「ああ! よかった……!」
農夫が娘を抱きしめる。
マイアは満足そうに頷いて立ち上がった。
「よかったです。元気になりましたね」
「あ、ありがとうございます! 恩人様! お名前を――」
「いえいえ、お名前なんて。お嬢さん、お大事にしてくださいね」
僕たちが馬車に戻ろうとした時、エドワルドが呟いた。
「……殿下、あの治癒を受けた少女」
「ああ」
「魔力が、覚醒していました」
「気づいたか」
マイアの治癒魔法は、ただ病気を治すだけではなかった。
少女の潜在能力を引き出し、魔力を覚醒させていた。
あの少女は、おそらく将来――優秀な魔法使いになるだろう。
「……殿下、本当によろしいのですか」
エドワルドが真剣な顔で訊いてくる。
「マイア様を我が国に迎えて。彼女が通った後には、必ず何かが変わる。それも、劇的に」
「だからいいんだよ、エドワルド」
僕は笑った。
「我が国の建国皇帝は仰った。『変化を恐れるな。革新こそが、国を強くする』とね」
「はあ……殿下は、本当に楽しんでおられますね」
「ああ、とても楽しい。僕は確信しているんだよ」
僕はマイアを見た。
彼女は馬車の窓から、我が国の風景を嬉しそうに眺めている。
「彼女は、我が国を――いや、世界を変える」
そう。
マイアは、破壊者ではない。
彼女は、破壊と創造を同時に行う、究極の革新者だ。
既存の価値観を破壊し、新しい価値を創造する。
それも、完全に無自覚に。
「さあ、エドワルド。帰ったら忙しくなるぞ」
「……何をなさるおつもりですか」
「決まってるだろう。マイアのための専属部署を作る。
彼女の才能を最大限に活用するためにね」
「……殿下の『活用』が、一番恐ろしい気がします」
エドワルドが溜息をついた。
僕は笑いながら、向かいに座るマイアに声をかけた。
「マイア、もうすぐ帝都に着くよ」
「本当ですか! 楽しみです、オルフェン様!」
マイアの無邪気な笑顔。
その笑顔の裏で、我が国がどれほど変わることになるのか――
彼女は、きっと最後まで気づかないだろう。
それもいい。僕がすべて見ていればいいだけだ。
ああ、楽しみだ。
これから我が国で、どんな伝説が生まれるのか。
今から楽しみで仕方がない。
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