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棒はやっぱりだだの棒!
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帝都に着いた瞬間、私は息を呑んだ。
「わあ……!」
建物が高い。
デメトリアの王宮よりも、ずっとずっと高い建物が、いくつも並んでいる。
空に届きそうなぐらい。
「すごいです、オルフェン様! 建物がこんなに高いなんて!」
「ああ、我が国は縦方向の発展を重視しているからね」
「たてほうこう……?」
「上に伸ばすことだよ。土地を有効に使うためにね」
「へえ! 賢いんですね!」
私は目を輝かせて、帝都の街を見回した。
建物も、道も、人の服装も――全部、デメトリアと違う。
新しいものばかり。
見たことのないものばかり。
楽しい。とっても、楽しい。
「オルフェン様、あれは何ですか?」
私が指差したのは、街角に立つ不思議な像だ。
人の形をしているけれど、デメトリアで見た聖人像とは全然違う。
「ああ、あれは建国皇帝『イシキ・高杉』陛下の像だよ」
「けんこく……?」
「この国を作った、最初の皇帝だ」
「へえ! 偉い方なんですね!」
私は像に近づいて、じっくりと見た。
厳しい顔をしているけれど、どこか優しそう。
「あの、オルフェン様」
「うん?」
「この像の周りに、棒がないですね」
私が言うと、オルフェン様が不思議そうな顔をした。
「棒……?」
「はい。デメトリアでは、偉い人の像の周りには、必ず聖なる杖っていう名前の棒が飾ってあったんです。神様の加護を示すために」
「ああ、なるほどね。我が国では、そういう習慣はないんだよ」
「そうなんですか?」
私はきょとんとした。
デメトリアでは、金ぴか(くすんでいたけど)の棒は神様の象徴だった。
王宮でも、神殿でも、貴族の家でもどこにでも、棒があった。
私も持ってた。
カシアン様が王子の婚約者なのだから杖ぐらい持て、って言ってきたから。
でも要らなかったなあ。
作ってカシアン様に見せて納得してもらって、すぐにミュリエラが欲しがったからあげちゃった。
すごく喜ばれたから作ってよかったなとは思ったけど、やっぱり素手が早くて確実で好き。
魔法が使える人は特に棒が好きだったよね。
魔法師さんの塔は棒の形だったし。
でも、この帝都には棒が無い。
「本当に棒がないんですね」
私は街を何度も見回した。
建物にも、広場にも、棒がない。
「我が国は、特定の宗教を持たないんだ」
オルフェン様が説明してくれた。
「イシキ・高杉陛下の教えでね。『神は人の心の中にある。形あるものに縛られるな』と」
「神様が……心の中に……?」
私は首を傾げた。
でも、何となく分かる気がする。
「我が国では、色々な神様を信じる自由がある。一つの神様を信じてもいいし、たくさんの神様を信じてもいい。あるいは、神様を信じなくてもいい」
「えっ!」
私は驚いてしまった。
たくさん神様がたくさん居ることに。
なのに、信じなくてもいいことに。
「神様がたくさんいるんですか?」
「ああ、人によって信じたい神様は違うからね」
「信じなくてもいいんですか? 困りませんか?」
「特に困ったという話は聞かないね。
信じてなくてもお願い事があれば、祠に行ったりもするし」
「すごく自由なんですね!」
私は嬉しくなった。
デメトリアでは、聖なる杖の神様だけが正しい神様だった。
他の神様を信じることは、許されなかった。
でも――
「私、ずっと思ってたんです」
私はオルフェン様を見上げた。
「棒だけが神様なの、変だなって」
「……変?」
「はい。だって、世界にはもっと色々なものがあるのに、どうして棒だけが特別なのかなって」
私は空を見上げた。
「お日様も綺麗だし、お月様もお星様も綺麗です。お花も、お水も、風も。みんな素敵なのに」
「……なるほど」
オルフェン様が、何だか嬉しそうに笑った。
「マイア、君はいい感性を持っているね。実に帝国向きだ」
「そうですか?」
「ああ。我が国では、君のような考え方が普通なんだ」
オルフェン様が、街を見回した。
「ほら、あそこに小さな祠があるだろう?」
私が見ると、街角に小さな祠があった。
「あれは、商売の神様を祀っている。商人たちが、商売繁盛を祈るんだ」
「へえ! お金を直接くれたりするわけじゃないんですよね?」
「人の成長のためには与えるばかりでは駄目って神様も考えているんじゃないかな? ほら、あっちの噴水の横には水の女神の像がある」
「女の人の神様なんだ~」
「そうだね。あとは動物の神様も居たりするよ。あの大きな木の下には、旅の安全を守る神様が祀られている」
「本当に神様がいっぱいですね!」
私は嬉しくなった。
神様がたくさんいる。それは絶対、楽しいに決まってる。
色々な神様が見守ってくれている。
好きな神様を好きに信じていい。
「オルフェン様、棒の神様もこちらではきっと、ただの棒なんですね」
「はは、確かに棒は棒だね」
「まっすぐで金色で可愛い棒ですよ!」
でも、たくさんいる神様の内の一人」
「数え方、一人なの?」
「棒だから一本かも!」
オルフェン様は少し考えて笑って頷いてくれた。
「帝国は楽しいです、オルフェン様!」
「そうか。気に入ってくれたなら、嬉しいよ」
「あの、でも――」
私は少し考えてから、付け加えた。
「私、棒も好きなんです」
「……棒を作るのが?」
「はい。作るのも、直すのも、楽しいんですよ」
私は自分の手を見た。
棒に魔力を通すと、気持ちいいの。
棒の形が変わっていくのを見るのも、楽しい。
「だから、たまに棒を作ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
オルフェン様が何だか、とても嬉しそう。
「マイア、君の作りたいものを、好きなだけ作っていいよ」
「ありがとうございます!」
私は嬉しくなった。
デメトリアでは、ミュリエラのために棒を作ったら怒られた。
「聖なる杖を勝手に作るな」って。
でも私、ただミュリエラに喜んでほしかっただけなんだけどなあ。
それに、宝物庫で一人、古い棒を磨く仕事も少しだけ寂しかった。
でも、この国では違う。
好きに棒を作っても怒られない。
神様の棒じゃなくて、ただの便利な棒を作れる。
そして、オルフェン様はいつも楽しそうに私の話を聞いてくれる。全然寂しくない!
ああ、楽しみがたくさんある。
この国で、私はどんなことができるだろう。
どんな人と出会えるだろう。
どんな新しいことを学べるだろう。
考えるだけで、胸がわくわくしてくる。
「さあ、マイア。城に行こう」
「はい!」
オルフェン様の後について、帝都の街を歩き始めた。
私、きっとこの国で、たくさんの素敵なことができる気がする。
そう思いながら、私は帝都の景色を目に焼き付けた。
本当に、この国に来てよかった!
「わあ……!」
建物が高い。
デメトリアの王宮よりも、ずっとずっと高い建物が、いくつも並んでいる。
空に届きそうなぐらい。
「すごいです、オルフェン様! 建物がこんなに高いなんて!」
「ああ、我が国は縦方向の発展を重視しているからね」
「たてほうこう……?」
「上に伸ばすことだよ。土地を有効に使うためにね」
「へえ! 賢いんですね!」
私は目を輝かせて、帝都の街を見回した。
建物も、道も、人の服装も――全部、デメトリアと違う。
新しいものばかり。
見たことのないものばかり。
楽しい。とっても、楽しい。
「オルフェン様、あれは何ですか?」
私が指差したのは、街角に立つ不思議な像だ。
人の形をしているけれど、デメトリアで見た聖人像とは全然違う。
「ああ、あれは建国皇帝『イシキ・高杉』陛下の像だよ」
「けんこく……?」
「この国を作った、最初の皇帝だ」
「へえ! 偉い方なんですね!」
私は像に近づいて、じっくりと見た。
厳しい顔をしているけれど、どこか優しそう。
「あの、オルフェン様」
「うん?」
「この像の周りに、棒がないですね」
私が言うと、オルフェン様が不思議そうな顔をした。
「棒……?」
「はい。デメトリアでは、偉い人の像の周りには、必ず聖なる杖っていう名前の棒が飾ってあったんです。神様の加護を示すために」
「ああ、なるほどね。我が国では、そういう習慣はないんだよ」
「そうなんですか?」
私はきょとんとした。
デメトリアでは、金ぴか(くすんでいたけど)の棒は神様の象徴だった。
王宮でも、神殿でも、貴族の家でもどこにでも、棒があった。
私も持ってた。
カシアン様が王子の婚約者なのだから杖ぐらい持て、って言ってきたから。
でも要らなかったなあ。
作ってカシアン様に見せて納得してもらって、すぐにミュリエラが欲しがったからあげちゃった。
すごく喜ばれたから作ってよかったなとは思ったけど、やっぱり素手が早くて確実で好き。
魔法が使える人は特に棒が好きだったよね。
魔法師さんの塔は棒の形だったし。
でも、この帝都には棒が無い。
「本当に棒がないんですね」
私は街を何度も見回した。
建物にも、広場にも、棒がない。
「我が国は、特定の宗教を持たないんだ」
オルフェン様が説明してくれた。
「イシキ・高杉陛下の教えでね。『神は人の心の中にある。形あるものに縛られるな』と」
「神様が……心の中に……?」
私は首を傾げた。
でも、何となく分かる気がする。
「我が国では、色々な神様を信じる自由がある。一つの神様を信じてもいいし、たくさんの神様を信じてもいい。あるいは、神様を信じなくてもいい」
「えっ!」
私は驚いてしまった。
たくさん神様がたくさん居ることに。
なのに、信じなくてもいいことに。
「神様がたくさんいるんですか?」
「ああ、人によって信じたい神様は違うからね」
「信じなくてもいいんですか? 困りませんか?」
「特に困ったという話は聞かないね。
信じてなくてもお願い事があれば、祠に行ったりもするし」
「すごく自由なんですね!」
私は嬉しくなった。
デメトリアでは、聖なる杖の神様だけが正しい神様だった。
他の神様を信じることは、許されなかった。
でも――
「私、ずっと思ってたんです」
私はオルフェン様を見上げた。
「棒だけが神様なの、変だなって」
「……変?」
「はい。だって、世界にはもっと色々なものがあるのに、どうして棒だけが特別なのかなって」
私は空を見上げた。
「お日様も綺麗だし、お月様もお星様も綺麗です。お花も、お水も、風も。みんな素敵なのに」
「……なるほど」
オルフェン様が、何だか嬉しそうに笑った。
「マイア、君はいい感性を持っているね。実に帝国向きだ」
「そうですか?」
「ああ。我が国では、君のような考え方が普通なんだ」
オルフェン様が、街を見回した。
「ほら、あそこに小さな祠があるだろう?」
私が見ると、街角に小さな祠があった。
「あれは、商売の神様を祀っている。商人たちが、商売繁盛を祈るんだ」
「へえ! お金を直接くれたりするわけじゃないんですよね?」
「人の成長のためには与えるばかりでは駄目って神様も考えているんじゃないかな? ほら、あっちの噴水の横には水の女神の像がある」
「女の人の神様なんだ~」
「そうだね。あとは動物の神様も居たりするよ。あの大きな木の下には、旅の安全を守る神様が祀られている」
「本当に神様がいっぱいですね!」
私は嬉しくなった。
神様がたくさんいる。それは絶対、楽しいに決まってる。
色々な神様が見守ってくれている。
好きな神様を好きに信じていい。
「オルフェン様、棒の神様もこちらではきっと、ただの棒なんですね」
「はは、確かに棒は棒だね」
「まっすぐで金色で可愛い棒ですよ!」
でも、たくさんいる神様の内の一人」
「数え方、一人なの?」
「棒だから一本かも!」
オルフェン様は少し考えて笑って頷いてくれた。
「帝国は楽しいです、オルフェン様!」
「そうか。気に入ってくれたなら、嬉しいよ」
「あの、でも――」
私は少し考えてから、付け加えた。
「私、棒も好きなんです」
「……棒を作るのが?」
「はい。作るのも、直すのも、楽しいんですよ」
私は自分の手を見た。
棒に魔力を通すと、気持ちいいの。
棒の形が変わっていくのを見るのも、楽しい。
「だから、たまに棒を作ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
オルフェン様が何だか、とても嬉しそう。
「マイア、君の作りたいものを、好きなだけ作っていいよ」
「ありがとうございます!」
私は嬉しくなった。
デメトリアでは、ミュリエラのために棒を作ったら怒られた。
「聖なる杖を勝手に作るな」って。
でも私、ただミュリエラに喜んでほしかっただけなんだけどなあ。
それに、宝物庫で一人、古い棒を磨く仕事も少しだけ寂しかった。
でも、この国では違う。
好きに棒を作っても怒られない。
神様の棒じゃなくて、ただの便利な棒を作れる。
そして、オルフェン様はいつも楽しそうに私の話を聞いてくれる。全然寂しくない!
ああ、楽しみがたくさんある。
この国で、私はどんなことができるだろう。
どんな人と出会えるだろう。
どんな新しいことを学べるだろう。
考えるだけで、胸がわくわくしてくる。
「さあ、マイア。城に行こう」
「はい!」
オルフェン様の後について、帝都の街を歩き始めた。
私、きっとこの国で、たくさんの素敵なことができる気がする。
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本当に、この国に来てよかった!
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