新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい

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第七話 嘘って、つき続けるの大変でしょう?

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ルーファスは実家の応接間で、母の前に座っていた。

逃げ出したかった。

今すぐこの場から。

「それで? わざわざ新婚の身で実家に来るなんて、何かあったの?」

母——先代侯爵夫人マリアンヌは、優雅に紅茶をすすりながら息子を見た。

「いえ、その……少し相談が……」

「カレンさんのこと?」

「えっ」

「違うの?」

「いや……まあ……」

ルーファスは言葉を濁した。

何から話せばいいのかわからない。

愛人がいると嘘をついたこと。

その嘘がどんどん大きくなっていること。

妻に追い詰められていること。

「あのね、ルーファス」

母が紅茶のカップを置いた。

「あなた、昔から変わらないわね」

「何がですか」

「自信がないと、嘘をつく癖」

心臓が跳ねた。

「な、何を……」

「小さい頃もそうだったでしょう。
 剣術の試験が怖くて『熱が出た』と嘘をついたり、
 ダンスの練習が嫌で『足を挫いた』と言ったり」

「それは子供の頃の……」

「愛人なんて、いないんでしょう?」

直球だった。

ルーファスは凍りついた。

「な、なぜそう思うんですか」

「あなたが本当に愛人を作れる器用な性格なら、
 そもそもこんな相談には来ないわ」

「……」

「図星ね」

マリアンヌは穏やかに微笑んだ。

「初夜が怖かったんでしょう?」

「っ……!」

「男として自信がなかった。
 だから『愛人がいる』と嘘をついて、
 白い結婚に持ち込もうとした。違う?」

ルーファスはうなだれた。

反論できない。

母は昔から、息子の嘘を見抜く天才だった。

「でも、カレンさんに論破されたのね」

「……はい」

「それで結局、夫婦の契約は履行したと」

「……はい」

「で、今は何に困っているの?」

「愛人がいると言った手前……もう引っ込みがつかなくて……」

「あらあら」

マリアンヌは小さく笑った。

「嘘の上塗りは大変でしょう」

「本当に……毎日綱渡りです……」

「カレンさん、頭が良いものね。追い詰められているんでしょう?」

「昨日も質問攻めにされて……愛人の名前も容姿も答えられなくて……」

「そりゃそうよ。いない人の特徴なんて答えられるわけないもの」

ルーファスは頭を抱えた。

「どうすればいいんでしょう……」

「簡単よ」

母はあっさり言った。

「正直に言いなさい」

「そんな……今さら『嘘でした』なんて……」

「言えないの?」

「カレンに何と思われるか……」

「何と思われると思うの?」

「軽蔑されます。きっと」

「そうかしら」

マリアンヌは首を傾げた。

「あの子、あなたが思っているより器が大きいと思うわよ」

「でも……」

「それに、嘘をつき続ける方がよほど軽蔑されるんじゃない?」

「……」

「ねえ、ルーファス」

母の声が、少し優しくなった。

「あなた、カレンさんのこと、どう思っているの?」

「どうって……」

「嫌い?」

「いえ……嫌いでは……」

「好き?」

「それは……わかりません……」

「でも、気になっているのね」

「……はい」

「だったら尚更、嘘はやめなさい」

マリアンヌは立ち上がり、息子の肩に手を置いた。

「嘘の上に関係は築けないわ。
 あなたが本当にカレンさんと向き合いたいなら、正直になりなさい」

「……はい」

「まあ、言うタイミングは自分で決めなさいな。
 でも、あまり長引かせない方がいいわよ。
 あの子、そのうち全部暴いちゃうでしょうから」

母の言葉が、重くのしかかった。

帰りの馬車の中。

ルーファスは窓の外を見ながら考えていた。

正直に言おう。

言わなければならない。

わかっている。

わかっているのに、怖い。

カレンの冷たい目を思い出す。

「それってあなたの感想ですよね?」

「なんかそういうデータあるんですか?」

あの目で見られながら、「実は全部嘘でした」と告白する自分を想像した。

……無理かもしれない。

でも、このままではもっと無理だ。

ルーファスは深く溜め息をついた。

「……覚悟、決めないとな」

呟いた言葉は、馬車の音にかき消された。

-----

「自分の嘘を覚えていられる人って、実は少ないんですよね」

マリアンヌ・ベルンワード先代侯爵夫人
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