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第八話 話がある、と言ったはずなんですが
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「カレン、今夜は話がある」
夕食の席で、ルーファスは意を決して言った。
母の言葉が頭から離れなかった。
嘘の上に関係は築けない。
正直に言わなければ。
今日こそ、全てを打ち明ける。
「話、ですか」
カレンが淡々と答える。
「ああ。食後に、二人で」
「わかりました」
妻の視線が冷静すぎて、心臓が縮む思いだった。
◇
食後、居間に移動した。
暖炉の前で二人きり。
「それで、話とは何ですか?」
「ああ……その前に」
ルーファスはワインの瓶に手を伸ばした。
「一杯だけ……いや、少しだけ飲んでも?」
「どうぞ」
一杯飲んだ。喉が渇く。
もう一杯。まだ言葉が出てこない。
三杯目。
「……ルーファス様」
「もう少しだけ」
四杯目。
「あの」
「んー……」
五杯目を注ごうとした手が止まった。
「ルーファス様。話があるんですよね?」
「ある。あるんだ」
ルーファスは瓶を置いた。
置こうとした。
少し手元が狂って、テーブルに音を立ててしまった。
「あの、カレン」
「はい」
「俺……いや、私は……」
「俺、で構いませんよ。それで?」
「俺さ……」
ルーファスはカレンを見た。
暖炉の灯りに照らされた妻の顔が、やけに美しく見えた。
「お前って……綺麗だよな……」
「は?」
「いや、前から思ってたんだけど……目とか、すごく綺麗……」
「……話というのは、それですか?」
「違う……違うんだけど……」
ルーファスはふらりと立ち上がった。
そのままカレンの隣に座り直す。
近い。
「ちょっと、近いんですが」
「カレン」
「何ですか」
「俺……お前のこと……」
ルーファスがカレンの手を取った。
「好き……だと思う……」
「……は?」
「いや、わかんないけど……でも、気になる……」
「酔ってますよね?」
「酔ってない。酔ってないぞ」
明らかに酔っている。
目がとろんとしている。
「カレン……俺、ほんとはさ……」
「ほんとは?」
「ほんとは……」
ルーファスの頭が、ゆっくりとカレンの肩に落ちた。
「………………」
寝息が聞こえてきた。
「……話があるんじゃなかったんですか」
返事はない。
カレンは夫の重みを肩に感じながら、天井を仰いだ。
「……はあ」
ため息が漏れた。
使用人を呼んでルーファスを寝室に運ばせた後、カレンは一人で居間に残った。
握られた手の感触がまだ残っている。
「……好き、ですか」
呟いて、首を振った。
「酔っ払いの戯言はデータに含めません」
そう言い聞かせて、自室に戻った。
翌朝のことは、明日の自分に任せよう。
尋問の準備は万端だ。
---
「酔った勢いで言ったことには責任が伴います。覚悟してくださいね」
カレン・ベルンワード侯爵夫人
夕食の席で、ルーファスは意を決して言った。
母の言葉が頭から離れなかった。
嘘の上に関係は築けない。
正直に言わなければ。
今日こそ、全てを打ち明ける。
「話、ですか」
カレンが淡々と答える。
「ああ。食後に、二人で」
「わかりました」
妻の視線が冷静すぎて、心臓が縮む思いだった。
◇
食後、居間に移動した。
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「それで、話とは何ですか?」
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「ある。あるんだ」
ルーファスは瓶を置いた。
置こうとした。
少し手元が狂って、テーブルに音を立ててしまった。
「あの、カレン」
「はい」
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「俺、で構いませんよ。それで?」
「俺さ……」
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「お前って……綺麗だよな……」
「は?」
「いや、前から思ってたんだけど……目とか、すごく綺麗……」
「……話というのは、それですか?」
「違う……違うんだけど……」
ルーファスはふらりと立ち上がった。
そのままカレンの隣に座り直す。
近い。
「ちょっと、近いんですが」
「カレン」
「何ですか」
「俺……お前のこと……」
ルーファスがカレンの手を取った。
「好き……だと思う……」
「……は?」
「いや、わかんないけど……でも、気になる……」
「酔ってますよね?」
「酔ってない。酔ってないぞ」
明らかに酔っている。
目がとろんとしている。
「カレン……俺、ほんとはさ……」
「ほんとは?」
「ほんとは……」
ルーファスの頭が、ゆっくりとカレンの肩に落ちた。
「………………」
寝息が聞こえてきた。
「……話があるんじゃなかったんですか」
返事はない。
カレンは夫の重みを肩に感じながら、天井を仰いだ。
「……はあ」
ため息が漏れた。
使用人を呼んでルーファスを寝室に運ばせた後、カレンは一人で居間に残った。
握られた手の感触がまだ残っている。
「……好き、ですか」
呟いて、首を振った。
「酔っ払いの戯言はデータに含めません」
そう言い聞かせて、自室に戻った。
翌朝のことは、明日の自分に任せよう。
尋問の準備は万端だ。
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「酔った勢いで言ったことには責任が伴います。覚悟してくださいね」
カレン・ベルンワード侯爵夫人
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