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本編
【真白視点】※処理時間:0.3秒
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四月、雨の日が増えた。
真白は毎朝天気予報を確認する。
午前が晴れてて、午後が雨になる日はリュックに一本多めの折りたたみ傘を忍ばせていく。
傘をさりげなく渡す脳内シミュレーションは完璧だ。
動作の確認もバッチリ。
出番はまだない。
出番がないことは真白には喜ばしいことだった。
だって日向が困ってない証拠だから。
そしてその日、日向は傘を持っていなかった。
講義棟の出口で、雨脚が強くなるのを見て立ち止まる。
周囲の学生が「うわ最悪」と雨の中へ走り出していく。
日向はそれを眺めて、少しだけ眉を寄せていた。
真白は、反射的に近づいた。
「あの、日向先輩」
声をかけた瞬間、日向の目がこちらを見る。
真白は胸の中で呼吸を整えた。
受験の日以来、初めて言葉を交わす。
「……あの」
「ん?」
日向は足を止めた。覚えているのかいないのかはわからない。
ただ、視線だけがまっすぐこちらに来る。
「傘、一本あります。よかったら」
真白が差し出すと、日向は一拍置いた。雨音が、その隙間を埋める。
「……いいの?」
「はい。俺は、まあ……大丈夫なので」
本当は全然大丈夫じゃない。心臓が騒がしいだけで、足元は地面にある。
「助かる。ありがとう。ちゃんと返すから」
日向が傘を受け取る。その瞬間、指先が一度かすった。
日向はそれを気に留めず、柄を握り直した。
「返したいから、学年と名前だけ聞いていい?」
「え」
え。なまえ。
真白は笑顔を貼り付けたまま、脳内で想定外危険ランプが点滅した。
(1:シミュレーションに無い展開)
(2:でも人間は名乗る)
(3:ここで詰まる=迷惑)
(4:迷惑=印象最悪)
(5:印象最悪=次が無い)
(6:次が無い=死)
(7:なので名乗る)
(8:普通の速度で)
(9:声量ふつう)
(10:早口禁止)
(※処理時間:0.3秒)
「……教育学部一年の、真白です。真白蓮」
言えた。
真白は内心だけでガッツポーズをした。
迷惑、かけてない。たぶん。
「真白な。俺は法学部三年の日向」
日向はそう言って傘を開いた。
「じゃあ、また」
真白は笑顔を保ったままゆるく手を振った。だが内側は大騒ぎだった。
指先がかすっただけ。
たったそれだけなのに、そこだけ世界が大きくなる。
(……触った)
見るだけでよかったのに、触ってしまった。
真白の胸は熱い。
“また”が約束みたいに聞こえた。
真白は毎朝天気予報を確認する。
午前が晴れてて、午後が雨になる日はリュックに一本多めの折りたたみ傘を忍ばせていく。
傘をさりげなく渡す脳内シミュレーションは完璧だ。
動作の確認もバッチリ。
出番はまだない。
出番がないことは真白には喜ばしいことだった。
だって日向が困ってない証拠だから。
そしてその日、日向は傘を持っていなかった。
講義棟の出口で、雨脚が強くなるのを見て立ち止まる。
周囲の学生が「うわ最悪」と雨の中へ走り出していく。
日向はそれを眺めて、少しだけ眉を寄せていた。
真白は、反射的に近づいた。
「あの、日向先輩」
声をかけた瞬間、日向の目がこちらを見る。
真白は胸の中で呼吸を整えた。
受験の日以来、初めて言葉を交わす。
「……あの」
「ん?」
日向は足を止めた。覚えているのかいないのかはわからない。
ただ、視線だけがまっすぐこちらに来る。
「傘、一本あります。よかったら」
真白が差し出すと、日向は一拍置いた。雨音が、その隙間を埋める。
「……いいの?」
「はい。俺は、まあ……大丈夫なので」
本当は全然大丈夫じゃない。心臓が騒がしいだけで、足元は地面にある。
「助かる。ありがとう。ちゃんと返すから」
日向が傘を受け取る。その瞬間、指先が一度かすった。
日向はそれを気に留めず、柄を握り直した。
「返したいから、学年と名前だけ聞いていい?」
「え」
え。なまえ。
真白は笑顔を貼り付けたまま、脳内で想定外危険ランプが点滅した。
(1:シミュレーションに無い展開)
(2:でも人間は名乗る)
(3:ここで詰まる=迷惑)
(4:迷惑=印象最悪)
(5:印象最悪=次が無い)
(6:次が無い=死)
(7:なので名乗る)
(8:普通の速度で)
(9:声量ふつう)
(10:早口禁止)
(※処理時間:0.3秒)
「……教育学部一年の、真白です。真白蓮」
言えた。
真白は内心だけでガッツポーズをした。
迷惑、かけてない。たぶん。
「真白な。俺は法学部三年の日向」
日向はそう言って傘を開いた。
「じゃあ、また」
真白は笑顔を保ったままゆるく手を振った。だが内側は大騒ぎだった。
指先がかすっただけ。
たったそれだけなのに、そこだけ世界が大きくなる。
(……触った)
見るだけでよかったのに、触ってしまった。
真白の胸は熱い。
“また”が約束みたいに聞こえた。
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