4 / 22
本編
【日向視点】唯一の安全装置
しおりを挟む
「いつから?」
「……先輩の生活に、入り込まないために、必要で」
「今は理由を聞いてない。いつから、どこまで書いてるんだ」
「……夏頃からです。図書館の……席を立った時間とか、戻ってきた時間とか。
あとは、南門から出るだろうな、とか」
南門。
「……合ってますか?」
真白が恐る恐る尋ねる。その声には、なぜか期待の色が混じっていた。
自分の記録が正確だったかを日向に認めてもらいたがっているのだ。
日向は答えず、代わりにポケットからミニノートを取り出した。
真白が落とした、あのミニノートだ。
中身は開かず、ただ「俺が持っている」という事実だけを突きつけた。
「これも、見た」
真白の肩がビクッと震え、すぐに止まった。
怯えているのか、それとも見つかったことを喜んでいるのか、判別できない揺れ方だった。
「……見ちゃいましたか。でもーー」
真白が言いかけたのを、日向は手のひらで制した。
「このノートは、今は返さない。でも、俺が欲しいのはこれじゃない」
日向はミニノートをポケットへ戻した。
今これを真白に返してしまえば、真白の中で
「返却=解決」と解釈され、うやむやにされる恐れがある。
今は「人質」として自分が持っておくべきだ、と日向は判断した。
「もうやめるっていう、お前の言葉が欲しい」
真白は手元のノートを、指先でぎゅっと握りしめた。
日向が持っている「これまでの記録」を返してほしいのか。
それとも手元の「最新の記録」を隠したいのか。
逡巡は、ノートの端を白くなるほど握りしめる指先に現れていた。
真白が迷っているのは、もはやノートそのものではない。
この状況からどう逃げるか。あるいはどう踏み出すか。
日向には、そう見えた。
日向は少しだけ声を和らげた。
けれど、言い逃れを許さない確かなトーンで続けた。
「怖がらせたいわけじゃないんだ。
ただ、お前が自分に言い訳をして逃げないように、ここでちゃんと区切りをつけたい」
真白のまつげが、一度だけ強く閉じられた。
再び開いた瞳に涙はなかったが、その奥にある光は、
日向が思っていたのとは別の方向へ危うく歪んでいた。
「やめたら……先輩に近づいてしまうかもしれません」
その言葉を受けた瞬間、日向は背筋にゾクりとしたものを感じた。
恐怖というより、真白の「目的」が自分の想像を遥かに超えて重いことに気づいてしまった衝撃だ。
真白にとってノートに書くことは、日向への執着を「記録」という形に変換して、
どうにか自分を繋ぎ留めておくための、唯一の安全装置だったのだ。
「俺は……近づくなとは言わない」
日向は、自分の常識がじわじわと侵食されていく感覚を押し殺して答えた。
真白の呼吸が、わずかに漏れる。
「でも、付きまとうな。調べるな。書くな。俺が許可してないことは、全部だめだ」
「……先輩の生活に、入り込まないために、必要で」
「今は理由を聞いてない。いつから、どこまで書いてるんだ」
「……夏頃からです。図書館の……席を立った時間とか、戻ってきた時間とか。
あとは、南門から出るだろうな、とか」
南門。
「……合ってますか?」
真白が恐る恐る尋ねる。その声には、なぜか期待の色が混じっていた。
自分の記録が正確だったかを日向に認めてもらいたがっているのだ。
日向は答えず、代わりにポケットからミニノートを取り出した。
真白が落とした、あのミニノートだ。
中身は開かず、ただ「俺が持っている」という事実だけを突きつけた。
「これも、見た」
真白の肩がビクッと震え、すぐに止まった。
怯えているのか、それとも見つかったことを喜んでいるのか、判別できない揺れ方だった。
「……見ちゃいましたか。でもーー」
真白が言いかけたのを、日向は手のひらで制した。
「このノートは、今は返さない。でも、俺が欲しいのはこれじゃない」
日向はミニノートをポケットへ戻した。
今これを真白に返してしまえば、真白の中で
「返却=解決」と解釈され、うやむやにされる恐れがある。
今は「人質」として自分が持っておくべきだ、と日向は判断した。
「もうやめるっていう、お前の言葉が欲しい」
真白は手元のノートを、指先でぎゅっと握りしめた。
日向が持っている「これまでの記録」を返してほしいのか。
それとも手元の「最新の記録」を隠したいのか。
逡巡は、ノートの端を白くなるほど握りしめる指先に現れていた。
真白が迷っているのは、もはやノートそのものではない。
この状況からどう逃げるか。あるいはどう踏み出すか。
日向には、そう見えた。
日向は少しだけ声を和らげた。
けれど、言い逃れを許さない確かなトーンで続けた。
「怖がらせたいわけじゃないんだ。
ただ、お前が自分に言い訳をして逃げないように、ここでちゃんと区切りをつけたい」
真白のまつげが、一度だけ強く閉じられた。
再び開いた瞳に涙はなかったが、その奥にある光は、
日向が思っていたのとは別の方向へ危うく歪んでいた。
「やめたら……先輩に近づいてしまうかもしれません」
その言葉を受けた瞬間、日向は背筋にゾクりとしたものを感じた。
恐怖というより、真白の「目的」が自分の想像を遥かに超えて重いことに気づいてしまった衝撃だ。
真白にとってノートに書くことは、日向への執着を「記録」という形に変換して、
どうにか自分を繋ぎ留めておくための、唯一の安全装置だったのだ。
「俺は……近づくなとは言わない」
日向は、自分の常識がじわじわと侵食されていく感覚を押し殺して答えた。
真白の呼吸が、わずかに漏れる。
「でも、付きまとうな。調べるな。書くな。俺が許可してないことは、全部だめだ」
34
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる