ストーカー後輩を放置できなくて矯正してたら、なぜか付き合うことになった

ささい

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本編

【日向視点】新しい手順

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真白の指が、ノートの角から離れた。
支えを失った紙が風に揺れそうになり、真白が慌ててそれを押さえる。
その必死な様子が、日向には恐ろしかった。
彼が押さえ込んでいるのは、ノートという物体ではない。
今にも日向に飛びかかりそうな自分自身の衝動そのものに見えたからだ。

「……はい」

返事は小さいが、そこには妙な決意が宿っていた。
けれど、日向はそこで手を緩めない。
ストーカー気質の「はい」を、そのまま信じてはいけないと本能が告げている。

「言葉にして。今日からやめるって」

真白は唇を噛みしめ、やがてすべてを投げ出すような、
あるいはすべてを受け入れるような顔で日向を見た。

「……今日から、やめます。先輩のことを、もう書きません。
 その代わりに、許可をください」

真白の真っ直ぐな視線に、日向は毒気を抜かれた。
けれど、ここで甘くすればこの男はまた別の方法で俺を「紙に閉じ込める」だろう。
日向は覚悟を決め、短く一度だけ頷いた。

「わかった。その代わり、ルールは俺が決める。
 今日からお前が俺について知っていいのは、俺が許可したことだけだ」

「許可したこと……だけ」

「そうだ。知りたいことがあるなら、その都度、俺に聞け。
 俺がいいと言ったら教えてやる。勝手に調べるな、隠れて見るな。……いいな?」

それが、おかしな関係の始まりになるとは、この時の日向はまだ気づいていなかった。
真白の瞳に、先ほどまでの歪んだ光とは違う、熱を帯びた輝きが宿る。

「はい。必ず、許可を取ります。……今、聞いていいですか?」

「今はダメだ」

即答すると、真白は少しだけ残念そうに、けれどどこか嬉しそうに俯いた。
その“嬉しそう”が日向には一番厄介だった。
叱られても、線を引かれても、真白の中で何かが増えていく。

「もし、約束を破ったら。……その時は迷わず大学に相談する。いいな」

「はい。報告は困りますけど、先輩に管理されるのは、その……」

「帰るぞ」

最後まで言わせず、日向は歩き出した。
言わせたら真白の言葉に巻き込まれる気がした。だからそこで切った。
今はそこまで面倒を見たくなかった。

真白は手元のノートを胸に抱え直すと、弾かれたように立ち上がった。
先ほどまでのような、背後からじりじりと侵食してくるような気味悪さはない。
距離は一定に保たれ、歩幅が重なることもない。
けれど、日向が速度を上げたら上げる。落とせば落とす。
磁石のように正確に、半歩後ろのポジションを維持し続けている。

日向はあえて振り返らなかった。
今ここで視線を合わせれば、その瞬間に新しい「ルール」が成立してしまいそうな気がしたからだ。
けれど、背中越しに伝わる気配は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
拒絶されて打ちひしがれている者の重苦しさはない。
むしろ、ようやく進むべき方向を見つけたかのような、妙に迷いのない足取りだ。

……嫌な予感がする。
俺は釘を刺したつもりだが。
こいつの中では「新しい手順」が始まっただけなんじゃないか?
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