何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

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第6話:助けた結果、原作が終わった話

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きっかけは、ほんの偶然だった。

散歩の途中、いつものようにアレスが半歩後ろを歩いていた。
リドルとデニス、リンも一緒で、子供たちだけの散策に使用人たちは少し離れてついてくる。

「ねぇ、あそこ、誰かいるよ。」

デニスの声に皆が足を止める。
茂みの向こう、小さな影が膝を抱えていた。
年の頃は私たちと同じくらい。
だがその髪はぼさぼさで、服もどこかくたびれている。

「おーい、どうしたの?」

呼びかけに、影はビクリと体を震わせた。

「……来ないで。」

か細い声。まるで獣のような怯えた目。
――ああ、覚えてる。この子は……この世界の恋愛ゲームで、バッドエンド率No.1のヒロイン。

原作では、母親から愛されず、家族に無視され続けた少女。
孤独と飢えの中で、心を閉ざし、歪んだ形で“愛”を求めるようになり……プレイヤー(主人公)に対して執着を見せるキャラだった。

でも今、まだそんなことにはなっていない。

「君、名前は?」

「……ルーチェ。」

「ルーチェ、怖いことはしないよ。ね、寒くない?お腹はすいてない?」

「……知らない人、やさしくしないで。」

目をそらして、ぽつりとこぼす言葉に、胸が締め付けられる。
だから私は、そっと膝を折って、彼女の目線まで降りた。

「じゃあさ、知らない人じゃなくなるところから始めない?僕はカノン。こっちはアレスと……リドルと、デニスと、リン。今日から、知ってる人ってことで。」

「…………。」

「お腹すいてなくてもいいけど、パン、好き?甘いのあるよ。」

ポケットから取り出した焼き菓子を見せると、ルーチェの目が微かに揺れた。
そして震える手で、そっとそれを受け取る。

「……知ってる人、になってもいい?」

「うん、もちろん。」

それが、始まりだった。

数日後、彼女は私たちの家に「一時保護」という名目で迎えられた。
そして、事態はすぐに動いた。

「ルーチェは、私のいとこ、メアリの家で引き取ってもらうことにしたの。」

母がそう告げた日の、アレスの顔は真っ白だった。
一方でルーチェは、信じられないという顔で、でも確かに笑っていた。

「本当に、いいの?私、家族、できるの?」

「うん。きっとあの家なら、いっぱい抱きしめてくれる。」

私は微笑んだ。彼女の運命は変わった。もう、闇堕ちルートには進まない。

でも、それは――

「……これで、“ゲーム”の最初のルートが終わった、ってことか。」

夜、一人になった部屋で、私は小さく呟いた。

ルーチェは本来、プレイヤーが攻略するはずのヒロインだった。
彼女を救うのは“その時”まで許されなかったはずなのに、私は原作の流れを壊してしまった。

それでも後悔はなかった。

彼女が幸せになれたなら、それでいい。

カノン・ライエル・フィルディア、2歳と10ヶ月。
原作の歯車が、初めて音を立ててずれた秋の出来事である。
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