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★最後まで
しおりを挟む数日後に、外で待ち合わせてからヒカルと遊びにいった。
場所はべつにどこだってよかった。映画は観たいやつの上映時間に間に合わなさそうだったし、夏休みのゲーセンは小中学生で混雑している。夕飯まで適当に時間を潰せればいいかということで、ダラダラとバッティングセンターに向かった。
「勝負しようよ、勝負。負けた方が勝った方にラーメンを奢るってことで」
「おー、やろうやろう」
絶対勝って入った店で一番高いラーメンをヒカルに奢らせようと思ったのに、普通に負けた。運動神経がいいうえにパワーもあるヒカルのスイングスピードに「エグイ」と俺が呟くと、「でしょ」と得意気な声が返ってくる。……ヒカルには言っていないけど、今日はこの後ヒカルの家に泊まろうと思っている。
◇◆◇
女とセックスがしてみたいと思っている、とヒカルに正直に伝えてしまったことは間違いだったのかもしれない。
正直でいることは誠実なことだと信じていた。けれど、我慢をさせているヒカルにそういうことを打ち明けたのは、ますます不安にさせるだけなのかもしれない。
順番が逆だったのかな、と思ったのは、家で男どうしのセックスの方法について調べていた時だった。……せめて、ヒカルが望む所まで進展出来てから、俺の気持ちの全部を打ち明ければよかったんだろうか。
セックスのやり方は思っていたよりも手間がかかるし、初心者の俺がいきなり上手くこなせる確率はとても低そうだと感じられた。だけど、なんとなく、似たような情報をヒカルもいっぱい集めて準備はしているんじゃないかって気がした。
正直言って、まだ怖いし迷っている。……それでバッティングに集中出来なかったんだと思う。今日はヒカルの男っぽく引き締まった腕を見て思わず動揺してしまった。
「やった。俺の勝ち」とニコッと笑いかけられた時は、なんだか、ドキッとして胸が苦しくなって目が合わせられなかった。ヒカルもそんな俺の様子に気付いていて、なんだか気まずそうにするから、二人ともお互いに対する態度がぎこちなくなる瞬間が何度もあった。
今まで通りにしないと、と思って頑張ったけれど駄目だった。もう、ただの友達どうしじゃない、ということを今日はすごく意識してしまう。今までだって友達どうしにしては、ちょっと距離感が近かったかもしれないけれど、二人でいると子供の頃と何も変わらないまま、ただただ本気で楽しいとか、悔しいといった感情をお互い本気で相手にぶつけられていた。
つい最近のことなのに、なぜか遠い昔のことのように感じる。今日だって、すごく楽しいけれど、もう、今までとはなんだか違う。
そのまま二人でラーメンを食べてから、帰りの電車に乗った。
いつもと様子が違うことを察しているのか「この後、どうする?」と問いかけるヒカルはどこか気まずそうだ。俺のアパートの最寄り駅に先に電車が着くから、そこで降りるかどうするかを決めないといけない。
もし、降りなかったらヒカルの家に行くことになるし、当然泊まることになるだろうから、俺の中ではあらゆることに「OK」したということになる。どうしよう、と迷いながら、自分が何をされるのかいろいろと想像してボッと顔を赤くしてると、ヒカルが「どうしたの?」と俺の顔を覗き込んだ。
「気分悪い?」
「あ、いや…なんか、ここ熱くて…」
モジモジとしている間に電車が駅に着いてしまった。他の人がドアからどんどん降りていく様子から目が離せなかった。席から立ち上がらない俺を見てヒカルは意外そうな顔をしている。
「降りないの?」
返事もしないで、慌てて立ち上がれば、まだ間に合うかもしれなかった。けれど、結局、俺は立ち上がらずにそのまま座っていることを選んだ。ドアが閉まって、再び電車が動き始めてから、ようやく口を開いた。
「きょ、今日ヒカルんち泊めて」
「いいけど……」
「サンキュー……」
もう頭の中はいっぱいいっぱいで、「やべーパンツ持ってねー、ヒカルのとこに置いてたっけ」と、別のことを考えて気を紛らわせるしかなかった。ヒカルは何を考えているのか、ただ黙って俺のことをじっと見ている。あまり、見ないで欲しかった。何を考えているかなんて知られたくないのに、心の内を探り当てようとするかのような、真っ直ぐで強い視線だったからだ。
そのせいで一緒に電車を降りるだけでなんだか一仕事を終えたような気分になった。
「なんか、疲れたね。暑かったからかな」
「うん……」
帰ったらさっさと寝よう、と言うヒカルに返事はしなかった、というか出来なかった。まだ、ヒカルには「今日、最後までしよう」とも言っていないのに、自分だけがいろいろ考えて、動揺して一人でから回っている。日が沈んだ後の、むわりとした昼間の熱を孕んだ空気と、これからのことを考えると、なんだかクラクラする。バカだ、俺は、と泣きたい気持ちになった。
「ねー、たまにさー、バッティングセンターで腕組みして立ってるおじさんがいるじゃん」
「……は?」
「いるじゃん、頼んでもいないのにフォームとかについて指導してくる人……。俺があんなふうになっても、一緒にいてくれる?」
「……ならないだろ、ヒカルは」
ヒカルののんびりした喋り方とよくわからない問いかけに、一気に気が抜ける。ヒカルとおじさん、という組み合わせが結びつかず、マイペースすぎる会話の内容についていけずにいるとヒカルは照れ臭そうに微笑んだ。
「そういう年齢になっても、側にいたいってこと」
「え……」
「……それぐらい、俺はルイが本気で好きだ」
「……なんだよ、もー。じゃあ最初からそう言えよ」
急に意味不明なことを言うヒカルに二人でゲラゲラ笑った。……たぶん、冗談っぽく言っているけど、ヒカルは本気だ。俺の様子が変だって気がついて、それで「本気で好きだから大丈夫だよ」と言いたかったんじゃないかと思う。
「……一緒にいるって、当たり前だろ。だから早く帰ろう」
そう伝えるのにもう迷いはなかった。
◇◆◇
ヒカルのマンションに着いてから、二人ともしばらくテレビを見てボーッとしていた。まるで、お互い相手が喋るのを待っているようだった。
「…シャワー使う?」
「……あ、ああ、うん。」
幸い前来た時に置いてったパンツがちゃんとあったから、それと部屋着を持って風呂へ向かえばいいだけだった。ただ、今の俺には身体を洗う、ということですら大仕事に感じられた。
「……ヒカル、あの、今日は最後までして欲しい」
風呂に向かう前に、勇気を出してそう言うと、ヒカルは「本当にいいの?」と驚いたように目を見開いた。
「だって、お前もしたいだろ……。俺だって、少し怖いけど、ヒカルとちゃんと最後までしてみたい」
「ルイ……」
「もし、俺が痛がってもちゃんと最後まで、してほしい」
俺がそう言うとヒカルは、どう返事をしたらいいのかわからない、と言った様子で俺から目を逸らした。優しいヒカルは、きっと「痛い」と言った瞬間に中断するだろうし、俺が、少し怖いんじゃなくて、すごく怖いと思っていることにも気が付いているはずだった。
「今日上手く出来なくて……途中で止めてしまったら……怖じ気づいてずっと出来ないかもしれないから」
「……わかった」
ヒカルが渋々ではあるけど、納得してくれたので、今度こそ俺は風呂に入った。洗いすぎだろうってくらい洗った。こんなふうに、単に身体を清潔に保つ、という目的以外で風呂に入るのは人生で初めてだった。
交代でヒカルが風呂に行ったから、とりあえず部屋を真っ暗にしたけれど、これが正解なのかはよくわからなかった。
◇◆◇
真っ暗な部屋の中で、お互いの息遣いとシーツが擦れる音が微かに響いていた。ヒカルは今日はいつも以上に俺を大切にしようとしている。俺の体に触れる手や唇が、丁寧で慎重な動きをしているからだ。
「んっ……あっ、あっ」
ヒカルの唇が乳首に吸いついていて来て、俺は堪らなくなって声をあげた。舌先で舐められ、ほんの少しだけ甘噛みされて、俺は身を捩って「もっとして」とでも言うかのように、胸をつき出す格好になった。
胸を弄られるのはくすぐったいけど、気持ちいい。今までは手か口でぺニスを触って貰ってそれでおしまいだった。けど、今日は違う。何のために、ヒカルが自分の胸を舐めたり吸ったりしているのか理解しているから、いつも以上に恥ずかしくて、気持ちよくて、悶えた。
「……ルイ、後ろいい?」
ヒカルが少し緊張したような声でそう言って、俺は「うん」と短く返事をした。どろっとしたローションが垂らされると、俺は無意識にふーっと大きく息を吐いた。
いきなり指をいっぺんに奥まで入れるということはなく、慎重にことは進んだ。それでも、ヒカルの指が中をほぐそうとゆっくり動いて、抜き差しが始まると呻いてしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
ヒカルの指が出し入れされるたびに、グチュグチュという音が聞こえてきて耳を塞ぎたくなる。自分の身体からそんな音がするなんて信じたくなかった。ヒカルの前で女みたいに、ただされるがままに受け入れることしか出来ないこの時間にいつかは慣れるんだろうか。
ヒカルはヒカルで、俺を心配してくれていたが、どことなく焦っているようだった。たぶん、前立腺の場所が分からなくて困っているようだけど、それを俺に言うわけにもいかず、真っ暗な部屋の中で自分一人で何とかしようとしている。
暗くてよく見えなくてもヒカルが俺の反応を見ながら、慎重に指を抜き差ししているのはわかった。緊張して上手く力を抜くことすら出来ない自分に出来ることと言えば「苦しい?」と聞かれて、恥ずかしいのを堪えながら、「もっとゆっくりして」「さっきのところ、もっと触ってみて」と正直に伝えることだけだった。
「あっ! あ……」
「ここかな? ここ……?」
ヒカルの指が中を擦る度に、俺の体はビクリビクリと反応した。ぺニスを刺激されるのと全然違う……独特な感覚だった。本来何かを受け入れる場所じゃないからだろうか、気持ち良いのに気持ち悪い。絶えずそんな感覚に襲われた。
「……ヒカル、もうそろそろいいよ。俺は大丈夫だから」
そう伝えてからも、ヒカルは少しでも俺がリラックス出来るようあちこちにキスを繰り返した。
「ぐ、うっ…」
ヒカルのが入ってくると思った瞬間には、激痛が走って俺は歯を食いしばって必死で耐えた。裂けてしまう、痛い、嫌だ、としか感じなかった。
「大丈夫?」
「だ、い、じょぶだから、続けろよ…」
キツく目を閉じてゆっくりと深呼吸した。額に脂汗が滲む。痛みと同時に肌が粟立って寒気がする。意思とは関係なく、挿入されることを身体が拒もうとして、その感覚が気持ちが悪かった。ヒカルが俺の身体を絶対に傷付けたりなんかしないということはわかっているのに、怖い。
「ルイ、力抜ける?」
ヒカルがそっと俺の背中を撫でた。頷きはしたが、身体は痛みのせいでカチコチになっていて、それに応えられる気がしなかった。
「こっち、萎えちゃったね」
「んっ、ううっ……」
「ルイ、何も考えないでいいよ…こっちで気持ち良くなって…」
気を紛らわせるためなのか、乳首やぺニスにヒカルの白い手が伸ばされる。後ろの方については一度忘れることにして、ヒカルの手の動きに集中することにした。
痛がっていることも、疲れていることも悟られたくなかった。一度でもそういうことを口にすれば、きっとその瞬間に「今日はもう止めよう」と言われてしまう。
だから、「休みたい」ということすら我慢している。触ってもらえている間に、ほんの少しでも身体を休めて仕切り直したかった。
何度も触っているからだろうか、どうやったら俺が気持ち良くなれるかわかっているみたいに、調度いい力加減で触ってくれる。少し力が抜けたのか、再びゆっくりとヒカルのぺニスが入ってきた。
少しでもヒカルが挿入しやすいように自分から腰を高くあげる。もう体はヘトヘトだけど、たぶんヒカルも同じくらい疲れているだろうから、どれだけ恥ずかしくても、やるしかなかった。
「入った……」
ヒカルが掠れた声でそう呟いた時、心底ホッとした。俺は枕から顔を上げずに「動いて、大丈夫だから……」とヒカルに声をかけた。ヒカルはゆっくりゆっくり腰を動かした。痛いというより、ぺニスが抜かれる時にやってくる独特な感覚にやっぱり鳥肌がたつ。
たぶん、体に力が入っているから、ヒカルのモノをぎゅうぎゅうに締め付けている。女の性器と違って、直腸に挿入しているわけだから、全体を締め付けるということはたぶん出来ない。ぺニスの根元だけを、キツく締め付けられている状態でヒカルは苦しくないんだろうか。
そして、突かれる度に俺の口から「ぐっ、ううっ……」という呻き声があがった。とてもセックス中だとは思えない、殴られているのを堪えているような声で、ヒカルはどうして萎えないんだろう、と不思議で仕方がなかった。
「ヒカル…おまえ、だいじょぶか……?」
「は、あっ、なに……?」
「キツくない、か?」
「……ちょっと、待って……気を抜いたら、出そーだから……」
入ったばかりだから、なるべく身体に衝撃を与えたくなかった。それでも、出る? とすごく驚いて、ゆっくりヒカルの方を振り返る。額に滲んでいた汗が、一滴流れ落ちた。
「ほんとに?」
「うん……ちょっと動いただけですぐ出そう……」
ヒカルの息づかいは荒く、薄暗い中でぼやーっと見えた顔は、眉間にシワを寄せて必死に何かを堪えているような表情だった。
「ずっとずっとずーっと、こうしたかった……きもちいい……」
うっとりしたような声でそう言いながら、遠慮がちにぐりぐりとぺニスを押しつけてくる。俺とこういうことをして、本気でヒカルは興奮している、と思うと顔に熱が集まった。もっと思い通りに動かしたいんだろうけど、俺の身体を心配して、もどかしいのに耐えているヒカルの様子を見ていると、どうにかしてあげたいと強く思った。
「ヒカル……ゆっくり、動いて……」
「は……あっ、ルイ……好きだよ、愛してる……」
「ああっ、ふ、うう……」
さっきまで寒気だけを感じていた体は、今はじっとりと汗ばんでいる。ヒカルが触れているところが、熱い。ゆっくりピストンを繰り返されながらペニスを扱かれて、少しだけ痛みが和らぐ。
ヒカルがどんな様子なのか知りたくて、振り返るとすぐに顔が近づいてきた。そのまま唇が重ねられて、無理やり舌が捩じ込まれる。
「んっ、ふ、う……」
お互いの舌を激しく吸いあうキスに加えて、ヒカルの手の動きが早くなる。気持ちよくて、手の動きを追うようにして腰を振ると、中をトントンと刺激される。女みたいにヒカルを受け入れて感じてしまうことに抵抗があるのに、ヒカルが自分の身体で欲情しているのは嬉しい、という複雑な感情で心がかき乱される。
「んんーっ! ふ……あっ、ああっ……だ、め……」
手の動きが止まることはなく、俺は我慢できずにそのままヒカルの手に射精してしまった。もう自分の上体を支える腕に力が入らない。そのまま体勢を崩してうつ伏せになるとヒカルはそのまま俺に覆い被さって、腰をさっきより少しだけ早く振り続けた。
「ルイ、俺も、もう……あっ、で、る……」
「ヒカル、いい、よ……」
ヒカルは最後に深く挿しては抜いてを数回繰り返した後、俺の奥で果てた。二人とも汗でじっとりと濡れた体で、はーはーと荒い呼吸を繰り返すことしか出来なかった。
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