幼馴染みが屈折している

サトー

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「寝るならベッドで寝なよ」

 そう言ってからヒカルは俺の体を引きずるようにして、ベッドまで無理やり移動させた。「シャワー借りる」と言って、ヒカルが風呂へ消えていった後、ベッドで横になりながら自分の身にさっき起こったことを思い出す。

 ヒカルの口の中マジで気持ち良かった……。

 あんなことをしてもらって大丈夫なんだろうか。確かめたわけじゃないけど、きっと精液は嫌な味がしたと思う。お返しに俺もした方がいいよな……。そんなことを悶々と考えているうちにヒカルがサッパリした顔で戻ってきた。
 ふーっ、と一息つくとヒカルは俺の寝ているシングルベッドにそうっと横になる。いつもヒカルは俺の家に泊まる時は、来客用の布団で寝ているから、ベッドでぎゅうぎゅうになって二人で寝るのは珍しい。

「……これじゃ狭いだろ」
「ちょっとだけ一緒に寝かせてよ」

 その時、外から足音がして、ああ、隣の人は今帰ってきたんだ、と二人で顔を見合わせた。
 ヒカルの整った顔が俺のすぐ目の前にあって、なぜだかドキリとする。俺のを咥えてる時、すげーエロい顔をしてた、と思うとまた反応しそうになる。壁際にギリギリまで寄ってるから、ヒカルとこれ以上距離を取って身体を離すことも出来ずに、目だけは逸らす。

 ヒカルの顔を見ていて「ああ、綺麗だな」と思うことは今までで何度もあったけど、こんなふうに欲情するのは初めてだった。

「どうしたの?」
「え、あの、俺、なんか……」

 なんと言えばいいのか分からず、俺はモゴモゴと口ごもる。そんな様子を見て、ヒカルは俺の背中をポンポンと優しく叩いた。

「嫌だった?」
「嫌じゃない! めちゃくちゃ気持ち良かったけど……。でも、あんなことをさせて、全部口の中にも出したし、なんか、ヒカルの顔を見てたらまたムラムラするし、もうわけがわかんねー……」

 俺がそう捲し立てると、うんうんと頷いていたヒカルは、ふはっ、と笑った。

「笑うな!」
「あ、ゴメン……。なんか、嬉しくて」
「なにが?」
「友達としてじゃなくて、ちゃんと意識してくれてるんだなって……」
「えっ……」

 ヒカルに対してまだ俺の中では「恋人を大切にしたい」というよりも「一番の親友を傷つけたくない」という気持ちが強いのを見透かしたような一言だった。俺は自分から恋人らしいことなんか一つも出来ないし、そもそもマトモに「好きだ」とも言えていない。待つとは言われたけど俺もそういうのを返していくべきなんだろうか。
 焦っている俺に気がついていないのか、次にヒカルが言ったのは「ねえ、ルイもう一回してあげよっか」だった。

「い、いいよ!」
「なんで?」
「し、絞り尽くされる」
「そんなに良かったの?」

 ケタケタとヒカルが笑って、しばらくするしないでヒカルが俺の体を触ったり、それに俺が抵抗したり、それでヒカルがベッドから落ちそうになって……。

「次は」

 とヒカルが何か言いかけて口を閉じた。けれど、俺は何を言いたかったのか分かった。たぶん、「次は最後までしよう」って言いたかったんだと思う。でも、俺とヒカルとの気持ちにズレが生じていることに気がついているからなのか、それ以上ヒカルは何も言わなかった。

「……今度、どっか行かない? 普通に映画でもゲーセンでもバッティングセンターでも」
「へえ?」

 ヒカルが意外なことを言うから、気の抜けた声が出てしまった。

「付き合ってから、まだちゃんと出掛けてないし、最近遊びに行ってなかったから」
「あー……そういや、そうかもな」

 行く!と俺が喜ぶと、ヒカルも目を細めて笑った。気を遣われているんだって、ちゃんとわかっていたけど今はまだ気がついていないふりをする。求められていることに答えられるよう、その日までにちゃんと覚悟を決めてくるから、もうちょっとだけ待っててな、と心の中で一人呟いた。
 
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