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★女とするより
しおりを挟む『明日飲み会あるけど。女も来るよ』
平野からこういう誘いが来てからようやく、自分がヒカルと付き合っていると誰にも明かしていないことに気がついた。
誘ってくれたことへのお礼を伝えてから、明日は行けそうにないと返事をする。毎日ヒカルからは「今日は何をしてるの? 家にいる?」と確認をされるし、付き合いだから飲みに行くなんて言えば「誰と? どこで?」と質問責めにされるに違いない。
ヒカルは女と俺が関わりを持つことをとても嫌がる。今までだって「誰かから飲みに誘われたら絶対俺にも教えて」「俺に隠れて彼女を作ろうなんてしてないよね?」と言われてきたけど、付き合うようになってからは、なんというか「俺と付き合ってるんだからわかってるよね?」という無言の圧を感じる。
こそこそ女と飲みに行こうとしているなんて知られたらヒカルは怒りで爆発するかもしれない。
俺のどこにそこまで心配する必要があるんだろう。自分の方がずっとモテるくせに、わけがわからない……そんなことを考えている時にヒカルから「今日、ルイの家に行っていい?」というメッセージが届いた。ただの偶然なんだろうけど、なんだか平野とのやり取りを監視されているようなタイミングだ。
出来すぎた偶然に、俺が見ていない時に、ヒカルの手によってスマホのパスワードが解除されて、それで、変なアプリを入れられて遠隔操作でデータが全部抜かれている……そんな馬鹿げたことを想像してしまった。
来て困るようなことはないし、断る理由もない。だから、オーケーはしたけど、女も来る、という飲み会に誘われたことについて、ブスッとしているヒカルの顔が思い浮かんで落ち着かない気持ちになった。
◇◆◇
ヒカルとは俺の住むアパートの近くにあるコンビニの前で待ち合わせた。ヒカルをもてなすようなものが俺の家には何もなかったからだ。
小腹を満たせるようなものと飲み物を買った。家へ向かって歩いている時にヒカルがボソッと言った「ルイの家って壁が薄いよね」という言葉は無視した。これは罠だからだ。
どういう意味だと少しでも俺が騒ごうものなら「べつにそのまんまの意味だけど?」「ルイこそ何を想像したの?」とニヤニヤされる。先を読んであえて聞こえないふりをするなんて俺の方がずっと大人だ。
買ってきたものを全部テーブルに広げてからダラダラと過ごす。
テレビをつけていたとしても、つけていなかったとしても、いつだってヒカルは俺のことをじっと見ている。することがあれば変わるだろうかと思い、今日は試しにぷちぷちと押し出して一粒ずつ食べるタイプのチョコレートを「やるよ」と渡してみたら、ふふっと笑われた。
「懐かしい。久しぶりに食べる」
「んー……」
真っ白な指が器用にぷちぷちとチョコレートを押し出しているのを眺めていたら、「ルイも食べて?」と口を開けるよう促される。今よりもずっと幼かった頃に戻ったような気持ちになりながら、鮮やかな色のチョコレートの粒を食べた。
「……お前、俺と付き合うことになって、それで女はどうしたんだよ」
なんとなく、さっきの平野からのメッセージを思い出してヒカルにそう尋ねてみた。あれだけたくさん、彼女なのかなんなのかよくわからない女がいっぱいいたのだからどうなったのかは純粋に気になる。ヒカルはなんでもないような口調で「ちゃんと全員切ったよ」とさらっと答えた。
「なんでそんなことを聞くの?」
「べつに、いっぱいいたからどーなったのかなって気になっただけ……」
「ふーん。ルイも気になるんだ」
なんだか嬉しそうなキラキラした目で見つめられている。ヒカルがデレッとした顔で「かわいいね」と言うから、慌てて俺は「違う違う」と首を横に振った。
「何が違うの?」
「ただ聞いただけで深い意味とかないから。本当に」
「本当に? ……俺が女と付き合ってたことについて怒ってるんじゃなくて?」
「はあ?」
どうやらヒカルの中で俺は「元彼女達に嫉妬している」ということになっているらしい。……変えようのないヒカルの過去に嫉妬をして、悩んだり悲しんだりして、ウジウジしている自分を想像するだけでため息が出そうになる。それについて「可愛い」と思われているのも不愉快だった。
「そういうのじゃなくて! あれだけ彼女もセフレもいたらフツーどうなったか気になるだろ!?」
「そうなの?」
本当にビックリした様子で目を丸くされる。「なんでわかんねーんだよ!」と肩に掴みかかりたいところだけど、そんな反応をされると、女とのセックスも別れもヒカルにとっては本当に些細なことだったのだと思い知らされる。俺はどっちも知らないのに、と思うとヒカルから挑発されているように感じてしまう。
「お前って、俺のことが好きだったんだろ? ……好きじゃない女ともセックスって普通に出来んの?」
ちゃんと全員切った、と言っているヒカルにセックスのことをずけずけと聞くのはよくないような気もするけど、どうしても我慢が出来なくて踏み込んだことを聞いてしまった。ヒカルだけが何でも知っていて、余裕があって、それが悔しかったからだ。
「もちろんルイ以外とは誰ともそんなことはしたくなかったけど……。でも、ルイのためなら俺はこんなことも出来るって、そう思って自分を奮い立たせてた」
「嘘だろ……。本当はしたくないのに、それで……いろいろ上手くいくのかよ?」
本当に乗り気じゃないなら勃起するのも難しいはずだとか、萎えていたらそもそもセックスは出来ないだろうとか、いろいろな考えが目まぐるしく俺の頭を過った。「詳しく知りたい」と俺の表情に出ていたのかヒカルは肩を竦めてから「俺は、いつも寝てるだけだよ」と呟いた。
「え?」
「寝てたら勝手に触ったり舐めたりして、それで上に乗ってくるから……」
「ええ……」
「だから、べつに、どうとでもなった」
セックスってそういうものでしょう、とでも言いたげな、どことなく冷めた声色だった。どうとでもなっていたのは、きっとヒカルの顔がいいからに決まっている。俺が同じことをしたら「サイテー」「セックスが下手」「マグロ野郎」と、ただただ相手を怒らせるだけだろう。
「はー……、いいな、ヒカルは」
「……そんなに女とセックスがしたいの?」
ヒカルとの問いにすぐには答えられなかった。したいか、したくないかで言えば、してみたいとは思う。女の体に触ってみたいし、どんなに気持ちいいのか知ってみたい。だけど、それを正直に口にしてしまったらヒカルを傷つけてしまうことは俺だってちゃんとわかっていた。
「……だって、俺、もう女と出来ないだろ…」
「うん……?」
「ヒカルと付き合ってるんだから、女とそういうことをしてたらおかしいだろ。……でも、俺だって知ってみたい、とは思う。だから、ヒカルが羨ましい」
「……そっか」
子供の頃から一緒だったヒカルを裏切りたくないと思っている気持ちには嘘はないし、女を知ってみたいと思っているのも本当だった。何かを隠して聞こえのいいことだけを伝えるのは後ろめたくて苦しい。だから、童貞臭い気がして恥ずかしかったけど、ヒカルには思っていることをちゃんと伝えた。
一応、伝わったのかはわからないけど、それ以上ヒカルはなにも聞いてこなかった。後ろから抱きついた後、ヒカルは俺の背中に頭をぐりぐりと押しつけてくる。人間の恋人というよりは、でっかい犬に好かれてじゃれつかれているみたいだった。
「ねえ」
「うん?」
「女とするよりもずっと良くしてあげるよ」
そう呟いたヒカルが、ぎゅうと体をさらに密着させる。ヒカルの硬くなったモノが当たっていた。コイツ触らなくても、俺でこんなに興奮しているんだ、と思うとビックリしていた気持ちが薄らいで、俺まで妙にドキドキしてしまう。
「後ろ当たってる……」
ヒカルはそれには答えず、黙って俺の着ている服の中に手を滑り込ませてきた。ヒカルをコンビニに迎えに行くためだけに着替えたゆったりした部屋着は簡単にそれを受け入れてしまう。両方の乳首をそっと摘ままれて、俺の体は前のめりになってヒカルの指先から逃げようとした。
「ヒカル、ここ壁薄いからヤバイんだって……」
「じゃあ声はちょっとだけ我慢してね」
音を誤魔化すつもりなのかヒカルがテレビをつけた。たぶん、隣はまだ帰ってないと思うけどいつ外出先から戻ってくるかはわからないし、我慢しようと思えば思うほど、余計に指先の動きがくすぐったく感じられた。
「ヒカル……も、それダメだって…」
「ルイ、自分でする時もここ触ってる?」
本当はヒカルとそういうことをするようになってからは、自分でも乳首を触ることがクセになっているけど、俺は首を横に振った。正直に「うん」なんて答えたら、今ここでやって見せろと言われかねないからだ。
「いつもじゃあ、自分でする時はどんなふうにしてるの?」
「言いたくない……うぅ、ん……は、あ」
「教えてよ」
ヒカルは俺の首に舌を這わせながら「気持ちよくしてあげたいから教えて」と言う。時々ちゅっと吸われると、もうめちゃくちゃに気持ちがいい。でも、普段自分がどんなふうにオナニーをしているのかなんて、ヒカルには絶対に言いたくない。
「あああ……ううーっ……それ、いやだ……」
「こっちは喜んでるのに?」
ヒカルが俺のスウェットの上から、ぺニスを撫でる。早く、と俺は思っているのにヒカルは直接それに触れようとはしなかった。それどころか、俺の反応を見て、緩急をつけて触ったり、乳首だけをいじったり、もどかしい刺激だけを与えてくる。もっと触ってほしがってるのは、わかっているはずなのに。お互いの身体に触れあう時、ヒカルはこうやって察しの悪いフリをして、自分の思い通りに俺を動かそうとする。それが本当にズルイ。
「ヒカルっ……」
ひどい、ずるい、お前は意地悪だ……そういうメッセージを込めた眼差しでヒカルのことを見つめると、ヒカルの目が眩しいものを見るみたいににゅうっと細められた。
「大好きだよ、ルイ」
「んうっ……!」
唇をめちゃくちゃに塞がれながら、乱暴に押し倒される。バカバカバカと言葉には出来ない気持ちをぶつけるようにしてヒカルの身体にしがみついた。
「‥…ルイにはご褒美をあげなきゃね」
「うわ、あっ……」
テキパキとヒカルは俺の穿いているスウェットとパンツを剥ぎ取った。電気がついたままの部屋で丸出しになっていることと、ご褒美という言葉への期待とで顔が熱い。
「……いっぱい気持ちよくしてあげる」
「ん……」
ヒカルは俺の足を跨ぐようにして四つん這いになってから、性器に顔を近づけてきた。いくら恋人になったとは言っても長い付き合いの男に自分のペニスをまじまじと観察されるのは気まずくて恥ずかしい。
「ん……」
「あっ……!」
やっと手でしてもらえる、と必死で我慢しておとなしくしていると、ヒカルは唇で俺の内腿に触れた。なんだか、上手く言えないけどいつもと違う、と思うと背中がゾクゾクする。
「んっ、んうっ……」
性器の周辺をチロチロと舌先で舐め回される。唇と舌の動きをじっと見つめていると時々ヒカルと目が合った。ニヤッと笑いかけられて、自分がその先を期待するような眼差しでヒカルのことを見つめていたのに気がつかされた。
「あっ、ダメだって、そんなこと……」
ぺろ、と裏筋に軽く舌先が触れる。これはフェラだ、思うと鼓動が早くなっていく。「初めてだよね?」というヒカルの言葉にこくこくと必死で頷くと、先端が温かく柔らかい感触で包まれる。夕方にシャワーを浴びてから洗っていないとか、そもそもヒカルにこんなことをさせてもいいんだろうかとか、躊躇う気持ちが頭を過ったのは一瞬で、すぐに塗り潰されてしまった。
「あっ、あっ……」
唾液でたっぷりと濡れた舌で先端や裏筋をゆっくりと優しく舐められる。敏感な場所を労るようなゆったりとした動きだった。一方的に与えられる知らない快感に戸惑って、ぎゅっと手のひらを握りしめると、上からそっとヒカルの手が重ねられる。ヒカルの唇が俺の性器に触れる音が聞こえるたびに、腰を浮かせたい気持ちを堪えた。
「あっ、ああっ……!」
熱い唇と舌がぴったりとぺニスに吸い付くように密着している。根本を握られた状態で、裏筋を舌が這うたびに俺の体はピクピクと反応した。自慰や手でしてもらうのとは比べ物にならないぐらい気持ちがいい。俺の方が「フェラをするのは初めてなんだよな?」と聞きたいくらいだった。
「ヒカル、ヒカルっ……」
「んっ、んっ……」
小さな声を漏らしながら、ヒカルが顔を上下に早く動かすたびに明るい色の髪がさらさらと揺れる。女のように整った綺麗な顔が、時々苦しそうに歪んだ。
情けない声で俺が名前を呼ぶと上目遣いで見つめ返される。目の表面に薄い涙の幕が張っているのに、どこかギラギラとしている眼差しだった。
「あああっ、出る……」
絶頂が近いことを知らせて止めさせようとしたけれど、火が着いていたのか、ヒカルはより強く吸い付いきながら、ぺニスを口の中に激しく出し入れした。
「も、ごめ……でる……」
喉の奥から声を絞り出すのと同時に、ヒカルの口の中にそのまま出してしまった。ヒカルはむせて咳き込んだり、不快感を露にしたりもせずに、そのままごくりと喉を鳴らして出されたものを飲み干した。最後の一滴迄を絞り出すように、鈴口を舌先で刺激されて腰から下がじわじわと痺れていくようだった。
「……ね、女とするより良かったでしょ」
側にごろりとヒカルが寝そべってくる。形のいい唇が唾液で濡れて光っていて、それがすごく艶かしかった。「だから、その女を知らないんだって」と返すことは出来ずに、小さく頷くと満足そうにヒカルは微笑んだ。
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