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【その後】幼馴染みにかえるまで
一番可愛い(2)
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終わった後、一時間ばかり眠って、目を覚ますと外では雨が降っていた。
「うわー……」
空はどんよりとした灰色の雲に覆われていて、夏特有の粒が大きい雨がざーざーと降っている。雨が降ると知っていたらヒカルの家に向かう途中で何か買っていたのに。
一緒に勉強しよう、と誘われていたから、腹がへったらどこかへ食べに行くつもりだった。身体はダルいし、天気も悪いからとても出かける気になんかなれない。出掛ける前に天気予報をちゃんとチェックしなかった俺が悪い。窓から顔を背けるようにしてごろりと寝返りを打つと、ヒカルがじっとこちらを見ていた。
「……起きてたのかよ」
「うん。少しだけ寝てたけど……」
まだ何か言いたそうにしていたけど、言葉は続かなかった。最後、ちょっと泣いてたよな、とぼんやりとした頭で思う。涙は流していなかったけど、「ルイ、俺を嫌いにならないでって」言いながらしがみついてくるヒカルはすごく必死だった。達した後もなかなか俺から離れようとはしないで、ずーっと、ルイ、ルイって、俺の頬や胸に唇で触れていた。
嫌だとは思わなかった。能力を持っているうえにプライドだって高いから、外では常に気を張っているみたいだし、俺のことになるとヒカルはすごく不器用だ。暗いけど、ヒカルなりに甘えているんだろうかと思った。甘え方が暗いって言えばいいのか……、途中でよくわからなくなって「嫌いにならないよ、バカ」「いつも一緒にいるだろ」って言ってるうちにいつの間にか眠ってしまった。
「……何か買ってくる」
ガバッと起き上がったヒカルの背中は背筋がスッと伸びていて真っ白だ。今? と俺が驚いて聞き返すのに返事もしないで、そこら辺に脱ぎ捨ててあった白いTシャツとグレーのスエットパンツを拾っている。
「雨、降ってるだろ。なんで今行くんだよ」
「この後はもっとひどくなるらしいから。傘を差して行けば大丈夫」
「じゃあ俺も行く」
「ダメ。ルイは家で待ってて。まだ疲れてるでしょ」
脱ぎっぱなしにしていた部屋着を拾って着て、前髪を少し払うだけで、ヒカルの顔が着いていればもう外をうろつける状態になってしまう。俺だったら「寝起き? だらしねーな」としか思われないだろう。
俺が起き上がってウロウロとパンツを探している間に、ヒカルは完璧に身支度を整えていて、「じゃ。シャワー、使ってて」と出掛けていってしまった。
「……なんなんだよ」
ヒカルにだけ面倒な思いをさせてしまって、それがすごく嫌だった。窓の外を眺めていたら思わずため息が出てしまっていた。ヒカルなりに気を遣ってくれているのはわかってる。だから、俺が、「危ないから行くな。一緒にいよう」って言えばよかったんだ。
自然現象にたいして絶対に意味のないことだけど、ヒカルが帰ってくるまで鳴るなって、心の中で雷に対して念じた。その後でゴムとティッシュが捨てられていたベッドサイドのゴミ箱の中身を臭いが出ないように片付けた。
このまま、ローションが乾きつつある身体でいつまでもいるわけには行かなくて、ヒカルから言われていたようにシャワーを浴びた。高速で身体を洗ってから、身体を拭いているとヒカルが帰ってきたようだった。
きっとヒカルだって雨に濡れているに違いない。服も着ないでバスタオルを巻いただけの格好で俺は風呂から飛び出していた。
「……ただいま」
俺の格好を見て一瞬ぎょっとした様子で目を丸くしていたけど、ヒカルはすぐににこっと微笑んだ。ちゃんと肝心な部分は隠れていて見えてないはずだから大丈夫だろう。
俺が予想していたよりもずっと早くヒカルは戻ってきた。コンビニが近い、というのもあるけどそれ以上に、早く戻ろうと急いだのだと思う。肩や髪が少しだけ濡れていて息が上がっていた。
「ヒカルにだけ、ごめん……。えっと、寒くないか? 拭いてから着替えないと……」
「んー? そうだね、寒いかも……」
寒ーいとたらたらした口調でヒカルが後ろから抱きついてくる。シャワーから上がったばかりで、身体に巻いたタオルがずり落ちそうになるのを慌てて押さえた。
「おい! そういう冗談とかはいいから……もー、デカイし重いんだよ」
「だって寒いし……」
「なおさら早く着替えろよ!」
ヒカルの目が、なんだかじっと俺を見ていた。いつもみたいにヘラヘラしてるんじゃなくて、ちょっとだけ真剣で、でも柔らかい目つきだ。
「……可愛いなあって思っただけ。ルイはこうやって裸でいる時が一番可愛いよ」
最初はからかわれているんだと思った。それか、また、やらしい空気にしようとしてるんだとかそういう意味なのだと。
でも、なんとなく違うんじゃないかってすぐにわかった。甘えるように俺の肩に顎を乗せて抱きつくだけで、身体に触ってきたりしなかったから。
「……なんだよ、急に」
「うん? 上手く言えないんだけど……、裸でいる時のルイって無防備で素直だから。すごく可愛い」
「なんで、急にそんなこと、言うんだよ……」
「なんでだろうね‥…」
ヒカルの声は小さいけれど真面目で、ちっともふざけてなんかいない。タオル越しにヒカルの体温が感じられて、俺の胸がきゅっと締め付けられるようだった。
「来て。もう何もしないから」
風邪ひいちゃう、とヒカルはもう一度俺をベッドへ連れていった。シーツがシワになっているベッドからはまだ、ついさっきまでしていた行為の名残が感じられて、俺を躊躇わせる。でも、ギュってするだけだから、とヒカルに言われて、それで俺はもう一度ベッドへ潜り込んだ。
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