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しおりを挟む「至論で公爵家の一人息子を黙らせた侍女の話も有名だったからね。それが貴女だとは意外だったな。もう少し厳めしい人なのかと思っていたけど、ずいぶんと可愛らしいねヘンリエッタ嬢」
「……息をする様に女性を口説くのはおやめください」
「俺はほら、貴女と付き合って結婚してもらわないといけないから」
「ですから!! それは違うと申し上げてますよね先程から!」
「じゃあ訊くけどどうして君は俺に告白なんてしてきたの?」
「勝負に負けたからです!!」
あ、と気が付いた時にはもう遅い。一度出てしまった言葉は取り消す事などできず、ヘンリエッタは目に見えて狼狽えた。その様子に、ほほう、とレオンはわざとらしく顎に手をやる。
「つまり貴女は、勝負に負けた罰として俺に告白をしてきたと?」
「っ……その通りです……ですから」
「女性から告白だけでなく求婚するとはたしかに羞恥の極みだったろうけど、よかったじゃないか叶って」
「ですからーっ!! 先程から何度となく申し上げております通り!! そう簡単に受け入れてはなりませんと!!」
我慢も限界を越えたのだろう、ヘンリエッタは声を張り上げた。繰り返し、懇々と説明をしているのに当の相手が聞く耳を持たないのだから仕方がない。だがレオンはそんなヘンリエッタに素朴な質問を返す。
「なぜ?」
「……なぜ?」
レオンが問えば、ヘンリエッタは眉を顰めて問い返す。え、この人本当に人の話を聞いて……え? 通じない? えっ!? と無言なれどヘンリエッタの顔を見れば彼女の考えなどお見通しだ。気持ちも真っ直ぐで素直な人なのだなと、レオンは眩しい物でも見る様に僅かに目を細めた。
「あの……レオン様? わたしの話はそんなにもわかり難いです……?」
「いや、貴女の話はとても分かりやすいし、声は耳に心地良いよ?」
鈴を転がす様な、とは言わないけれど。それでもヘンリエッタの声は好きだなと、すでにレオンはそう感じている。
「なぜ、と言うのは貴女がさっきからずっと受け入れてはいけないと言っているからだな」
「そこをご理解いただいているのなら」
「俺の立場や家の事を貴女が危惧しているのは分かる。けれど、俺自身がそれを踏まえて頷いているのに、それでも貴女は駄目だと言うのが解せなくて」
「え……ええええ……」
「えらく不満げだね? どうぞ?」
言いたい事があるならば、とレオンは手をヘンリエッタへ向ける。今さら躊躇う事もないだろうに、モゴモゴと言いづらそうにしているのが謎だ。
「……とても踏まえていらっしゃるようには思えませんでしたが……?」
「ちゃんと考えていたさ」
ほんの五秒程度ではあったけれど。
ヘンリエッタの訝しがる顔をさらりと流しつつレオンは話を続ける。
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