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「貴女の言っていた通り、たしかに俺はそれなりに女性とは仲良くしてはいるけれど」
「なかよく」
「そう、仲良く。けれどもその時はちゃんとその人だけと親密になっているだけだ。同時に他の相手とも、なんて事をしてはいない」

 はあ、とヘンリエッタの答えは冷たい。レオンはそれも平然と受け流す。

「今は誰かと仲良くしているわけではないし、周囲からもなにかと結婚を勧められているそんな中、まさに丁度良く貴女が声を掛けてきたんだよヘンリエッタ嬢。だから受けたのに、貴女はそれを駄目だと言う」
「言いますよね!? それは言いますよ!? 全く以てこれっぽっちも踏まえてらっしゃらないし考えてもいないじゃないですか!」
「考えてる考えてる」
「人間本当のことは一度しか言わない物ですよレオン様」
「俺の立場だとかそういったのを一旦除けておいて話をしようヘンリエッタ嬢。どうして貴女はそんなにも俺を拒否するんだい?」
「ですから……!」

 ああ待って、とそこでレオンはヘンリエッタの口の前に軽く手を翳す。

「今の訊き方だと同じ答えになるね。質問の仕方を変えよう。拒否するのが前提みたいなのに、どうして貴女は俺に告白をしてきたんだ?」

 途端、ヘンリエッタは押し黙った。これまで即返答をしてきた彼女が言い淀む。どうやらそこは突っ込んでほしくはなかったらしい。だからこそ、あえてまくし立てていたところもあるのかもしれない。

「勝負に負けた罰だとしても、少なくとも俺に対しての好意はあったわけだろう? それとも好きでもない相手に告白する、というのが罰そのもの?」
「違います!」
「じゃあ俺を好きだと言うのは本当?」
「そうです!!」

 全力の肯定、はしかし我に返ると羞恥で転がり回りたくなる中身だ。事実、ヘンリエッタは薄闇の中でもはっきりと分かる程に顔を赤く染め、プルプルと身体を震わせている。
 可愛いな、と素直に思った。そしてこれまたレオンもさっと頬を赤く染める。今確実に、落ちた自覚があった。

「……リートフェルト卿」

 呼び方が戻ってしまった。残念であると同時、彼女がいまだ動揺したままの姿に喜びを感じてもしまう。至論で説き伏せる彼女が、自分の前ではこんなにも普通の少女の様に狼狽えている。彼女の心を揺さぶっている、という現状がとてつもなくレオンは嬉しくて堪らない。

「俺のどこがヘンリエッタ嬢の心を射止める事ができたのかな?」

 彼女から何かしら否定的な言葉が出る前にさらに追い詰めたいと、レオンは追撃の手を緩めない。うう、と恨めしげな視線が飛んでくるが、真っ赤な顔と羞恥で潤んだ瞳では迫力どころか逆効果でしかない。分かっていない、無自覚なのは明白だが、だからこそ彼女の危うさが心配になってしまう。自分なんかよりも悪い男なんて星の数ほどいる。よくぞまあこれまで無事でいたものだと、その奇跡に感謝するしかない。


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