無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

13.無能チートと貨幣価値

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 猫の目亭の2階にある、セヨンさんの使っていた部屋を、二人がかりで掃除すると、もう夕方を過ぎていた。
 私達は1階の食堂へ降り、ウルさんに鍵を返した後、そのまま遅めの夕食を頂くことにした。
 
 食堂は、泊まりの客や、食事だけしに来た人で、それなりに賑わっていた。


「トンボ、メニュー見る。シチュー、オススメ」


 可愛らしい声で、私にメニュー表を渡しながら、オススメを教えてくれたのは、同じ卓を挟んで前の席に、ちょこんと座っている、褐色美少女だった。
 冒険者としての活動を終え、大鎧を脱いだセヨンさんだ。
 改めて見ると、本当に美少女だ。
 そして声が渋くない。そして声が渋くない(大事)!

 私はメニュー表を受け取り、目を通す。
 セヨンさんのオススメ、ごろごろ野菜とコッコ鳥のシチューに、ヒュージボアのがっつりステーキ、ホーンラビットのあったかスープパスタなど、美味しそうな名前のメニューが載っている。
 目移りする中、結局はセヨンさんのオススメに従う事にして、注文を取りに来たウルさんに、シチューとパンを、二人分お願いした。


「そういえば、私ってこの世界の文字読めるんですね。言葉も通じるし」


 うっかり神渾身の翻訳機能。うっかり神のクセにうっかりしないとか、何か落とし穴がある気がする。


「ーーーーー、ーーーーー」


 私のぼやきを聞いたセヨンさんが、話しかけてきた。しかし、紡がれたその言葉は、外国語で話しかけてきた外国人のように、何を言っているか、さっぱり理解できなかった。


「ワタシ、今ドワーフの言葉で話した」


 この世界『ルスカ』では、最も多く、最も広い範囲に生息域を持つ、人間族の言語が、基本的な共用語と認識されているらしい。
 セヨンさんは人の街で産まれ育ったらしく、両親からドワーフ語を教わり、共用語は自然と身に付けていたので、2つの言語を話せるバイリンガルとの事だ。
 そして、今ドワーフ語で私に話しかけた。


「つまり、翻訳機能は共用語だけに働くってことですね。クソがっ!」
「トンボ、女の子、クソ言わない。ここ食堂、なお悪い」
「うぅ~、ごめんなさい……」


 絶対、うっかり神がうっかりして、私の翻訳機能に、人間以外の言語を付け忘れたんだ。
 セヨンさんにも怒られるし、踏んだり蹴ったりだ。これも全部うっかり神が悪い!


「おまたせしました! おとーさんのおいしいしちゅーだよ!」


 悔しいのう、悔しいのう、と悔しさに涙する私の前に、そっとシチューが置かれた。
 美味しそうな匂いが、湯気に乗って届き、私の鼻孔を刺激した。


「わぁ~、美味しそう~」


 うっかり神への怨嗟の気持ちも吹き飛び、思わず漏れた私の感想に、シチューを持って来たミウちゃんが、自慢気に胸を張った。


「おとーさんのりょうりは、せかいいちだって、おかーさんもいってた! わたしもそうおもう」
「ありがとう、ミウ」


 お手伝いをしているのか、猫が刺繍された、小さなエプロンを身につけたミウちゃんの頭を、セヨンさんが撫でた。
 おお! 生セヨンさんの撫で撫では、私もまだしてもらっていないと言うのに、羨ましい。撫でられるミウちゃんも、ミウちゃんのモフモフ頭を撫でるセヨンさんも、どっちも羨ましい!
 それに、可愛い獣耳幼女を撫でる、褐色銀髪美少女とか、なんという眼福! 天使かよ! 


「私も私も! ミウちゃんお手伝い偉いねぇ」
「えへへ、おいしくたべてね!」


 私も、ミウちゃんの頭を撫でる。
 気持ちよさそうに目を細め、とろけるような笑顔を向けてくれるミウちゃん。マジ天使。
 名残惜しいけど、お手伝いしているミウちゃんを、拘束し続ける訳にもいかず、ゆっくりと頭から手を放す。どこかから、愛が深すぎる人が見ている気もするしね。
 ミウちゃんは、まだ微妙に舌ったらずの言葉で挨拶すると、手を振りながら厨房の方へ行ってしまった。

「冷めないうちに、食べる」
「はい……いただきます!」


 はじめて食べる異世界の食事は、空腹だということを抜きにしても、とても美味しかった。



 食後、部屋に戻った私は、セヨンさんにあることを尋ねた。


「お金の、価値?」
「はい、今はセヨンさんに宿泊代等を立て替えてもらっていますけど、いつかは返したいと思っています。その為にも、この世界のお金について知っておく必要がありますから」
「別に、返す必要、ない」


 セヨンさんならそう言うと思った。けど、いつまでもその厚意に甘える訳にはいかない。私は冒険者としても、人としても、セヨンさんと対等になりたいのだから。


「そこまで言うなら、仕方ない」


 それを伝えると、セヨンさんはどこか嬉しそうな表情をしつつ、私にお金の講義をしてくれた。


 この世界のお金は、ゴールド(G)と呼ばれており、硬貨を使って取引されている。
  基本的に1Gは、1円と同じぐらいと思っていいらしい。

 銅貨1枚  = 1G (一)
 大銅貨1枚 = 10G (十)
 銀貨1枚  = 100G (百)
 大銀貨1枚 = 1000G (千)
 金貨1枚  = 10000G (一万)
 大金貨1枚 = 100000G (十万)
 白金貨1枚 = 1000000G (百万)

 硬貨の種類は、こんな感じ。
 白金貨なんて、たった1枚で百万円だよ。一瞬、自販機の下に白金貨が落ちたら、絶叫ものだなと、変な想像してしまった。
 白金貨の更に上に、赤金貨と呼ばれるものもあるらしいけど、国の宝物庫で、厳重に保管されるレベルで希少な物らしい。まぁ、私が使う事は一生ないだろう。

 そして、この国の物価は安い。100Gで1食食べられるレベルだ。ちなみに、猫の目亭の1人部屋は、朝食と夕食付きで、一泊500G。あんな美味しい食事がついてるのに500Gとは、安い。
 Eランク冒険者が、だいたい1日に700G稼ぐそうなので、休日含め日々を生きていくのは問題なさそうだ。
 貯金を考えると、もう少し稼ぎたいけど、それは追々やっていこう。

 とりあえず、今日はもう疲れたよ。

 セヨンさんと話をしながら、いつの間にか、私は深い眠りの中に落ちていった。
 私の長いようで短い、記念すべき異世界1日目の終わりだった。





ーーーーーーーーーー

 赤金貨。いったい何の金属で作られているのか。
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