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1章.無能チート冒険者になる
12.無能チートと猫の目亭
しおりを挟むラプタスの街の大通りから、少し外れた東側の一角に、セヨンさんが利用している宿屋はあった。
猫の目亭。そう、デフォルメされた猫のイラストと一緒に、書かれた看板を掲げた宿屋。
中に入ると、5歳ぐらいの可愛らし女の子が、私達を出迎えてくれた。
「セヨンおねえちゃん! おかえりなさい!」
「ね、猫耳だぁ。か、可愛い~」
そしてなんと、女の子の頭には、紛うことなき猫耳が生えていたのだ。
セヨンさんに駆け寄るその頭の上で、ピコピコと嬉しそうに動くのを見ると、それが作り物じゃないことがよくわかる。
「ただいま、ミウ」
駆け寄っり抱きついてきた女の子の頭を、セヨンさんが優しく撫でる。あのゴツゴツするやつ。
羨ましい! 私も猫耳撫でたい。
その思いから、手をワキワキさせていると、女の子と目があった。
「こっちのおねえちゃんは? だれ?」
物怖じせず、私を見上げてくる瞳は、子ども特有の、好奇心に溢れた輝きを放っている。
「これ、トンボ。今日からここ泊まる」
「おきゃくさんだぁ! おかーさーん! おきゃくさんきたよー!」
挨拶する暇もなく、女の子はカウンターの裏手から、母親を呼びに消えてしまった。
「セ、セヨンさん! 猫耳ですよ、猫耳! 可愛かったなぁ……」
「トンボ、ここ連れてきて正解。獣人、差別されることある、トンボ、問題ない」
なんと。獣耳を差別するとか、全国のケモナーやモフラーを敵に回す行為、するわけ無いじゃないですか。猫耳っ娘とか、むしろプラス要素でしょ。
「そう、よかった。ただ、猫耳違う、ミウ、狼人族。あれ、狼耳」
「えっ?! 猫の目亭なのに?!」
いや、言われてみれば、確かにカウンターの裏手に回った時に見えた尻尾は、結局モフモフしてた気がする。
名前も猫っぽいのに。
「ややこしくてすまないねぇ。旦那の料理の師匠が猫人族でね。自分で店を構えるときに、師匠が見てるから慢心しないぞって意味を込めて、この名前にしたらしいよ」
私の疑問に答えてくれたのは、いつの間にかそこに居た、カウンターに肘を置き、頬杖をついたお姉さんだった。カウンターの影から先ほどの女の子も、顔を覗かせている。
二人共、毛の色と瞳の色がそっくりだった。よく見れば顔立ちも似ている。そして何より、頭にお揃いの獣耳がついていた。
お姉さんは私と目が合うと、ニヤリと勝ち気そうな笑顔を向けた。
「セヨンが客引きしてくるなんざ、ようやくうちの利用客の自覚が出てきたね。何よりだよ」
ここは、客に客を取ってこさせるのかよ! どんな店だ!
「ウル。この子、トンボ。変わった子だけど、良い子」
「真壁蜻蛉です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくね。アタシは猫の目亭の女将、ラウル・リーロット、ウルでいいよ。んで、こっちのお姫様が、アタシの娘、ミウル・リーロットだよ。獣人を差別しないなら歓迎するよ、いくらでも泊まっていきな。貰うもんは貰うけどね」
ちゃっかりした性格らしいウルさん。ミウちゃんの頭を愛しそうに撫で、ミウちゃんは気持ちよさそうに目を細めている。
だから羨ましいって! 私も撫でたい。
「なんだ、ミウの頭撫でたいのかい? まぁ、その気持ちも、わからないでもないからねぇ」
私の気持ちを察し、勿体ぶり、見せつけるようにミウちゃんの頭を撫で続けるウルさん。
くそっ! 試されてるのか、私は!
「金なら出します! セヨンさんが!」
「?!?!」
こっちに鎧を向け絶句するセヨンさん。
だって、私お金持ってないし。うっかり神がうして初期資金を渡し忘れたんだきっと。だから、恨むなら、うっかり神と魔性の獣耳を恨んで、セヨンさん。
「はっはっはっ! 確かに変わった子だね! ほらミウ、挨拶しておいで」
「はーい! みうはみう! とんぼ、よろしくね!」
カウンターから飛び出し、私の前まで来て挨拶してくれるミウちゃん。
お姉ちゃんだって、お姉ちゃん。一人っ子だった私には、新鮮な、良い響きだ。
期待するような目を向けて、待っているミウちゃんの頭にそっと手を置き、ゆっくりと撫でる。
手の動きに合わせ、柔らかく形を変える耳。モフモフの毛は、私の手を優しく押し返しながらも、しっとりと馴染み、正にこれは、人をダメにする触り心地だ。
「はぁ~、至福……」
「うふふっ、くすぐったいよ、とんぼ」
いつまでも触っていたかったけど、無理に撫でれば嫌われてしまうかも。
そう思い、私は名残惜しい気持ちを振り切り、ミウちゃんの頭から手を放した。
「うん、大丈夫そうだね」
私とミウちゃんをジッと見てきたウルさんが、ぼそりと呟いた。
「狼人族、家族とても大切、ウル、特に家族愛してる、バカップルで親バカ、家族傷つける奴、絶対に許さない」
「そうだね『獣人を差別しない』なんて言っている奴の中には、獣人を愛玩動物みたいに思ってる奴もいるのさ。ミウなんて可愛過ぎるからね、ミウの気持ちを無視して、自分が可愛がるために撫で続けるなら……殺してたかもしれないねぇ」
「恐っ!」
目が、本気と書いてマジでした。
ウルさん、マジで親バカだよ。それに、バカップルって、旦那さんとラブラブなんだ。旦那さんは料理するって言ってたし、後で会えるかな?
「うぅ、お金払うから触らせてくれって、かなり失礼なこと言ってしまいました。すみません」
「いや、うちの子が可愛過ぎるから、金出してでも触りたいって思ってもしょうがない」
「親バカ過ぎて、いいように解釈された?!」
「それに、金は取るよ。とりあえず100万ゴールドね」
「ぼったくり?! ……いや、本当にぼったくりなのかなぁ。セヨンさん、100万ゴールドっていくらぐらいですか?」
私の言葉に、呆れたような顔をするウルさん。
「金の価値を知らないなんて。セヨン、この子お貴族様かい?」
「違う、物々交換する、田舎から出てきた。お金持ってすら、ない」
「ふーん、訳ありかい? まぁ、うちに迷惑かけなけりゃいいさ。ただ、100万ゴールドはツケでいいけど、泊まるなら宿泊代は、しっかり払って貰うよ!」
なんか、色々見透かされてる感があるけど、泊めてはくれるらしい。ありがたい。
でも、ツケって! そこは冗談だけどって言ってよ! セコイよウルさん!
「ワタシ、トンボの保護者。部屋、一人部屋から二人部屋に変える。暫くは私が代金払う、けど、トンボ、今日冒険者なった、ちゃんと稼げるように、教える」
セヨンさんの言葉を聞き、驚いたように目を見開くウルさん。ミウちゃんのまん丸な目と違い、切れ長の目をしたウルさんは、目を見開くとミウちゃんそっくりだった。
「へぇ、あんた口下手人見知りのくせに、保護者になったのかい? まぁ、そういう事なら、あんたの今泊まってる部屋は引き払って、新しく二人部屋を用意するよ。今鍵出すから待ってな。前の鍵は後で返しにきな」
「わかった」
「うぅ、セヨンさん、ありがとうございます」
「構わない、ワタシ、やりたくてやってる、だけ」
私達のやりとりを面白そうに見ていたウルさんは、鍵をこちらに放って渡すと、腕を組んで言った。
「ようこそ猫の目亭へ、よろしくなトンボ」
「よろしくな、とんぼ!」
真似をするミウちゃんは、超絶可愛かったです。
こうして、私はラプタスの街での活動拠点を手に入れられたのだ。
ーーーーーーーーーー
娘の愛らしい姿で、パン10斤は食べられるウルさん。なお、旦那の姿で追加5斤は食べられるもよう。
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