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1章.無能チート冒険者になる
14.無能チートは『グル・グルヴ』
しおりを挟むやって来ました冒険者ギルド!
我ながら図太い神経しているので、枕が変わったら眠れない、なんてことはなく。昨晩はぐっすり眠り、朝食も美味しくいただいたので、元気はつらつです。
という訳で、さっそく依頼を確認しに、クエストボードへ近くと、後ろから声をかけられた。
「おい、ちょっといいか?」
「ん? げっ!」
変な悲鳴をあげてしまったが、それも致し方ない、何故なら、振り向くとそこに、昨日のグズ野郎と、その仲間が立っていたのだから。
「昨日の報復に来たんだな?! 返り討ちだ!」
愚かなりグズ野郎。声をかけて、不意打ちの利をみすみす手放すとは!
逆にこっちが先手を取る!
「トンボ、待つ。話聞く」
足を振りかぶり、母直伝の金的潰しのをしようとした私を止めたのは、冒険者仕様の、セヨンさん(大鎧バージョン)だった。
「おい! この嬢ちゃん、躊躇なく股関蹴り上げようとしたぞ?!」
「それは、昨日の態度、悪かった所為。自業自得」
「ぐっ、確かにそうだが……」
なんと、グズ野郎とセヨンさんは、普通にお喋りをはじめたではないか。
私は、訳がわからず、口を開けてそれを見ていた。
「……どういうことなの?」
思わず吐いて出た疑問にセヨンさんが答えた。
「ロジャー、確かに酒癖最悪。でも、普段は、普通に良い冒険者。新人の面倒、よく見てる」
「酔っぱらうと、どうしても口と態度が悪くなってなぁ。しかし、酒は好きだから、ついつい飲み過ぎちまうんだなぁ」
だなぁじゃねーよ。なんだそのDV夫みたいなのは。
ただ、罰が悪そうに頭をかいている、グズ野郎改めロジャーを見ると、顔は強面気味だけど、そこまで悪人には見えなかった。
「昨日は嬢ちゃんにも、セヨンにも悪いことしちまったからよ。改めて謝らせてくれ……すまなかった」
しっかりと頭を下げるロジャー。
どうやら、セヨンさんの言っていることは合っているらしい。
「はぁ、罰としてランク下げられた見たいですし、ギルマス直々のお説教も食らったんでしょ? なら、セヨンさんが許すなら、私も許すよ」
「ん、ワタシは、もう気にしてない」
「だそうよ。ただし! またセヨンさんにちょっかいかけたら、次は切り落とす!」
セヨンさんの即答に、やれやれと肩を上げる。
もっとチクチク詰ってもいいのに。
「どこをだよ?! だが、許してくれてありがとよ。嬢ちゃんには、自己紹介がまだだったな。俺はロジャー、『獅子のたてがみ』のリーダーをしている。よろしくな!」
「獅子のたてがみ?」
「ロジャーのパーティー、名前」
私の疑問に答えてくれたのは、セヨンさん。
「なんで『獅子のたてがみ』なの?」
「えっ、カッコいいだろ?」
「理由が下らないなっ?!」
そう言いつつ、少しカッコいいと思っていたのは秘密だ。
「ロジャーがリーダーで大丈夫なの?」
「おいっ! 酷くないか嬢ちゃん!」
「私は真壁蜻蛉だよ。蜻蛉さんって呼びなよ?」
「なんか俺の扱い悪くない?!」
出会いが最悪だったから、当然、敬称はつけない。昨日の事はまだ根に持ってはいるし、扱いは“ゴブリンよりはマシ”程度でいくよ。
「ゴブリンよりマシ……」
顔を引きつらせるロジャーに、後ろで見ていた彼の仲間が、ぎゃはははっ、と耳障りな声で爆笑した。
お前らそれがデフォルトの笑い声かよ!
どうやら彼らの笑いに悪意はなかった様子。
「お前らっ! くそっ、ランク下げられたのは俺のせいだから、強く言えねぇ」
ランク下げられても付いていく辺り、この人達もそこまで悪い人じゃないのかな?
「とりあえず。トンボの嬢ちゃんは、何か困ったことがあれば頼ってくれ。迷惑料がわりに、手伝えることなら手を貸すからよ。じゃあな!」
言いたいことを言って、『獅子のたてがみ』は去っていった。ちゃんと“さん”つけなさいよ。
改めてて、私とセヨンさんは、クエストボードに向きなおった。
「トンボ、依頼は薬草採取にする。新人、みんな通る道」
「なるほど、王道ですね」
セヨンさんの勧めに従い、クエストボードから、常設依頼の『薬草採取』と書かれた依頼票を外すと、受付まで持っていった。
「ひぃ、と、トンボ様?! な、何かご用でしょうか?!」
空いていた受付に行くと、エルティスさんが居た。相変わらず、ビビり過ぎである。
「こんにちはエルティスさん。薬草採取の依頼を受けたいんですが」
下手につっこむと、余計に悪化しそうなので、私はにこやかな笑顔で、依頼票をエルティスさんに手渡した。
「は、はい、採取依頼ですね。トンボ様は薬草がどんなものかご存知でしょうか?」
「すみません、知らないです」
「では、こちらをご覧下さい」
仕事モードになったエルティスさんは、カウンターの下から分厚い本を取り出し、慣れた手つきでページを捲った。
そして、草や花の絵が沢山書かれたページで止めると、見やすい様に、こちらに向けて見せてくれた。
「こちらが薬草の絵になります。薬“草”と言いましても、実は成長しきっても背の低いままの、『スダの木』に生える葉の事を言います」
エルティスさんが指差した所に描かれた絵は、日本で垣根に使われている木に似ていた。違うのは、スダの木の方が、葉っぱが大きい所かな。
それにしても、成長しても背が低いとは、ドワーフみたいな木だな。
「スダの木は根元がうっすら青みがかっていますので、それを目印にするとよろしいかと。それと、一本のスダの木から取れる薬草は、半分までと決まっています。それ以上はスダの木の再生力が追いつかず、枯れる原因になってしまいますので、お気をつけ下さい」
「はい、わかりました!」
なるほど、よく考えられてるなぁ。薬草が無くなったら皆困るしね。調子に乗って取り過ぎないように気をつけよう。
「では、依頼の受注に移ります。依頼の受注は、トンボ様個人だけでよろしいですか?」
「違う。私の、ランク降格作業して、そしたら、トンボとパーティー組む」
私の後ろから鎧の手を伸ばし、エルティスさんに自分の冒険者カードを渡したセヨンさん。
「かしこまりました。では、セヨン様のDランク降格処理をいたします。パーティー申請の受理もしますので、トンボ様の冒険者カードもお預かりします」
「よろしくお願いします」
私達のカードを受けとると、エルティスさんは傍らの魔道具らしき装置に差し込んだ。
キーボードを操作するような手つきで、指を動かしながら、エルティスさんがこちらに顔を向けた。
「パーティーの名前はどうしますか?」
「トンボ、任せた」
「むむっ、責任重大ですね!」
う~ん、パーティー名かぁ。
カッコいい系でいくか、かわいい系でいくか、ネタっぽいのは無しで考えよう。
「セヨンさんが大鎧で、私が蜻蛉切り……あっ、セヨンさんは大鎧って言われるの嫌でしたね。すいません!」
「大丈夫。トンボ、言った通り、私の鎧立派。今は……誇ってる」
「そ、そうですか?」
なら、良かった。
防御のセヨンさんと攻撃の私。二人でそれを極めると言う意味を込めて。
「セヨンさん、ドワーフの言葉で『矛盾』ってなんて言うんですか?」
「ん? 矛盾? それなら……」
そもそも矛盾で通じるのか? と思ったけど、どうやら似たような言葉がこちらにもあったらしい。
「『グル・グルヴ』」
「ぐるぐる?」
「グル・グルヴ。グルは大昔のドワーフ、グルヴは槌。グル、炉を使わず、強い盾と鎧作ったドワーフ。強い防具、グルが振るう槌で作った。だから、防具より、グルの槌、つまり、グルヴの方が強い、人々は思った。そんな昔話」
流暢に話されると、聞き取れなかったけど、単語だけなら聞き取れた。
グル・グルヴ。直訳するとグルの槌。
ドワーフのグルさんは、炉を使わず、金属を叩いて伸ばして防具を作った変わり者で、凄い防具を作るけど、金属を叩いて伸ばした、彼の槌の方が強いんじゃね? って皆思い、グルさんの防具と槌は、本当はどっちが強いのかわからないってこと?
「結局どっちが強かったんですか?」
「わからない。グル、物作る以外、槌振るわなかった、言われてる」
「あくまで鍛冶師であり続けたんですね」
「そう、ワタシも強い鎧作る。グル、リスペクト」
「じゃあ、決まりですね! 私がグルの持つ槌に、セヨンさんがグルの作る鎧に、パーティー名は『グル・グルヴ』で! エルティスさんお待たせしました。私達のパーティー名は『グル・グルヴ』でお願いします!」
「いえ、大変興味深いお話を聞かせて頂きました。では、トンボ様とセヨン様のパーティー名は『グル・グルヴ』で登録します」
はじめて私に、柔らかい自然な笑顔を向けてくれたエルティスさん。しかし、直ぐにキリッとした表情に戻り、操作を続けた。
「はい、セヨン様のランク降格処理と、トンボ様とのパーティー申請、『グル・グルヴ』の薬草採取依頼の受注を完了しましたので、冒険者カードをお返しします」
全ての作業を、あっという間に終わらせたエルティスさんから、冒険者カードを受け取ると、エルティスさんは笑顔を浮かべ、ゆっくりと頭を下げた。
「最近、森の魔物の活動範囲が変わってきたとの報告もありますので、セヨン様、トンボ様、お気をつけ下さい。では、いってらっしゃいませ」
「行ってきます!」
「ん、行ってくる」
エルティスさんに見送られ、私達『グル・グルヴ』は、パーティー初依頼に出発した。
ーーーーーーーーーー
名前の由来は、二人組でなんか参考になるのないかな? と思った時、「魔方陣ぐ○ぐ○」のク○リと○ケの絵が目に入ったから、そこから持ってきました。
グル・グルヴは完全に造語です。“ヴ”はグルと打った時、予測変換でグルーヴとでてきたので、伸ばし棒だけ取って残した結果です。
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