石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ

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石榴の月 第二話㉖

石榴の月~愛され求められ奪われて~

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 診察結果は、やはり懐妊だった。もう五近い産婆は淡々とお民に告げた。
―もう四月(よつき)に入ってるよ。
 帰りは花ふくまでどうやって帰ったか判ない。
 夜、源治がいつものように迎えにくるまの時間が長いようにも、短いようにも感じれた。
 源治の顔を見るのが怖かったのだ。しかし源治が何も知るはずもなく、ただいつものうに優しく、茶目っ気たっぷりの良人を見いると、涙が出そうになった。
 花ふくからの帰り道、二人で並んで歩きがら、お民が源治の横顔をぼんやりと眺めいると、源治が笑った。
―何でえ。俺の顔に何かついてるか?
―何もついてなんかいませんよ。
―じゃあ、俺の男っぷりに今更気付いて、れ直したってところか?
 源治の揶揄するような言葉に、お民は良を肘でつついた。
―まぁ、よく言う。
―だって、お前の顔の方にこそ何か書いてるぜ。
―えっ。
 お民が愕いて頬に手を添えると、源治が笑いした。
―俺のことが好きで好きでたまらねえ、おは源さんに心底惚れてますって書いてああ。
―お前さん、また私をからかったんですねもう、知りません!
 お民がむくれると、源治が笑い転げなが言う。
―ちったァ、良いじゃねえか。所帯を持つは俺がさんざんお前にからかわれてたんだら。これくらいは可愛いもんだぜ。
―あれは、からかったんじゃありません。気でお前さんのことを思って言ってたんでよ。親切、親切。
 そこまで言って、二人は顔を見合わせてひとしきり笑った。
 笑いながら、お民は涙を流していた。
―何だよ、どうして、泣くんだ?
―あんまりおかしかったから、涙が出ちまたんですよ。
 我ながら、あまり上手くない言い訳だとったけれど、他に思いつかなかった。
 源治は訝しげにお民を見つめていた―。 あのときの源治の笑顔を思い出しただで、胸が締めつけられるように切ない。
 何も知らぬ良人を、お民は騙しているのだ。 腹の子を堕ろすつもりはなかった。嘉門の間に最初に身籠もった子を、お民は酷い法で抹殺してしまった。結果的にお民は何したわけではないけれど、一度は腹の子もとも死のうと自害しようとしたことさえる。
 実の母親に疎まれながら、この世の光をることもなく逝った子が哀れでならなかた。もう、あのときと同じ過ちは繰り返しくはない。
 しかし、源治もまた、お民にとっては大な―恐らく、自分自身よりも大切な存在だその源治を裏切ることはできない。
―そなたはもう、この俺から逃れられぬ。 ふいに嘉門の惛い声が耳奥で響く。
 三月前、出合茶屋で手込めにされた夜、門の囁いた科白をふと思い出した。
―そなたの身体は既に俺に馴染んでいる。になって亭主の許に帰ったとしても、昔のうに恋しい男と暮らせるとは思うな。
 これと同じ夢に、お民はしばしばうなさた。
 夢の中で、お民は一糸纏わぬ姿となり、門に組み敷かれている。
 お民の耳許で嘉門は執拗に囁き続けるだ。
―そなはもう、この俺から逃れられぬ。
 お民は、いつまでも消えぬ嘉門の声を振払うように、首を烈しく振り、両耳を手のらで塞いだ。
 腹の子は、石澤嘉門の子だ。三ヵ月前ののたった一夜で、お民はまたしてもあの男子を宿してしまったのだ。
 それは、まさに運命の皮肉としか言いよがなかった。嘉門は己れの存在をお民の中はっきりと灼きつけたのである。
 嘉門の子を身籠もったお民がどうして源の側にいることができよう?
「おい、どうしたんだ?」
 唐突に声が降ってきて、お民はハッと我返る。
 いつのまにか源治が隣に並んで立ってた。
 川面に視線を戻すと、緑の小さな蛙は既消えていた。
「最近、元気がないな。どこか具合でも悪のか?」
 源治が気遣わしげに訊ねてくる。
 お民は微笑んだ。
「ううん、何でもない」
「何だかな、お前がそうしおらしいっていか殊勝だと、こっちまで調子が狂っちまう」 源治が朗らかな声音で言う。
「何ですって、失礼ねえ」
 お民も調子を合わせて言い返すが、これ源治がお民の気を引き立てようと、わざとっているのだと判っている。
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