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冬 過去
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ウトウトしながらチェーザレは昔の夢を見ていた。
婚約者のエリザベッタと共に夜会に参加した時の夢だ。
チェーザレはエリザベッタを愛していたし、エリザベッタもまたチェーザレを甘く蕩けた瞳で見つめてくれた。
そして、彼女と同じような瞳で自分を見る者がもう一人いた。
「クラリーチェ殿下がまたお前を見てるぞ」
エリザベッタと別れて男達で飲んでいると誰かがそんなことを言った。
夜会でクラリーチェ王女が自分を見ていることには気付いていた。彼女はこの年デビューしたばかりの若く美しい王女だ。
そんな王女から想いを寄せられて悪い気はしない。チェーザレは自分が少しばかり女から好かれる容姿をしていると知っていたし、実際、声を掛けられることも多かった。
しかしチェーザレはエリザベッタを愛していたし、一途な自分に酔っていた。
「見てるだけだろう?お前達が思ってるような感情があるとは限らんさ」
チェーザレは謙遜してそんなことを言う。
「そうかな。あの眼はどう見たって」
「俺はかの方とは挨拶を一度したことがあるだけだぞ。それに来年にはエリザベッタと結婚する」
チェーザレはそう言い切った。
チェーザレとクラリーチェとの関わりはとても薄い。公爵家であるカーミヤ家は祖母が王の姉であるのだが、祖母は中央の権力を嫌い王家からは距離を置いている。
王家ではクラリーチェが長子であり、その後も今5歳の王子が生まれるまで王女の誕生が続いたため、チェーザレが王子の学友に選ばれることもなかった。
この国では幼年期に貴族の子女を交流させるような催しは一般的ではなく、あっても母親同士が親しいなどの関わりが主であり、中央から距離を置き気味のカーミヤ家は呼ばれなかった。
そのため貴族全員が参加するような式典で王女を見かけることはあっても話したこともないまま成長した。
クラリーチェがデビューした今年、王宮で行われる春の舞踏会で、家族と共に王族席に挨拶をしに行ったのが唯一の関わりである。
どこで恋心を持たられたのかわからないほどの関わりである。おそらくは、この容姿に憧れているだけなのだろう。
だからたとえ王女が恋心を抱いていたとしても何も変わらずに時が流れてチェーザレはエリザベッタと結婚するのだと誰もが思っていた。
ことが動いたのは冬だった。
秋に社交シーズンが終わった後、チェーザレはカヴァグーチェの領地で過ごしていた。結婚を機にこの領地を叔父夫婦から引き継ぐことになる。そのため、カヴァグーチェに滞在して叔父から仕事を教わっていた。
春の結婚式に向けた準備も概ね整い、あとは結婚式を待つばかり。
エリザベッタと離れるのは辛かったが結婚後の生活を思えば耐えられた。
ある日、執務室で書類に向かっている時、廊下がやけに騒がしいと思っているとノックの音と同時に扉が開かれ家令のジョバンニが入ってきた。
何を騒がしい、と思っているところに彼はこう言ったのだ。
「エリザベッタ・コメッゴーマ嬢が北の修道院に送られることが決まったようです」
と。
報せを聞いてチェーザレは信じられない思いで王都に帰った。
エリザベッタは確かに修道院に送られることが決まっており、それどころかもう既に王都を出ているとのことだった。
コラーク国は大陸の南にあり男性が馬で行っても北の修道院までは3ヶ月の道程である。
女性を連れた一行の足だと冬の今旅立っても北の修道院に着くのはちょうど夏になるということだった。
なぜエリザベッタが修道院に送られねばならないのか。事件の真相を聞こうにも秘匿情報だからと教えてもらえない。
やがてチェーザレの新たな婚約者にクラリーチェが選ばれたと聞いてピンときた。
これは、王家によって仕組まれたものなのではないかと。
クラリーチェが熱のこもった瞳でチェーザレを見ていることを知っていた友人たちはみな同じように考えたらしい。
友人の1人が
「そう言えばクラリーチェ殿下は多少、我が強くていらっしゃると聞いたことがあるな」
と言うと別の友人が
「王様も王太子殿下もクラリーチェ様を溺愛されているらしいしなぁ」
なんて言う。
ちなみに王がクラリーチェの祖父で王太子がクラリーチェの父である。
「何故あの歳まで婚約者がいらっしゃらなかったのだろうな」
「さぁな。案外、女王殿下の我儘で決まらなかったんじゃないか。」
などと、話が盛り上がれば、チェーザレの頭の中ではクラリーチェが我儘でエリザベッタを北の修道院に送ったのだという妄想が事実のように思えたのだ。
そうして、チェーザレの頭の中ではまるでクラリーチェを悪女のように思い込んだのである。
チェーザレは悪女クラリーチェを受け入れるつもりなどなかった。
なのでチェーザレは婚約者との顔合わせをことごとくすっぽかした。
それでもエリザベッタと結婚するはずだった日に婚約者をすげかえる形で結婚が執り行われた。
婚約者のエリザベッタと共に夜会に参加した時の夢だ。
チェーザレはエリザベッタを愛していたし、エリザベッタもまたチェーザレを甘く蕩けた瞳で見つめてくれた。
そして、彼女と同じような瞳で自分を見る者がもう一人いた。
「クラリーチェ殿下がまたお前を見てるぞ」
エリザベッタと別れて男達で飲んでいると誰かがそんなことを言った。
夜会でクラリーチェ王女が自分を見ていることには気付いていた。彼女はこの年デビューしたばかりの若く美しい王女だ。
そんな王女から想いを寄せられて悪い気はしない。チェーザレは自分が少しばかり女から好かれる容姿をしていると知っていたし、実際、声を掛けられることも多かった。
しかしチェーザレはエリザベッタを愛していたし、一途な自分に酔っていた。
「見てるだけだろう?お前達が思ってるような感情があるとは限らんさ」
チェーザレは謙遜してそんなことを言う。
「そうかな。あの眼はどう見たって」
「俺はかの方とは挨拶を一度したことがあるだけだぞ。それに来年にはエリザベッタと結婚する」
チェーザレはそう言い切った。
チェーザレとクラリーチェとの関わりはとても薄い。公爵家であるカーミヤ家は祖母が王の姉であるのだが、祖母は中央の権力を嫌い王家からは距離を置いている。
王家ではクラリーチェが長子であり、その後も今5歳の王子が生まれるまで王女の誕生が続いたため、チェーザレが王子の学友に選ばれることもなかった。
この国では幼年期に貴族の子女を交流させるような催しは一般的ではなく、あっても母親同士が親しいなどの関わりが主であり、中央から距離を置き気味のカーミヤ家は呼ばれなかった。
そのため貴族全員が参加するような式典で王女を見かけることはあっても話したこともないまま成長した。
クラリーチェがデビューした今年、王宮で行われる春の舞踏会で、家族と共に王族席に挨拶をしに行ったのが唯一の関わりである。
どこで恋心を持たられたのかわからないほどの関わりである。おそらくは、この容姿に憧れているだけなのだろう。
だからたとえ王女が恋心を抱いていたとしても何も変わらずに時が流れてチェーザレはエリザベッタと結婚するのだと誰もが思っていた。
ことが動いたのは冬だった。
秋に社交シーズンが終わった後、チェーザレはカヴァグーチェの領地で過ごしていた。結婚を機にこの領地を叔父夫婦から引き継ぐことになる。そのため、カヴァグーチェに滞在して叔父から仕事を教わっていた。
春の結婚式に向けた準備も概ね整い、あとは結婚式を待つばかり。
エリザベッタと離れるのは辛かったが結婚後の生活を思えば耐えられた。
ある日、執務室で書類に向かっている時、廊下がやけに騒がしいと思っているとノックの音と同時に扉が開かれ家令のジョバンニが入ってきた。
何を騒がしい、と思っているところに彼はこう言ったのだ。
「エリザベッタ・コメッゴーマ嬢が北の修道院に送られることが決まったようです」
と。
報せを聞いてチェーザレは信じられない思いで王都に帰った。
エリザベッタは確かに修道院に送られることが決まっており、それどころかもう既に王都を出ているとのことだった。
コラーク国は大陸の南にあり男性が馬で行っても北の修道院までは3ヶ月の道程である。
女性を連れた一行の足だと冬の今旅立っても北の修道院に着くのはちょうど夏になるということだった。
なぜエリザベッタが修道院に送られねばならないのか。事件の真相を聞こうにも秘匿情報だからと教えてもらえない。
やがてチェーザレの新たな婚約者にクラリーチェが選ばれたと聞いてピンときた。
これは、王家によって仕組まれたものなのではないかと。
クラリーチェが熱のこもった瞳でチェーザレを見ていることを知っていた友人たちはみな同じように考えたらしい。
友人の1人が
「そう言えばクラリーチェ殿下は多少、我が強くていらっしゃると聞いたことがあるな」
と言うと別の友人が
「王様も王太子殿下もクラリーチェ様を溺愛されているらしいしなぁ」
なんて言う。
ちなみに王がクラリーチェの祖父で王太子がクラリーチェの父である。
「何故あの歳まで婚約者がいらっしゃらなかったのだろうな」
「さぁな。案外、女王殿下の我儘で決まらなかったんじゃないか。」
などと、話が盛り上がれば、チェーザレの頭の中ではクラリーチェが我儘でエリザベッタを北の修道院に送ったのだという妄想が事実のように思えたのだ。
そうして、チェーザレの頭の中ではまるでクラリーチェを悪女のように思い込んだのである。
チェーザレは悪女クラリーチェを受け入れるつもりなどなかった。
なのでチェーザレは婚約者との顔合わせをことごとくすっぽかした。
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