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春 婚姻
結婚式の日、チェーザレは流石に疲れていた。
本当なら1日でもクラリーチェと同じ家には居たくない。体力があればどこか別の屋敷に泊まりに行きたかったが、流石にそれは難しい。
夫婦の寝室で過ごすなどはなから考えられないため執務室の横に備えられた仮眠用の私室で寝ることにした。
すると、チェーザレの執務室にクラリーチェがやって来た。
チェーザレは本当ならこういう日は男性が訪ねるべきもので、女性から来るなんてはしたない、と自分の行動も省みずそんなことを考える。
入ってきたクラリーチェは若草色の簡素なドレスを着ていた。彼女はお世辞にも可愛いタイプではない。目鼻立ちは整っているが面長で気が強そうな眉をしている。
馬面だな。
などとチェーザレは不敬にもそんなことを考えた。確かに面長で少し頬が出ている上に前歯がちょっとばかり大きいクラリーチェは分類すると馬面顔なのかもしれない。
「お話がありますの」
とクラリーチェが話す。
エリザベッタは鈴を転がしたような素敵な声をしていたが、クラリーチェの声は女性にしては少し低く可愛げがない。
チェーザレだってわかっている。
クラリーチェは別に不細工ではない。彼女の顔も声もエリザベッタより好みだと言う人は多いのだろう。
それでも、残念ながらチェーザレの好みは可愛らしく砂糖菓子のようなエリザベッタなのだ。
「疲れているのだ。明日にしてくれないか。」
不機嫌を隠さずにチェーザレはクラリーチェをあしらう。クラリーチェが眉を下げて手をぎゅっと握ったのがわかった。手は少し震えているように見えた。
「大切な話なのです。できれば今日聞いて欲しくて」
それでも縋り付いてきたクラリーチェをチェーザレは卑しいと思った。大切な話なんて言っているがどうせ愛を請いたいだけなのだろう。
「君の話しなど聞くつもりはない。俺の寵を貰おうなどと浅ましいことは考えるな。」
チェーザレが気怠そうにそう言うとクラリーチェははじめ何を言われているのか理解していなかったのだろう。ポカンとし、その後、顔を真っ赤にして慌てて出ていった。
次の日、チェーザレは朝早くに屋敷を出た。
結婚すればカヴァグーチェ領を治めることになっている。それを放棄するわけにはいかない。
チェーザレは屋敷の近くに部屋を借り、そこで仕事をすることにした。
ジョバンニには少し苦労を掛けるが問題ないだろうと考えていた。
実際、チェーザレの目から見ると特に書類上は問題はなく仕事が進んでいた。
ただし、チェーザレはこのシーズン、社交に全く出なかった。結婚すると正式な夜会には夫婦で参加しなければならない。クラリーチェをエスコートする気などなかったチェーザレは社交に全く出なかったのだ。
結婚式を挙げた春から夏が過ぎ秋になり、社交シーズン最後の大舞踏会にも顔を出さなかった。
チェーザレがきちんと社交をしていればクラリーチェがわがままでチェーザレと結婚したわけではないことや、エリザベッタの罪について正しい情報が耳に入ったかもしれない。
しかしチェーザレには届かなかった。
そして、この国では年末に家族で集まる習慣がある。
チェーザレの場合、夫婦揃ってカーミヤの屋敷に戻るのが普通であるが、チェーザレはそれも拒否した。
カーミヤの屋敷に戻るとクラリーチェと同じ部屋にされるだろう。チェーザレにはそれが耐えられなかった。
この時、カーミヤの屋敷に戻っていればチェーザレはクラリーチェの口からもしくは父母の口から真実を知る機会を得ていただろう。
しかしチェーザレは真実を知る全てのチャンスをことごとく、潰してしまったのだ。
チェーザレは年明けから春にかけて親から届いた手紙もことごとく無視した。
初めの何枚かは少し中身を見たが、クラリーチェと話をするようにと諭してあるだけだったため次第に開封すらしなくなった。
結婚式から一年が過ぎたある日、ジョバンニからクラリーチェが家を出ていったことを聞かされた。
チェーザレは半年間家を空けるから領主代行をして欲しいとジョバンニに託した。
チェーザレから見てジョバンニは優秀で領内の事情にも長けていて、半年ほど代行を行うのに不足があるとは思えなかった。
そうして、チェーザレはエリザベッタを迎えに行くため、北の修道院への旅に出たのだ。
本当なら1日でもクラリーチェと同じ家には居たくない。体力があればどこか別の屋敷に泊まりに行きたかったが、流石にそれは難しい。
夫婦の寝室で過ごすなどはなから考えられないため執務室の横に備えられた仮眠用の私室で寝ることにした。
すると、チェーザレの執務室にクラリーチェがやって来た。
チェーザレは本当ならこういう日は男性が訪ねるべきもので、女性から来るなんてはしたない、と自分の行動も省みずそんなことを考える。
入ってきたクラリーチェは若草色の簡素なドレスを着ていた。彼女はお世辞にも可愛いタイプではない。目鼻立ちは整っているが面長で気が強そうな眉をしている。
馬面だな。
などとチェーザレは不敬にもそんなことを考えた。確かに面長で少し頬が出ている上に前歯がちょっとばかり大きいクラリーチェは分類すると馬面顔なのかもしれない。
「お話がありますの」
とクラリーチェが話す。
エリザベッタは鈴を転がしたような素敵な声をしていたが、クラリーチェの声は女性にしては少し低く可愛げがない。
チェーザレだってわかっている。
クラリーチェは別に不細工ではない。彼女の顔も声もエリザベッタより好みだと言う人は多いのだろう。
それでも、残念ながらチェーザレの好みは可愛らしく砂糖菓子のようなエリザベッタなのだ。
「疲れているのだ。明日にしてくれないか。」
不機嫌を隠さずにチェーザレはクラリーチェをあしらう。クラリーチェが眉を下げて手をぎゅっと握ったのがわかった。手は少し震えているように見えた。
「大切な話なのです。できれば今日聞いて欲しくて」
それでも縋り付いてきたクラリーチェをチェーザレは卑しいと思った。大切な話なんて言っているがどうせ愛を請いたいだけなのだろう。
「君の話しなど聞くつもりはない。俺の寵を貰おうなどと浅ましいことは考えるな。」
チェーザレが気怠そうにそう言うとクラリーチェははじめ何を言われているのか理解していなかったのだろう。ポカンとし、その後、顔を真っ赤にして慌てて出ていった。
次の日、チェーザレは朝早くに屋敷を出た。
結婚すればカヴァグーチェ領を治めることになっている。それを放棄するわけにはいかない。
チェーザレは屋敷の近くに部屋を借り、そこで仕事をすることにした。
ジョバンニには少し苦労を掛けるが問題ないだろうと考えていた。
実際、チェーザレの目から見ると特に書類上は問題はなく仕事が進んでいた。
ただし、チェーザレはこのシーズン、社交に全く出なかった。結婚すると正式な夜会には夫婦で参加しなければならない。クラリーチェをエスコートする気などなかったチェーザレは社交に全く出なかったのだ。
結婚式を挙げた春から夏が過ぎ秋になり、社交シーズン最後の大舞踏会にも顔を出さなかった。
チェーザレがきちんと社交をしていればクラリーチェがわがままでチェーザレと結婚したわけではないことや、エリザベッタの罪について正しい情報が耳に入ったかもしれない。
しかしチェーザレには届かなかった。
そして、この国では年末に家族で集まる習慣がある。
チェーザレの場合、夫婦揃ってカーミヤの屋敷に戻るのが普通であるが、チェーザレはそれも拒否した。
カーミヤの屋敷に戻るとクラリーチェと同じ部屋にされるだろう。チェーザレにはそれが耐えられなかった。
この時、カーミヤの屋敷に戻っていればチェーザレはクラリーチェの口からもしくは父母の口から真実を知る機会を得ていただろう。
しかしチェーザレは真実を知る全てのチャンスをことごとく、潰してしまったのだ。
チェーザレは年明けから春にかけて親から届いた手紙もことごとく無視した。
初めの何枚かは少し中身を見たが、クラリーチェと話をするようにと諭してあるだけだったため次第に開封すらしなくなった。
結婚式から一年が過ぎたある日、ジョバンニからクラリーチェが家を出ていったことを聞かされた。
チェーザレは半年間家を空けるから領主代行をして欲しいとジョバンニに託した。
チェーザレから見てジョバンニは優秀で領内の事情にも長けていて、半年ほど代行を行うのに不足があるとは思えなかった。
そうして、チェーザレはエリザベッタを迎えに行くため、北の修道院への旅に出たのだ。
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