【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚

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「……!?な…………っ……!これはどういうつもりだ、説明しろ、アイリーン!!!」

ギルバートから投げ渡された書類を見た侯爵は、怒りにわなわなとふるえ出した。
今にもつかみかかってきそうなほどの感情をその瞳にたたえているが、それとは対照的に、アイリーンの表情は冷たく凪いでいた。


「あら候爵、シュランツ女子爵はあなたにそんな不粋な態度を取られるようなことをしでかしたの?……変ねぇ、私には見当たらないけれど。」

王妃がしらじらしい態度で割って入ってくる。
だがそれは同時に、『王妃である私は問題ないと言っていることに慣爵ごときが口を出すつもりか』という抑止にもなる。


「いえ……。そのような事は…………ですが、この書類の真偽は……。」

いち早くそれを理解した侯爵は、悔しそうに顔を歪めながら何とか言葉をしぼりだした。


「ほう?それはわたしのサインを認めないというつもりか?侯爵。」

一見笑顔を見せつつも、目の奥は全く笑っていない国王が口を挟んだ。


「い、いえ……!滅相もない。そのようなつもりでは……。」
「では文句はないな?それは間違いなくわたしがしたサインだ。」

国王の言葉に、反論の余地を失った侯爵は悔しそうに拳を握りしめる。
彼がギルバートに放られた書類には――アイリーンが侯爵家を離脱する旨が書かれていた。
とどのつまり、彼が最初にすがろうとしたアイリーンの爵位を勝手に売って罰金を支払おうという目論見は真っ先に潰えたのだ。


「……では、いくつかの家財を売ってお支払いいたします。」

そう侯爵が絞り出すように言ったのだが。


「ちょっとあなた、勝手なこと言わないで!」
「そうよお父様、他にも売れるものなんてあるでしょ!?領地を少し売るとか、経営してるものの中からいくつか手放すとか。私は生活がみすぼらしくなるのは嫌よ!」

遅ればせながら猿轡を外された侯爵夫人とクラリスが騒ぎ出した。

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