【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚

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その場は混沌を極めていた。
何とか爵位と家を守り抜こうとする侯爵と、今の贅沢な暮らしを奪われたくない侯爵夫人とクラリス。
その議論は平行線上であり、決して交わることはない。


「ねぇ、お父様は侯爵で、お姉様は子爵なんでしょ?なんでお父様に歯向かうの?お父様があんたの爵位を売って侯爵家の足しにしろと仰ってるんだから文句言わずに従いなさいよ!なんであんたのわがままのせいでわたしが我慢しなきゃいけないのよ!」

その悲しい脳みその出来によって、まだ立場を理解出来ていないクラリスは無謀にもアイリーンに突っかかって行った。


「侯爵令嬢として今までたくさんお父様にお世話になったくせに、家が大変な時に無視しようだなんて最低よ!最低限その恩に報いようとか思わない訳!!?」
「思わないわね。だって、そんな恩義を感じた事なんて1度も無いもの。感謝をするべきなのはあなたの方じゃない?誰のおかげで今まで贅沢出来てたのか、しっかりと身に染みて感じれば良いんだわ。」

そう言うとアイリーンはつい、とそっぽを向いてその後はクラリスに一瞥もくれようとはしなかった。


「で、殿下はお助けくださいますよね……?なんてったって娘の……クラリスの婚約者ですものね……!?」

そう言ってギルバートに縋ったのは侯爵夫人だ。


「はっ……。婚約者の座を『奪い取った』の間違いだろう?生憎だが、そこにいるお前の娘はそもそもわたしの婚約者として認められていない。」
「なっ……!?何故ですか!?!?婚約式を挙げたではないですか!!」

侯爵夫人が驚愕の声を声を上げる。それを見た王妃は呆れ顔だ。


「侯爵家に婚約の打診をした時にしっかりと伝えたはずだが。『優秀な』ご令嬢を、とな。その娘が優秀だとでも?」

彼女はちらりとクラリスを見ると、鼻で笑った。
かっと血が上ったクラリスが反論しようとした時、扉が控えめに叩かれた。


「国王陛下。ご報告いたします。」
「よし、入れ。」

彼が許可すると、先程侯爵家一同を連行した筆頭の兵士が入室してきた。


「お望みの物が見つかりましたことをご報告致します。」
「おお、ご苦労だった。こちらへ。」

そう言った彼に手渡された小瓶を見て、クラリスがみるみる顔色を無くして行った。


「さて、これが手に入ったなら引き止めておく必要は無いな。」

そう言われた途端、何故話を聞くつもりもないのに自分達が呼び止められたのかをたちどころに理解したのだった。
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