【R18】私が後輩のセフレに沼ってから別れるまでのお話。

志貴野ハル

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第1章

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 四月の夜は天気も気温も不安定で、今日は少し肌寒い。だけど酔い覚ましにはちょうどいいかもしれない。
 手を離して隣に並んだユウマくんは、百八十センチは超えているのではないかと思うほど身長が高かった。体調の良くない彼に気を遣ってゆっくり歩いてみたけど、足の長さが釣り合わずに彼のほうが私よりも先へ行ってしまう。
 引っ越してきたばかりで土地勘がないという彼から住所を聞き出して、学生用のアパートへ向かった。
 さっきの居酒屋から二十分歩いて、自分の家とは正反対に位置している住宅街を歩く。迷わずに目的地に着けたのは、ユウマくんのアパートが元彼のアパートの裏だったから。同じような外観ということは、きっと大家が一緒なのだろう。
 アパートの一階部分の中廊下を歩き、五部屋あるうちのちょうどの真ん中で彼の足が止まった。無言で鍵を取りだして玄関を開けたかと思うと、異常なくらいのスピードで靴を脱ぎ出し、玄関を入ってすぐ左にある個室へ入っていった。間髪入れずに嗚咽のような声が聞こえてくる。

「ちょっと、大丈夫!?」

 家には送り届けたしこのまま帰ってもよかったのだけど、こんな声を聞かされたら放っておくわけにはいかない。
 「お邪魔します」と小さく言って、彼が閉じこもっている個室の前に立つ。

「……ねぇ、大丈夫?」

 ドアをかるく鳴らし、応答を待つ。それどころじゃないのか返事がない。
 ここに来る直前、自販機があったのを思い出した。水か何かを買ってきたほうがいいかもしれない。
 いったん彼の家を出て、赤色の自販機から水とスポーツドリンクを買って戻る。往復五分もかからなかったけど、彼はまだ個室にこもったままだった。物音一つしないのが余計に怖い。

「入るよ」

 返答を待たずに入ると、中はユニットバスになっていた。シャワーカーテンで仕切られたバスタブの手前にトイレがあって、そこの便器に顔を突っ込んでいるかと思うくらいぐったりとうずくまる彼がいた。

「まだ吐きそう?」
「んん……」
「体、起こせそうだったら、水持ってきたからうがいして」

 柔らかいペットボトルをパキパキと開けて手渡す。青白い顔の彼はゆっくりと受け取ると、口をゆすいでトイレに吐いた。
 それからふらふらと個室から出て、持っていた水のペットボトルごと力尽きたようにベッドになだれこむ。
 つい二週間前に引っ越したばかりという部屋には、グレーのパイプ脚のベッドと小さなメラミン製の黒いテーブル、その上にノートパソコンが置かれただけだった。

「スポドリ、買ってきたからここ置いとくよ」

 そう言ってテーブルの上に置く。首だけをぐるりと動かした彼と目が合った。そろそろ帰るねと言いかけたところで、彼がのっそりと起き上がった。

「……風呂、入ってきます」
「え、待って、死んじゃう死んじゃう」
「このままのほうが気持ち悪い」

 吐くまで酔っ払っているのに、何を考えているんだろうか。
 慌てて止める私を無視してベッドから降りた彼は、眼鏡をテーブルの上に投げたかと思うと、そのまま私の背後にあるクローゼットを開けて、服やタオルを取り出しユニットバスのほうへいってしまった。
 しばらくして本当にシャワーの音が聞こえてくる。
 完全に帰るタイミングを逃してしまった。だってこのまま彼を放って帰って、もし私がいない間に意識を失いでもしたら後味が悪い。
 せめてシャワーから出た彼が眠るまで見届けないと……。
 勝手にベッドへ腰を掛けて、スマホを取り出す。元彼からメッセージがまた入っていた。
 「ごめん、さっきは強く言いすぎた」、「新入生のことは送って行ったのか」、「二次会には来ないのか」、「遅れて入りづらいなら迎えに行ってやろうか」——。一分間隔で立て続けに送られてきた文章にため息をついて、「二次会には行かない」とだけ返した。
 友達に戻りたいと振ってきたくせに、こうやって何度もメッセージを送ってきたり、迎えに来ようとしたり、今の彼女に誤解されるようなことはしないでほしい。全部、罪滅ぼしに見える。
 それともこれが元彼なりの友人に対する優しさなんだろうか。だとしたら本当にいらない。もう友人以下でいい。


 動画を見ながら適当に時間をつぶしていると、唐突にドアの開く音とともにふわりとフローラル系の甘い香りが漂ってきてグレーのスウェット姿のユウマくんが出てきた。
 私の顔を見るなり、驚いたように目を見開いている。勝手に腰を掛けているのがまずかったのかと思って慌ててベッドから立ち上がった。

「だ、大丈夫……?」
「はい、なんとか。すみません、ご迷惑をおかけしました」

 さっきよりはいくらか顔色が良くなっている彼は、定型文のような謝罪をして私の前を通り過ぎると、もぞもぞとベッドに潜り込んだ。

「あ、じゃあ私、帰るね」
「家近いんですか?」

 ……いや、全く。ここからなら歩いて三十分以上はかかる。
 口籠る私に「最近、この辺に不審者が出たみたいですよ」と、彼はさらに不安になる情報を付け加えてきた。

「……えぇ、なにそれ……」
「嫌じゃなければどうぞ」

 ぺらりと布団をめくって、彼がベッドから出てきた。

「ユウマ君はどうするの」
「床で寝ます」

 あっさりと言って、本当に何もかけずにベッド脇の床にごろんと落ちた。
 エアコンもつけないまま寝るなんて、体も痛めるだろうし絶対に風邪を引く。

「ダメだよ、じゃあ半分、三分の一でいいからベッド貸してくれる?」

 言いながら手を引っ張って彼をベッドに戻す。渋々と壁側に寄ったのを確認して「……お邪魔します」と、私も彼の隣に並んで寝転んだ。
 自分だって酔いが回っているはずなのに、それが覚めるくらい緊張する。
 異性と同じ布団に入るのは半年ぶりだからか、それとも寝返りを打てばすぐの距離に、見慣れない綺麗な顔があるからだろうか。
 衣擦れの音ひとつでも、耳に入ると心拍が跳ね上がる。
 変な先輩だと思われているかもしれない。
 酔っ払うまで酒を飲ませて家までついてきて、挙げ句、ベッドを半分取るなんて迷惑行為だ。せめて彼が狭くないように、体を横向きにして足を布団からはみ出させる。

「寒くないですか?」
「はい!?」

 突然話しかけられて声が裏返ってしまった。
 首を回して振り向くと、彼も私のほうへ体を横向きにしてを自分の腕を枕にしていた。
 ふ、と鼻で笑われたあと、また「寒くないですか?」と訊ねられた。

「うん、大丈夫、ありがとう」
「いや、足はみ出てんじゃん。もうちょっとこっち来ていいですよ」

 体を起こした彼に、タメ口と敬語が混ざった調子で返される。少しは仲良くなれたのだろうか。だとしたら嬉しい。お礼を言って、彼が空けてくれたスペースに体をずらす。
 眼鏡を外して、濡れたままの前髪がオールバックのように持ち上げられている彼は、本当に綺麗な顔をしていた。ハーフを思わせる彫りの深いはっきりとした端正な顔立ちゆえに、真顔だと厳しめの印象なのに、笑えば目尻が下がって人なつこく優しそうに見える。長身も相まってモデルだと言われたら誰もが頷いてしまうくらいだ。
 思わず、その伏せたまぶたに触れてしまった。

「……なに?」

 彼が薄目を開けて声を出した。怒っている風ではなく、子供のいたずらをたしなめるような優しい声だった。

「あ、ごめん。……そういえば体調はどう?」
「全部吐いたから、もう大丈夫ですよ」

 そう言って薄く笑って、また目をつぶる。
 知り合って間もない私にこんな無防備な姿を見せて、居酒屋では「失礼な態度を取るから」と一線を引いていた彼とは大違いだ。本来は優しい人なんだとわかる。
 もう少し話したい。だけど吐いたばかりの彼にこれ以上付き合わせてしまうのも悪い。
 ユウマくんは、サークルに入ってくれるかな。また会えるかな。今日限りだったら、やだな。
 しばらくじっと見つめてみても、ユウマくんは目を開けてこちらを見なかった。寝たのだろう。諦めて、彼に背を向けるように寝返りを打つ。

「あっ、ごめん!」
「……いった」
 距離感を間違えて、彼のあごに頭をぶつけてしまった。さらに背中を壁にくっつけている彼を無理やりおしつぶような形をとってしまい、腰あたりに違和感を覚える。——これは……。

「生理現象?」

 そう言ったのはユウマくんのほうだった。
 そろそろと寝返りを打った体をまた彼へ向き直す。ユウマくんは少し申し訳なさそうに眉を下げて、薄ら笑いを浮かべながら私を見ていた。
 一体いつからだったんだろう。好意すら抱く以前の会ったばかりの女に、勃つものなのか。
 経験人数が元彼ひとりだけだから、男の人の体には詳しくない。

「へ、ぇ、男の人って大変だね」

 裏返りそうになる声をごまかしつつ、なんでもないように言いながら視線を布団の中へ下げて、彼のスウェットの膨らみを撫でた。

「……っ、なんですか」

 それまで飄々と余裕そうにしていた彼の声が震えた。少し動揺が混ざっている。
 スウェット越しに手を動かしながら顔を上げると、彼は困惑した目つきで私を見ていた。
 まぁ、そうか。どう見たってこれは立派なセクハラで、アルハラの上にさらに罪を重ねる私は、きっとこれから修復しようのないくらい彼に嫌われるかもしれない。だけど、止まらなかった。
 これっきりでもう会えないなら、どうにかして彼の内側を見てみたかった。パーソナルスペースのさらに内側に入ってみたかった。

「……今日のお詫び」

 スウェットのゴムに指を引っかけて今度は下着越しに撫でると、さっきよりも高い温度が指にまとわりつく。さっきシャワーを浴びたばかりなのに、先走りで濡れた生地の一部分が段々とぬめり出してきた。

「…………っ」

 息を呑む彼は抵抗しなかったし、私も煽るようなことは言わなかった。それをいいことにどんどん指の動きを早める。
 触れる部分に熱がこもって、ますます湿り気を帯びていく。

「ねぇ、下、全部脱いでよ。やりづらい」
「……酔ってるんですか」
「うん」

 全部、酔っ払ってるからで済ませられるならそうする。
 抵抗もしないけど協力もしない彼に身勝手に少しいらだって、結局自分の手でスウェットもパンツも下ろした。
 服に引っかかりながら、ぶるんと飛び出てきたペニスと久しぶりに嗅ぐ雄の匂いに頭がくらくらする。本能なのか口の中に涎が溢れてきて、自然と呼吸が乱れる。
 舌先を伸ばして鈴口から溢れる透明な雫を舐め取ると、彼の腰が振れた。
 そのまま裏筋に舌を這わせてから先端を唇で包み込んで、舌を伸ばして亀頭の裏側を舐める。
 ソフトクリームを舐め取るように舌を動かすと、太ももの震えが徐々に大きくなった。布団の中に潜った状態なのに、荒い彼の呼吸がすぐ近くで聞こえる。
 私が触った直後は困惑していてどうしていいかわからないような態度だったのに、舌と指を動かすだけでその辺の男と変わらない。彼の余裕がそぎ落とされていくのがわかる。
 馬鹿にしているわけではなくて、彼も普通の男の人なんだなってほっとした。

「ぁ、……んっ…む、んんっ」

 口の中全体で頬張るようにさらに深く頭を沈める。その瞬間、呻くような彼の声が聞こえてますます嬉しくなる。
 よかった、ちゃんと気持ちよくなってくれてる……。
 自分からこんなに深く咥えたことはないし、そもそもフェラチオ自体得意じゃないけど、なぜか彼に対してはしてあげたい気持ちが強かった。

「ん、は、……ぁむ、んっ、……んっ」

 音を立てて夢中になりながら頭を動かす。そのうちに彼の大きな手が私の頭に触れた。髪を掬い上げられて撫でるような手つきで優しく動かされて、きゅうっと触られていない下腹部が甘く痺れる。
 根元まで深く咥え込んで、パンパンに張り出した亀頭を喉奥にこすりつけるように小刻みに動かすと、彼のため息が長く響いた。……あぁ、これ、好きなんだ……。
 根元に舌を這わせて、とぷとぷと溢れてくる先走りを飲み下すように喉奥をすぼめる。
 苦しくてえずきそうになるのに、それが気持ちいいことみたいに錯覚して、頭が痺れて体中が震えてくる。

「んっ、……ふ、…んんっ……」

 彼の指が、耳の縁に触れて私の耳孔を塞いだ。遠くの苦しげな息遣いが聞こえなくなった代わりに、怒張をしゃぶる粘着質な音が一層鮮明に鼓膜を震わせる。
 もっと奉仕して気持ちいいところを暴きたい。もっともっと知りたい。
 そう思うのに私の体のほうは彼が欲しくて限界だった。
 最後にきゅっと喉奥を締めて、唾液と先走りでぬるぬるに濡れたペニスを解放する。

「……ね、したい。最後までしていい?」

 布団から顔を出して、彼のペニスをくちゅくちゅと手でしごきながら反応を待つ。予想通り、顔を背けたままうんともすんとも言わない。私の頭を撫でていた彼の手も、離れてしまった。
 嫌だったら力ずくでも私を剥がして追い出すだろう。
 彼の無言を肯定と受け取った私は、自分の服をベッドの外へ脱ぎ捨てて彼の上に跨った。
 暗がりに慣れた目で彼を見下ろす。精巧なつくりをした顔は少し苦しそうに息を整えていて、目が合ったかと思うと腕で顔を隠してしまった。その瞬間の彼が可愛く思えて、言い様もない愛おしさがこみ上げてくる。
 前戯もなにもしていない秘裂に、彼の先端をあてがう。
 ぷちゅ、と水音がして、一度も触られていない箇所が濡れていることに驚いた。自分でも気づかないくらい興奮している。
 くちゅくちゅと先端を動かしながら蜜口に馴染ませて、ゆっくりと腰を下ろす。
 濡れていても、前戯なしでいきなり挿れたことなんてなかったから、ぴったりと合わさったところを無理やりこじ開けるような抵抗感があった。それを無視して、自重で彼のペニスを膣内へ沈めていく。

「ぅ、ん……っ、……はぁっ、は……っ、あぁ——、……あはっ、挿入っちゃったね……」

 自分からねだるのも、こんなことを言いながら跨がるのも初めてだった。
 彼の熱で、お腹の奥までみっちりと満たされる。まだ一ミリも動かしていないのに背中がゾクゾクして、膣内がきゅうきゅうと締め付けを繰り返した。
 想像以上の快楽に、冗談ではなく腰が抜けるかと思った。
 挿入しただけでこんなに気持ちいいなんて知らなかった。動いたら、きっともっと気持ちいい……。
 期待で、喉がこくりと鳴る。
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