【完結】妹に婚約者を奪われた傷あり令嬢は、化け物伯爵と幸せを掴む

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
4 / 18

4 辺境伯とのお見合い

しおりを挟む

 屋敷に到着し、馬車から下りた。

 もっと広くて豪華な邸宅かと思っていたが、辺境伯には似つかわしくないような、こじんまりとしたお屋敷だった。
 入口は三角形のペディメントと円柱で雨風避けが作られ、玄関扉の上には明かり取りのための扇形のフィックス窓が取付けられていた。この窓はファンライトと呼ばれ、近頃流行りのデザインだと聞く。そして一階には上げ下げ窓ダブルハングがシンメトリーに配置されていて、小さいけれどとても美しい建物だった。
 部屋にこもって本ばかり読んでいた私は、こうした建築についても多少の知識がついていたのである。

「リューディア・ハーヴィスト様、ようこそおいでくださいました」

 屋敷を見上げていた私は、その声にハッと振り向く。そこには、白髪混じりで柔和な微笑みを浮かべた男性が立っていた。

「わたくしは、この屋敷の執事を務めるトピアスと申します。どうぞ、お入りください」
「あ、はい、ありがとうございます」

 私は一礼し、トピアスのあとに続いて屋敷の中に入った。ホールを抜けて客間に通され、トピアスは主人を呼ぶために部屋を出て行った。

「ふう……」

 一人になると思わずため息が出た。意識してはいなかったけれど、やはり緊張しているみたいだ。

(どんな方が現れるんだろう。お姿はどんなふうでもかまわないけれど、優しい方だと嬉しいな……)

 その時、ドアが静かに開いた。そして入ってきたのは、かなり背の高い男性だ。

(この方がユリウス辺境伯様……?)

 その男性は背が高いけれど背中が弓なりに曲がっていて、後方に大きく盛り上がっている。髪は一瞬白髪かと思ったのだけれど、よく見ると銀色の髪だ。そして顔は、青黒い痣に左半分を覆われている。両の目は瞼の上に瘤ができて塞がっていて、かろうじて奥のほうに瞳が見えているような状態だ。

(瞳は、真紅……そんな色、初めて見たわ。銀色の髪に赤い瞳だなんて、確かに、人ならざるもののように見えるかも……)

「お待たせいたしました。私が当主のユリウス・オウティネンです」
「初めまして。わたくしはハーヴィスト伯爵が長女、リューディアと申します」

 ソファに座るよう勧められ、私たちは向かい合って席についた。トピアスがお茶の支度をして部屋を出て行く。

「――怖くないのですか」

 二人きりになると、彼はすぐに尋ねた。

「怖い、と申しますと?」
「私のこの姿です。今まで、いろんな貴族女性とこうして向かい合いましたが、皆私の顔を凝視することができず、すぐに帰ってしまいました。こんな化け物だと思わなかった、と言われたこともあります」

 自嘲するような笑いを顔に貼りつけ、彼は目を伏せた。
 私にはその気持ちがよくわかる。父も、使用人も、私のこの目立つ傷についつい目がいくらしい。そして、すぐに嫌なものを見たとばかりに目を逸らすのだ。その度に、私は傷の存在を思い知るというのに。

「辺境伯様、失礼を承知で室内でもストールを巻いておりましたが……私の顔も、こうなっているのです」

 そう言ってゆっくりと、ストールを外していく。家の外の人間にこの傷を見せるのは初めてだが、やはり見合いの席で隠したままにしておくのはフェアではない。ストールがすべて外れた時、彼がハッと息を飲む気配を感じた。

「縁談のお話しをいただいておきながら、このことを黙って今日訪問したことをお許しください。騙すような形になってしまいましたが、私はどうしてもあの家を出たくて……もし辺境伯様に気に入っていただけたら結婚して家を出られると、そんなあさましいことを考えてしまったのです」

 私は俯いて、彼の言葉を待った。こんな令嬢とは縁談は進められない、そう言われるかもしれない。しばらく待ったのち、彼は言った。

「リューディア嬢、顔を上げてください。あなたがあさましいというのなら、私のほうがもっとだ」

 驚いて顔を上げると、彼は優しく私を見つめていた。(私にはそう思えた)

「私はオウティネン家を次代へと引き継ぐ宿命がある。だが、今のままでは私の子を産んでくれる女性がみつからない。だから貴族女性に片っ端から手紙を出して、誰でもいいから私と結婚してくれないかと考えていたのだ。だが、その考えは甘かった。誰一人として私を人間として見てくれないし、次第に化け物という噂が広まって会ってくれる女性もいなくなってきた。だからこうして久しぶりに訪問してくれたあなたが、同じように顔に傷を持っていることがわかって……ホッとしてしまった自分がいる。この女性なら、私と結婚してくれるかもしれない、と」

 私たちは見つめ合った。お互いの考えていることは同じ。だったら、手を組むべきではないか?

「辺境伯様、もし……」
「リューディア嬢、もし……」

 二人の言葉が重なり、私は話を聞くために黙って彼を見つめた。彼が微笑み、口を開く。

「リューディア嬢、もし良かったら私と結婚して私の領地で一緒に暮らしませんか」
「はい、お願いいたします」

 こうして、私たちの婚約は出会って十分で決まったのだ。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月 瑠々奈
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

[完結]婚約破棄ですか? 困りましたね。え、別の方と婚約? どなたですか?

h.h
恋愛
未来の妃となるべく必死で努力してきたアリーシャ。 そんなアリーシャに婚約破棄が言い渡される。アリーシャが思ったのは、手にした知識をこれからどう活かしていけばいいのかということだった。困ったアリーシャに、国王はある提案をする。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

オッドアイの伯爵令嬢、姉の代わりに嫁ぐことになる~私の結婚相手は、青血閣下と言われている恐ろしい公爵様。でも実は、とっても優しいお方でした~

夏芽空
恋愛
両親から虐げられている伯爵令嬢のアリシア。 ある日、父から契約結婚をしろと言い渡される。 嫁ぎ先は、病死してしまった姉が嫁ぐ予定の公爵家だった。 早い話が、姉の代わりに嫁いでこい、とそういうことだ。 結婚相手のルシルは、人格に難があるともっぱらの噂。 他人に対してどこまでも厳しく、これまでに心を壊された人間が大勢いるとか。 赤い血が通っているとは思えない冷酷非道なその所業から、青血閣下、という悪名がついている。 そんな恐ろしい相手と契約結婚することになってしまったアリシア。 でも実際の彼は、聞いていた噂とは全然違う優しい人物だった。

嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜

月山 歩
恋愛
サラとマリウス・ハンプトン侯爵夫婦のもとに、衝撃的な告白を携えた男が訪れる。「隠れてサラと愛し合っている。」と。 身に覚えのない不貞の証拠に、いくらサラが誤解だと訴えてもマリウスは次第に疑念を深めてゆく。 男の目的はただ一つ、サラを奪うこと。 *こちらはアルファポリス版です。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...