俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第225話 傀儡師物語3

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 いったいボクは、何を見ているのか。

「――ああそこぉ!!」

 いったいボクは、何を見せられているのか。

「――もっと!! もっとぉおおお!!」

 稽古をしているはずだ。

 稽古をしているはずなんだ。

 お客さんがあっと驚く様な空中ブランコの新しいテクニックを磨いているはずなんだ。

 血が滲み、汗を流し、怪我をしながらも必死に稽古する。そうあるべきなんだ。

「――ほらほらどうだぁあ?」

 なのに、何故全裸の男たちが群れているのか。

「――あぁあぁあぁも゛っとぉ! お゛お゛お゛!!」

 何故全裸のアメリーが悦んでいるのか。

「――後が閊《つか》えてんだ早くしろー」

 訳が、訳が分からない。

 でも、わかる事はある。

「うぅ――」

 ニヤつく男たちの中にギャブレーが居る事こと。

「ううぅ――」

 恍惚な表情で跨るアメリーが居ること。

「うううぅ――――」

 無理やりではなく、率先してひたすら行為に勤しむアメリーの姿。ボクが見ている光景は決して間違いではない。その事実に声を殺し、必死に声を出すまいと噛んだくの字の指から血が流れているのを痛みで感じた。

 しかし指の痛みなんてどうでもいい程、頬に伝う涙を感じたボクの心が粉々に砕かれていく。

「――ダメもっと頑張ってぇえええ!! もっとパトスを注ぎ込んでぇえええ!!」

 ひたすらに求め、執拗に快楽を享受するアメリー。白目を向いて痙攣する姿。もう空中のバタフライなんてネームは白濁色に塗られた。

(――そうか。口元に付いてたあのゴミ……あれはやっぱり……!!)

 大きく開かれたアメリーに口。そこに異物が入るのを見たボクはお腹の中からせり上がって来るものを吐しゃしそうになった。

 そんな時だった。

「お前らなにやってる!!」

(!?)

 突然の怒鳴り声。

 隙間を覗いて確認するも、声の主が確認できない。しかし数秒後、涙で滲む視界に見た事のあるふくよかな男性が現れた。

(座長……!!)

 リングマスターであり、この一座の長が現れた。

 騒然とする稽古場。誰しもが座長を見た。

「女に、アメリーに寄ってたかってなんて事を!! お前らに道徳は無いのか!!」

 激怒した座長を見るのは初めてだった。

 山崩れで村が滅び、遊びに行っていたボクとアミリーは助かったものの、その先は無かった。

「可哀そうにアメリー……」

 だけど、身寄りのないボクたちを引き取ってくれたのが座長だった。

「ほら、こっちにおいで……」

 嬉しかった。純粋に嬉しかった。親を失ったボクたちに希望の光を与えてくれたのが座長だ。だからボクたちはパフォーマーや雑用を引き受け、必死に恩返しをしていた。

 ペタペタと歩いて来る裸のアメリー。それを男たちから守る様に、ボクたちを救ってくれたあの時の様に、ふくよかな体で優しくアメリーを包んでくれた。

 ――そう思ったはボクだけだった。

「――ほらアメリー、口を開けなさい」

「あーーーー」

 ――トロォ

「ッッッ~~~!?!?!?」

 思わず我慢できず。

「オエエエエエ――――」

 食べた物を胃液と共に盛大に吐き出した。

 涙を流し、鼻水を流し、血を流し、胃液まで流す。

 ボクが見た物は。

「ほらどうだ? 味は? ん?」

「座長のぉ、すっごく美味しいですぅ――――」

 恍惚とした表情で、座長の唾液を飲み込む彼女の姿。

「ううぅ、な、なんでぇ……」

 信じてたのに。

「まったく、マジでキレてるかと思いましたよぉ」

 信じていたのに。

「私抜きで事を始めたのは腹が立ったがなぁハハハ! ほうらあ!!」

 もう一人の親だと思ったのに。

「座長のキタぁぁああああ!!」

 見事に、裏切られた。

「ッうぅ!!」

 それからボクはその場から逃げ出した。

 それは何故か。

「くうううううう!!」

 好きな人が男に回されたから?

「――うわ!? つまずい、た……!!」

 好きな人が跨って悦んでたから?

「ッう!? また気持ち悪くなって――オロロロロ――――」

 恋が砕け散ったから?

「ううううう!! うぅぅううううう!!!!」

 信じてた人に裏切られたから?

「――ボクは!」

 それとも――

「――ボクはぁ!!」

 ――自分が、情けないから?

 すべて。すべてが逃げた理由に当てはまる。

「死んで、しまいたい……」

 自己分析できる程、自分がまだ頭を働かせることができる事実に、自分自身が嫌になった。

 翌日、ボクは体調不良という名目で、仕事を休んだ。

 ルームメイトも仕事に出張り、静かで孤独の時間を過ごすボク。

 脳裏に巡るのはひたすらに乱れるアメリーの発狂した姿。

「……アメリー」

 恍惚と乱れる彼女。それを快く犯す男たちや座長。

 裏切られ、心も乱され、生きる希望も捨て去ったというのに、砕かれた恋心はまだひっそりと息をしていた。

 始めて見たアメリーの裸。

 始めて見た恍惚とした顔。

 始めて見た積極的な――。

 ほんと、自分が嫌いになる。

 裏切られたというのに。

 初恋が粉々に砕けたというのに。

 自分の欲だけは――。

「――――ッう!?」

 手の中に果てた体液と同じで、嫌いになった。

 それから数日が過ぎ、ボクは旅支度を終え仲の良い人たちに別れを告げる事にした。

 別れを告げる。その意味は、一座かた抜けるという事に他ならない。

「カルール。今からでも遅くはない。一座に残ってくれないか?」

「……すみません。それは、できないです」

 ふくよかな座長が悲しんだ顔でボクを引き留めるも、それを一脚した。正直言いたい事はあったけど、もう言う気力が無い。

「そうか……。少ないが、持っていくといい」

「え……」

 座長が俺に近づいて巾着袋を渡してきた。それを無理やり握らされ中はお金だと分かった。そして座長は手を目元に持っていき、涙をこらえていた。

 様に見えた。

「カルール……。アメリーの具合は最高だぞぉッヒッヒッヒ!!」

「……」

 肩を上下に揺らしているのは泣いているのではなく、笑いを堪えていたのだった。

 少し俯いて歪んだ口元をボクに見せるも、ボクは何とも滑稽だと光を無くして目で座長を見た。

 そして座長が下がり、次は――。

「カルール……。ホントに行っちゃうの? 私寂しいよ!!」

「アメリー……」

 ボクの胸に飛び込んできたアメリー。その顔は既に涙で溢れ、僕と同じ目の周りが腫れていた。

 アメリーの肩を持ち、そっと引き剥がす。

「アメリー。もうボクの事なんか忘れて、精一杯お客さんを楽しませてよ」

「忘れるなんて出来ない!! ずっと一緒! ずっと一緒の幼馴染でしょ!! なのに何で出て行くのよおおお!!」

「ッ」

 ――ずっと一緒。なんだそれ。……独り善がり。先に離れたのはキミじゃないかと、泣きじゃくるアメリーに一語一句伝えようとしたけど、それはやめた。

「ごめん。もう、決めた事なんだ……」

「ぐず……カルールのバカぁ……」

 涙と鼻水でボクの服が汚れた。それを気にせずに、ボクはそっと離れたアメリーに対し、光の無い眼を向け無表情を貫いたのだった。

 そして。

「カルール!!」

「――」

 ガバっと抱き着いて来たのはギャブレーだ。

「お前のマリオネット!! 俺はずっと見たかった!! でもその機会に恵まれないのは仕方がないよなあ!?」

「残念だよ、ギャブレー……」

 嗚咽交じりでボクの肩に顔をうずめるギャブレー。

 そして周りに聞こえない声で耳元にこう言った。

「お前、盛大なパーティ見ただろ」

「……」

「安心しろぉ、アメリーには俺がいただいてやるからさぁぁぁ! あの淫乱女はなぁ、俺たちに夢中だからぁ……」

 見ないでも分かる。ギャブレーは今、心底愉悦に浸った醜い顔で語っていると。

 そんな彼に対し、ボクは。

「――元気でね」

 負け犬の遠吠えにすらならない言葉を投げ掛け、ボクは一座を去った。

 夢も希望も砕け散った。もう、もういい……。

 こんな所に、居ていられない……。
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