俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第224話 傀儡師物語2

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 この大きな街で公演した日数は実に二十日間。七日に一度、一座はお休みを設け、それ以外の日はずっと公演。しかもほぼ毎回満席なのはボクが一座に来てから初めてだったりする。

 様々なアクシデントや異様な忙しさ。猫の手も借りたいと言ったところで、裏方雑用のボクにもチケット販売から壊れた設備の修理、スポットライトの演出や小物の販売までやらされた。

「ありがとうございました!!」

 ホクホク顔のお客さん。今買って帰った小物は水色の小さな蝶のブローチで、パフォーマーの一人であるアメリーを思わせる小物だ。

 このブローチはいくつか種類があって、主に人気のパフォーマーたちを想起させる代物。圧倒的パフォーマンスを魅せつけられたお客さんは、各々が気に入ったパフォーマーのブローチを買っていく。

 その中で一番人気なのはもちろん――

「――アメリーのブローチだな!」

 座長の商魂は逞しく、公演が終わってもその熱を下げさせるなとの意向。思い出しながら凄さを噛み締めてテントを出た途端、目の前に広がるのは一座のコレクションの数々だ。こういったお祭り騒ぎは財布の紐が緩むらしく、お客さんは笑顔でお金を落としてくれる。

 そんな中、小物一番の売り上げを出すのが決まってアメリーのバタフライ型ブローチだ。
 それもそうだろう、普段着のアメリーは少し小綺麗な町娘って感じだけど、一度衣装に着替えパフォーマーになると、それはもう夜空を羽ばたく幻想的なバタフライだ。

 当然男性ファンが多いし、幼馴染の僕も鼻が高い。今回の公演で売店に駆り出されたけど、聞いていた評判通りで一安心した。
 
「おーいカルール! そっちはもういいからこっち手伝ってくれ!!」

「はーい!」

 時間は過ぎ、次の街へと繰り出すためにテントの解体、店じまいをして小物を片付けていると、おやっさんの大声が聞こえてきた。

 いろんなところに出張って仕事したけど、ボクの本業はここからと言っても過言ではない。雑用として培った経験を活かし、テキパキと後片付けをする。自慢じゃ無いけど、他の雑用係とはスピードが違うと自負している。

「ふぅ……」

 ボクが任された場所はあらかた片付けた。でも他のところがまだ片付いていないからお手伝いと言う名の応援に向かうところだけど、少しだけ小休憩。小さな椅子に座る。

 革でできたボトルを傾け水を飲んでいると、少し離れた所の角からひょっこりとアメリーが顔を出した。手を後ろに組み、トコトコと歩いて来た。

「お疲れ様ーカルール。休憩?」

「お疲れアメリー。そう、ちょっと休憩してるんだよ」

 ぴっちりした衣装着姿のアメリー。どうやら稽古の合間に来てくれたっぽい。

「さっきおやっさんが言ってたよ? あいつがサボってたら尻を叩けってさー」

「でもおやっさんはこうも言ってたよ? いいかカルール、俺たちは体力勝負だから休憩は細目にな! って」

「なにそれ、フフ、言ってる事逆じゃない?」

「あの人はそんな感じの人だからねぇ~。だからボクは自分が楽になる方を選択する!!」

「アッハハ! 威張るところそこ~」

 公演時は綺麗な笑顔でお客さんを盛り上げてくれるけど、ボクには幼く、そしてあどけなさを残す笑顔を向けてくれる。この笑顔は、ボクにだけ見せてくれる特別な笑顔なんだ。

「あ、そうだアメリー! キミに見て欲しい物があるんだ!」

「?」

 頭の上に?を浮かべるアメリー。ボクはそそくさと自分の鞄からある物を出した。

 それは。

「――マリオネット?」

「そうさ♪ 実はこっそり練習してたんだぁ」

「出来るの?」

「もちろん!」

 心配を顔に出すアメリー。ボクは自信をもって回答。手板――コントローラーを使ってマリオネットを起き上がらせた。

「ん゛ん゛! 初めましてお嬢さん。私の名前はハンプティダンプティ。以後、お見知りおきを……」

「わぁあああ!!」

 ボクのふくらはぎ程のある卵の擬人化――ハンプティダンプティ。その彼が精密な動きでお辞儀し、少し渋めな声でそう言った。アメリーは目を輝かせ拍手してくれる。

「今日は私の華麗なダンスを披露するよー。ではミュージック、スタート!」

 ――ずんちゃずんちゃ♪ ずんちゃずんちゃ♪

 何処からともなく音楽が響き、その音楽に合わせてハンプティダンプティがリズムを刻む。

 リズムを刻んだ片脚がヒョイと動き徐々に体を激しくさせた。タップダンスから始まり、楽しく踵から歩く様に躍動させ、腕を組んでコサックダンス。

「ッハッハー!」

 立ち上がり両腕を振ってダンス。ハンプティダンプティの腰を動かしてアメリーに向けてお尻を振る。

「あはははは!」

 アメリーが笑ってくれる。その事実だけで、ボクは温かな気持ちで胸がいっぱいだった。

 ハンプティダンプティが足を使ってダンスしていると。突然。

「――ここに居たのかアメリー」

「「!?」」

 突然の来客。ボクは驚いてしまいコントローラーを離してしまった。マリオネットのハンプティダンプティが力なく倒れる。

 やれやれと言いたげな面持ちの彼はギャブレー。アメリーと同じブランコのチームで、この一座のスターの一人でもあった。

 そんな彼の登場にしまったと顔に出すアメリー。ボクも同じ顔をしてギャブレーを見た。

「とっくに休憩時間は終わったぞ。俺たちブランコは新技の練習に忙しいのは分かっているだろ? 別に休憩無しとは言ってないし、座長が気を利かせてブランコの解体を最後にしてくれてるんだ」

「そ、そうだね……」

「いい加減君もスターの一人だという自覚を持って欲しいよ」

「う、うん。ごめん……」

 段々と小さくなるアメリー。稽古の合間に顔を出してくれたと分かっていたのに、長い事拘束してしまった。完全にボクが悪い。

「ギャブレー、その、アメリーは悪くないんだ。ボクがつい夢中にさせてしまったから……」

「……夢中?」

 怪訝な顔をしたギャブレー。ボクの足元にあるマリオネットを見て、一瞬冷たい目をした。

「?」

 でもそれが見間違いだと思う程、ギャブレーは笑顔をボクに向けてきた。

「それってカルールのマリオネットか! 操れるのか!」

 ボクたちと三歳ほど上のギャブレーが、子供の様にキラキラした眼をマリオネットに注いでいる。興味津々だと思いがけないギャブレーの期待にボクは素直に――

「う、うん。そこそこは――」

「カルールったら凄いのよ!!」

 興奮したアミリーが被せてきた。

「音楽に合わせて楽器を弾く真似とか、私何回かマリオネットが動いてるの見たことあるけど、カルールが操るマリオネットって本当に生きてるみたいで凄いの!!」

「そ、そうなのか?」

「そうよ! ダンスを見せてくれたけど、とっても可愛いくて上手で! ――――」

 それからは興奮したアミリーの言葉は止まらず、質問したギャブレーは言葉の圧にげんなりし、褒めちぎられたボクはただただ恥ずかしかった。

「わかったわかったから!! ほら行くぞアミリー!」

 片付けの時間が迫っているのに長々とし過ぎたのか、アミリーのマシンガントークに顔をしかめたギャブレー。一瞬苛立ちを顔に出したけど、すぐに元に戻り、ボクを見た。

「こんだけ絶賛されてんだ、時間の都合がつけば、俺にも見させてくれよーカルール!」

「も、もちろん!」

 ニヤリと笑ったギャブレー。ボクに背中を見せ歩き出し、アミリーもその背を追った。

「また後でね!」

「うん! 頑張って!!」

 振り返ったアミリーに笑顔を向けられ、ボクは嬉しくなり仕事が捗ったのは言うまでもない。

「ふ~ん。夢中、かぁ……」

 ぺろりと唇を舐めたギャブレーの事を知らずに。


 いつ頃からだろうか。

「あ、アミリー! 一緒にご飯食べない?」

「カルール……。その、ごめん。今その、忙しくて……」

 ボクを見るなり目を合わせず、気まずそうに明後日の方向を見るアミリー。

 大きな街から移動し、次の街へと来たこの頃。ここ数日明らかに様子のおかしい彼女のことが心配で仕方が無かった。

「……稽古で忙しいの?」

「うん……そう、だね……」

 何とも歯切れの悪い回答。

「アミリー。この頃変だよ。何かあったの?」

「……」

「もしかして、ブランコの連中の中にイジメてくる奴がいるのか?」

「ッ」

 言葉がのどに詰まった様に体をビクつかせるアミリー。声ではなく体で表現された回答に、ボクは怒りが湧いて来た。

「誰だよイジメてくるの!! ボクが懲らしめてやる!!」

 息まくボク。

 (ブランコの奴らは人気にあやかって調子に乗ってると、他のパフォーマーたちも迷惑していた。でも人気のアミリーは誰にでも笑顔をばら撒く優しい人と成り。調子に乗るなんて絶対ない。だからブランコの連中の誰かが気に食わないとアミリーをイジメているんだ!!)

 そう思ったボクは顔を真っ赤にしてアメリーを横切った。

 そして。

「カルールやめて!!」

「ア、アミリー……!?」

 服を握られさらには怒鳴られた。必死に止めようと目を瞑るアメリーに、ボクはたじろいだ。

 周りの座員たちが何事かとボクたちを見る。

「その、本当に何も無いから……!! 稽古で疲れてるだけだから……」

「アミリー……」

 段々と声が小さくなっていくアミリー。

 その姿を見て、ボクの怒りが収まる。

 でも、納得は行かない。

「アミリー。今はアミリーの言葉を信じるよ。だから約束して。我慢できなかったら、ボクや座長に相談すること」

「……」

「いいね?」

「……うん」

 アミリーの肩を掴んでできるだけ優しく説得した。ボクの優しさに触れたのか、アミリーが上目遣いで目を合わせてきた。

 ふと、ボクは見た。

「?」

 アミリーの口元に、毛が一本付いているのを。

「アミリー、口にゴミ付いてるよ」

「ッ!?」

 まるで腫れ物に触れたように動揺し、すぐに口を拭ったアミリー。

 そして何事も無く。

「ごめんもう行くね、カルール。……今度時間ができたら一緒にご飯食べようね!」

「うん……」

 そそくさとボクの元から離れて行った。

 その日の夜。

「アミリー? まだ帰って来てないけど?」

「そうですか。夜遅くすみません」

 ルームメイトである女性の一人にアミリーは部屋に帰ったか聞いてみたけど、どうやらまだ帰ってきてない。となると。

「まだ稽古場に居るのかな……」

 明らかに様子がおかしかったアミリー。彼女の事が心配で思わず自分の部屋から飛び出してきたけど、宿泊部屋に来たのは無駄足だった。

 向かうはブランコの稽古場。テントの位置的に離れた所にあり、少し小走りで向かった。

 テントに着くとすぐに入口に入った。明りは灯っておらず暗いけど、幸い稽古場への道なりは一本道だ。

 そして稽古場の幕から明りが漏れ出しているの確認。稽古の邪魔になると思い、ボクはそっと隙間を覗いた。

「――――ッ」

 ボクが見た物。それは――

「――ああ!! もっと激しくしてぇえええええ――――」

 群がる男たちを受け止める、幼馴染の狂った姿だった。
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