俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第231話 傀儡師物語9

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「――ッ」

 ハッと目が覚め、むくりと起き上がった。

(あれ、いつの間に寝てたの……)

 頭がズキズキと痛い。

(確かお菓子の家で本に呼ばれ、誘われるがままに触れて……)

 起きて間もないと言うのに鮮明に思い出せる最後の記憶。意識がハッキリしているから分かる事もあって、周りは甘い匂いに満たされ壁や床はお菓子。寝ていたベッドはフカフカなパンで掛け布団は薄いキャンディだとわかる。

 それと。

「――なんだよ、この感覚」

 今まで感じたことの無い感覚が体全体を駆け巡っているのがわかる。これはそう――

「――魔法だ……!!」

 まるで生まれた頃から知っていた様な感覚。明らかに異常な事が起きていると言うのに、頭で分かっていても本能が順応している。

 そして本能が言っている。と。

 だからだろうか。

「――あっは!」

 指の腹からニョキニョキと出る蛍光色の糸を思い通りに操れるとわかる。それが嬉しくて楽しくて、自分も魔法が使えるんだと歓喜した。

 右手の指から出た糸で縫う様にハンプティダンプティを形成。後頭部に繋がった糸に対し"踊れ"と念じると、細かな動きでハンプティダンプティが小躍りした。

「――それ!」

 左手の指から出た糸を放つと、伸びきった糸の先端がビスケットの壁を貫通した。さらに糸を引っこ抜き、巧みに操って飾ってあるビスケットで出来た皿に糸を繋げた。指の腹の中に巻き戻す様に糸を収めると、くっついた皿がボクの手の中に収まった。

「――凄いや」

 自由に糸を操れる。これがボクの魔法なんだと怖いながらも思わずニヤケてしまった。気分は高揚している。それこそ、自分は何でもできて、何でも思い通りにできるんだと思うほど。

 そんな事を思っていると、ノソッとした音が鳴りドアが開いた。

「起きたんだ。声が聞こえたから来ちゃった」

「グレーゼル……」

 微笑むいつものグレーゼルが部屋に入って来て、スタスタと近づいて来た。

「気分はどう? 気持ち悪いとかある?」

「最高の気分」

「そのようね」

 素直な気持ちを答えた。

「気を失ったカルールをここまで運ぶのしんどかったんだからね~! 外ももう暗いし、ここで泊まらないとだしー!!」

「ご、ごめん! いや、ありがとう、かな……」

 頬を膨らませたグレーゼルがプンプンと怒る。どうやらボクは気を失ってたみたいだ。
 それもこれも全部あの本のせい。

「グレーゼル。あの本って何なの? あれに触れたら魔法が使えるようになったけど……」

 怪しく発光した本。ボクを呼んだ本。アレに触れたから、ボクは魔法を使える様になったと推測。と言うより、ほぼ間違いない。

「……そう。私もお兄ちゃんも、カルールと同じ、本に触れたら魔法が使えるようになった。でもあの本に関しては、私よりお兄ちゃんの方が詳しいかなぁ」

 そう言いながら、グレーゼルはボクが寝ていたベッドに腰かけた。

「ヘンテルの方が……。難しい事書いてるの?」

「難しいって言うか、何書いてるか単純に読めないんだー。お兄ちゃんの方が本の影響が強くてナメクジみたいな字も読めるし、魔法の力もお兄ちゃんの方が強い……。だからかなぁー。ルーラーに成りたいってお兄ちゃんは思ってる。私はルーラーなんてどうでもいいけどね!」

 困った様に眉をハノ字にするグレーゼル。あの不貞腐れた顔が得意なヘンテルが得意げに旅に出たのはそう言った理由もあったのかもしれない。

「まぁあの本に関しては詳しくないし、今日はもう遅いしご飯食べて寝て、明日にでもここを案内するわよ」

「そんなに気を失ってたんだ、ボク」

「うん」

 ほぼ丸一日気を失ってたんだ。魔法が使えるようになったのは嬉しいけど、一日を寝て過ごしたって思うと何だか損した気分になる。

「――でぇ? そのハンプティダンプティはカルールが作ったの?」

「え、うん」

「なんか薄く光ってて不気味だね」

「そ、そうかなぁ……」

 唐突に話を変えられた。グレーゼルの興味はボクが糸で作ったハンプティダンプティに向いている。
 どうやらボクとグレーゼルが話している間にもずっと小躍りしていたようだ。

「カルールの魔法って糸でマリオネットを作る魔法なの?」

「マリオネットを作るって言うより、糸を操ってマリオネットを作ったから、糸を操る魔法だね」

 そう言って指の腹から糸を放ち、壁に飾っているお菓子のお皿をもう一枚引っ付け、糸を戻してヒョイと手の取った。

「おおおお!! なんか色々と応用が利きそうな魔法! これで大きな街の中を移動出来たりしたり?」

「ロープみたいに引っ付けて?」

「そうそう! おとぎ話のターザンみたいにアーアアー! って感じで!」

「背の高い建物じゃないとそれ出来ないと思うけど……」

 ボクと同じ想像をしたのかグレーゼルはクスリと笑い。

「「ップ、アハハハハ!!」」

 そしてボクと同時に吹き出した。

「――ハハ! あ~、応用だったらグレーゼルの方が利きそうだけど? 触れずに物を動かせるんだし」

「う~ん。言われてみればそうかも」

 人差し指を口の隣に当てたグレーゼルが考えながらそう答えた。

「例えば?」

「押したり、引いたり? とか?」

「押したり引いたりかぁ……。こんな感じ?」

 ――グン!

「――おわ!?」

 彼女が右手をボクに向けた瞬間、見えない力がボクをがっしりと掴み、勢いよく引っ張られ、座るグレーゼルの目の前まで態勢を崩された。

「――」

「――」

 合わさる瞳。彼女のオレンジ色の瞳に吸い込まれそうになった。

 そして。

 ――グン!

 背中を引っ張られ勢いよくベッドの中に沈んだ。

「――ッ」

 すぐに異変に気付いた。

(体が動かない!?)

 まるで全身に鎖がきつく巻かれた様に、全身から指先までベッドに張り付きにされた感覚。

「ぐ、グレーゼル……! 冗談キツイなぁーハハ……」

 首すら動かせない状況。目を下にして必死に彼女を見ようにも見えるはずもなく。

 だけど、視界より先に、耳に聞こえた。

 ――シュル……。

 何かが、布がこすれる音……。

 それが数秒に渡ってボクの鼓膜を響かせると、不意にパンのベッドが窪んだ感覚を感じた。

 見据える事ができるのはビスケットの天井。息をすることは可能なのに、瞳の揺れ、鼓動の速度、そして、肩を、乳房を露出し頬を赤く染めたグレーゼルに、ボクは息を止めてしまった。

「――私たちの家ってね、人払いの魔法がかかってるの」

「……」

「それはもちろん、このお菓子の家も同様……」

 蠱惑な彼女の唇に目が離せない。

「それってさ、どういう意味か……カルールならわかるよね……」

「わから……ない……」

 今まで聞いた頃の無い彼女の甘い声。肌着の服が独りでに、彼女の魔法によりビリビリと裂かれる。それがボクを滾らせる。

「ふふ、震えてるの? 可愛いところあるじゃん……」

「グレーゼル……」

「でも、そんなところ含めて――」

 ――大好きよ。

 唇を唇で塞がれ。

「――んん」

 舌と舌が絡まり合い。

「――れろ――」

 肌を重ね。

「――ハア」

 粘膜を交換し。

「――――ぁあ――」

 互いの鼓動を聞いた。

 それはまるで夢心地。現実とは思えない止まらない情熱。

 ボクたちは、愛し合った。

 彼女は言った。

「――愛してる」

 それを聞いて、疲れ果てたボクは沈む様に眠りについた。

 そして翌日。

「――きゃあああああああああああああ!!!!」

 グレーゼルの悲鳴によって、ボクは飛び起きた。
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