俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第232話 傀儡師物語10

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「――グレーゼル!!」

 彼女の悲鳴が聞こえ飛び起きたボク。上半身裸のズボンと言う格好でパンのドアを勢い良く開けた。

 額に冷や汗、ジワリと焦りながら視界に入ったのは勢いよく外側から破壊され粉砕されたドアと、乱れた椅子とテーブル、そして、何者かがグレーゼルに馬乗りになっている場面だった。

「嫌ぁ!! 放して!!」

「ッ!?」

 乱暴を行使する男に対し、腕や手を突き返す様に必死に抵抗するグレーゼル。

「やめろおおおおおおおお!!!!」

 叫びながら男に突撃し体当たり。

「――!?」

 バランスを崩して転がる暴漢。

「グレーゼル!!」

「カルール!!」

 怯えるグレーゼルを抱き寄せ、立ち上がった暴漢をボクたちは見た。

 そして胸が締め付けられた。

 男は金髪で格好はローブを着た旅人風。

 そしてその顔は――

「――お兄ちゃん……?」

 旅に出かけた、グレーゼルの兄――ヘンテルだった。

 息を飲んだボク。

 堪らず声に出した。

「な、何でグレーゼルを襲った!! 兄妹ケンカにしては乱暴が過ぎるだろ!!」

「――」

「何とか言えよ!! ヘンテル!!」

「――」

 腕を掴んだ震えるグレーゼルの手を感じ、ボクは激怒した。

 破壊されたドア。おそらくヘンテルがドアを壊して入ってきた。そして妹であるグレーゼルを襲った。

 無言のヘンテル。よく見ると肩で息をし、ボクたちを見ている目は赤く充血し、いや、充血なんてものじゃない。明らかに異常なほど赤い。

「お兄……ちゃん……」

 震えるグレーゼルの声。ボクも混乱しているけど、襲われた彼女の混乱は計り知れない。

「――キッヒヒイイイィィィ」

 不意にヘンテルが頬を吊り上げて、粘膜質な唾液を纏わした白い歯を剥き出して笑った。

 その姿が、その顔が、もう不気味で……。怒りを通り越して変貌したヘンテルに寒気を感じた。

 そしてヘンテルは、こう言った。

「――成った」

「な、なに……?」

「……グレーゼル。お兄ちゃんはなぁ……。成ったぞぉおお!! ルーラーにいいいいいいいい!!!!」

「「ッ!?」」

「ヒハハハハハハハハハハ――」

 あまりの変貌に怯えるボクたち。唾を撒き散らしながら口を大きく開けて高笑いするヘンテル。だけど、狂乱して笑う彼に対し、ボクは身の内から湧き出た言葉をつい言ってしまう。

「る、ルーラーじゃない……」

「――――あん?」

 何故ボクがそんなことを言ったのか、ボクにも分からない。でも、不思議とそう思える。

「ヘンテル。今のキミはじゃない……!」

「……なんだと」

 声を張ったボクに対し、睨んだ赤い眼を向けてくるヘンテル。

「た、確かに君はルーラーの因子を見つけたんだ。きっと遠出した遺跡で見つけたんだ……」

「……カルール」

 心配そうにボクを見る彼女。

「でも、キミはルーラーに成ってない! 資質が足りてないんだよ!!」

「……」

 そう。ヘンテルの身の内から感じるルーラーの因子。それが宿っているからこそ、遺跡に因子があったんだ。でも彼は――。

「――キミは今、身の丈に合って無い力に支配されているんだ。暴走してるんだよ!!」

 黙り切ったヘンテル。そして無表情。

「それが何で言い切れる……。カルール。ぽっと出てグレーゼルを誑かす存在のお前ごときが、何でそんな事わかる……!!」

「し、知らないよ! でもわかるんだ!!」

 普段からボクに対しておじゃま虫なんだとそれっぽい事を言っていたヘンテル。それはひねくれた兄の感想で、本気で言ってる訳じゃないのは分かってた。……でも、目を赤くした今のヘンテルの言葉は、本心なんだと分かってしまう。

 ボクの必死の言葉に激怒したヘンテル。だけど、一秒二秒、まったくと言っていい程表情を変えない

 ツーっと口と顎を伝った唾が床に垂れるのを見た時だった。

「――カルール、お前ぇ、あの本に触ったな?」

「ッ」

「そもそもクソ虫のお前がお菓子の家にいる時点でおかしいだろ!!」

 唾を飛ばし激怒。

 ボクへ向いていた怒りは。

「おいグレーゼル……。何でこいつがここに居る……」

「お、お兄ちゃん……」

 妹のグレーゼルへと向けられた。

 眉をハノ字にしたヘンテル。

「約束したよな……。二人だけの秘密だって……」

「そ、そうだけ――」

「お兄ちゃん悲しいよぉぉ。二人だけで生きてくって決めたじゃないかぁぁぁああああ!!」

 激情したヘンテルに血涙が頬を伝う。もう異常だなんて言葉では片付けられないほど、ルーラーの因子がヘンテルを狂わせている。

「ヘ、ヘンテル落ち着いて!! キミは今! 正常じゃない!!」

「――ううぅ。お兄ちゃんは悲しいよおぉぉおおお」

「だから一旦落ち着いて、因子を取り除く方法を――」

「さっきからうっせえんだよおおおお!!!!!」

 ――ドワオ!!

 勢いよく右手をかざしたヘンテル。大きな岩にでもぶつかった様にボクは吹き飛ばされ、お菓子でできたテーブルと椅子、棚を粉々に砕いてクッキーの壁に激突した。

「――ぐは!?」

 背中から広がる全身の痛み。肺から強制的に空気が吐かれ、それと同じく唾も飛んだ。

「っく!?」

 霞む視界。鮮明に見えない。

「――やめてお兄ちゃん!! 乱暴しないで!!」

「うるさいうるさいうるさいいいいいい!!!!」

 でも耳は正常に働き、二人が争っているのは聞こえた。

 霞んだ視界が晴れ鮮明に見えた。

 ボクが見たのは最初と同じく、ヘンテルがグレーゼルに馬乗りになっている場面だった。

 でもすぐさま異変に気付く。

(か、体が動かない!!)

 大の字に壁に押しつけられ、まるで身動きが取れない。昨日のグレーゼルがボクにしたアレと同じ、いや、それ以上の圧がかかっている事に気付いた。

「っぐ!! ヘンテル!! やめろ!!!!」

「グレーゼル!! グレーゼル!!」

「嫌あああ!! お兄ちゃん正気に戻って!!」

 声が枯れる程のボクの訴えなんか聞こえないと、ヘンテルはひたすらにグレーゼルに掴みかかっている。

 そして、彼女の両腕が掴まれた。

「――お兄ちゃんと約束したよな! 二人だけで暮らすって! 二人だけで生きていくって!!」

「離してお兄ちゃん!!」

「あの時誓ったような!! そうだよな!! ――」

 ――親父とお袋を二人で殺したあの時だよ。

「――」

 ――今、なんて……。

「それだけじゃない! グレーゼルがあの魔女を殺してくれたから今の俺が居るんだ! お兄ちゃんは妹に生かされたんだ! 分かってるよな!」

 驚きつつも冷静なボク。揺れる眼は止めれないけど、グレーゼルの抵抗が無くなったのは見えた。

「俺はグレーゼル、お前の事が好きだ大好きだ! それはお前も同じだろ? なあそうだろ?」

「お兄……ちゃん……」

 赤い眼が妹をずっと見ている。

「だからさ、作ろうぜ……」

「……なにを」

 震えるグレーゼル。

 頬を吊り上げたヘンテル。

「決まってるだろ――」

 ――俺たちの子供。

 瞬間。

 ――ビリィ!!

 グレーゼルが着ている皺のよった服が弾け飛び、乳房が露わになった。

「いやああああああああああああ!!」

「ヒハハハハ! 堪んねぇよ!! 堪んねえ!! やっと二人で子作りできるんだ!! 俺たち兄妹の子供を作るんだあああああ!!」

 悲鳴をあげるグレーゼル。

 口から溢れ出る唾液を止めることなく撒き散らし、グレーゼルの体中を湿らせた。

「ヘンテルううううううううううう!!」

 乱暴される姿。

 それはボクの奥底で蓋をしていた水色の記憶を思い出させるには十分。それに重なってしまう。

「ヘンテルうううううううううううううううううううううう!!!!」

 激怒し絶叫するボク。いつの間にか涙を流してヘンテルを睨んでいた。

 涙を流したのはボクだけじゃない。

「嫌やめてお兄ちゃん!! やめてええええええ!!」

 彼女もまた、枯れない涙を流していた。

 それを知っているのにも関わらず、彼は舌なめずりをしながら、グレーゼルのスカートを腰辺りから破き、下着も引き千切った。

「ンハアアアア……」

 股に顔を近づけた。

「やめて……お兄ちゃん……」

 涙を流し、引きつった震える声で言ったグレーゼル。

「うううううううぅぅぅうう!!!!」

 一つ一つ丁寧にくっつけたボクの心のガラス。それが今、再び壊されようとしていた。

 その時だった。

「――なんだと?」

 暴走するヘンテルが停止した。

 そして赤い眼がボクを見た。

「カルール……。お前……抱いたのか……」

「うううぅぅ……」

「グレーゼルを抱いたのか!!」

「ううぅぅぅ!!」

 睨みながらも泣き崩れるボク。そんなボクに明確な殺意を向けたヘンテルは右手をかざした。

 ――ドシャ!!

「――ッ!?」

 今まで感じたことの無い程に圧力を感じた。内臓が潰れそうだ。

「俺言ったよな。抱いたら殺すって……」

「ッ!! ッギ!!」

 押しつけられる魔法。それは段々と強くなり、このままだと本当に潰されてしまうと思った。殺されてしまうと思った。

「だったら望み通り――」

「――ぐう!!」

 だから。

「殺してやるよおおおおおお!!」

 ――――ッドス!!

「――――ゴフッ」

 左手の五本指から糸を出し、ヘンテルの胸と喉を穿った。

 血反吐を吐いたヘンテルはゆっくりと後ろに倒れ、それと同時にボクも拘束が解かれた。

「――ッッッオボロ――」

 床に突っ伏した瞬間、腹からせり上がって来るものが強制的に口から吐瀉。

「――いやああああお兄ちゃん!!」

 吸いずらい息を吸いながらグレーゼルの悲鳴が聞こえた。

「ダメぇ止まって!! 止まってよおおおぉおおお!!」

 ヘンテルの首から大量に噴き出す血を両手で押さえるグレーゼル。血だらけの彼女の小さな手では血の噴出は押さる事なんてできないんだと、血だまりがジワリと広がり続ける。

 立ち上がり近づきながら様子を見た。

 明らかに致死量の血だまり。

 それを見たボクは再び吐瀉しそうになるも堪えた。

 ――血が止まらない。

 それでも。

 それでもなお。

 ヘンテルの瞳孔が開ききった今もなお。

「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! いやああああ一人にしないでええええええええ!!」

 グレーゼルの悲痛な悲鳴は止まらない。

「グレーゼル……」

 涙で滲んだ血を頬に付けた彼女を、大丈夫だよと、キミを助けたんだよと、ボクはそっと、グレーゼルの肩を抱いた。

 なのに。

「――離して!!」

 憎しみの感情を抱かせた瞳でボクを見て睨み、嫌がる様にボクの手を退かせた。

「グレーゼル、ボクはキミを――」

「人殺し!!」

 パキリと心のガラスにひびが入る。

「ち、違う!! ボクはキミを助けて――」

「人殺し!! 人殺し!! お兄ちゃんを返してよ!!」

 ドンとボクの胸を強く叩いたグレーゼル。

 ボクは信じられなかった。

 だってボクは彼女を助けたのに、なんで彼女はボクを睨むのか。なんでボクをぶつのか。

 なんでボクを、否定するのか。

「キミはヘンテルに襲われたんだ!! 暴力を受けてたんだ!! ボクはキミを助けたい一心で――」

「うるさいうるさいうるさい!!!! お前は殺した殺したんだ!! 私のお兄ちゃんを!!」

 その事実に、ボクの心臓は締った。

「ぼ、ボクも殺されるところだったんだ!! だから――」

「でも殺していい理由にならない!!」

 歯を剥き出して睨むグレーゼル。

「じゃ、じゃああのまま殺されてれば――」

「――そうだよ!!」

「ぇ――」

 ――あのままお前が死ねばよかったんだ。

「――――」

 パラパラと、ガラスが一欠けら落ちる。

「……ボクのことを、好きって言ったじゃないか」

「死んじゃえ!」

 瞳が動いた。

「ボクのこと、愛してるって言ったじゃないか」

「死んじゃええ!!」

 声が震えた。

 見たくなかった。

 グレーゼルの殺意を宿した目を。

「お兄ちゃんを返してよ!! 人殺し!!」

 聞きたくなかった。

 グレーゼルの怒鳴った声を。

「――お前なんて、大っ嫌いだ――――」

 心が、壊れる音が聞こえた。

「――――――」

 嫌だった。

 否定されるのが。

 だから。

「――ッ」

 絞めた。

 肌が音を立てて締まるほど。

「――カヒュ」

 手に力を込めて。

「か……る……る」

 指に力を込めて。

「――や……めて……く、るし……い……」

 目を瞑った。

 見たくないから。

「――か……る……」

 聞くことを止めた。

 聞きたくないから。

 そして、何も聞こえなくなった。

 だから、目を開けて、言った。

「グレーゼル……。ボクの話を聞いて……」

 返事は返ってこない。

「――グレーゼル……?」

 手を離したのに、床から起き上がってこない。

「――ぁぁ」

 そして見た。

「――ぁぁあ゛ああ」

 兄と同じ。

「――あ゛あああああ」

 目に光が無いのを。

「――――あ゛あ゛あ゛ああああ゛ぁあああああああああああああああああああああああ――――――――」

 哭悲サドネスに身を浸っていたボクは、兄から這い出てきた球体に、襲われた。
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