俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十九章 進路

第242話 チュートリアル:やってない

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 青い空。白い雲。天気は晴れ晴れで優しく頬を撫でる風は少し冷たい。

「東京は暑いってのに、いざダンジョンに入ると涼しくて気候の変化に直面……。夏休み期間でいろんなダンジョンに入ってきましたけど、まだ慣れません」

「ははは! 数をこなしていけば体が慣れてくるよ。環境適応型の最新スーツを着ていればそんな問題解決するらしいけど、アレって値が張るからねぇ」

 ダンジョン名『とこしえの草原』

 ダンジョンゲート周辺の活動拠点を抜け林を通ってしばらく歩くと、向こう丘まで伸びた見渡す限りの大草原が広がっていた。

 『とこしえの草原』って名のダンジョンに恥じない大草原……。緩やかな風に靡く草原は見る者の目を奪う綺麗さだ。

 アレだな。熊本県の阿蘇火山周辺にある草原が一番近いかもしれない。

「ん~♪」

 このダンジョン。俺が大吾と瀬那の三人で最初に潜った『始まりの丘 グリーングリーン』と同じく初心者ダンジョンという位置付けだ。

 『グリーングリーン』みたくク〇ボーが襲ってくるという事はほとんどなく、草原の草をむしゃむしゃと静かに食べるモンスターの性格は温厚だと言う。

 確かに向こうの方に米粒程に見える牛型モンスターには一切の害が無いように見える不思議。

 そんなダンジョンだけど、初心者ダンジョンだから一定数の人は居る。大体は初心者攻略者だと思う。

「スー。……ここは空気が美味いですね」

「そうだね。美しい景色に良い天気。ここに来る人はみんな深呼吸してしまう。如何に東京の空気が汚れているかわかっちゃうね」

「スー! ハー! ……深呼吸するためだけにここに顔出そうかな」

「ははは。みんな同じような気分だよ。もちろん、私もだ」

 足を止めて深呼吸。隣の開木さんは細い目をさらに細めて共感してくれた。

「ふふ、じゃあ行こっか」

「はい!」

 小さな花に蝶々の様な虫が停まり蜜を吸っている中、涼しい風を感じながら、緩やかな草原の高低を歩く。

 本当にいい天気だ。

「ここのダンジョンの噂は聞いてましたけど、マジでピクニックしたい気分になりました」

「大丈夫だよ花房くん。少し行ったら湧水がある休憩スポットがあるんだ。そこでビニールシートを広げて、お昼休憩としよう」

「え! マジでピクニックできるんスか!? 最高です!」

 あっちを見ればモンスターが襲い掛かり、こっちを見ればモンスターがポンと消えドロップアイテムが見える。今まで動向を許可してくれたサークルは戦闘必須のダンジョンだったけど、開木さんと一緒の今回のダンジョン潜りはたぶん戦闘はしない。

『チュートリアル:同行者の依頼をこなそう』

 チュートリアルにもある通り、同行者、つまりは開木さんがギルドから受けた依頼を達成するために同行している。

 ギルドで同行の申請。そしてギルド発のバスに乗り込んで数十分。人工島の端に到着し、ダンジョンに入った。

 そもそもの話、俺は開木さんの依頼を手伝いに来たわけではなく、それはついで。

 じゃあなんだよと。中肉中背のおっさん攻略者に頼んでまで、平和なダンジョンに潜って何がしたいんだよと、第三者なら思うだろう。

 答えは簡単。

「――お、あったあった」

 開木さんが唐突にしゃがむ。

「次元ポケット」

 声に出してそう言うと、開木さんの手の平に電子の穴が開いた。

 その穴からニョキっと採取用のケースが出て来て手に取り、そこに摘んだ草を入れてケースを電子の穴に入れた。

「よし、一つ目」

 何を隠そうこの開木さん。所有者が少ないスキル『次元ポケット』を持っている攻略者だ。

「今のがこのダンジョンに生えてる薬草ですか?」

「そうだよ。この薬草は酷い怪我には向いてないけど――」

 日本大手のサークル、ヤマトサークルにも居る次元ポケット持ち攻略者。て言っても、ほとんどの次元ポケット持ち攻略者はどっかのサークルに入っているけど、開木さんは物凄く珍しいフリーの攻略者だ。

「――あの採取用ケースもそんなに高いんですか?」

「いや、あれはまだ安い方のケースだよ。値段はピンキリで私としてはもう少し――」

 同じ次元ポケット持ち攻略者を探していたところ、ギルドの職員さんに開木さんを紹介された。

 職員さんの言う通り、そして俺の見立て通り、開木さんは温厚でダンジョンのアイテムに強い知識を持っている。同じ次元ポケット持ちとして、今日は勉強しに来たわけだ。

 そして当然のことを疑問に思う。

 超レアなスキル・次元ポケット。入庫量は使用者の力量によって左右されるも、スキル所持者が行動不能にならない限り絶対に紛失しない優れものの倉庫だ。

 学生の俺含め、次元ポケット所持者は引く手あまたのオファーが現実的にある。それにサークルに一人いるだけで拍が着くほどの存在。なのになぜ開木さんはフリーでいるのか。

 依頼の薬草を採取し、提案通りにビニールシートを敷いてピクニック。昼飯のおにぎりを食べながら質問した。

「ん? なんでサークルに入ってないかって?」

「あ、その、普通に疑問だったんで……。答え辛かったらその、不躾な質問だったって反省します……」

 流れる綺麗でおいしい水。そのせせらぎの音が一瞬場を支配した。

「うーん……。あんまり思い出したくないから話たくないけど、花房くんには同じめに遭わせたくない」

「同じめ、ですか……」

「あんまりおもしろい話じゃないけど、次元ポケット持ちの先輩からの教訓って事で、おいしい水でも飲んで気軽に聞いてよ」

 ――同じ目に遭わせたくない。

 そんな不穏な空気を感じさせながらも、開木さんは変わらず穏やかな顔で口を開いた。

「――え!? サークルに入ってたんですか!?」

「前はね」

 おにぎりを食べ、口元に米粒を残しながら驚いた。

 それは至極当然のこと。次元ポケット持ちはサークルに引く手あまた。例に漏れず、開木さんもサークルに所属していた。

 聞くところによると、そのサークルは若い男女のサークルで、開木さんの他に男性が一人、女性が三人の五人サークルだった。

 数ある弱小サークルの一つであったけど、互いに切磋琢磨し合い、徐々に成果を上げて行った結果、中堅サークルにまで上り詰めたらしい。

 大手サークルともパイプを繋ぎ、未来は明るく順風満帆。そんな折に、事件が起こった。

「下着泥棒の容疑をかけられたんだ」

「下着泥棒!?」

 ある日、一人の女性メンバーの所持品が行方をくらました。探せど探せど見つからず、ありえない前提で開木さん含む男性のロッカーをも開けて探した結果、女性メンバーの下着が開木さんのロッカーから見つかったらしい。

「それから言い分も聞かれず、流れるように非難され無事脱退。そしてフリーで稼いで今に至る訳さ」

「いや絶対嵌められてるじゃないですか!! 短い付き合いですけど、俺開木さんが下着泥棒だなんて到底思えません!!」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」

 辛い過去の話なのに、開木さんは変わらず穏やかな顔だった。

「ふふ。若いみんなと違って私はしがない中年だしね。何となくだけど、みんなからはキモがられてたのは感じていたさ。あんな事が無くても、私は脱退してただろうね……」

「開木さん……」

 きっとその事がトラウマで、今でもサークルに入れないんだと想像できた。

 少し重い空気になりつつも、休憩が終わってからはとんとん拍子で薬草を入手。

 夕方前にはバスに乗り、ギルドに戻ってこれた。

 デンデデン♪

『チュートリアル:同行者の依頼をこなそう』

『クエストクリア』

『クリア報酬:速+』

 チュートリアルも無事クリア。

「開木さん、今日はありがとうございました! 勉強になりました!」

「いやいやこちらこそだよ。花房くんの活躍は知ってるよ。戦える次元ポケット持ちかぁ。こりゃライバル出現だね」

「いやいやいや! ホント攻略者の卵なんで! 時間とタイミングがよろしければ、これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

「はは。お手柔らかに頼むよ」

 頭を下げて感謝を言った。

「事務手続きはこっちでやっておくから、花房くんはもうあがっていいよ」

「いろいろとありがとうございます! ではお言葉に甘えます!」

 再度深くお辞儀して感謝を表した。

 受付に向かう開木さんの後ろ姿を見届けた所に、尿意。

 むかった施設のトイレ。

 アラホラサッサと男子便器に激流葬をぶちまけスッキリしてトイレから出ると、不意に視界に入った。

 開木さんが複数の男女に囲まれてる姿を。
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