13 / 126
第一章 ちかづく
13 ハンター
しおりを挟む
残業前に夕飯は済ませたという橘と共に、俺はまたバーにいた。
今日、俺、何杯酒飲んでんだろ。
つか、先週の後味の悪さを忘れたのか。学習しろ、俺。もう流されるな。
そんな言葉が頭の中をぐるぐる駆け回るあたり、もうかなり末期だと分かりながらも、橘を置いて帰る気にはならなかった。
そうだ、一杯だけつきあって、タクシーに同乗して帰ろう。途中まで一緒だから送り届けて、それで帰ろう。そうしよう。決めた。
「なに、百面相してるの?」
俺の顔を伺い見た橘が、笑って言う。
思わず眉を寄せた。しまった。酔いでポーカーフェイスが崩れてる。
ーー酒のせいだけか?
心のどこかで浮かんだ疑問は、無理矢理気付かないふりをした。
「一杯飲んだら帰るぞ。もうかなり飲んだんだ。俺を急性アルコール中毒にでもするつもりか」
「そのときには、一緒に救急車乗って行って、病院でも付き添ってあげる」
橘はくすくす笑った。
その笑い方や笑顔は、先週まで見たことのないものだったのに、あまりに自然で驚く。
ーー底なし沼だ。
生温く柔らかいものに、足をとられたような気分が、身体中を駆け巡る。
逃れるべきか、囚われるべきか。
ふとそんなことを思って、目を強くつぶった。
「気分、悪いの?」
間近で橘の声がして、はっと目を開くと、そこには心配そうな顔をした橘がいた。
暖色のライトを浴びて、唇がみずみずしく目に映る。
ーー囚われる。
恐怖に近い感覚に、咄嗟に目を背ける。
思考が安定しない。動悸がする。
やっぱり酔っているのか。そう思ったとき、冷たい手が頬に触れた。
「神崎?」
その心地好い冷たさに、思わず手を添える。
まっすぐに見つめると、橘の顔が上気したのが見えた。
「どーーどうしたの?」
橘が、無理矢理冗談っぽく笑う。
知るか。いちいち、人のスイッチ押しやがって。
流されてたまるか。
流されるくらいならいっそ、
ーー自分から求めてやる。
俺は橘の目をまっすぐに見つめたまま、
指に指を絡め、頬から離すと、
その手の平に口づけた。
今日、俺、何杯酒飲んでんだろ。
つか、先週の後味の悪さを忘れたのか。学習しろ、俺。もう流されるな。
そんな言葉が頭の中をぐるぐる駆け回るあたり、もうかなり末期だと分かりながらも、橘を置いて帰る気にはならなかった。
そうだ、一杯だけつきあって、タクシーに同乗して帰ろう。途中まで一緒だから送り届けて、それで帰ろう。そうしよう。決めた。
「なに、百面相してるの?」
俺の顔を伺い見た橘が、笑って言う。
思わず眉を寄せた。しまった。酔いでポーカーフェイスが崩れてる。
ーー酒のせいだけか?
心のどこかで浮かんだ疑問は、無理矢理気付かないふりをした。
「一杯飲んだら帰るぞ。もうかなり飲んだんだ。俺を急性アルコール中毒にでもするつもりか」
「そのときには、一緒に救急車乗って行って、病院でも付き添ってあげる」
橘はくすくす笑った。
その笑い方や笑顔は、先週まで見たことのないものだったのに、あまりに自然で驚く。
ーー底なし沼だ。
生温く柔らかいものに、足をとられたような気分が、身体中を駆け巡る。
逃れるべきか、囚われるべきか。
ふとそんなことを思って、目を強くつぶった。
「気分、悪いの?」
間近で橘の声がして、はっと目を開くと、そこには心配そうな顔をした橘がいた。
暖色のライトを浴びて、唇がみずみずしく目に映る。
ーー囚われる。
恐怖に近い感覚に、咄嗟に目を背ける。
思考が安定しない。動悸がする。
やっぱり酔っているのか。そう思ったとき、冷たい手が頬に触れた。
「神崎?」
その心地好い冷たさに、思わず手を添える。
まっすぐに見つめると、橘の顔が上気したのが見えた。
「どーーどうしたの?」
橘が、無理矢理冗談っぽく笑う。
知るか。いちいち、人のスイッチ押しやがって。
流されてたまるか。
流されるくらいならいっそ、
ーー自分から求めてやる。
俺は橘の目をまっすぐに見つめたまま、
指に指を絡め、頬から離すと、
その手の平に口づけた。
1
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる