15 / 126
第一章 ちかづく
15 躊躇い
しおりを挟む
橘が出してくれた味噌汁で人心地ついたものの、まだ頭痛が引かないので、俺はそのままベッド上でごろごろしていた。
「私、シャワー浴びてくるね」
「どーぞ」
「テレビつけててもいいよ」
「どーも」
渡されたリモコンを受け取り、答える。
しばらくすると、閉められたドアの向こうから、水の流れる音が聞こえてきた。
そこでようやく、活動を停止していた俺の頭はゆっくり動き始めた。
一度だけなら、事故や気まぐれと言い張れる気だった。が、こんなに早く二度目が来るとはーー
ちりりと胸を焼く罪悪感。俺と違って、行為だけの関係に慣れているとは到底思えない女を、二度その部屋で抱いた。
違う意味での頭痛を感じて、頭をおさえる。
ーーなんで俺は俺なんだろう。
いきなり中二病じみた思いが込み上げて、深々と嘆息した。
もう30過ぎたオッサンが、何を学生のようにうじうじと。
ーー隼人なら、こんなことにはならないに違いない。
顔立ちは似ているのに、立ち居振る舞いが全く違う、7つ離れた弟を思い出す。
憧れ、に近かった。
清廉。誠実。そういう言葉の似合う弟。
これだけ歳が離れていて、俺の方がいつまでも子供じみている。情けなさにうんざりする。
色んな女と寝たし、色んな人間と飲んだ。
だから何だっていうんだろう。
シャワーの音が止まった。しばらくの間、ドライヤーの音がして、その後でナチュラルメイクの橘が出てきた。
「どう?少しは楽になった?」
簡単に髪をねじって後ろで留めた橘が近寄って来る。
俺はその姿をじっと見た。
「……何?」
うろたえる橘。
シャワーで上気した肌の赤みが少し増す。
ーー分かりやすい奴。
ろくに経験もないくせに。
大人ぶりやがって。
俺はゆっくりと手を伸ばした。
橘の頬に触れた瞬間、橘がびくりと身をすくませる。
ーーどうして、俺なんだよ。
俺は静かに手を頬に添え、顔を近づけた。
橘が強く目をつぶる。俺はふっと笑って、額を合わせた。
額がぶつかると、橘は恐る恐る目を開けた。焦点が合わないくらい間近なところに互いの目がある。
ーー放って、おけない。
でも、ーー
「……神崎?」
かすれた声で、橘が呼んだ。
俺はその頬に添えた手を、静かに後ろ頭にずらす。
橘の頭を胸に抱き寄せて、囁いた。
「ーーごめんな」
他に、言葉が見当たらない。
橘の身体が強張り、わずかに震える。
深呼吸を繰り返して、涙を我慢しているのが分かった。
俺は静かに、もう一方の手を橘の背中に回し、抱きしめた。
「私、シャワー浴びてくるね」
「どーぞ」
「テレビつけててもいいよ」
「どーも」
渡されたリモコンを受け取り、答える。
しばらくすると、閉められたドアの向こうから、水の流れる音が聞こえてきた。
そこでようやく、活動を停止していた俺の頭はゆっくり動き始めた。
一度だけなら、事故や気まぐれと言い張れる気だった。が、こんなに早く二度目が来るとはーー
ちりりと胸を焼く罪悪感。俺と違って、行為だけの関係に慣れているとは到底思えない女を、二度その部屋で抱いた。
違う意味での頭痛を感じて、頭をおさえる。
ーーなんで俺は俺なんだろう。
いきなり中二病じみた思いが込み上げて、深々と嘆息した。
もう30過ぎたオッサンが、何を学生のようにうじうじと。
ーー隼人なら、こんなことにはならないに違いない。
顔立ちは似ているのに、立ち居振る舞いが全く違う、7つ離れた弟を思い出す。
憧れ、に近かった。
清廉。誠実。そういう言葉の似合う弟。
これだけ歳が離れていて、俺の方がいつまでも子供じみている。情けなさにうんざりする。
色んな女と寝たし、色んな人間と飲んだ。
だから何だっていうんだろう。
シャワーの音が止まった。しばらくの間、ドライヤーの音がして、その後でナチュラルメイクの橘が出てきた。
「どう?少しは楽になった?」
簡単に髪をねじって後ろで留めた橘が近寄って来る。
俺はその姿をじっと見た。
「……何?」
うろたえる橘。
シャワーで上気した肌の赤みが少し増す。
ーー分かりやすい奴。
ろくに経験もないくせに。
大人ぶりやがって。
俺はゆっくりと手を伸ばした。
橘の頬に触れた瞬間、橘がびくりと身をすくませる。
ーーどうして、俺なんだよ。
俺は静かに手を頬に添え、顔を近づけた。
橘が強く目をつぶる。俺はふっと笑って、額を合わせた。
額がぶつかると、橘は恐る恐る目を開けた。焦点が合わないくらい間近なところに互いの目がある。
ーー放って、おけない。
でも、ーー
「……神崎?」
かすれた声で、橘が呼んだ。
俺はその頬に添えた手を、静かに後ろ頭にずらす。
橘の頭を胸に抱き寄せて、囁いた。
「ーーごめんな」
他に、言葉が見当たらない。
橘の身体が強張り、わずかに震える。
深呼吸を繰り返して、涙を我慢しているのが分かった。
俺は静かに、もう一方の手を橘の背中に回し、抱きしめた。
1
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる