モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

文字の大きさ
47 / 126
第一章 ちかづく

47 告白

しおりを挟む
「神崎って、何でもできるのね」
 俺はコーヒーを入れながら橘の横顔を伺った。
 自ら洗い物をすると願い出た橘と二人、台所に立っていると、初めて橘の部屋に泊まった日の翌朝を思い出す。
「そう思ったことはないけどな」
 姉も弟も俺より器用で、俺よりいい大学を出た。そう言うと、
「神崎だって、悪い大学じゃないでしょ」
「でも国立じゃねぇし」
 周りが国立大卒ばかりなので、普通のレベルがよく分からない。
「大学が一体何だっていうんだろうね」
 橘は食器を洗いながら呟いた。
「元カレ、同じ大学だったんだけどね。付き合って別れて付き合って別れてーー何度繰り返したかなぁ」
 その手元でかちゃかちゃと食器が音を立てる。
「別れると他の人を探そうと思うんだけど、いっつも大学とか年収とか会社名とか、出すともう連絡が途絶えちゃうの。で、やっぱりダメかーって思ったときに、彼から連絡が来てーー」
「この人じゃないと駄目なんだ、って?」
「うーん、まあ、そんな感じ」
 捨てられないパジャマの理由が少し分かって、俺はふぅんと相槌を打った。
「でも、逆に、女側にはないの?自分より劣った男は嫌だ、とか」
「劣ってるって、何を以て量るか、よね」
 橘は言いながら考えていた。
「私はたまたま受験に強いだけ。過去問から傾向掴んで問題を解く、そういうことが得意なだけ。生きてくときに必要なスキルはそれだけじゃないでしょ」
 ふと俺は思い出した。こういう話しぶりが、隼人の婚約者、香子ちゃんと重なるところだ。
「例えば、神崎みたいに周りを見て盛り上げる力とか、美味しいご飯を作る力とか、誰にでも好かれる力とか……私は十分、尊敬に足ると思ってる」
 俺は首を傾げながら、
「それはつまり、俺のことが好きだってこと?」
 橘は何も言わずに俺の足を蹴った。
「暴力反対」
「うるさい」
 橘の横顔は真っ赤だ。俺は笑って、ドリッパーを引き上げる。
「失礼」
 シンクにドリッパーを置くと、コーヒーの匂いが湯気と共に漂った。
「いい匂い」
 橘がほっとした顔をする。
「もう終わる?」
「うん。これゆすぐだけ」
 橘が最後の一枚をすすぎおわり、水切りカゴに並べた。
 俺はコーヒーを二つのコップに注ぎながら、控えめに口を開いた。
「……最初に貸してくれたパジャマさ」
「もう捨てたよ」
 即座に返ってきた答えに、俺は驚いて目を上げる。
 橘が気の弱そうな笑顔を浮かべて俺の顔を見ていた。
「新しいの買う前に、全部捨てた」
「……下着も?」
 俺は橘の顔を覗き込みながら、いたずらっぽく問う。橘は気恥ずかしそうに頷いた。
「下着も」
 俺は笑った。
「そっか」
 顔を赤らめた橘の頭に軽く手を置くと、コーヒーを注ぎ終えたカップの一つを渡した。
「はい。お疲れ」
「ありがとう」
 俺と橘は立ったまま、静かにコーヒーに口をつけた。香ばしい苦みが口の中に広がる。
「……神崎」
 不意に、橘が言った。カップの縁に口をつけたままだが、目の端が赤い。
「好きーー」
 一瞬の間の後、
「かもしれない。あんたのこと」
 俺は噴き出した。
「かもしれない、じゃねぇだろ。断定しろよ、意地っ張り」
「あ、あんたこそ、はっきり言いなさいよ。私のことーー」
 弾かれたように顔を上げ、文句を言う橘の唇を、俺のそれで塞いだ。
「好きだ。ーーこれで文句ないか?」
 橘の顔は、これ以上ないくらい真っ赤になった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...