モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

文字の大きさ
65 / 126
第二章 はなれる

65 報告要請

しおりを挟む
 始業後、ジョーから電話があった。
『なんか、少し進展があったらしいですね。おめでとうございます。で、マイクから伝言なんですけど、週末、様子報告しに戻って来いって。週末って言ったって今日木曜なんですけどね』
「……明日戻って来いってこと?」
『ようするに、そういうことです』
 俺は人使いの荒さにやれやれと肩を落とした。
「それ、経費ちゃんと出んの」
『え、もちろん九州支部持ちです』
「……えーと。俺が交渉しろってこと?」
『マーシーにかかればお茶の子さいさい、でしょ?』
 でしょ、じゃねぇよ。ふざけんな。
 俺は嘆息しながら電話を切ると、課長の上家さんに事情を話した。
「まあ、そうだよね。どれくらい時間かかるか分からないって言ってたところが、一週間足らずで前進しちゃったし」
 上家さんは苦笑する。
「えーと。そうなると、俺って本社に戻った方がいいんですかね」
「そりゃ、山口会長次第だろ」
 横から口を出したのは阿久津だ。
「今日の午後だって、俺とお前は必ず来るよう言われてんだろ。お前がいなくなってご機嫌損ねられても困る」
 確かにそれもそうだ。
「今のところ、君の立場はまだ本社付きだからね。事業部の方の気持ちも分かる。今日の午後の話も含めて、明日報告しておいで。昼頃の便を庶務課に手配してもらおう」
「すみません。ありがとうございます」
 俺が礼を言うと、阿久津がにやりとした。
「事業部にはお前が言って。財務部には俺が言っとくから」
「財務部は関係ねぇだろ」
 阿久津が要らん気を回す気配を感じて牽制するが、当人は全く聞く耳持たず、鼻歌すら歌いながらパソコンのキーボードを叩き始めた。

 福岡織物組合へは、阿久津の運転で俺と上家さん、そして江原さんが足を運んだ。
「どうもこの度は」
 上家さんが挨拶しようとするのを手で遮って、山口会長は座るよう勧めた。
 俺たちが腰掛けるのを見ながら、山口会長も座る。
「話はだいたい分かっとう。一度通った道やけん」
 山口夫人、花子さんが、何も言わずにいつも通りお茶を出してくれた。
「……で、あんたたちは信じられるっちゅう証拠はどこにあるんかね」
「今回の話は本社からの希望が強いんです」
 言ったのは阿久津だった。
「だから、前回のように、決定事項をひっくり返されることはありません」
 力強く断言する。山口会長はふんと鼻息を立てて腕を組み、椅子の背にもたれ掛かった。
「じゃあ、もしひっくり返ったときには、どう責任を取る。ーー経営が危なくなる会社が出たら、あんたが立て直してくれるんか」
「……それは」
 阿久津はたじろいだ。
 山口会長はふんと鼻で笑う。
「あんたたちがどれだけの覚悟があるのか分からんが、あんたがたがやったことを、今回うちらがやったとて、文句は言えんわな」
「……確かに」
 思わず小さく頷く江原さん。
「そういうことをしたんよ、あんたがたの会社は。ーーもう、忘れちゃいかんぞ」
 俺たちが小さくなったとき、応接室のドアが急に開いた。
「こんにちは!お兄さん来てるの?」
 ぎょっとして見やると、ヒカルが肩で息をしながら立っている。
「車あったからもしかしてと思って。また外で待ってるね!」
 言うだけ言って、答えも待たずにドアを締めた。
 唖然としている俺たちを余所に、遠ざかる足音。
「……今のがお孫さん?」
「ええ……」
 上家さんに頷く俺の前で、山口会長は肩を竦めた。
「やれやれ」
 嘆息混じりに呟いて、昨日渡した俺の名刺を取り出す。それをひらひらと振りながら、
「神崎さんとやらは、他のメンバーと肩書が違うな」
「はい。一応、本社からの応援社員なんで」
「ちゅうことは、また東京に戻るんか。いつ?」
「……今回の話が、落ち着き次第です」
 嫌な予感がしながら答えると、山口会長は満足げに微笑した。
「落ち着き次第、なぁ」
 ひらひらと俺の名刺を振り、机に置く。
「なら、ギリギリまで振り回そうかのぅーーあの子が落ち着くまで」
 俺と同じフレーズをあえて使った山口会長は、挑発的な目で俺たちを見据えた。
「そうなると、神崎を帰すわけにはいきませんな」
 形だけ、やれやれというポーズをとりながら、阿久津がなぜかにやりとして応じる。
 山口会長は満足げに言った。
「本社にもそう言うとけ。しばらくはこっちでご機嫌伺いをするとな」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...