モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

文字の大きさ
76 / 126
第二章 はなれる

76 練習試合(2)

しおりを挟む
 試合が終わると、少年の言った通り中学生たちは思い思いにバラけはじめた。ヒカルもチームメイトに声をかけ、更衣室に向かう少女たちと別れてこちらに向かって小走りに近づいてくる。
 一方、少年はモップ係に声をかけ、コートの使用権を獲得したらしい。俺に向けて手招きした。
 やれやれと思いながら立ち上がり、相変わらずコートのポケットに手をつっこんだまま歩み寄る。何のことはない、2月の体育館の寒さで、手を外に出したくないだけだ。
 ヒカルがその様子に、こちらに近づく足を止めたのが見える。
「どっちから?」
「どっちでも」
「じゃ、俺オフェンス」
「どーぞ」
 俺は少年とゴールの間に立ち、しぶしぶポケットから手を出し、冷えた手に息をふきかけてこすった。
 少年が俺にボールを放って来るのを弾き返すと、やや腰を落として腕を広げた。
 ボールを取ると同時に、少年がドリブルで突っ込んで来る。進行方向をふさぐと逆側へ向かう。ついていく俺を、背中と背中を合わせる形で反転し、抜こうとした。
「へぇ」
 中坊にしてはなかなかやる。
 思わず口元に浮かぶ笑みをそのままに、少年の進路を塞ぐ。舌打ちした少年は俺から離れるように跳びながら、俺が伸ばす手を片手で押し止め、片手でゴールにボールを放った。ほとんど暴投だ。
 こんな姿勢じゃ入んねぇだろ。
 案の定、ボールはがごんと乱暴な音を立ててリングから跳ね返った。リバウンドを狙う少年を悠々と抑えて俺がボールを手にする。
「まだやる?」
「当然だろ。まだそっちのオフェンスやってない」
 少年が俺を睨みつけてきた。身長差があるので自然俺が見下ろす形になる。
「へいへい」
 俺は少年にボールを放った。少年が俺に投げ返す。
 ーーさて、どう攻めたものか。
 両手でボールを持ったまま、やれやれと考える。
 ぶつかりあえば当然フィジカルは俺に有利で、何かの弾みにふっとばしでもすれば少年を怪我させかねない。それは大人としてよろしくないが、あっちは本気で取りに来る気だろう。
 ーーなら、ぶつからせない方法を取るしかない。
 俺は少年によりそうようにゆっくりとドリブルをしはじめた。少年は敵対心をあらわにしながら俺の行く手を塞ぐ。
 不意に、ドリブルに込める力を強めた。一歩大きく前へ踏み込む。少年が前へついて来るのを見て、すぐさま後ろにもう一度ドリブルして引く。
 慌てて縋り付こうと跳んで来るのを、やや後ろに跳びながらシュートすることでかわした。
 ボードに当たったボールは、すぱんとネットの音を立ててゴールから転がり落ちた。
「あー、さっみー」
 着地するなりまたポケットに手を突っ込む俺を、少年は悔しそうに睨みつける。
 きゃーきゃー聞こえる歓声はもはや気にしないことにする。
「逃げやがって」
「ぶつかったら怪我すんのそっちだぞ」
 意気がる少年に、俺は自分の手に息を吐きかけながら答える。ちらりと見やると、少し離れたベンチに座ったままの橘の隣にはヒカルが座っていた。
 その姿を見てから、少年に目をやり、ぽんと肩を叩いた。
「欲しいと思う女なら、他人のせいにしてないで本気で向き合えよ、ガキ」
 耳元で言って離れると、少年は何も言わずに顔を赤くして俺を睨みつけた。
 俺は気にせず背を翻し、橘とヒカルの座るベンチへ向かった。
「あー寒ぃ」
「すごい。川田にあっさり勝っちゃうんだ。あいつ、男バスの中でも一番上手いんだよ」
「あ、そう」
 興奮して目を光らせるヒカルに、肩を竦めながら苦笑を返した。なるほど、こういう素直な表情はなかなかお目にかかれないということなのだろう。
「じゃ、まあそろそろ帰るわ。目立ち過ぎたし」
 わずかに周りを見渡しても、好奇心に満ちた視線がいくつもこちらに向いているのが分かる。ヒカルは笑った。
「勝手に目立ったんじゃん」
「巻き込まれただけだ」
 俺が唇を尖らせて反論すると、橘もくすくすと笑っていた。
 帰ろうとして、ふと思い出してヒカルに声をかける。
「今度はバックシュート教えてやるよ。ボードの後ろから入ってレイアップするやつ。ゴール下だと使えるだろ」
「やった。楽しみにしてる」
 ヒカルが拳を握って応じた。

 体育館を出て歩きながら、橘が、ねぇ楽しげに声をかけてきた。
「川田って子、ヒカルちゃんに気があるのかしら」
 ーー恋バナは女子の大好物、か。
 江原さんの言葉を思い出しながら嘆息する。
「さあなぁ」
 俺は興味なさそうに応じ、
「手に入れる努力もせず、八つ当たりは勘弁してほしいよなぁ」
「よく言うよ。努力しなくても手に入っちゃうくせに」
 やや後ろを歩く橘は、冗談めかして言ってきた。
「俺なりには、したよ、努力」
「へぇ、そうなんだ。ーーいつ?」
「お前とのときに決まってるだろ」
 あっさり言うと、橘は一瞬きょとんとした後、顔を赤く染めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...