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第一部
電気バリ
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ベッドにはかわいそうなぐらい痛みに苦しむ組長がいる。
「くっそ……あの女のせいで……」
苦々しく声を出す組長を抱えて連れてきた町田と光田は心配そうに見つめていた。
例の襲撃の次の日、組長はひどい腰痛で朝動けなくなった。朝一番に運ばれた組長は髪もセットしていなくてスウェット姿のままだ。とりあえず仰向けに寝させる。
「とりあえず治療しますので──」
「先生お願いします。また連絡しますので……」
町田と光田は組長の代わりに人と会うらしくそのまま慌ただしく院を出て行った。
「そりあえずうつ伏せになれますか?」
組長が荒い息を吐きながら身体を動かそうとするが腰を浮かした途端激しい痛みに襲われ力なく元の姿勢へと戻ってしまう。額に腕を当てて痛みに耐えているようだ。
かなりの重症だ。私のせいでこんなことになってしまうとは……。慌てて動かないように言うと隣のテーブルから小さなカバンを持ってくる。中身を取り出すとカラフルなコードを次々と本体に刺し準備をする。
仰向けになったままの組長が物音に気づき閉じていた瞼を開ける。
「その機械はなんだ? 新たな秘技か?」
「口だけは元気みたいですね」
これは電気パルスというものだ、一般的には電気バリという。いつも通り針を刺しそこにこのコードの先の金属のクリップで鍼を挟むと体内に電気刺激が送られる。針の刺激だけでなく刺さったままの筋肉に直接電気刺激を送れるので筋肉の弛緩が期待できる。痛みを堪えるうちに固くなりすぎた筋肉を緩めようとしていた。
ただ、うつ伏せにならないので遠隔で鍼治療をしなければならい。鍼は不思議な話だが痛みのある箇所だけ刺してもだめだ。長い歴史で培われた多くの経験的治療法がいくつもある。
「とりあえず刺しますから、じっとしててくださいね」
幸はズボンをめくりあげ足に次々と刺して行く。そしてコードを繋いでゆっくりと電気を入れていく。
ピピピッ……ブー
「うぁ、なんか動き出したぞっ」
無意識だが組長のうめき声に胸が跳ねる。なんでこんなにエロいんだ。だめだ、だめだ。集中しなきゃ……。
「中がピクついて痺れるが癖になるな、あぁ先生」
「語尾に名前ぶっこむのやめてもらえます?」
組長も余裕が出てきたのかクククと笑う。いつもよりずっと幼い組長の髪が揺れる。
鍼を抜くと太腿の前をマッサージする。触れた時一瞬組長が焦ったような顔をしたが幸は気付かない。
「硬いですね……どこもかしこも」
「ん? あぁ……」
組長はどこか心ここに在らずだ。ふと気づくとなにやらスウェット越しに下腹部に違和感を感じる。それが何か気づいた幸が唖然としている。
「いやいや、朝の生理現象なんで──」
「いやいや、起きて随分経ってますよね?いつまで寝てるんですか」
幸の顔がみるみる真っ赤になるが、目はその膨らみから離せない。組長も幸の様子に興奮して自分の昂りを抑えることができない。
「先生が好きだから仕方ねぇよ」
ぶっきらぼうに言い放つ組長に幸が口を開けて何かをいいかけてやめてしまう。組長は自身の黒髪の前髪を掻き上げると幸を愛おしそうな目で見つめる。
「先生──」
この心臓の痛みはきっと病気かもしれない。このまま倒れてしまいそうだ。組長の瞳が黒豹のようだ、動けないでいると上半身を起こそうとした組長の顔が急に歪む。まだまだ治療の途中だ、痛みがまだきついはずだ。
「あぁ! だめです! じっとして──」
思わず組長に駆け寄ると腕を取られてそのまま胸に閉じ込められる。くの字に曲げられた身体を捩ってみたが組長の抱きとめる力には敵わない。
「あぁ、やっと捕まえた」
耳元で聞こえる声に体が震える。
「先生、今一番硬いところは治療してくれないのか?」
言葉の意味に幸は息を飲む。言い返したいのに喉元でつっかえて出てこない。そのまま幸の唇を噛むように口付けると一気に体の外も中も組長の存在を認識して熱くなる。早急な口付けに息が荒れる。
「ん……ふあ」
幸の声に組長は自身の昂ぶりの存在が増したのを感じた。キスをするだけでこれじゃあこの先はどうにかなってしまうかもしれない。
「く、組長……おねが、い……離して」
爆弾が投下されたようだ。離せるわけない。
先生は自分がどんな顔で、どんな声で煽っているかわかっていない。
「先生──俺の名前を言ってみてくれるか。そうしてくれたら、離す」
幸は一瞬躊躇うが小さな声で「つ、かさ」と呟いた。
ははは、本当に先生は麻薬だ、体も、声すらも。より先生を強く抱きしめた。もっと呼んでほしい。ずっと呼んでほしい。
「って、約束はどうなったの!? この悪党!」
悪党呼ばわりすら嬉しい。あぁ腰さえなんともなれりゃこのまま……。
プププププププ──
「……チッ」
電話のコール音が響き渡る。一瞬腕の力を緩めてしまう。その隙に幸は組長の胸を押し腕の中から脱出を果たした。
「はい、青野鍼灸院です。はい──了解ですお気をつけて」
「誰だ……」
「あ、町田さんです。用事が終わったのでこちらに向かうそうです」
「そうか、楽しみだな」
その後電気バリの甲斐あって組長は普通に動けるまで回復した。ただ、町田さんの頭に例の跡がついていたがいつも通りスルーした。
「くっそ……あの女のせいで……」
苦々しく声を出す組長を抱えて連れてきた町田と光田は心配そうに見つめていた。
例の襲撃の次の日、組長はひどい腰痛で朝動けなくなった。朝一番に運ばれた組長は髪もセットしていなくてスウェット姿のままだ。とりあえず仰向けに寝させる。
「とりあえず治療しますので──」
「先生お願いします。また連絡しますので……」
町田と光田は組長の代わりに人と会うらしくそのまま慌ただしく院を出て行った。
「そりあえずうつ伏せになれますか?」
組長が荒い息を吐きながら身体を動かそうとするが腰を浮かした途端激しい痛みに襲われ力なく元の姿勢へと戻ってしまう。額に腕を当てて痛みに耐えているようだ。
かなりの重症だ。私のせいでこんなことになってしまうとは……。慌てて動かないように言うと隣のテーブルから小さなカバンを持ってくる。中身を取り出すとカラフルなコードを次々と本体に刺し準備をする。
仰向けになったままの組長が物音に気づき閉じていた瞼を開ける。
「その機械はなんだ? 新たな秘技か?」
「口だけは元気みたいですね」
これは電気パルスというものだ、一般的には電気バリという。いつも通り針を刺しそこにこのコードの先の金属のクリップで鍼を挟むと体内に電気刺激が送られる。針の刺激だけでなく刺さったままの筋肉に直接電気刺激を送れるので筋肉の弛緩が期待できる。痛みを堪えるうちに固くなりすぎた筋肉を緩めようとしていた。
ただ、うつ伏せにならないので遠隔で鍼治療をしなければならい。鍼は不思議な話だが痛みのある箇所だけ刺してもだめだ。長い歴史で培われた多くの経験的治療法がいくつもある。
「とりあえず刺しますから、じっとしててくださいね」
幸はズボンをめくりあげ足に次々と刺して行く。そしてコードを繋いでゆっくりと電気を入れていく。
ピピピッ……ブー
「うぁ、なんか動き出したぞっ」
無意識だが組長のうめき声に胸が跳ねる。なんでこんなにエロいんだ。だめだ、だめだ。集中しなきゃ……。
「中がピクついて痺れるが癖になるな、あぁ先生」
「語尾に名前ぶっこむのやめてもらえます?」
組長も余裕が出てきたのかクククと笑う。いつもよりずっと幼い組長の髪が揺れる。
鍼を抜くと太腿の前をマッサージする。触れた時一瞬組長が焦ったような顔をしたが幸は気付かない。
「硬いですね……どこもかしこも」
「ん? あぁ……」
組長はどこか心ここに在らずだ。ふと気づくとなにやらスウェット越しに下腹部に違和感を感じる。それが何か気づいた幸が唖然としている。
「いやいや、朝の生理現象なんで──」
「いやいや、起きて随分経ってますよね?いつまで寝てるんですか」
幸の顔がみるみる真っ赤になるが、目はその膨らみから離せない。組長も幸の様子に興奮して自分の昂りを抑えることができない。
「先生が好きだから仕方ねぇよ」
ぶっきらぼうに言い放つ組長に幸が口を開けて何かをいいかけてやめてしまう。組長は自身の黒髪の前髪を掻き上げると幸を愛おしそうな目で見つめる。
「先生──」
この心臓の痛みはきっと病気かもしれない。このまま倒れてしまいそうだ。組長の瞳が黒豹のようだ、動けないでいると上半身を起こそうとした組長の顔が急に歪む。まだまだ治療の途中だ、痛みがまだきついはずだ。
「あぁ! だめです! じっとして──」
思わず組長に駆け寄ると腕を取られてそのまま胸に閉じ込められる。くの字に曲げられた身体を捩ってみたが組長の抱きとめる力には敵わない。
「あぁ、やっと捕まえた」
耳元で聞こえる声に体が震える。
「先生、今一番硬いところは治療してくれないのか?」
言葉の意味に幸は息を飲む。言い返したいのに喉元でつっかえて出てこない。そのまま幸の唇を噛むように口付けると一気に体の外も中も組長の存在を認識して熱くなる。早急な口付けに息が荒れる。
「ん……ふあ」
幸の声に組長は自身の昂ぶりの存在が増したのを感じた。キスをするだけでこれじゃあこの先はどうにかなってしまうかもしれない。
「く、組長……おねが、い……離して」
爆弾が投下されたようだ。離せるわけない。
先生は自分がどんな顔で、どんな声で煽っているかわかっていない。
「先生──俺の名前を言ってみてくれるか。そうしてくれたら、離す」
幸は一瞬躊躇うが小さな声で「つ、かさ」と呟いた。
ははは、本当に先生は麻薬だ、体も、声すらも。より先生を強く抱きしめた。もっと呼んでほしい。ずっと呼んでほしい。
「って、約束はどうなったの!? この悪党!」
悪党呼ばわりすら嬉しい。あぁ腰さえなんともなれりゃこのまま……。
プププププププ──
「……チッ」
電話のコール音が響き渡る。一瞬腕の力を緩めてしまう。その隙に幸は組長の胸を押し腕の中から脱出を果たした。
「はい、青野鍼灸院です。はい──了解ですお気をつけて」
「誰だ……」
「あ、町田さんです。用事が終わったのでこちらに向かうそうです」
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