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第三部
ハワイ土産の呪い
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「Hey hey hey!帰ったぞブラザー!」
「……調子に乗ったゴリラの兄弟を持った覚えはねぇな」
組長は首からハイビスカスの花輪をつけてアロハシャツを着ている剛を一瞥する。よほど楽しかったのだろう。数日前に帰国したはずだがいつまでも心はハワイにあるらしい。
院にこんがりと肌の焼けた剛が現れた。元々肌は真っ白ではなかったが今はもう赤黒い。
「ハッ、妬くな妬くな! ハワイの土産を買ってきたぞ、ほら」
剛はごきげんだ。小さな縦型の箱をソファーで寛いでいた組長へと投げる。
「おう、センキュ」
剛は慰安旅行と称してハワイへと旅立った。二年に一回のご褒美だそうだ。
「あら、剛さん。おかえりなさい、ハワイは良かったですか?」
倉庫から幸が現れる。すっかり日焼けした剛を見てクスッと笑う。
「あら、とうとう本場のゴ……」
「──本当おまえら似てきたよな……ま、いいや、これ先生食べてみてくれ。美味いんだ……司も食え」
机の上に置かれた箱を剛が開けると中から金紙に包まれたものを取り出す。それを幸の口に放り込んだ後、組長の口にも放り込んだ。
「……ん、なんだよ。俺まで食わせること……ん? これって──」
組長は慌てて幸を見た。
幸はもぐもぐと美味しそうに飲み込んだ後だった。
──しまった!
チョコレートの中にウイスキーが入っている。しかもかなりアルコール度数が高い。
慌てて土産の箱を見るとチョコレートの絵と有名はウイスキーのラベルが描かれている。
「どうだ? うめぇだろ? 最高だろ?」
「……剛、お前、やっちまったな……」
組長が立ち上がり剛を睨みつける。背後に暗黒のオーラが立ち込めている。剛はキレられる要素が分からないようで顔を引きつらせながら後ろへと下がっていく。
剛が怒る組長の腕を掴んで落ち着かせる……。
「ちょ、ちょっと待て……俺は良かれと思って──って、あれ? 先生?」
剛が組長の背後にいる幸の様子がおかしいことに気がついた。剛の言葉に組長がゆっくりと振り返った……。
「ふふふ……仲良し、ね、ふふふ」
真っ赤な顔して俺たちを指差す酔っ払いが立っていた。もうすでにふらふらと足元がおぼつかない……。
剛を見ると唖然とした表情で先生を見つめている。そりゃそうだろう……あんなお菓子一個で酔うとは夢にも思わないだろう。
「あぁん……ん……」
幸は待合のソファーに座ると人魚姫のように斜め座りをしこちらを見上げる。その瞳は揺らいでいて頰は紅潮しかなり艶かしい……。
剛は生唾を飲み込む……。
「……剛、何か見たか?」
「ん、いや、見てないし聞いていない。静かだし土産話でも披露しようと思ってたところだ」
剛は幸のお色気ムンムンに反応しながらも必死で嘘をつく。己の命の守り方は心得ている。
院のドアが開いて町田が意気揚々と入ってきた。
「お待たせしましたーアイス買ってきました……けど……あれ?」
前回経験者の町田は幸の様子がおかしい事にいち早く気づいたようだ。戸惑ったような剛と顔を合わせると一気に緊張度が増す。テーブルの上に置かれた土産物の箱を見つけて町田は全てを察した。
──やっちゃったんですか?剛さん……。
──町田さん、俺……。
二人は目配せをする。変な沈黙が続く……。
「……あの、とりあえず俺アイス入れてきます!」
「いや! 俺が入れますよ! 町田さん! 冷凍庫に隙間なく入れるのってテクニックが──」
剛が一体どんなテクニックを持っているのかが気になる。
必死でこの場からどうにか逃げようとする二人だった。
「んー? 私が入れようかー? 近いし」
気がつくと二人が取り合っていたはずのアイスの袋を幸が掴んでいる。町田と剛はその場に固まる……。
「あれれ? 剛さん……いつから体毛が濃くなったの? 退化?」
「いや先生……それ、ただの日焼けで黒く──」
剛は言葉に詰まる……剛の腕から胸をなぞると幸が微笑む。
「肌、熱い、ね。炎症かな……」
「……っ、そうですね、ははは」
一瞬欲情してしまった。
組長に目をやると背中から暗黒のオーラがでているので剛は「冷やしてくる!」と言い力尽くでアイスの袋を奪い奥の部屋へと消えた。
残された町田は院の外へと出ようと振り返るが、すぐに背後から首を羽交い締めされた。
「ジョン……どこ行くの? まだ、ブラッシングをしてないよ?」
「あはは、いや……今日ブラッシングされると新たに芽吹いた小さな毛たちが死んじゃうかな、それとも夢半ばで俺が死ぬのかな? あはは」
なぜかまた幸が飼っていた犬、ジョンになってしまった町田だった。
町田の奇妙な笑い声が響く。組長を見ると嫉妬で全身から覇気が出ている……。町田の方へとゆっくり歩み寄る……町田は固唾を飲んでそれを見つめていた。
「……先生、だめだって言っただろ」
幸の腕を取ると自分の胸の中に閉じ込める。解放された町田は院の外へと一目散に走り出し消えた。部屋には二人しかいなくなった──。
幸は組長を見上げると優しい笑みを浮かべる。組長はその笑顔につられて微笑みそうになる。
「ねぇ……司──」
「……っ、なんだ」
幸は組長のことを名前で呼ばない。たまに呼ばれる名前に今でも胸が高鳴る。
「揉んでくれない?」
「──は?」
「さぁ、早くー」
幸は待合のソファーに座ると組長を横に座らせた。組長の手を掴むとそのまま自身の肩へと乗せる……。
「はい、どうぞー」
「…………おう」
危ないところだった。胸を揉みまくるところだった。あんな潤んだ目で揉んでくれだなんて言われたら喜んで揉みそうだった……。
「もっと……気持ちいいね」
「はいはい……ここか?」
組長は笑いながら肩もみをはじめた。
酔った先生は可愛い……普段より甘えてくれる。
こんな姿他の奴らが見たら危険だ……すぐに襲われる。
しばらくすると幸は眠りに落ちた。ソファーに横向きになって眠っている。組長は立ち上がると奥の部屋の二人に声をかけた。
二人は恐る恐るドアを開けて出てきた。
「あー、やばかったな……」
「剛さん……お土産に酒は──」
「いや、本当にそうだな……持って帰る」
剛がチョコレートの箱を取ろうとすると組長はその手を制する。
「いや、いい……置いててくれ。剛、土産センキュ──」
剛は組長を見てニヤリと微笑んだ。
「おう、ま……俺たちがいないところでやってくれ」
町田はチョコレートの箱を冷蔵庫の中へと入れる。
「もうジョンも卒業かな……」
町田は少し寂しそうに微笑んだ。
「……調子に乗ったゴリラの兄弟を持った覚えはねぇな」
組長は首からハイビスカスの花輪をつけてアロハシャツを着ている剛を一瞥する。よほど楽しかったのだろう。数日前に帰国したはずだがいつまでも心はハワイにあるらしい。
院にこんがりと肌の焼けた剛が現れた。元々肌は真っ白ではなかったが今はもう赤黒い。
「ハッ、妬くな妬くな! ハワイの土産を買ってきたぞ、ほら」
剛はごきげんだ。小さな縦型の箱をソファーで寛いでいた組長へと投げる。
「おう、センキュ」
剛は慰安旅行と称してハワイへと旅立った。二年に一回のご褒美だそうだ。
「あら、剛さん。おかえりなさい、ハワイは良かったですか?」
倉庫から幸が現れる。すっかり日焼けした剛を見てクスッと笑う。
「あら、とうとう本場のゴ……」
「──本当おまえら似てきたよな……ま、いいや、これ先生食べてみてくれ。美味いんだ……司も食え」
机の上に置かれた箱を剛が開けると中から金紙に包まれたものを取り出す。それを幸の口に放り込んだ後、組長の口にも放り込んだ。
「……ん、なんだよ。俺まで食わせること……ん? これって──」
組長は慌てて幸を見た。
幸はもぐもぐと美味しそうに飲み込んだ後だった。
──しまった!
チョコレートの中にウイスキーが入っている。しかもかなりアルコール度数が高い。
慌てて土産の箱を見るとチョコレートの絵と有名はウイスキーのラベルが描かれている。
「どうだ? うめぇだろ? 最高だろ?」
「……剛、お前、やっちまったな……」
組長が立ち上がり剛を睨みつける。背後に暗黒のオーラが立ち込めている。剛はキレられる要素が分からないようで顔を引きつらせながら後ろへと下がっていく。
剛が怒る組長の腕を掴んで落ち着かせる……。
「ちょ、ちょっと待て……俺は良かれと思って──って、あれ? 先生?」
剛が組長の背後にいる幸の様子がおかしいことに気がついた。剛の言葉に組長がゆっくりと振り返った……。
「ふふふ……仲良し、ね、ふふふ」
真っ赤な顔して俺たちを指差す酔っ払いが立っていた。もうすでにふらふらと足元がおぼつかない……。
剛を見ると唖然とした表情で先生を見つめている。そりゃそうだろう……あんなお菓子一個で酔うとは夢にも思わないだろう。
「あぁん……ん……」
幸は待合のソファーに座ると人魚姫のように斜め座りをしこちらを見上げる。その瞳は揺らいでいて頰は紅潮しかなり艶かしい……。
剛は生唾を飲み込む……。
「……剛、何か見たか?」
「ん、いや、見てないし聞いていない。静かだし土産話でも披露しようと思ってたところだ」
剛は幸のお色気ムンムンに反応しながらも必死で嘘をつく。己の命の守り方は心得ている。
院のドアが開いて町田が意気揚々と入ってきた。
「お待たせしましたーアイス買ってきました……けど……あれ?」
前回経験者の町田は幸の様子がおかしい事にいち早く気づいたようだ。戸惑ったような剛と顔を合わせると一気に緊張度が増す。テーブルの上に置かれた土産物の箱を見つけて町田は全てを察した。
──やっちゃったんですか?剛さん……。
──町田さん、俺……。
二人は目配せをする。変な沈黙が続く……。
「……あの、とりあえず俺アイス入れてきます!」
「いや! 俺が入れますよ! 町田さん! 冷凍庫に隙間なく入れるのってテクニックが──」
剛が一体どんなテクニックを持っているのかが気になる。
必死でこの場からどうにか逃げようとする二人だった。
「んー? 私が入れようかー? 近いし」
気がつくと二人が取り合っていたはずのアイスの袋を幸が掴んでいる。町田と剛はその場に固まる……。
「あれれ? 剛さん……いつから体毛が濃くなったの? 退化?」
「いや先生……それ、ただの日焼けで黒く──」
剛は言葉に詰まる……剛の腕から胸をなぞると幸が微笑む。
「肌、熱い、ね。炎症かな……」
「……っ、そうですね、ははは」
一瞬欲情してしまった。
組長に目をやると背中から暗黒のオーラがでているので剛は「冷やしてくる!」と言い力尽くでアイスの袋を奪い奥の部屋へと消えた。
残された町田は院の外へと出ようと振り返るが、すぐに背後から首を羽交い締めされた。
「ジョン……どこ行くの? まだ、ブラッシングをしてないよ?」
「あはは、いや……今日ブラッシングされると新たに芽吹いた小さな毛たちが死んじゃうかな、それとも夢半ばで俺が死ぬのかな? あはは」
なぜかまた幸が飼っていた犬、ジョンになってしまった町田だった。
町田の奇妙な笑い声が響く。組長を見ると嫉妬で全身から覇気が出ている……。町田の方へとゆっくり歩み寄る……町田は固唾を飲んでそれを見つめていた。
「……先生、だめだって言っただろ」
幸の腕を取ると自分の胸の中に閉じ込める。解放された町田は院の外へと一目散に走り出し消えた。部屋には二人しかいなくなった──。
幸は組長を見上げると優しい笑みを浮かべる。組長はその笑顔につられて微笑みそうになる。
「ねぇ……司──」
「……っ、なんだ」
幸は組長のことを名前で呼ばない。たまに呼ばれる名前に今でも胸が高鳴る。
「揉んでくれない?」
「──は?」
「さぁ、早くー」
幸は待合のソファーに座ると組長を横に座らせた。組長の手を掴むとそのまま自身の肩へと乗せる……。
「はい、どうぞー」
「…………おう」
危ないところだった。胸を揉みまくるところだった。あんな潤んだ目で揉んでくれだなんて言われたら喜んで揉みそうだった……。
「もっと……気持ちいいね」
「はいはい……ここか?」
組長は笑いながら肩もみをはじめた。
酔った先生は可愛い……普段より甘えてくれる。
こんな姿他の奴らが見たら危険だ……すぐに襲われる。
しばらくすると幸は眠りに落ちた。ソファーに横向きになって眠っている。組長は立ち上がると奥の部屋の二人に声をかけた。
二人は恐る恐るドアを開けて出てきた。
「あー、やばかったな……」
「剛さん……お土産に酒は──」
「いや、本当にそうだな……持って帰る」
剛がチョコレートの箱を取ろうとすると組長はその手を制する。
「いや、いい……置いててくれ。剛、土産センキュ──」
剛は組長を見てニヤリと微笑んだ。
「おう、ま……俺たちがいないところでやってくれ」
町田はチョコレートの箱を冷蔵庫の中へと入れる。
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