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14.思い出と真実と
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会議が終わって自分のデスクへと戻ると携帯電話にメールが来ていた。開いてみると送り主は武人だった。
──明日の晩あいてる?もしよかったらご飯食べに行こう
とうとうこの時がやって来た……緊張しすぎて一度携帯電話の画面を伏せる。
怖い、嬉しい……武人はどう思っているのだろう。
意を決してメール画面を開く。
──大丈夫だよ。じゃ、また連絡するね
送信し、そのまま涼香はメールを打つ。弘子と大輝に同じものを送る。
──明日の晩、会ってきます
すぐに大輝から連絡がある。
──よかったな。ところで、今晩作戦会議しない?
大輝のメールに速攻了解と返信した。
今日は串カツ専門店の暖簾をくぐる。平日とあって客は疎らのようだ。いつものイカの店は定休日だったので目についたこの店に入ってみた。生ビールを片手に大輝がニンマリと涼香の方を見る。上機嫌だ。
「大輝くんどうしてそんなに嬉しそうなの?」
「嬉しいよ、だって涼香ちゃんの恋が実りそうなんだから」
「いや、わかんないってば……」
涼香は口を尖らして反論する。
ポジティブな見方だけできればいいが、そうもいかない。
「涼香ちゃんはさ、元彼のどんな所が好き?」
「好きな所? 武人の? えーっと……」
笑う時に口元に手を当てるところ。
寝ている時に優しく頭にキスをするところ。
美味しそうにご飯を食べるところ。
キスが甘いところ。
「いっぱいあるかも……」
涼香が思い出すように微笑むのをみて大輝は同じように微笑む。
「じゃ……嫌いな所は?」
「え? なんで? 嫌いな所?」
そんなことを聞かれるなんて思ってもみなかった。だって今までずっと武人のいい所や、幸せの記憶だけを追って生きていたのに。突然嫌いなところを言えと言われても戸惑う。
「……ない?」
「いや、それはないことはない! あると思う……えっと──」
涼香は頬杖をつき考えてみる。ふと気づく……武人の短所の記憶が曖昧だ。
私を捨てた、ところ……?……あれ?
あれ? 付き合っている中で色々あったはずなのに……。どうしてパッと出てこないのだろう。好きなところや幸せな思い出は多いのに。
「……出にくい、ね」
涼香がそう言うと大輝がビールに口をつける。涼香の心が分かるようで何も言わなかった。涼香は思わず黙り込んでしまう。
「…………」
「……涼香ちゃん、人間ってさ、美化するんだって」
「美化? 思い出を?」
「そう、いいところだけを残すの」
大輝は目の前のうずら串を口の中に放り込んだ。ソースの二度付け禁止はきちんと守っている。
「ひどいことをされたのに、いいところだけを残すから、その人の悪いところとか嫌だったところを見えにくくさせる──すごくいい人だったって思っちゃうんだって」
「なんで今そんな話……」
「……涼香ちゃんが過去の彼のいいところだけに恋してるから。きっと会えばもっと気持ちが高ぶって好きになるはずだから……でも──以前の彼と今の彼は違うかもしれないでしょ? 涼香ちゃんを一旦捨てたこと……忘れちゃダメだよ」
大輝の言葉は思いのほか私の心を動かした。美化、している。確かにそうかもしれない。捨てられたから余計にそうなのかもしれない。
今の武人は二年前の武人とは違うかもしれないとは思っていたが、武人との思い出を美化して許そうとしていたことに気付く。
「もし……元彼にいいように利用させられそうなら……俺の言葉思い出して。俺は涼香ちゃんの幸せを願ってるんだけど、元彼が涼香ちゃんをいいように利用しようとしてるなら反対だ。たとえ、涼香ちゃんが元彼のことを好きだと言っても、止める」
大輝は涼香のことを心配していた。背中を押したのは自分だけど、二年の月日は長い。そのまま真剣な思いでやり直す気ならいいが、体だけの関係を求めてくる輩がいることを大輝は分かっていた。そうなってしまうとより涼香の心が傷つくと思いきちんと武人を見るように伝えた。
涼香は大輝の言っていることが分かった。
何度も首を縦に振ると大輝は「ごめんね、直前でこんなこと……」そういうと悲しそうに笑った。涼香はビールを飲み干すと机の上に置いた。
「大輝くんありがとう……会ってちゃんと話をしてくるね。好きな気持ちばかりで……なんか、二年前のこととか、色んなこと考えてなかったかも……ありがと」
「なら、よかったよかった」
大輝が食べ終えた串を竹筒に放り込む。いつのまにか竹筒には串がたくさんある。
「──え、ちょっと、私のイベリコ豚は!?」
「涼香ちゃんがうるうるしている時に食ったよ」
「信じらんない!」と言いながら店員に再び注文する涼香を大輝は見ていた。
美化しているのは、俺もだろうな……。
思い出の中の希はいつも笑顔で……いつも優しい。文句も言わない。俺だけを見ている。
これが美化というやつだろう。
急に亡くなったから美化して希のことを記憶しているのかもしれない。確かに希はいい子だ。だけど、喧嘩もしたし、直して欲しいところだってあったはずなのに……今は何も思い出せない。美化させることで余計に希を忘れたくても忘れられないのかもしれない。
ビールの泡を見つめてふと気づく。
俺は忘れたくないと思っていたはずだ。自分は希を愛し続けているから忘れられないと。今は、出来るなら忘れたい、忘れられるようになりたいと思っている気がした──まさか、そんなはずない。
俺が希を忘れたい訳……ないのに。
自分の気持ちの変化が怖かった。ふとよぎった思考が信じられなくてビールを一気に飲み干した。それを見た涼香が嬉しそうにこちらを見る。
「お、いいね! いい飲みっぷりだね!」
大輝は誤魔化すように微笑んだ。その日は希の話はできなかった。
──明日の晩あいてる?もしよかったらご飯食べに行こう
とうとうこの時がやって来た……緊張しすぎて一度携帯電話の画面を伏せる。
怖い、嬉しい……武人はどう思っているのだろう。
意を決してメール画面を開く。
──大丈夫だよ。じゃ、また連絡するね
送信し、そのまま涼香はメールを打つ。弘子と大輝に同じものを送る。
──明日の晩、会ってきます
すぐに大輝から連絡がある。
──よかったな。ところで、今晩作戦会議しない?
大輝のメールに速攻了解と返信した。
今日は串カツ専門店の暖簾をくぐる。平日とあって客は疎らのようだ。いつものイカの店は定休日だったので目についたこの店に入ってみた。生ビールを片手に大輝がニンマリと涼香の方を見る。上機嫌だ。
「大輝くんどうしてそんなに嬉しそうなの?」
「嬉しいよ、だって涼香ちゃんの恋が実りそうなんだから」
「いや、わかんないってば……」
涼香は口を尖らして反論する。
ポジティブな見方だけできればいいが、そうもいかない。
「涼香ちゃんはさ、元彼のどんな所が好き?」
「好きな所? 武人の? えーっと……」
笑う時に口元に手を当てるところ。
寝ている時に優しく頭にキスをするところ。
美味しそうにご飯を食べるところ。
キスが甘いところ。
「いっぱいあるかも……」
涼香が思い出すように微笑むのをみて大輝は同じように微笑む。
「じゃ……嫌いな所は?」
「え? なんで? 嫌いな所?」
そんなことを聞かれるなんて思ってもみなかった。だって今までずっと武人のいい所や、幸せの記憶だけを追って生きていたのに。突然嫌いなところを言えと言われても戸惑う。
「……ない?」
「いや、それはないことはない! あると思う……えっと──」
涼香は頬杖をつき考えてみる。ふと気づく……武人の短所の記憶が曖昧だ。
私を捨てた、ところ……?……あれ?
あれ? 付き合っている中で色々あったはずなのに……。どうしてパッと出てこないのだろう。好きなところや幸せな思い出は多いのに。
「……出にくい、ね」
涼香がそう言うと大輝がビールに口をつける。涼香の心が分かるようで何も言わなかった。涼香は思わず黙り込んでしまう。
「…………」
「……涼香ちゃん、人間ってさ、美化するんだって」
「美化? 思い出を?」
「そう、いいところだけを残すの」
大輝は目の前のうずら串を口の中に放り込んだ。ソースの二度付け禁止はきちんと守っている。
「ひどいことをされたのに、いいところだけを残すから、その人の悪いところとか嫌だったところを見えにくくさせる──すごくいい人だったって思っちゃうんだって」
「なんで今そんな話……」
「……涼香ちゃんが過去の彼のいいところだけに恋してるから。きっと会えばもっと気持ちが高ぶって好きになるはずだから……でも──以前の彼と今の彼は違うかもしれないでしょ? 涼香ちゃんを一旦捨てたこと……忘れちゃダメだよ」
大輝の言葉は思いのほか私の心を動かした。美化、している。確かにそうかもしれない。捨てられたから余計にそうなのかもしれない。
今の武人は二年前の武人とは違うかもしれないとは思っていたが、武人との思い出を美化して許そうとしていたことに気付く。
「もし……元彼にいいように利用させられそうなら……俺の言葉思い出して。俺は涼香ちゃんの幸せを願ってるんだけど、元彼が涼香ちゃんをいいように利用しようとしてるなら反対だ。たとえ、涼香ちゃんが元彼のことを好きだと言っても、止める」
大輝は涼香のことを心配していた。背中を押したのは自分だけど、二年の月日は長い。そのまま真剣な思いでやり直す気ならいいが、体だけの関係を求めてくる輩がいることを大輝は分かっていた。そうなってしまうとより涼香の心が傷つくと思いきちんと武人を見るように伝えた。
涼香は大輝の言っていることが分かった。
何度も首を縦に振ると大輝は「ごめんね、直前でこんなこと……」そういうと悲しそうに笑った。涼香はビールを飲み干すと机の上に置いた。
「大輝くんありがとう……会ってちゃんと話をしてくるね。好きな気持ちばかりで……なんか、二年前のこととか、色んなこと考えてなかったかも……ありがと」
「なら、よかったよかった」
大輝が食べ終えた串を竹筒に放り込む。いつのまにか竹筒には串がたくさんある。
「──え、ちょっと、私のイベリコ豚は!?」
「涼香ちゃんがうるうるしている時に食ったよ」
「信じらんない!」と言いながら店員に再び注文する涼香を大輝は見ていた。
美化しているのは、俺もだろうな……。
思い出の中の希はいつも笑顔で……いつも優しい。文句も言わない。俺だけを見ている。
これが美化というやつだろう。
急に亡くなったから美化して希のことを記憶しているのかもしれない。確かに希はいい子だ。だけど、喧嘩もしたし、直して欲しいところだってあったはずなのに……今は何も思い出せない。美化させることで余計に希を忘れたくても忘れられないのかもしれない。
ビールの泡を見つめてふと気づく。
俺は忘れたくないと思っていたはずだ。自分は希を愛し続けているから忘れられないと。今は、出来るなら忘れたい、忘れられるようになりたいと思っている気がした──まさか、そんなはずない。
俺が希を忘れたい訳……ないのに。
自分の気持ちの変化が怖かった。ふとよぎった思考が信じられなくてビールを一気に飲み干した。それを見た涼香が嬉しそうにこちらを見る。
「お、いいね! いい飲みっぷりだね!」
大輝は誤魔化すように微笑んだ。その日は希の話はできなかった。
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