153 / 160
幼馴染み襲来編
偽恋人計画2
しおりを挟む
親密そうというは、難しいものだと実感している。
宰相と女王。
二人そろって何をするか。
仕事である。
顔を会わせる機会を増やしたら、二人会議になった。主に帝国からの来客対応の事前準備についての相談だったが、仕事だ。他国の王を迎えるということはこの国ではほとんどなかった。それは魔王がいるからでよほど親しい国でも王族すらやってきたことがない。
それは逆も言えて、王族同士の交流の経歴がない。
故郷も別な意味で王族の交流はなく、この十年ほどで始まったことだ。それもうまく行ったり、最悪であったりしている。
初めて迎えるに近い王族が皇帝である。もう少し難易度が低いほうから始めたいところだろう。
せっかくの私室に呼びつけているというのに、軽食用のテーブルが書類が並び、向かい合って質疑応答だ。甘さの欠片もない。
「経路にあると予想される街には兵を派遣します。また、出迎えにふさわしいよう見える範囲は取り繕っておくことが必要でしょう。逗留しそうな地点は入念に対応しておきますが、問題があります」
「予算が足りないと財務卿も言っていたわ。頭が痛いわね」
「そこは、もう見える範囲でなんとかします。すべて綺麗に見せる必要はなく、相手にそれなりに敬意を払っているという態度が必要でそれを足りないというなら陛下から言い返してやってください。
魔王退治した後の国であると。復興途中にずかずかと上がり込んで文句言うような傲慢な奴は帰れ」
にこりと笑ったのが、恐い。その言葉には善処しておくわと呟くにとどめる。
しかし、これでないとしたら?
「魔女と連絡がとれません。
変に接触しないように釘をさしておかないと信用ならない」
「ああ、たぶん、金返せと言われると思って逃げてるんだと思う……」
「はぁ?」
「現金収入ほぼないとしょんぼりしてた」
まあ、居候から居住費を巻き上げていたらしいけど。その金は別のなにかを買ったらしい。教えてくれなかったが、酒か可愛い服のどちらかだろう。あの美貌の魔王の隣に立つには自らもそれなりでないととようやく思い至ったらしい。
ちっと舌打ちし、彼は何事か書いている。
「これで、手を打ちます。渡してください。中身に文句を言うなら即金で返せとも伝えてください。
中身を見たら、すべての話はなしにします。お一人で、どうぞ」
なにかを予想されたようだ。私は肩をすくめて、手紙を見たりしないわよ、と一応は伝えておく。さすがに気になるのだけど、あとで中身を教えてもらおう。それも先回りしてできないようにしてあるかもしれないけど。
「魔女にはおうちに帰ってもらえばいいのかしら」
「いいえ。城にいてもらってください。俺の安全確保してもらいます。俺がどんだけ恨みを買うか陛下は全く分かっていらっしゃらないので」
「そんなに?」
「信奉者あれほど集めて、よくそういうきょとんとした顔できますね」
「ごめんね」
知らない間にまた増えていたらしい。女王陛下は人気者で大変だ。
「軽く言うくらいなら、謝らないでください。
必要というのは、わかります。ええ、都合の良い男をするには良い配役でしょう」
「だって、私も都合の良いお姫様したし、おあいこ」
「……そうですね。それで、今一歩届かなかったんだから腹が立ちます」
渋い顔でそう言いながら新しい書類の一枚も仕上げてくる。今度は城の整備費だ。予算管理はこちらの管轄ではないので、妥当ならもう一度戻ってくるだろう。
「それから、俺の予算はこれくらいで」
「レオンの予算?」
「……あのですね? 俺、俸禄の支給まだされてません。支度金は家と最低限の身なりで終わりました。
陛下の恋人役ならば、それなりの服装も人も必要なんです」
ぽんと手を打った私を冷ややかに見てきた。男も色々物入りなのだな。想像したこともなかった。
中身は私のお小遣いで何とかなりそうなので後で手配しておこう。これは私のわがままなのだから国庫から出させるわけにはいかない。それはそれでヒモとかいわれそうだけど。
それからしばらくは書き物と書類をめくる音が響く。
「ところで」
そう言ってためらわれると気になる。
「俺は、あなたを何と呼べばいいんです?」
「ヴァージニアでいいわ。愛称は全部使いきったし、新しく考えてもらってもよいけど」
「ニアでどうです。この辺りにはない響きで、誰かと混同されることもない」
変なところを区切ったなとは思ったが承諾した。特別な言い方での親密さは演出できるだろう。
「では、わたしも」
「レオンで結構です。姫様の命名センスは壊滅的、王家の方々もちょっとアレと聞き及んでおりますので、恥ずかしい呼ばれ方はしたくありません」
「そー」
そのあたりはよく言われるので否定する気もない。敬愛する兄からして、特殊命名ルールがあり娘の名前を付けることを断固拒否されたくらいだ。
「レオン」
「なんです?」
書類から目線さえ外さず返事された。
「なにかこう呼ばれてうれしい、みたいな顔しないの?」
「外ではしますよ」
「つまらない」
「偽装の恋人なので、人目のないところでは役目は降ります。そうでないと持ちません」
「甘えてもいいのよ」
「それなら、一つ教えていただきたい」
嫌な予感がするような言い方だった。
「影武者を用意して、どこにお出かけ予定ですか?」
なんかもう全部バレているような気がした。
宰相と女王。
二人そろって何をするか。
仕事である。
顔を会わせる機会を増やしたら、二人会議になった。主に帝国からの来客対応の事前準備についての相談だったが、仕事だ。他国の王を迎えるということはこの国ではほとんどなかった。それは魔王がいるからでよほど親しい国でも王族すらやってきたことがない。
それは逆も言えて、王族同士の交流の経歴がない。
故郷も別な意味で王族の交流はなく、この十年ほどで始まったことだ。それもうまく行ったり、最悪であったりしている。
初めて迎えるに近い王族が皇帝である。もう少し難易度が低いほうから始めたいところだろう。
せっかくの私室に呼びつけているというのに、軽食用のテーブルが書類が並び、向かい合って質疑応答だ。甘さの欠片もない。
「経路にあると予想される街には兵を派遣します。また、出迎えにふさわしいよう見える範囲は取り繕っておくことが必要でしょう。逗留しそうな地点は入念に対応しておきますが、問題があります」
「予算が足りないと財務卿も言っていたわ。頭が痛いわね」
「そこは、もう見える範囲でなんとかします。すべて綺麗に見せる必要はなく、相手にそれなりに敬意を払っているという態度が必要でそれを足りないというなら陛下から言い返してやってください。
魔王退治した後の国であると。復興途中にずかずかと上がり込んで文句言うような傲慢な奴は帰れ」
にこりと笑ったのが、恐い。その言葉には善処しておくわと呟くにとどめる。
しかし、これでないとしたら?
「魔女と連絡がとれません。
変に接触しないように釘をさしておかないと信用ならない」
「ああ、たぶん、金返せと言われると思って逃げてるんだと思う……」
「はぁ?」
「現金収入ほぼないとしょんぼりしてた」
まあ、居候から居住費を巻き上げていたらしいけど。その金は別のなにかを買ったらしい。教えてくれなかったが、酒か可愛い服のどちらかだろう。あの美貌の魔王の隣に立つには自らもそれなりでないととようやく思い至ったらしい。
ちっと舌打ちし、彼は何事か書いている。
「これで、手を打ちます。渡してください。中身に文句を言うなら即金で返せとも伝えてください。
中身を見たら、すべての話はなしにします。お一人で、どうぞ」
なにかを予想されたようだ。私は肩をすくめて、手紙を見たりしないわよ、と一応は伝えておく。さすがに気になるのだけど、あとで中身を教えてもらおう。それも先回りしてできないようにしてあるかもしれないけど。
「魔女にはおうちに帰ってもらえばいいのかしら」
「いいえ。城にいてもらってください。俺の安全確保してもらいます。俺がどんだけ恨みを買うか陛下は全く分かっていらっしゃらないので」
「そんなに?」
「信奉者あれほど集めて、よくそういうきょとんとした顔できますね」
「ごめんね」
知らない間にまた増えていたらしい。女王陛下は人気者で大変だ。
「軽く言うくらいなら、謝らないでください。
必要というのは、わかります。ええ、都合の良い男をするには良い配役でしょう」
「だって、私も都合の良いお姫様したし、おあいこ」
「……そうですね。それで、今一歩届かなかったんだから腹が立ちます」
渋い顔でそう言いながら新しい書類の一枚も仕上げてくる。今度は城の整備費だ。予算管理はこちらの管轄ではないので、妥当ならもう一度戻ってくるだろう。
「それから、俺の予算はこれくらいで」
「レオンの予算?」
「……あのですね? 俺、俸禄の支給まだされてません。支度金は家と最低限の身なりで終わりました。
陛下の恋人役ならば、それなりの服装も人も必要なんです」
ぽんと手を打った私を冷ややかに見てきた。男も色々物入りなのだな。想像したこともなかった。
中身は私のお小遣いで何とかなりそうなので後で手配しておこう。これは私のわがままなのだから国庫から出させるわけにはいかない。それはそれでヒモとかいわれそうだけど。
それからしばらくは書き物と書類をめくる音が響く。
「ところで」
そう言ってためらわれると気になる。
「俺は、あなたを何と呼べばいいんです?」
「ヴァージニアでいいわ。愛称は全部使いきったし、新しく考えてもらってもよいけど」
「ニアでどうです。この辺りにはない響きで、誰かと混同されることもない」
変なところを区切ったなとは思ったが承諾した。特別な言い方での親密さは演出できるだろう。
「では、わたしも」
「レオンで結構です。姫様の命名センスは壊滅的、王家の方々もちょっとアレと聞き及んでおりますので、恥ずかしい呼ばれ方はしたくありません」
「そー」
そのあたりはよく言われるので否定する気もない。敬愛する兄からして、特殊命名ルールがあり娘の名前を付けることを断固拒否されたくらいだ。
「レオン」
「なんです?」
書類から目線さえ外さず返事された。
「なにかこう呼ばれてうれしい、みたいな顔しないの?」
「外ではしますよ」
「つまらない」
「偽装の恋人なので、人目のないところでは役目は降ります。そうでないと持ちません」
「甘えてもいいのよ」
「それなら、一つ教えていただきたい」
嫌な予感がするような言い方だった。
「影武者を用意して、どこにお出かけ予定ですか?」
なんかもう全部バレているような気がした。
11
あなたにおすすめの小説
ある平凡な女、転生する
眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。
しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。
次に、気がついたらとっても良い部屋でした。
えっ、なんで?
※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑)
※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。
★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
[完結]困窮令嬢は幸せを諦めない~守護精霊同士がつがいだったので、王太子からプロポーズされました
緋月らむね
恋愛
この国の貴族の間では人生の進むべき方向へ導いてくれる守護精霊というものが存在していた。守護精霊は、特別な力を持った運命の魔術師に出会うことで、守護精霊を顕現してもらう必要があった。
エイド子爵の娘ローザは、運命の魔術師に出会うことができず、生活が困窮していた。そのため、定期的に子爵領の特産品であるガラス工芸と共に子爵領で採れる粘土で粘土細工アクセサリーを作って、父親のエイド子爵と一緒に王都に行って露店を出していた。
ある時、ローザが王都に行く途中に寄った町の露店で運命の魔術師と出会い、ローザの守護精霊が顕現する。
なんと!ローザの守護精霊は番を持っていた。
番を持つ守護精霊が顕現したローザの人生が思いがけない方向へ進んでいく…
〜読んでいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます〜
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる