ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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幼馴染み襲来編

偽恋人計画2

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 親密そうというは、難しいものだと実感している。
 宰相と女王。
 二人そろって何をするか。

 仕事である。

 顔を会わせる機会を増やしたら、二人会議になった。主に帝国からの来客対応の事前準備についての相談だったが、仕事だ。他国の王を迎えるということはこの国ではほとんどなかった。それは魔王がいるからでよほど親しい国でも王族すらやってきたことがない。
 それは逆も言えて、王族同士の交流の経歴がない。
 故郷も別な意味で王族の交流はなく、この十年ほどで始まったことだ。それもうまく行ったり、最悪であったりしている。

 初めて迎えるに近い王族が皇帝である。もう少し難易度が低いほうから始めたいところだろう。

 せっかくの私室に呼びつけているというのに、軽食用のテーブルが書類が並び、向かい合って質疑応答だ。甘さの欠片もない。

「経路にあると予想される街には兵を派遣します。また、出迎えにふさわしいよう見える範囲は取り繕っておくことが必要でしょう。逗留しそうな地点は入念に対応しておきますが、問題があります」

「予算が足りないと財務卿も言っていたわ。頭が痛いわね」

「そこは、もう見える範囲でなんとかします。すべて綺麗に見せる必要はなく、相手にそれなりに敬意を払っているという態度が必要でそれを足りないというなら陛下から言い返してやってください。
 魔王退治した後の国であると。復興途中にずかずかと上がり込んで文句言うような傲慢な奴は帰れ」

 にこりと笑ったのが、恐い。その言葉には善処しておくわと呟くにとどめる。
 しかし、これでないとしたら?

「魔女と連絡がとれません。
 変に接触しないように釘をさしておかないと信用ならない」

「ああ、たぶん、金返せと言われると思って逃げてるんだと思う……」

「はぁ?」

「現金収入ほぼないとしょんぼりしてた」

 まあ、居候から居住費を巻き上げていたらしいけど。その金は別のなにかを買ったらしい。教えてくれなかったが、酒か可愛い服のどちらかだろう。あの美貌の魔王の隣に立つには自らもそれなりでないととようやく思い至ったらしい。
 ちっと舌打ちし、彼は何事か書いている。

「これで、手を打ちます。渡してください。中身に文句を言うなら即金で返せとも伝えてください。
 中身を見たら、すべての話はなしにします。お一人で、どうぞ」

 なにかを予想されたようだ。私は肩をすくめて、手紙を見たりしないわよ、と一応は伝えておく。さすがに気になるのだけど、あとで中身を教えてもらおう。それも先回りしてできないようにしてあるかもしれないけど。

「魔女にはおうちに帰ってもらえばいいのかしら」

「いいえ。城にいてもらってください。俺の安全確保してもらいます。俺がどんだけ恨みを買うか陛下は全く分かっていらっしゃらないので」

「そんなに?」

「信奉者あれほど集めて、よくそういうきょとんとした顔できますね」

「ごめんね」

 知らない間にまた増えていたらしい。女王陛下は人気者で大変だ。

「軽く言うくらいなら、謝らないでください。
 必要というのは、わかります。ええ、都合の良い男をするには良い配役でしょう」

「だって、私も都合の良いお姫様したし、おあいこ」

「……そうですね。それで、今一歩届かなかったんだから腹が立ちます」

 渋い顔でそう言いながら新しい書類の一枚も仕上げてくる。今度は城の整備費だ。予算管理はこちらの管轄ではないので、妥当ならもう一度戻ってくるだろう。

「それから、俺の予算はこれくらいで」

「レオンの予算?」

「……あのですね? 俺、俸禄の支給まだされてません。支度金は家と最低限の身なりで終わりました。
 陛下の恋人役ならば、それなりの服装も人も必要なんです」

 ぽんと手を打った私を冷ややかに見てきた。男も色々物入りなのだな。想像したこともなかった。
 中身は私のお小遣いで何とかなりそうなので後で手配しておこう。これは私のわがままなのだから国庫から出させるわけにはいかない。それはそれでヒモとかいわれそうだけど。
 それからしばらくは書き物と書類をめくる音が響く。

「ところで」

 そう言ってためらわれると気になる。

「俺は、あなたを何と呼べばいいんです?」

「ヴァージニアでいいわ。愛称は全部使いきったし、新しく考えてもらってもよいけど」

「ニアでどうです。この辺りにはない響きで、誰かと混同されることもない」

 変なところを区切ったなとは思ったが承諾した。特別な言い方での親密さは演出できるだろう。

「では、わたしも」

「レオンで結構です。姫様の命名センスは壊滅的、王家の方々もちょっとアレと聞き及んでおりますので、恥ずかしい呼ばれ方はしたくありません」

「そー」

 そのあたりはよく言われるので否定する気もない。敬愛する兄からして、特殊命名ルールがあり娘の名前を付けることを断固拒否されたくらいだ。

「レオン」

「なんです?」

 書類から目線さえ外さず返事された。

「なにかこう呼ばれてうれしい、みたいな顔しないの?」

「外ではしますよ」

「つまらない」

「偽装の恋人なので、人目のないところでは役目は降ります。そうでないと持ちません」

「甘えてもいいのよ」

「それなら、一つ教えていただきたい」

 嫌な予感がするような言い方だった。

「影武者を用意して、どこにお出かけ予定ですか?」

 なんかもう全部バレているような気がした。
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