ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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幼馴染み襲来編

偽恋人計画3

「久しぶりに幼馴染の顔を見に行こうかなって」

 隠してもどうせバレるんだし、なんならもうバレてそうだし。そう思ってたんだけど、なんか反応が違った。なんで、いきなり立ち上がるんだ。

「ああ、大丈夫。遠くから見るだけだから。いきなり会ったら動機息切れでぶっ倒れるかもしれないし」

「それは、どういう意味で」

「トラウマ的に」

 あ、座った。
 頭抱えられたけど。そんなに変なことを言った気はしない。ユリアだって、段階を踏むのも仕方ないですかねぇと遠い目をしていたし、フィンレーだってそれなら仕方ないって諦めた顔だった。イリューは、まあ、最初から達観したような表情だったけど。

「殺したらどうです?」

 地の底から這うような声、というのはわりと聞いたことがある。しかし、この人から聞いたのは初めてだ。すごく、低い声が出るんだな。不思議。裏に影がありそうな明るい声が普通で、それから少し下がったような声が素に近いらしいと観察していたんだけど。

「旅程で、不慮の事故にあうなんて普通でしょう」

「あなたが言うと本気でしそうだからやめてね?」

「どうしてです」

「次の皇帝がいないの。そうなると帝国が分解されるか、血で血を洗うような争奪戦。さらに近隣諸国も巻き込んでとなると流石にね……」

「気にされなそうなのに」

「兄妹が嫁いだ国もあるから」

 どう考えても巻き込まれないという話はない。兄様が嫌な顔をしつつ手出しをしなかったのは、そういった理由が大部分を占めている。今の皇帝の次を最短で送り込む算段くらいはしてそうだけど、候補者全部潰していったようなやつだから簡単ではないだろう。
 なんで急にやる気を出したのかもわかんないけど。

「すみません」

「いいのよ。いつもならね、そういうのは私」

「俺には親しい兄妹というのがわからないんです。嫌味で嫌すぎる姉しかいなかったので」

「お姉さんがいたの?」

 まあ、いたのは知っているけど知らんぷりしておこう。処断済みなのでそこをなにか言われると困る。そもそも知ったのがあれこれ終わったあとだったんだ。
 え、そこ、姉弟だった!? と驚くくらいに情報がなかった。本人からの箝口令が隅々までいきわたっていてかわいた笑いが出てきたくらい。
 それくらいの影響力を持っていた、ってことなんだから。

 本人が王になる気があったら、すでに王冠をかぶっていただろう。そう思わせる。
 あくまで、血統を尊び、その血に連なる者に王冠をという考えだったから付け入る隙があった。そうでなかったら。

「もういません」

 淡々とした声には感情がない。修道院送りは生易しかったんだろうか。でも、お優しい女王陛下だしな……。まあ、厳しい方の修道院と聞いているからそのあたりで妥協してもらいたい。
 両親のほうも平民として農村ぐらしをしてもらっている。畑を耕すほうじゃなくて、代官がわりとして。多少の脱税は見逃すつもりだ。

「……では、御兄弟にも配慮しておきます」

「ん? なにを?」

「いえ、国交の話です。優先度をあげておきます」

 なんか、変だった気がするけど。
 ま、ひとまず、外出の件は了承を取れたということでいいかな。

「ところで、不在の時の色々な処理はどうされるおつもりですか?」

「え、あ、どうにでもなるわよ」

 知らん。考えていたら三泊四日とかできない。今でも一泊二日すら厳しいんだから。
 にこりと笑われた。
 ぞっとするような笑いだ。

「特別報酬をいただければ、多少はがんばります」

「そんなのでいいの?」

 説教されるかと思った。なにせこの分野では私はちょっとできるかも?程度だ。それなのに女王様している。遊んで暮らさず、真面目にしている。

「ええ、ですから、ちょっとこちらを見てもらっていいですか」

「なに?」

 近寄って彼の手元の紙へ視線を落とす。

「ど、れ?」

 と問うときにはもう近かった。

「…………では、今日はこの程度で」

 触れた唇の冷たさとその行動に固まっている間に、彼は立ち上がって部屋を出ていった。なんか素早いのか、私の頭が死んでいるのか。
 脳細胞が、活動を止めたかもしれない。

「このていど?」

 今、キスされたんですけど!?
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