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おうちにかえりたい編
鳥籠
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特に何事もなく、聖女様を送るお仕事を終えて部屋に戻る。途中でレオンを見かけたけど、何か言われる前に逃げた。
いや、必要だったけど、やらかした自覚はあるんだ。一応。
部屋に戻ればユリアが一人だった。護衛もいなくて不審に思えば。
「聖女様、行方不明事件が起きまして」
皆かり出されたと。
……うん。お茶してたけど、あれ、独断だったんだ。なんというか無防備すぎる。この後は警備が強化されるかな。それはちょっと都合が悪い。
「罠かな?」
ユリアに紙を渡す。注意深く正面からこちらを見ないような態度が奇妙で視線を逸らした。
そのままソファに座る。なんだか朝から疲れたような気しかしない。
「わたしを連れて、逃げて」
眉を寄せて、なんですこれと言っている。
去り際に聖女にもらった紙。
初対面に近い男に渡すものではないよ。
悪い男かも知れないだろう?
紙をうけとり二つに破いた。証拠を隠滅する必要はある。
「騙されてるなんてかわいい」
ニヤニヤしながら紙を細切れにしているとばさりと布が降ってきた。
「本気でやばいので。やめてください。あ、性別変えてみます? 今なら私やれる気がします! ぜひとも調合しに戻って良いですか」
ものすごい早口で、一息だった。
なんのためにそんな大きな一枚布を持っていたのかと思えば。
「……悪かったから、布被せないで」
外そうとすると止められる。ソファ越しにうしろからぎゅっととかちょっと首が絞まる気が。
「目の毒。ときめきまくりなので、本気でやめてって言ってるじゃないですか」
「わかんないなぁ」
「性別変えるんじゃなきゃ、分裂します? いいんですよ。いっぱいになっても」
マジすぎる声に恐怖しか感じない。見えないからなおさらだ。
今、薬ぶっかけられないよね?
「そんなわけで、さらってくる前に確認したいから今日は外泊」
「……は? 私、一人なんですか? 本気ですか?」
「そうだけど?」
「一緒にいきましょう」
ばさりと布が無くなった。髪がぼさぼさになるからやめて欲しいなぁ。
正面から見つめ合ったけど。
「むり」
ユリアが涙目で可愛かったけど。偽姫様が動きそうで怖いとか訴えられても目を逸らすしかない。まあ、確かにね。そんな怖い話もあったね。
「明日、私が死んでいたら、疑ってください……」
怨んでますと顔に書いてあった。ユリア、ごめんね。
一応、オスカーには頼んでおくから。
気楽に一人でお出かけである。
いつかのようなお祭りの雰囲気はない。それどころか、沈み込んだ雰囲気すらする。元々このくらいの雰囲気だったのだろうか。
私は以前を知らないから比べようもない。
さて、完全に閉店仕様になっているローガン商会。
店内に店員もいそうな気配はなく、ダメもとで扉を開けた。
「あいた」
薄暗い店内に明かりがともる。ローガンが驚いたような顔をしていた。
「おや、お久しぶり」
「そうね」
オスカーが帰ってくると思ったんですけどね。と続けられたから、そのために開けてあったらしい。
不用心と言いたいが、ここに入った盗人は大変な目にしかあわないだろうから。
「誰もいないけど、せっかくだから奥へ……」
「鳥籠が見たい。そろそろ捕まえるから」
部屋の奥へと勧めるローガンを遮って用件を告げる。
「案内を」
「ローガンが来て?」
断るわけ無いわよね?
笑顔に圧を込めて言えば、諦めたように項垂れた。
「あー、はい。あの野郎、へましたな」
その後続いた罵詈雑言の類は聞き流すことにした。ローガン、時々兄様とあんな感じの言い合いしているから意外でもないけど。
「それで、どうするの」
「着替えはしてもらわないと連れて行けない」
何事もなかったように奥へ再び勧められる。まあ、ジニーの格好のままで見に行くわけにもいかないか。
「使用人だけがちょっと困っている。最低限のモノは必要だけど、あまり好意的になられても困るし、虐げられても困る」
「今は、捕まえておくのが必要だから。貴族のお嬢様が極秘療養中くらいで、話には取り合わないように言い含めて置けばいいんじゃない?」
どこの国でも全くない、という話ではないでしょうし。
どこか心を壊してしまう理由なんて山ほどある。
「どういう気持ちになるかしら? どれほど依存してくれるかしら?」
「……陛下もそう言うところあるけど、一応、言っておくからな」
「なに?」
「弱いモノは弱いままではいないし、強いモノも強いままではいない。足下掬われないように」
「私はこんなにも無力よ?」
返答が呆れたようなため息なのが納得がいかない。
以前、訪れた衣装部屋に再び案内されたが、今日は誰も他にいないという。誰かを呼び戻してから案内させようとしていたようだ。
着替えも出来ないお姫様ではないので、適当に着替える。ふくらはぎの真ん中くらいの丈は久しぶりだ。
明るい金色の付け髪を付ければ、すくなくともジニーを想定されることはないだろう。
「ずいぶん可愛らしくしたな。可愛い可愛い」
なにか愛玩動物を可愛がるような可愛いだった。
姉妹だけではなく、兄弟たちもなにかにつけてかっこいいと褒めていた気がする。一部弟には可愛いと言って泣かれたとかなんとか。
荷馬車しか残っていないということで、荷台か御者台に一緒に乗るかとと言われ、御者台に乗ることにした。
町外れにあるということで、中心部からは結構かかる。
「それで、お姫様の秘密のお話はなにかな?」
「レオンとはどういうつきあい?」
「なんか、浮気を問い詰められている気分が。
いや、真面目にやるよ。拠点を築くときにちょっともめて、そのときからだから二年くらい? そこらの情報屋より正確で、膨大な量を扱っている。魔法使いじゃないか、と疑うくらいにはおかしい」
「……なら、警告しておけば良かったんじゃない?」
「知ったら、排除するだろう? 会いもせずに」
会うかどうかはわからないけど、使えるとか、利用する以前に邪魔すぎるから最初に排除対象にはしたかも。
「どうかなー」
曖昧に答えたけど、ほぼばれている。十数年に及ぶつきあいというのは侮れない。
「今、抜けられると軍部が混乱する。悪くすると内乱が始まる。程度のことは認識しているだろう?」
「そうね、思ったよりも王族が権力を握っていなそうな気配がするもの。独立組織に近いけど、普通ではないわよね?」
「大体は誰かが首根っこ掴んでおくもんだ。殿下はそこまでの技量がない、というよりそこまで目立ってしまうと王位継承の問題が発生してしまう」
「裏で押さえているとか?」
「青と黒は押さえているが、黄は手に負えないだろう。一番上でも言うことを聞かせるなら、レオンを通さなければ動かない。
あれはもはやレオンの手の内だ」
「イヤになるくらい有能ね」
「少なくとも半月後には誰か来ると言っていたから、それまでは生かしとけよ。来る前に大混乱になったら有無を言わさず、国外に連れて行くからな」
なにか、死にそうなフラグが立っているんだろうか。
……いや、立っているな。
王の動向が読めない以上、これ以上ないほど危ないんだ。
「さっさと逃げてくれればいいけど」
じっと探るように見られた。
「なに?」
「さっさと始末しておけば良かった」
……さっきまでと言っていること違うよね?
屋敷というよりは小さな家という感じだった。
しかし、外を覆う壁が異常だ。門扉は小さい。
「思ったよりも小さいのね」
「地下室があるよ。使うかどうかはわからないけどね」
庭はきちんと整えられていた。これは元々らしい。売り主がワケありで、そのわけは知らない方が良いと言われた。
ローガンの隠し事はまだまだ続くようだ。あまり、良い話ではないのだろうけど。
一体、誰を監禁していたんだろうか。
「そっちに入れようかしら」
それはどうかと言う視線を向けられた。付きっきりでというなら可能だけど、そんな暇まではないから隠れ住んでもらう程度だろうか。
「防犯は?」
「内側からは開かない。この壁を越えるのは、普通無理だろ」
普通じゃない二人の目測なんて当てになるんだろうか。この壁は少なくとも身長を優に超している。
私はローガンなら上れる。余裕だ。
「普通なら、むりだろ」
同じ言葉を繰り返された。おまえは言外に普通じゃねぇと言われた気がする。納得がいかないが直接言われたわけでもないし。
家の中を確認したが、本当に普通の家だった。窓が開かないようになっているとか、あちこちに鍵がかけられるようになっていたり、台所が別棟になっているとか気になる所はあるけど。
地下室は地下牢ではなかった。
中々に快適そうではあるが、どこか子供っぽい。
「鍵は?」
「束である。出入り口くらいは複製を作っといた。他はどうする?」
「預かっておいて。探されたりしたら面倒」
「わかった」
見るモノはみた。
外に出れば、既に薄暗い。
「さて、どこか泊めて欲しいんだけど」
「空き部屋使えたかわからないな。俺は管理していない。教会にでも行けば?」
「じゃ、寄っていってよ」
イーサンのゴハンはおいしい。今なら夕食にありつけるかも知れない。
そのまま家と門扉の鍵を閉めて荷馬車に乗る。
教会に着いたが、イーサンはいなかった。真っ暗でさすがに誰もいないのが外からでもわかる。
「……待っても帰ってくるかな?」
「危ないから帰るか。最悪、俺の部屋を使えよ。誰かは帰ってきてるとは思うが」
「宿屋とか泊まっても良いよ」
「やめとけ。女一人で泊まれるようなところはない」
それなりのお値段の所には泊まれるだろうけど、目立つ。そもそも紹介がなければ入れないかもしれないし。
それにしてもイーサンはどこに行ったんだろうか?
一人でふらふら出歩いたりする方ではあるんだけど、夜には自宅にいたい派だったはずだ。ブラック労働反対と兄様とがしっと手を握る感じで。
遊び、というのもあまり考えがたい。
そんなことをつらつら考えているうちに店まで戻ってきた。
店内は灯りが付いている。誰かは帰ってきているようだ。
中に入れば三人ほどが不安そうな顔で待っていた。ローガンは書き置きの一つも残さずに出て行ったんだろうか。
「あ、お嬢様」
「商会長、デートですか」
「冗談言うな。俺が殺される」
……まあ、兄様は、ローガンには一人の妹もくれてやるものかと言っていた。ついでに言えば、生まれたばかりの時の娘さえ、おまえにはやらないと言っていた。
その後、モノじゃないんだからと説教されていたが、考えを改めていたような気はしない。
誰とは言わないが、実は初恋だった妹が複数、現在も初恋中だったりする妹がいる。箝口令を敷いているので本人は元より兄様には伝わることはないだろう。
後数年したら、どうなるかはわからない。
姉様とお似合いですのにと妙に勧められてもいたけど、ちょっと、お兄ちゃん感が強すぎる。
「なに?」
「別に」
不審そうに見てくるようなところが、察しがいい。数年後が楽しみだ。
「お疲れでしょう? こちらへどうぞ」
その夜はこちらは問題がなかった。
いや、必要だったけど、やらかした自覚はあるんだ。一応。
部屋に戻ればユリアが一人だった。護衛もいなくて不審に思えば。
「聖女様、行方不明事件が起きまして」
皆かり出されたと。
……うん。お茶してたけど、あれ、独断だったんだ。なんというか無防備すぎる。この後は警備が強化されるかな。それはちょっと都合が悪い。
「罠かな?」
ユリアに紙を渡す。注意深く正面からこちらを見ないような態度が奇妙で視線を逸らした。
そのままソファに座る。なんだか朝から疲れたような気しかしない。
「わたしを連れて、逃げて」
眉を寄せて、なんですこれと言っている。
去り際に聖女にもらった紙。
初対面に近い男に渡すものではないよ。
悪い男かも知れないだろう?
紙をうけとり二つに破いた。証拠を隠滅する必要はある。
「騙されてるなんてかわいい」
ニヤニヤしながら紙を細切れにしているとばさりと布が降ってきた。
「本気でやばいので。やめてください。あ、性別変えてみます? 今なら私やれる気がします! ぜひとも調合しに戻って良いですか」
ものすごい早口で、一息だった。
なんのためにそんな大きな一枚布を持っていたのかと思えば。
「……悪かったから、布被せないで」
外そうとすると止められる。ソファ越しにうしろからぎゅっととかちょっと首が絞まる気が。
「目の毒。ときめきまくりなので、本気でやめてって言ってるじゃないですか」
「わかんないなぁ」
「性別変えるんじゃなきゃ、分裂します? いいんですよ。いっぱいになっても」
マジすぎる声に恐怖しか感じない。見えないからなおさらだ。
今、薬ぶっかけられないよね?
「そんなわけで、さらってくる前に確認したいから今日は外泊」
「……は? 私、一人なんですか? 本気ですか?」
「そうだけど?」
「一緒にいきましょう」
ばさりと布が無くなった。髪がぼさぼさになるからやめて欲しいなぁ。
正面から見つめ合ったけど。
「むり」
ユリアが涙目で可愛かったけど。偽姫様が動きそうで怖いとか訴えられても目を逸らすしかない。まあ、確かにね。そんな怖い話もあったね。
「明日、私が死んでいたら、疑ってください……」
怨んでますと顔に書いてあった。ユリア、ごめんね。
一応、オスカーには頼んでおくから。
気楽に一人でお出かけである。
いつかのようなお祭りの雰囲気はない。それどころか、沈み込んだ雰囲気すらする。元々このくらいの雰囲気だったのだろうか。
私は以前を知らないから比べようもない。
さて、完全に閉店仕様になっているローガン商会。
店内に店員もいそうな気配はなく、ダメもとで扉を開けた。
「あいた」
薄暗い店内に明かりがともる。ローガンが驚いたような顔をしていた。
「おや、お久しぶり」
「そうね」
オスカーが帰ってくると思ったんですけどね。と続けられたから、そのために開けてあったらしい。
不用心と言いたいが、ここに入った盗人は大変な目にしかあわないだろうから。
「誰もいないけど、せっかくだから奥へ……」
「鳥籠が見たい。そろそろ捕まえるから」
部屋の奥へと勧めるローガンを遮って用件を告げる。
「案内を」
「ローガンが来て?」
断るわけ無いわよね?
笑顔に圧を込めて言えば、諦めたように項垂れた。
「あー、はい。あの野郎、へましたな」
その後続いた罵詈雑言の類は聞き流すことにした。ローガン、時々兄様とあんな感じの言い合いしているから意外でもないけど。
「それで、どうするの」
「着替えはしてもらわないと連れて行けない」
何事もなかったように奥へ再び勧められる。まあ、ジニーの格好のままで見に行くわけにもいかないか。
「使用人だけがちょっと困っている。最低限のモノは必要だけど、あまり好意的になられても困るし、虐げられても困る」
「今は、捕まえておくのが必要だから。貴族のお嬢様が極秘療養中くらいで、話には取り合わないように言い含めて置けばいいんじゃない?」
どこの国でも全くない、という話ではないでしょうし。
どこか心を壊してしまう理由なんて山ほどある。
「どういう気持ちになるかしら? どれほど依存してくれるかしら?」
「……陛下もそう言うところあるけど、一応、言っておくからな」
「なに?」
「弱いモノは弱いままではいないし、強いモノも強いままではいない。足下掬われないように」
「私はこんなにも無力よ?」
返答が呆れたようなため息なのが納得がいかない。
以前、訪れた衣装部屋に再び案内されたが、今日は誰も他にいないという。誰かを呼び戻してから案内させようとしていたようだ。
着替えも出来ないお姫様ではないので、適当に着替える。ふくらはぎの真ん中くらいの丈は久しぶりだ。
明るい金色の付け髪を付ければ、すくなくともジニーを想定されることはないだろう。
「ずいぶん可愛らしくしたな。可愛い可愛い」
なにか愛玩動物を可愛がるような可愛いだった。
姉妹だけではなく、兄弟たちもなにかにつけてかっこいいと褒めていた気がする。一部弟には可愛いと言って泣かれたとかなんとか。
荷馬車しか残っていないということで、荷台か御者台に一緒に乗るかとと言われ、御者台に乗ることにした。
町外れにあるということで、中心部からは結構かかる。
「それで、お姫様の秘密のお話はなにかな?」
「レオンとはどういうつきあい?」
「なんか、浮気を問い詰められている気分が。
いや、真面目にやるよ。拠点を築くときにちょっともめて、そのときからだから二年くらい? そこらの情報屋より正確で、膨大な量を扱っている。魔法使いじゃないか、と疑うくらいにはおかしい」
「……なら、警告しておけば良かったんじゃない?」
「知ったら、排除するだろう? 会いもせずに」
会うかどうかはわからないけど、使えるとか、利用する以前に邪魔すぎるから最初に排除対象にはしたかも。
「どうかなー」
曖昧に答えたけど、ほぼばれている。十数年に及ぶつきあいというのは侮れない。
「今、抜けられると軍部が混乱する。悪くすると内乱が始まる。程度のことは認識しているだろう?」
「そうね、思ったよりも王族が権力を握っていなそうな気配がするもの。独立組織に近いけど、普通ではないわよね?」
「大体は誰かが首根っこ掴んでおくもんだ。殿下はそこまでの技量がない、というよりそこまで目立ってしまうと王位継承の問題が発生してしまう」
「裏で押さえているとか?」
「青と黒は押さえているが、黄は手に負えないだろう。一番上でも言うことを聞かせるなら、レオンを通さなければ動かない。
あれはもはやレオンの手の内だ」
「イヤになるくらい有能ね」
「少なくとも半月後には誰か来ると言っていたから、それまでは生かしとけよ。来る前に大混乱になったら有無を言わさず、国外に連れて行くからな」
なにか、死にそうなフラグが立っているんだろうか。
……いや、立っているな。
王の動向が読めない以上、これ以上ないほど危ないんだ。
「さっさと逃げてくれればいいけど」
じっと探るように見られた。
「なに?」
「さっさと始末しておけば良かった」
……さっきまでと言っていること違うよね?
屋敷というよりは小さな家という感じだった。
しかし、外を覆う壁が異常だ。門扉は小さい。
「思ったよりも小さいのね」
「地下室があるよ。使うかどうかはわからないけどね」
庭はきちんと整えられていた。これは元々らしい。売り主がワケありで、そのわけは知らない方が良いと言われた。
ローガンの隠し事はまだまだ続くようだ。あまり、良い話ではないのだろうけど。
一体、誰を監禁していたんだろうか。
「そっちに入れようかしら」
それはどうかと言う視線を向けられた。付きっきりでというなら可能だけど、そんな暇まではないから隠れ住んでもらう程度だろうか。
「防犯は?」
「内側からは開かない。この壁を越えるのは、普通無理だろ」
普通じゃない二人の目測なんて当てになるんだろうか。この壁は少なくとも身長を優に超している。
私はローガンなら上れる。余裕だ。
「普通なら、むりだろ」
同じ言葉を繰り返された。おまえは言外に普通じゃねぇと言われた気がする。納得がいかないが直接言われたわけでもないし。
家の中を確認したが、本当に普通の家だった。窓が開かないようになっているとか、あちこちに鍵がかけられるようになっていたり、台所が別棟になっているとか気になる所はあるけど。
地下室は地下牢ではなかった。
中々に快適そうではあるが、どこか子供っぽい。
「鍵は?」
「束である。出入り口くらいは複製を作っといた。他はどうする?」
「預かっておいて。探されたりしたら面倒」
「わかった」
見るモノはみた。
外に出れば、既に薄暗い。
「さて、どこか泊めて欲しいんだけど」
「空き部屋使えたかわからないな。俺は管理していない。教会にでも行けば?」
「じゃ、寄っていってよ」
イーサンのゴハンはおいしい。今なら夕食にありつけるかも知れない。
そのまま家と門扉の鍵を閉めて荷馬車に乗る。
教会に着いたが、イーサンはいなかった。真っ暗でさすがに誰もいないのが外からでもわかる。
「……待っても帰ってくるかな?」
「危ないから帰るか。最悪、俺の部屋を使えよ。誰かは帰ってきてるとは思うが」
「宿屋とか泊まっても良いよ」
「やめとけ。女一人で泊まれるようなところはない」
それなりのお値段の所には泊まれるだろうけど、目立つ。そもそも紹介がなければ入れないかもしれないし。
それにしてもイーサンはどこに行ったんだろうか?
一人でふらふら出歩いたりする方ではあるんだけど、夜には自宅にいたい派だったはずだ。ブラック労働反対と兄様とがしっと手を握る感じで。
遊び、というのもあまり考えがたい。
そんなことをつらつら考えているうちに店まで戻ってきた。
店内は灯りが付いている。誰かは帰ってきているようだ。
中に入れば三人ほどが不安そうな顔で待っていた。ローガンは書き置きの一つも残さずに出て行ったんだろうか。
「あ、お嬢様」
「商会長、デートですか」
「冗談言うな。俺が殺される」
……まあ、兄様は、ローガンには一人の妹もくれてやるものかと言っていた。ついでに言えば、生まれたばかりの時の娘さえ、おまえにはやらないと言っていた。
その後、モノじゃないんだからと説教されていたが、考えを改めていたような気はしない。
誰とは言わないが、実は初恋だった妹が複数、現在も初恋中だったりする妹がいる。箝口令を敷いているので本人は元より兄様には伝わることはないだろう。
後数年したら、どうなるかはわからない。
姉様とお似合いですのにと妙に勧められてもいたけど、ちょっと、お兄ちゃん感が強すぎる。
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