ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

文字の大きさ
76 / 160
おうちにかえりたい編

閑話 彼について6

しおりを挟む
 神官と別れたあと急激な眠気に襲われ、宿屋に泊まったあとの記憶がない。
 レオンは、ぼんやりと部屋を見回した。

「……やらかしたか?」

 彼がなにも断りなく、消えることはほとんどない。大体は行き先か帰る時間を伝えておく。
 外はどう見ても昼過ぎのような明るさだ。
 無断外泊を咎められるとはどこの箱入り娘かと思うが、一人で出歩くための条件なのだから仕方ない。

「んー」

 まあ、いいか。
 疲れているし、もう一度寝るか。

 レオンはいろんなものを放棄してもう一度寝ることにした。

 そもそも最近働き過ぎなのだと自分で言い訳をする。もう、なにも見たくない。
 どいつもこいつも人の事を頼りすぎなのだ。計画を考えた当人になんとかしてもらえ。

 ごろごろと寝やすい姿勢を探しているとしゃらりと鎖が鳴った。

 そういえばと思い出して、首飾りを取り出す。
 太陽を模したと言われる古い形のものだ。わりとありがちそうだが同一となるとどの文献からもみつけていない。
 透明に近い月光石自体が今は珍しいらしくそれだけでも古いものとわかる。暗いとわずかに光るが、服を透かすほどではない。

 なにを考えてこれをくれたのかはわからない。
 これをくれたあのヒゲのじいさんは今も昔もこの先もずっとじいさんのまま生きていきそうだ。失礼な感想を思いながら服の下に戻す。
 なぜ、あの時熱くなったのだろうか。何かから守ってくれたのだろうか。

 別に危ないものも危ないこともなかったように思う。
 強いて言えば、ジニーがやたらきらきらしていたくらいだろうか。別な意味では危険物だ。

 遠くから可愛いと見ている分にはいいかもしれないが、近くにいるのは思いの外しんどい。錯覚してしまいそうになる。
 違うのだと自分に言い聞かせてすら、この状態だ。

 特別なのだと思いたくなる。

「馬鹿らしい」

 そうであっても望みなどない。
 物語が終わったら、おしまい。続きはない。

 幸せに暮らしました、なんて、これにはない。

 レオンは大きくため息をついた。きつく目を閉じて、頭まで毛布をかぶる。今ばかりは、闇に身を浸したい。
 緩やかに眠りの波が意識をさらっていった。


 城に戻ったレオンを待っていたのは副官だった。城門で待っている念の入れようだった。
 あ、怒ってる。逃げようかと思わず考えるほどだった。

「遅いお帰りですね」

「……いや、注文してたものを取りに行ってて」

 レオンは眼鏡はつけたままにしていた。珍しい色のガラスで、特別な品なのは見てわかる。

「そうですか。連絡くらい必要だと思いますが、わかりました」

 納得していないけれど、この場ではこの程度で済ませてやろうという気持ちが見えた。特別に見る必要もないくらいには付き合いは長い。
 なんだか城内が浮ついているようでなにがあったか彼に問うても返答はなかった。
 だいぶ、お怒りだ。

 レオンは大人しく叱られてますという顔で付いていく。
 どこに行ったかなどはばれていないとは思うがどうかはわからない。

 執務室へ連れて行かれた。他に誰もいない。
 机の上の書類だけが分類されていた。

 何事もなかったように確認し始めたレオンに副官がため息をついた。

「潮時では?」

 そろそろ言われると思っていた。
 だから、意図的に少し遠ざけていたのはどうやらばれてしまったらしい。レオンは薄く笑みをつくる。

「なにが?」

「ここにいてはいけませんよ?」

「あっちの準備はまだだろ」

 人も物も動かすには時間がかかる。出来る限り内密にとなれば、そう簡単に済む話ではない。
 ローガンと話しとかないとなとレオンは思い出す。城下に行ったついでに会ってくれば良かった。

 噂によればそろそろ使者がくるらしい。おそらく、彼女の兄弟の誰かは入っているはずだ。あの王ならば他人任せになどしないだろう。
 来るなら国内にいるはずの弟たちの誰かではないかと思っている。

「そうですけど、貴方が拘束された方がまずいのはわかりますよね?」

 たぶん、そこの認識がずれている。レオンはもうしばらく黙っていることにした。
 あの騎士団は、レオンでしか動かせない。そうつくってきたのだから。それを別の誰かに譲るなら、大義名分がいる。

 かなり前から、きちんと準備だけを進めていた。無用かもしれないと思っていたが、役に立って何よりだ。
 もっとも魔女の気持ちが変わったら、意味などなくなってしまうが。散々飲ませてきてそれをされたらさすがに恨む。

「なにより、ウィリアム様がごねてますよ。知らないし、関係ないとか言い出して困ってます」

「あー、なんだって、俺にばかり言うわけ?」

 いいそうだけど。急な話で悪いのだが、王位を狙わないかと言われて正気かと返すタイプだ。権力欲なんて持ち合わせていない。
 その血統が正統でなければ、レオンもそのままにしておいただろう。他に誰もいないからという理由は彼も納得しないに違いない。

「なにもかもが急で突然でしたからね。機会があるのは良かったのですが」

「わかったよ。発つよ」

 最後に会うのも別に悪くはない。
 特に反論もなく言うレオンに副官は眉を寄せたまま釘を刺す。

「それで戻ってこないでくださいね」

「……なんで?」

「わかんないって顔しても騙されませんからね。
 他の方なら、良かったんですけどね。あの方だけは、ダメです。言われなくてもわかっていると思いますけどね」

「わかっているよ」

 軽く言えただろうか。何でもないことのように。何か考えがあって、そう振る舞っていたのだと誤解されるほどに。
 もっとも最初はそうだったのだから、誤解と言うほどでもないかと思い直す。

「夜に発つ。目立たない方がいいだろ」

「門番には伝えておきますが、十分にご注意ください」

 はいはいと副官に答えて私室の方に戻る。

「困ったなぁ」

 あのお姫様の顔が見たい。
 外は夕闇が近づいていた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

ある平凡な女、転生する

眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。 しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。 次に、気がついたらとっても良い部屋でした。 えっ、なんで? ※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑) ※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。 ★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...