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おうちにかえりたい編
閑話 彼について6
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神官と別れたあと急激な眠気に襲われ、宿屋に泊まったあとの記憶がない。
レオンは、ぼんやりと部屋を見回した。
「……やらかしたか?」
彼がなにも断りなく、消えることはほとんどない。大体は行き先か帰る時間を伝えておく。
外はどう見ても昼過ぎのような明るさだ。
無断外泊を咎められるとはどこの箱入り娘かと思うが、一人で出歩くための条件なのだから仕方ない。
「んー」
まあ、いいか。
疲れているし、もう一度寝るか。
レオンはいろんなものを放棄してもう一度寝ることにした。
そもそも最近働き過ぎなのだと自分で言い訳をする。もう、なにも見たくない。
どいつもこいつも人の事を頼りすぎなのだ。計画を考えた当人になんとかしてもらえ。
ごろごろと寝やすい姿勢を探しているとしゃらりと鎖が鳴った。
そういえばと思い出して、首飾りを取り出す。
太陽を模したと言われる古い形のものだ。わりとありがちそうだが同一となるとどの文献からもみつけていない。
透明に近い月光石自体が今は珍しいらしくそれだけでも古いものとわかる。暗いとわずかに光るが、服を透かすほどではない。
なにを考えてこれをくれたのかはわからない。
これをくれたあのヒゲのじいさんは今も昔もこの先もずっとじいさんのまま生きていきそうだ。失礼な感想を思いながら服の下に戻す。
なぜ、あの時熱くなったのだろうか。何かから守ってくれたのだろうか。
別に危ないものも危ないこともなかったように思う。
強いて言えば、ジニーがやたらきらきらしていたくらいだろうか。別な意味では危険物だ。
遠くから可愛いと見ている分にはいいかもしれないが、近くにいるのは思いの外しんどい。錯覚してしまいそうになる。
違うのだと自分に言い聞かせてすら、この状態だ。
特別なのだと思いたくなる。
「馬鹿らしい」
そうであっても望みなどない。
物語が終わったら、おしまい。続きはない。
幸せに暮らしました、なんて、これにはない。
レオンは大きくため息をついた。きつく目を閉じて、頭まで毛布をかぶる。今ばかりは、闇に身を浸したい。
緩やかに眠りの波が意識をさらっていった。
城に戻ったレオンを待っていたのは副官だった。城門で待っている念の入れようだった。
あ、怒ってる。逃げようかと思わず考えるほどだった。
「遅いお帰りですね」
「……いや、注文してたものを取りに行ってて」
レオンは眼鏡はつけたままにしていた。珍しい色のガラスで、特別な品なのは見てわかる。
「そうですか。連絡くらい必要だと思いますが、わかりました」
納得していないけれど、この場ではこの程度で済ませてやろうという気持ちが見えた。特別に見る必要もないくらいには付き合いは長い。
なんだか城内が浮ついているようでなにがあったか彼に問うても返答はなかった。
だいぶ、お怒りだ。
レオンは大人しく叱られてますという顔で付いていく。
どこに行ったかなどはばれていないとは思うがどうかはわからない。
執務室へ連れて行かれた。他に誰もいない。
机の上の書類だけが分類されていた。
何事もなかったように確認し始めたレオンに副官がため息をついた。
「潮時では?」
そろそろ言われると思っていた。
だから、意図的に少し遠ざけていたのはどうやらばれてしまったらしい。レオンは薄く笑みをつくる。
「なにが?」
「ここにいてはいけませんよ?」
「あっちの準備はまだだろ」
人も物も動かすには時間がかかる。出来る限り内密にとなれば、そう簡単に済む話ではない。
ローガンと話しとかないとなとレオンは思い出す。城下に行ったついでに会ってくれば良かった。
噂によればそろそろ使者がくるらしい。おそらく、彼女の兄弟の誰かは入っているはずだ。あの王ならば他人任せになどしないだろう。
来るなら国内にいるはずの弟たちの誰かではないかと思っている。
「そうですけど、貴方が拘束された方がまずいのはわかりますよね?」
たぶん、そこの認識がずれている。レオンはもうしばらく黙っていることにした。
あの騎士団は、レオンでしか動かせない。そうつくってきたのだから。それを別の誰かに譲るなら、大義名分がいる。
かなり前から、きちんと準備だけを進めていた。無用かもしれないと思っていたが、役に立って何よりだ。
もっとも魔女の気持ちが変わったら、意味などなくなってしまうが。散々飲ませてきてそれをされたらさすがに恨む。
「なにより、ウィリアム様がごねてますよ。知らないし、関係ないとか言い出して困ってます」
「あー、なんだって、俺にばかり言うわけ?」
いいそうだけど。急な話で悪いのだが、王位を狙わないかと言われて正気かと返すタイプだ。権力欲なんて持ち合わせていない。
その血統が正統でなければ、レオンもそのままにしておいただろう。他に誰もいないからという理由は彼も納得しないに違いない。
「なにもかもが急で突然でしたからね。機会があるのは良かったのですが」
「わかったよ。発つよ」
最後に会うのも別に悪くはない。
特に反論もなく言うレオンに副官は眉を寄せたまま釘を刺す。
「それで戻ってこないでくださいね」
「……なんで?」
「わかんないって顔しても騙されませんからね。
他の方なら、良かったんですけどね。あの方だけは、ダメです。言われなくてもわかっていると思いますけどね」
「わかっているよ」
軽く言えただろうか。何でもないことのように。何か考えがあって、そう振る舞っていたのだと誤解されるほどに。
もっとも最初はそうだったのだから、誤解と言うほどでもないかと思い直す。
「夜に発つ。目立たない方がいいだろ」
「門番には伝えておきますが、十分にご注意ください」
はいはいと副官に答えて私室の方に戻る。
「困ったなぁ」
あのお姫様の顔が見たい。
外は夕闇が近づいていた。
レオンは、ぼんやりと部屋を見回した。
「……やらかしたか?」
彼がなにも断りなく、消えることはほとんどない。大体は行き先か帰る時間を伝えておく。
外はどう見ても昼過ぎのような明るさだ。
無断外泊を咎められるとはどこの箱入り娘かと思うが、一人で出歩くための条件なのだから仕方ない。
「んー」
まあ、いいか。
疲れているし、もう一度寝るか。
レオンはいろんなものを放棄してもう一度寝ることにした。
そもそも最近働き過ぎなのだと自分で言い訳をする。もう、なにも見たくない。
どいつもこいつも人の事を頼りすぎなのだ。計画を考えた当人になんとかしてもらえ。
ごろごろと寝やすい姿勢を探しているとしゃらりと鎖が鳴った。
そういえばと思い出して、首飾りを取り出す。
太陽を模したと言われる古い形のものだ。わりとありがちそうだが同一となるとどの文献からもみつけていない。
透明に近い月光石自体が今は珍しいらしくそれだけでも古いものとわかる。暗いとわずかに光るが、服を透かすほどではない。
なにを考えてこれをくれたのかはわからない。
これをくれたあのヒゲのじいさんは今も昔もこの先もずっとじいさんのまま生きていきそうだ。失礼な感想を思いながら服の下に戻す。
なぜ、あの時熱くなったのだろうか。何かから守ってくれたのだろうか。
別に危ないものも危ないこともなかったように思う。
強いて言えば、ジニーがやたらきらきらしていたくらいだろうか。別な意味では危険物だ。
遠くから可愛いと見ている分にはいいかもしれないが、近くにいるのは思いの外しんどい。錯覚してしまいそうになる。
違うのだと自分に言い聞かせてすら、この状態だ。
特別なのだと思いたくなる。
「馬鹿らしい」
そうであっても望みなどない。
物語が終わったら、おしまい。続きはない。
幸せに暮らしました、なんて、これにはない。
レオンは大きくため息をついた。きつく目を閉じて、頭まで毛布をかぶる。今ばかりは、闇に身を浸したい。
緩やかに眠りの波が意識をさらっていった。
城に戻ったレオンを待っていたのは副官だった。城門で待っている念の入れようだった。
あ、怒ってる。逃げようかと思わず考えるほどだった。
「遅いお帰りですね」
「……いや、注文してたものを取りに行ってて」
レオンは眼鏡はつけたままにしていた。珍しい色のガラスで、特別な品なのは見てわかる。
「そうですか。連絡くらい必要だと思いますが、わかりました」
納得していないけれど、この場ではこの程度で済ませてやろうという気持ちが見えた。特別に見る必要もないくらいには付き合いは長い。
なんだか城内が浮ついているようでなにがあったか彼に問うても返答はなかった。
だいぶ、お怒りだ。
レオンは大人しく叱られてますという顔で付いていく。
どこに行ったかなどはばれていないとは思うがどうかはわからない。
執務室へ連れて行かれた。他に誰もいない。
机の上の書類だけが分類されていた。
何事もなかったように確認し始めたレオンに副官がため息をついた。
「潮時では?」
そろそろ言われると思っていた。
だから、意図的に少し遠ざけていたのはどうやらばれてしまったらしい。レオンは薄く笑みをつくる。
「なにが?」
「ここにいてはいけませんよ?」
「あっちの準備はまだだろ」
人も物も動かすには時間がかかる。出来る限り内密にとなれば、そう簡単に済む話ではない。
ローガンと話しとかないとなとレオンは思い出す。城下に行ったついでに会ってくれば良かった。
噂によればそろそろ使者がくるらしい。おそらく、彼女の兄弟の誰かは入っているはずだ。あの王ならば他人任せになどしないだろう。
来るなら国内にいるはずの弟たちの誰かではないかと思っている。
「そうですけど、貴方が拘束された方がまずいのはわかりますよね?」
たぶん、そこの認識がずれている。レオンはもうしばらく黙っていることにした。
あの騎士団は、レオンでしか動かせない。そうつくってきたのだから。それを別の誰かに譲るなら、大義名分がいる。
かなり前から、きちんと準備だけを進めていた。無用かもしれないと思っていたが、役に立って何よりだ。
もっとも魔女の気持ちが変わったら、意味などなくなってしまうが。散々飲ませてきてそれをされたらさすがに恨む。
「なにより、ウィリアム様がごねてますよ。知らないし、関係ないとか言い出して困ってます」
「あー、なんだって、俺にばかり言うわけ?」
いいそうだけど。急な話で悪いのだが、王位を狙わないかと言われて正気かと返すタイプだ。権力欲なんて持ち合わせていない。
その血統が正統でなければ、レオンもそのままにしておいただろう。他に誰もいないからという理由は彼も納得しないに違いない。
「なにもかもが急で突然でしたからね。機会があるのは良かったのですが」
「わかったよ。発つよ」
最後に会うのも別に悪くはない。
特に反論もなく言うレオンに副官は眉を寄せたまま釘を刺す。
「それで戻ってこないでくださいね」
「……なんで?」
「わかんないって顔しても騙されませんからね。
他の方なら、良かったんですけどね。あの方だけは、ダメです。言われなくてもわかっていると思いますけどね」
「わかっているよ」
軽く言えただろうか。何でもないことのように。何か考えがあって、そう振る舞っていたのだと誤解されるほどに。
もっとも最初はそうだったのだから、誤解と言うほどでもないかと思い直す。
「夜に発つ。目立たない方がいいだろ」
「門番には伝えておきますが、十分にご注意ください」
はいはいと副官に答えて私室の方に戻る。
「困ったなぁ」
あのお姫様の顔が見たい。
外は夕闇が近づいていた。
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