ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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聖女と魔王と魔女編

女王陛下のお仕事2

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 なにが悪かったのか、わからないと彼らは言った。




 予想通りというか予想通り過ぎて、罠なのではと疑うくらいにあっさりと彼らは夜に先々代の王を助けにきた。しかもぞろぞろと引きつれて。
 これはクーデーターでもやらかすつもりじゃないだろうか。この砦を乗っ取るくらいの気概がなければ完全武装などしない。
 ガチャガチャうるさいんだよな、あれという感覚はないようだ。

 でもまあ、寝込みを襲ってと考えると成功率は半々と言ったところか。残念ながら、今、兄様がいるのでゼロになったけど。

 私たちと一緒に隠れていたウィリアムもさすがに表情がない。自らの部下がこうまで裏切っていたらさすがにくるものがある。幸いというべきか昼間に彼の部屋にやってきたものたちはいないようだ。
 あれはあれでウィリアムのためにとか考えていたような人たちだから良かった。あの中からいたら、人間不信になりそうだ。

 なお、先々代の王はユリア処方の意識はあるけど、話はできないお薬を服用済みだ。拷問用だろうかと聞けば、風邪ひいて声が出ないのと同じような状態になるだけと説明された。
 いや、拷問の件は……。

 とにかく、相手から私たちの動向が漏れることもない。そして、なにも見聞きしないということも。

「……で、どうするんだ」

 丸投げする気満々の兄様からこそっと問われた。
 相手側ががやがややっているので、多少話したところで気がつかれることもないだろう。本当に油断しているというか……。
 この部屋、入ったら違和感ありまくりなはずなんだけど。
 こちらからは見えるけれど、相手側からは暗くて見えないように隠れる場所を用意している。その結果、かなり不自然な箱とかある。
 誰かはおかしいと思わないのかな。

 もうそろそろ、人のことを舐めた真似をというよりもあらぁ、可愛いわねぇ、くらいの気持ちになってきた。
 慈悲が私にも備わってきたのかしら。

「戸締りは終わってるよね」

「終わっているが、気がついて開けられている可能性は否定できない」

「逃げそうなところはすでに人を置いた」

「では、女王のお仕事をすることにするわ。
 まずは、相手の言い分というやつをきいてあげましょ。私って優しい女王様だから」

「……そーだな」

「まあ、そうかな」

 二人から目をそらされて、同意されたのだけどどういうこと!?

 気を取り直して、兄様に先行してもらう。ウィリアムには扉を閉めに。さすがに部下の捕縛を頼む気にはならなかった。油断するとは思えないけど、万が一というものもあるし。

 さて、つまらないという顔の兄様が呼ぶので、楚々とした態度で現れよう。悲し気な表情を作るのも忘れない。

「なぜこのようなことを?」

「簒奪者が偉そうに。正当な王へ王冠をお返しせよ」

 兄様にあっさり転がされて、鎧の重さで上手く立ち上がれず、立ち上がろうとするそばから兄様に転がされる無限ループ中にしては、中々いう。
 段々、効率よく、転がすには? というパズル感覚になっている兄様を感じる。

 なにこれ、笑うところ?
 微妙な笑いがこみ上げてきたので、下を向くことにした。ショックを受けているようには見えるだろう。

「そんな、簒奪なんて……。
 私は魔女様からお預かりしただけです。お望みであればいつでも、返還いたしますよ」

「裏切者の魔女の言うことなど聞くものか。
 あれは約束していたはずなんだ。殿下も、大人しくしたがえばよかったでしょう。地位も妻も国も手に入ると言うのに。今からでも遅くありません」

 ……そっちかー。ほぼほぼ成功していたクーデターがちょっと前にあったからね。自分たちも出来ると思ったんだろう。
 そこまで、バカとは思わなかったな。
 それになんか、ものすっごい、イラっとした。

「そんな簡単に、出来ると思うわけ?」

 十年以上も可能かもわからないことに根回しをするという狂気がわからないのだろうか。
 いや、言ってもわからないだろう。
 だって、彼らは踊らされていたことも気がつかず、音楽がもうないことも知らない。

「ヴァージニア。黙らせようか?」

「……ウィリアム殿に譲ってあげて」

 なんか、ものすっごい怒ってるし。
 後ろにいるはずなんだけど殺気がすごい。彼についていえば、その気にもないのに、望んでもいないのに、押し付けられそうになった立場だ。
 信用していた友人に嵌められ、当人は死ぬとか。
 そこまでされたら、ウィリアムは望みをかなえるしかないと思いつめることさえ考えに入ってるんだから嫌な男だ。

「俺は、王位なんていらないし、王家も終わりにすべきだと思っている。
 魔女の後継は探す。しかし、そこに王家は入らない」

 ウィリアムは淡々と告げる言葉は先々代の王に向けているのだろう。

「そんなっ!」

 どよめきが起きているけどね。そんな欲しがっているように見えたんだろうか。

「俺はあのままでよかった。ただのウィリアムであることを母は願っていた。
 あなたは、ただ一人の妹の願いすら、叶えなかった」

 冷え切った声は責めるでもなく、淡々と。
 これは相当怒りを抱えていたな……。身内だからこそ、よりきついということもある。
 そういうのを黙って飲み込んでたのに限界を超えたんだろう。

 まあ、色々聞かなかったことにしておく。

「全て俺が処理しておきます」

 最終的にウィリアムは悲壮な顔で私に向き合ってくれた。その気持ちはわからないでもないけど。

「証拠とか他の関係性とか吐かせるんで、こっちでお話する」

 素で答えることにした。彼らの前で女王様をやるのはもうないし、彼らがほかの誰かとお話することもないだろう。
 ちらりと罪悪感が見えたのは、まあ、ウィリアムの優しさ。
 私たちのお話、というのは、優しくはないからね。

「まさか、私の目の前で、こんなことをして許されようなんて思ってないよね?」

「兄に頼らねば何もできぬ小娘がなにをっ」

 まだまだ、元気というか。負け惜しみではあると思うけどとりあえず、踏めばいいかな?
 完全武装で隙間にいろいろ差し込める。むしろ、狙ってくれと言われているようだ。

「ふふっ。可愛い小娘ですって。兄様。初めて言われちゃった」

 こんなこともあろうかと用意していた短剣が役に立つ。

「可愛いまではいってないぞ。
 ああ、見ないほうがいいと忠告はしておく」

「そうね。見回りしてきて」

 ウィリアムは私たちの勧告を断った。
 兄様と目くばせして、少しばかり方針を変えることした。

「じゃあ、兄様、お任せしますね。もちろん、兄様がするんじゃありませんからね? 外のゾーイ呼んできますからね」

「わかってる」

 兄様は念押しを鬱陶しそうに言うけれど、後処理の問題というのがある。ここ、川も近くにないし、井戸の水だけだって言うから。

 戸惑ったようなウィリアムの腕を取り、部屋の外に向かう。

「これが、クーデターならば、お姫様は放置されないと思わない?」

 まあ、ユリアな時点で阿鼻叫喚だと思うけどね。

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