ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

文字の大きさ
108 / 160
聖女と魔王と魔女編

護衛騎士は暗躍する6

しおりを挟む

 魔女というのは記録と記憶を継承していくものだ。継承前も継承後も繋がった、私、であることもおかしくはない。だから、意外と言えば意外だった。
 次代も記憶を継承していくなら、次も私である。そう思っていないということだ。
 私以外は私ではない、という認識がなければ魔王を残していくことを気にかけたりしない。

 ずっと一緒にいれるのと笑う人ではなくて良かった。その場合には、きっと、今の私をずっと維持し続けるために次代の意識や記憶なんてのを破壊していくだろうから。
 そんな呪いのような愛情ではなかった。

「それにしても……」

 つい口からこぼれた言葉の続きは言えなかった。
 怪訝そうにユリアが見上げてきたが、頭を撫でておしまいにした。
 今は魔女と別れて、部屋にいる。

 先に兄様のところに行ったはずのユリアがガチギレして私のところに駆け込んできたのだ。
 魔女も目を丸くして、行って行って、あとで話詰めようというくらいの剣幕だった。イリューやソランに太刀打ちできるわけもなく、素通しだったらしい。

「あいつらまとめて、麻痺させて箱詰めして森に捨ててきていいですかっ!」

 まとめて。

 兄様以外もやらかしたってことである。
 人を殺すも生かすもお手の物の薬師様相手に良い度胸だ。戦場や荒事ではお世話になるであろう相手でもあるのに。

 詳細を聞く前に、私は癒しを求めていますと目が据わった状態で言われ、急遽部屋に戻ってジニーとして膝枕をしている今現在。

 なんで? という話は、悪かったからごめんね、で、理由を教えて? と優しくお願いしてからの話だ。
 今は、その話をできそうにない。
 うーうーなにか唸っている。大丈夫? と囁くとびくっとしたから嫌なのかと思えばへにゃと笑うのもよくわからない。

「姫様は、どうしたいんです?」

「うん?」

「ウィリアム様とは婚姻されるのですか?」

「そっち? そうだなぁ。王族同士というのは都合が良いけど、しないと思うよ。
 王権が欲しいってわけじゃないけど、女王という立場は都合がよいところがある。なんかね、皇帝が変わったらしいんだよ」

 皇帝というのは、もう遠いような気もする失恋の相手である。
 もうどうでもいいといえるかは微妙で、でも、話題には出来るようになった。多少、動悸はするけど。これ以外に選べなかったけれど、罪悪感がひたひたと……。
 間違えていたとしても、側にいるのは無理だった。

「それならなおさら人妻のほうがよくないですか?」

「戦利品として奪いに来るかな」

「姫様、もしかして、ここで恩を売って、魔王と魔女を迎撃戦力に加えようとしてません?」

「後ろ盾には最適だろ?」

「……はぁ……。毒殺が必要でしたら、ご用意しますので魔女様とご相談ください。ちゃんと、わからないように急死させてあげますので」

「……うん」

 ユリアのやさしさだと思うけど、それ、どうなのかなぁ……。いざというときには、お願いするけど。

 私は私の大事なものを壊されても側にいなければいけないとは思っていない。
 もう一度というならば、全部捨ててからだ。

「で、なんで、怒ってたの?」

「あのですねぇ、侍女殿からもウィリアム様が素晴らしいことをお勧めしろと言われたんですよ」

「……はい?」

 懲りないというか、なんか、同情しかない。かわいそうに。たぶん、本人はあとで振られるの知っているぞ。なんなら結婚しないと思う。
 魔女の母を持ち、従妹が魔女で、子を持てばその子が女児なら次代の魔女だ。孫が魔女になるのも見るかもしれない。
 それも、資質があわなくても継承をされて壊れてしまうような魔女で。

 もし魔女が魔女であることを捨てるならば、負の連鎖ともいうべき短命は避けられるかもしれない。
 それでも、次を願う誰かがいる限り、いわれるであろう。その子を後継にと。

 彼は、そんなの望まないだろう。
 そう考えると彼も王には向いていない。

「しかも、なんかズタボロで。それを治す方の身にもなってください。お薬ぶちまけて包帯巻いといてと命じてきました」

「……あー、それは、私のせいかも? いや、魔女?」

「犯人のウィリアム殿には、嫌味言っておきました。どうせなら殺せ」

「お手数をおかけしました」

「ジニーは悪くない。うん、デート3回で許す」

 二回も増えた。全然許す気ない。
 じゃあ、ユリアに会えたら聞いておこうと思っていたことを聞いておこう。これまで二人きりで誰にも聞かれないという状況はなかったんだ。

「じゃあ、もう一回デートするから、質問に答えて欲しいな」

「なんですか?」

「蘇生薬はいくつあるの?」

 ユリアの笑顔が凍った。鎌をかけてみただけだったんだけど、当たりだったっぽい。

「そ、そそんなにないですよ。ええ、こう、材料が集まっちゃったんです。ほら、魔物のせいですって」

「そこまで聞いてない」

「ううっ」

 魔物に王城を襲われたときの被害はそれなりにあった。死体はちゃんと埋葬している。しかし、場合によっては傷ばかりで判別できないものもあった。そういう問題もあって、全員家族に戻すこともできず集団葬をしたんだ。もし、そこから一部拝借してもバレないだろうし、気がつくなら私以外いない。
 協力者はイーサン様とローガンあたりだろう。怪しまれずに埋葬に入り込める、もしくは、人のいないときに作業できるものは限られる。そのうえ、これを知られるのはまずい。ほかの誰かを関与させるのも危なすぎるから当人がやったに違いない。

 ため息が出てくる。人が大人しく女王様をやっているのになにを遊んでいたんだか。

「持ってる?」

「一つはあります。残りは王都に。
 アイザック様が、アレだから用意しておいてってイーサン様がおっしゃって、今後作れるかわからないからってついでに量産しちゃったんです」

 ついでで、量産しないでもらいたい。
 アイザック兄様対策で作ったなら仕方ない。いっぱいできたのもまあ、見なかったことにしよう。役に立たないわけではない。

「蘇生率は?」

「期待値で7割です。不具合なくというのならば、4割を切ります。そこは無理させてるのでどうにもなりません」

 そこはきちんと明瞭に答えたもののユリアはすぐに涙目になり、嫌いになっちゃいますかぁと泣きついてくる。

「いやいや、大丈夫だから」

 帰ったら、あの二人には話(じんもん)をしなければいけない。

「それならいいです」

 けろっとした顔で言ってのけたユリアも尋問いるかな?

「……で、兄様のところは大丈夫なの?」

 本来、ユリアが向かった理由についてようやく聞けた。長い遠回りしたものだ。

「鎮痛剤追加しておきましたので、そっちのブツは大丈夫ですよ」

「それならいいけど。
 どこから解決したものかな。私がいなくても、先々代関係は兄様が取り押さえて……いや、無理か」

 手加減し損ねて逃がすか、やりすぎるかの二択な兄様に任せてはいけない。ウィリアムは咄嗟の判断に信用が置けない。顔見知りどころではなく、古くからの知り合いかもしれないからだ。
  無関係な私がしたほうがいい。立ち合いは必要ではあると思うけど。これも処断によっては、後々引きずりそうだ。

「夜に罠はって、朝方までには片付けて、朝から人探し、なんて忙しいんだろ」

「……あの、ジニー?」

「なにかな」

「なんかいい笑顔ですけど、嫌な予感が」

「うん。ちょっと用があるから、また、姫様変わって」

「いやですーっ!!!」

 渾身の拒否をユリアは可愛いとか、頑張ってる偉いもっと頑張ってと篭絡するのには少し骨が折れた。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

処理中です...