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聖女と魔王と魔女編

護衛騎士は暗躍する6

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 魔女というのは記録と記憶を継承していくものだ。継承前も継承後も繋がった、私、であることもおかしくはない。だから、意外と言えば意外だった。
 次代も記憶を継承していくなら、次も私である。そう思っていないということだ。
 私以外は私ではない、という認識がなければ魔王を残していくことを気にかけたりしない。

 ずっと一緒にいれるのと笑う人ではなくて良かった。その場合には、きっと、今の私をずっと維持し続けるために次代の意識や記憶なんてのを破壊していくだろうから。
 そんな呪いのような愛情ではなかった。

「それにしても……」

 つい口からこぼれた言葉の続きは言えなかった。
 怪訝そうにユリアが見上げてきたが、頭を撫でておしまいにした。
 今は魔女と別れて、部屋にいる。

 先に兄様のところに行ったはずのユリアがガチギレして私のところに駆け込んできたのだ。
 魔女も目を丸くして、行って行って、あとで話詰めようというくらいの剣幕だった。イリューやソランに太刀打ちできるわけもなく、素通しだったらしい。

「あいつらまとめて、麻痺させて箱詰めして森に捨ててきていいですかっ!」

 まとめて。

 兄様以外もやらかしたってことである。
 人を殺すも生かすもお手の物の薬師様相手に良い度胸だ。戦場や荒事ではお世話になるであろう相手でもあるのに。

 詳細を聞く前に、私は癒しを求めていますと目が据わった状態で言われ、急遽部屋に戻ってジニーとして膝枕をしている今現在。

 なんで? という話は、悪かったからごめんね、で、理由を教えて? と優しくお願いしてからの話だ。
 今は、その話をできそうにない。
 うーうーなにか唸っている。大丈夫? と囁くとびくっとしたから嫌なのかと思えばへにゃと笑うのもよくわからない。

「姫様は、どうしたいんです?」

「うん?」

「ウィリアム様とは婚姻されるのですか?」

「そっち? そうだなぁ。王族同士というのは都合が良いけど、しないと思うよ。
 王権が欲しいってわけじゃないけど、女王という立場は都合がよいところがある。なんかね、皇帝が変わったらしいんだよ」

 皇帝というのは、もう遠いような気もする失恋の相手である。
 もうどうでもいいといえるかは微妙で、でも、話題には出来るようになった。多少、動悸はするけど。これ以外に選べなかったけれど、罪悪感がひたひたと……。
 間違えていたとしても、側にいるのは無理だった。

「それならなおさら人妻のほうがよくないですか?」

「戦利品として奪いに来るかな」

「姫様、もしかして、ここで恩を売って、魔王と魔女を迎撃戦力に加えようとしてません?」

「後ろ盾には最適だろ?」

「……はぁ……。毒殺が必要でしたら、ご用意しますので魔女様とご相談ください。ちゃんと、わからないように急死させてあげますので」

「……うん」

 ユリアのやさしさだと思うけど、それ、どうなのかなぁ……。いざというときには、お願いするけど。

 私は私の大事なものを壊されても側にいなければいけないとは思っていない。
 もう一度というならば、全部捨ててからだ。

「で、なんで、怒ってたの?」

「あのですねぇ、侍女殿からもウィリアム様が素晴らしいことをお勧めしろと言われたんですよ」

「……はい?」

 懲りないというか、なんか、同情しかない。かわいそうに。たぶん、本人はあとで振られるの知っているぞ。なんなら結婚しないと思う。
 魔女の母を持ち、従妹が魔女で、子を持てばその子が女児なら次代の魔女だ。孫が魔女になるのも見るかもしれない。
 それも、資質があわなくても継承をされて壊れてしまうような魔女で。

 もし魔女が魔女であることを捨てるならば、負の連鎖ともいうべき短命は避けられるかもしれない。
 それでも、次を願う誰かがいる限り、いわれるであろう。その子を後継にと。

 彼は、そんなの望まないだろう。
 そう考えると彼も王には向いていない。

「しかも、なんかズタボロで。それを治す方の身にもなってください。お薬ぶちまけて包帯巻いといてと命じてきました」

「……あー、それは、私のせいかも? いや、魔女?」

「犯人のウィリアム殿には、嫌味言っておきました。どうせなら殺せ」

「お手数をおかけしました」

「ジニーは悪くない。うん、デート3回で許す」

 二回も増えた。全然許す気ない。
 じゃあ、ユリアに会えたら聞いておこうと思っていたことを聞いておこう。これまで二人きりで誰にも聞かれないという状況はなかったんだ。

「じゃあ、もう一回デートするから、質問に答えて欲しいな」

「なんですか?」

「蘇生薬はいくつあるの?」

 ユリアの笑顔が凍った。鎌をかけてみただけだったんだけど、当たりだったっぽい。

「そ、そそんなにないですよ。ええ、こう、材料が集まっちゃったんです。ほら、魔物のせいですって」

「そこまで聞いてない」

「ううっ」

 魔物に王城を襲われたときの被害はそれなりにあった。死体はちゃんと埋葬している。しかし、場合によっては傷ばかりで判別できないものもあった。そういう問題もあって、全員家族に戻すこともできず集団葬をしたんだ。もし、そこから一部拝借してもバレないだろうし、気がつくなら私以外いない。
 協力者はイーサン様とローガンあたりだろう。怪しまれずに埋葬に入り込める、もしくは、人のいないときに作業できるものは限られる。そのうえ、これを知られるのはまずい。ほかの誰かを関与させるのも危なすぎるから当人がやったに違いない。

 ため息が出てくる。人が大人しく女王様をやっているのになにを遊んでいたんだか。

「持ってる?」

「一つはあります。残りは王都に。
 アイザック様が、アレだから用意しておいてってイーサン様がおっしゃって、今後作れるかわからないからってついでに量産しちゃったんです」

 ついでで、量産しないでもらいたい。
 アイザック兄様対策で作ったなら仕方ない。いっぱいできたのもまあ、見なかったことにしよう。役に立たないわけではない。

「蘇生率は?」

「期待値で7割です。不具合なくというのならば、4割を切ります。そこは無理させてるのでどうにもなりません」

 そこはきちんと明瞭に答えたもののユリアはすぐに涙目になり、嫌いになっちゃいますかぁと泣きついてくる。

「いやいや、大丈夫だから」

 帰ったら、あの二人には話(じんもん)をしなければいけない。

「それならいいです」

 けろっとした顔で言ってのけたユリアも尋問いるかな?

「……で、兄様のところは大丈夫なの?」

 本来、ユリアが向かった理由についてようやく聞けた。長い遠回りしたものだ。

「鎮痛剤追加しておきましたので、そっちのブツは大丈夫ですよ」

「それならいいけど。
 どこから解決したものかな。私がいなくても、先々代関係は兄様が取り押さえて……いや、無理か」

 手加減し損ねて逃がすか、やりすぎるかの二択な兄様に任せてはいけない。ウィリアムは咄嗟の判断に信用が置けない。顔見知りどころではなく、古くからの知り合いかもしれないからだ。
  無関係な私がしたほうがいい。立ち合いは必要ではあると思うけど。これも処断によっては、後々引きずりそうだ。

「夜に罠はって、朝方までには片付けて、朝から人探し、なんて忙しいんだろ」

「……あの、ジニー?」

「なにかな」

「なんかいい笑顔ですけど、嫌な予感が」

「うん。ちょっと用があるから、また、姫様変わって」

「いやですーっ!!!」

 渾身の拒否をユリアは可愛いとか、頑張ってる偉いもっと頑張ってと篭絡するのには少し骨が折れた。

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