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聖女と魔王と魔女編

弟は不満である5

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「姉様、げんきかなぁ」

 ぼんやりと呟くフィンレー。定位置のようにベッドの脇の椅子に座っているが、今日はそのベッドの主は不在だ。
 ちょっと散歩と監視も兼ねた護衛騎士と出かけている。

 それを見逃すと絶対ユリアに怒られるだろう。そう知っていても黙認した。

 少しばかり、きな臭くなってきたのだ。彼がここにいることがそろそろバレそうだ。
 原因はフィンレーにもある。

 そもそも行方不明なのにも関わらず誰も探していない。彼を知っている者にとって、これの意味するところは、望んで姿を消している、だった。
 そこから探そうとするものも多少はいたようだが、大多数は静観することにしていたらしい。

 ところが最近、動き始めたらしいと漏れ出てしまった。フィンレーの動きに彼の影響があると判断したモノたちが一定数いる。
 そこから、動く気になったのならどこにいるか確認しようとされている、らしい。
 そして、たぶん、こうなることを彼も気がついていた。気がついていて、ほっといたのだ。そうしたら、ここから出ていくことができるから。

 放っておきなさい。
 これは、気にしたくないという姉の気持ちだけではなかった。安全を取るなら、関わるべきではないと命じられているに等しかった。
 と、今頃フィンレーは気がついた。

 ものすごく、遅かった。

 ほんっとにわかりにくいなっ! とどこかに叫びたい。全部! 説明! してっ! ともいいいたい。
 あの姉の弟をずっとしているが、過去一わからなかった。

「どーすんのこれ」

 ため息をつく。
 先のことを考えると胃も痛くなってきた。

 僕だけが悪いの? そう思いそうになるが、きっと違う。
 フィンレーは言いたい。ローガンもわかっていたに違いない。なんなら、イーサンも結託していたに決まっている。
 そうでなければ、ここに出入りできるわけがないのだから。

 そうならば、皆道連れに怒られるほうがいい。こってり絞られて、お兄ちゃんなんか嫌いを食らえばいいのだ。
 もちろん、フィンレーは反省してますと言う顔で謝り倒すつもりでいる。許してくれるかは知らないが、多分大丈夫。悪いところは大人に丸投げする。
 人のことを利用しているのが悪いのだ。

「さて、僕もどこから始めようかな」

 フィンレーは呟いて、きょろきょろとあたりを見回した。黒い影を見つけて少し笑う。

「ちょっと加護があると嬉しいけどなぁ。一応、長生きしたいし」

 わざとらしいかとも思ったが、フィンレーは直接闇の神と関わり合うことは禁じられている。あちらから来た場合はいいが、フィンレーからの接触はできない。
 が、勝手に話を聞いて、勝手に何かするのは許容範囲内だろう。だって、聞かれてるなんて思ってもいなかったから。

 詭弁といわれても押し切るのが大事と兄様も言ってたし、これで十分だろう。フィンレーは一人頷くと部屋を出ていった。
 めんどくさい大人たちの相手があるのだ。
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