ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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聖女と魔王と魔女編

女王陛下のお仕事4

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 行くのは上か下かという判断なのだけど、下へと向かうことになった。上のほうが敵がいる可能性は高いけど、逃げられないように階段を押さえるつもりらしい。
 偉い人は上に上がりたがると兄様が言ってたから上に首謀者とかいそうだけど、その他大勢も漏らさずとなると後回しでもいいだろう。
 最強の回復役がいると味方が増えていくだけだし。

 そんな今の状況は良くもあり、悪くもあった。

 いいところは、けが人しかいないこと。悪いことは、敵の姿が見えないこと。
 先々代の王のところに全部集まっているってこともないだろうし。それほど数がいないで成功すると思うほど甘く見積もっていないと思うけど。

 嫌な静けさの中を進む。

 砦と言えど、普通夜は寝る。夜間の見回り人員はそれなりにいるが、昼間ほどいるわけでもない。
 強襲向きな状況ではある。

 ウィリアムに確認したところによると今日、夜間の見回りに入っていたのは、先々代の息がかかっていたものと元々の砦にいたものと半々くらいだったらしい。
 今回の件に加担していないものは背後から襲われたり不意を突かれたりして順調に倒されていたようだ。幸い無力化されているだけで、死ぬほどひどい負傷者は見かけていない。おそらくは、説得すれば自分たちにつくと思っていたからだろう。
 それはどうかなと思うけどね。

 なお、負傷者は見つけ次第、ユリアの指示で各種薬を使われている。
 びっくりするくらい調子がいいと薬を飲んだ人は言っていた。
 三日後くらいから辛いんでよろしくといい笑顔でユリアは宣言している。

 ……確かに、あれは三日後くらいから一週間くらい筋肉痛とかが……。

 と負傷者を拾っているうちに、ようやく別の兵たちと遭遇した。元気で、武装済みというわかりやすさ。無事ですかなんていいながら近寄ってきて攻撃してくるようなタイプでもなさそう。
 なぜなら彼らが私を見ると驚愕したように目を見開いていて。

「なぜ、ここに」

「捕まえたはず」

 なんて言いだす。亡霊でも見たような動揺っぷり。
 思わず、ユリアを振り返った。

「……ユリア、捕まった?」

「いいえ、一度も」

 ということは、別の誰かが捕まったということだ。
 え? 誰?
 ここの砦に赤毛の女なんて他にいない。この特徴を見逃すとは思えない。

 そう思っているうちにあっさりと捕縛されていた。あ、うん。早いな。まあ、三人くらいじゃ多勢に無勢だろう。
 彼らは転がされて、ウィリアムがお話し中なのだけど。
 いまいち会話がかみ合ってない。

「赤毛の女なんて他にいるはずない」

 そう言われも困惑する。
 赤毛。
 赤毛ねぇ?
 このあたりでも少数派な髪色で私と間違うほどの赤毛ともなれば……。

「イリューがいないし、ソランも見かけてないわ」

 少年たちがいない。一番最初とは言わないまでも、かなり早い段階で拾ってもおかしくないのに。
 そう言えばとウィリアムが呟いて、顔色を変えた。

「身代わりしちゃったかも」

 それなら、敵との遭遇率の低さもわかる。
 女王陛下を捕まえておけば、どうにでもなるのだから。イリューは私よりは少し小さいけど、女性とみるなら別におかしな身長ではない。華奢とはいわないけど、細身でもある。そして、赤毛だ。やや短くはあるけど、アレンジ次第では隠せる。
 意外に手先が器用で神を結んでもらったこともあったし、ある程度私の真似もできるような観察眼もあった。

「一応、聞いておくけど、イリューって実は女の子でしたという落ちはないよね?」

「間違いなく男だ。
 あのバカが」

 どちらが考えたか知らないけど、無謀で、無茶で。

「露払いはいらない。ついてこれたら来て」

 ちゃんとダメだよと言わなきゃいけない。
 こんなの私の予定が狂っちゃうじゃないか。

 姫様お気をつけてというユリアの声が後ろから聞こえた。軽く手を振っておいたけど、気がついたかな。

「どこを探すつもりだ」

「騎士団長の部屋。
 偉い人のとこ、乗り込むでしょ」

 ウィリアムはついてこなくても良かったんだけどな。ちゃっかりついてきてるオスカーはともかく。
 というか、ユリアを置いていっていいのかな。

 ……いいか。これまでの道程で思い知っただろう。あれを敵に回してはいけない。

「そういえば、ユリアへの特別ボーナスって何がいいと思う?」

「今!?」

「なんか、別のこと考えてないと、罵詈雑言がでてくるけどいい?」

「よくないです。
 ええとジニーとデート」

「四回する」

「……四回も何するんです?」

「知らない。あとは宝石とかドレスとかが定番だけど」

「薬草セットのほうが喜びそうですね。
 王城に調合室と温室でよくないですか」

「それはいいね」

「……いいのか」

 ぼそっとウィリアムが突っ込んでくる程度には落ち着いてる模様。それはそれでよかった。
 頭に血が上ってるのも焦っているもよくない。

「よし! 家潰して財産取り上げて作る」

 関連した家は全て制裁する。四の五の言わせない。
 ユリアに使って余ったら鍛冶師を兄様におねだりして、金に糸目をつけず短剣を作らせよう。
 どういうのがいいかな。意匠を凝らした見栄え重視で。

 そんなことをしているうちに、目的地付近についた。
 さすがにここまでくると誰かはいた。ウィリアムに視線を向ければどうぞ、お好きなようにと言われてしまった。
 まあ、躊躇なくのしていいということだな。

「後ろは任せてください」

 ウィリアムがそんなことを言いだす。

「うん。よろしく」

 頼りになるある程度信用できる相棒がいるというのはいいことだ。
 なのに、え? とかいわれるってなに?
 あれ? なんで、二人ともびっくりした顔してるのかな。
 ま、いっか。バタバタしてたら向こう側にも気づかれるし。
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