ひめさまはおうちにかえりたい

あかね

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聖女と魔王と魔女編

女王陛下のお仕事5

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 私はちゃっちゃと部屋の前の兵を片付けて、扉を開ける。
 室内は静かだった。

「やあ、随分と夜に騒がしくしてくれたね。眠れないじゃないか」

 部屋には5人。一人は偉そうにウィリアムの椅子に座っている。その斜め横にもう一人。窓のそばで外を見ていたひとりと、目の前に一人倒れてる。
 それから、部屋の隠し部屋に一人。

「子供は寝る時間だから、返してもらうよ」

 幸いというべきかイリューもソランも元気そうだ。なんで、君が女装しているのかという話とかうちの妹に似てるなとか可憐とかふざけるなとか駆け巡ったがそこはあとにしよう。

 でも、納得いかない。

「私は可憐なはずなんだけど」

「……何考えた結果はわかりますが、今じゃないでしょうよ。
 あと、可愛いの後ろの覇気が邪魔すんです」

「なにそれ」

 オスカーが白い目で見てきた。
 なんか、イリューとソランを見たらほっとしちゃって全部終わった気になってたのは否めない。
 とっとと推定主犯格を殴り倒しておくほうがいいんだろうけどさ。
 あっちはあっちで動揺して……あれ?

「女王が二人?」

「いや、こっちが偽物だろ」

「ジニーというやつに違いない」

 ……。
 心配そうな視線に腹が立つ。ええいっ。イリューも申し訳なさそうな顔するなっ!

「ごちゃごちゃうるさい。
 なんでこんな成功の見込みもないようなことを始めたか聞きたい」

 聞いても情状酌量しないけどね。
 それでも聞いたのはオスカーが二人のそばに行くまでの時間稼ぎのためだ。縛られてるからさすがに自力で身を守るのは厳しいだろう。
 それに、ちょっと変な感じがするし。

「おまえが悪い。
 ウィリアム様もどうしてこんな女に従うんです? あの兄というのがそれほどに恐ろしいのですか」

「王位はいらない。
 これまでもずっと言っているの誰も納得しないのはなぜなんだろうな」

 うんざりしたようなウィリアムの声。彼らには微かに混じる絶望に気がつかないんだろうか。話をしてわかり合っているつもりで全く違った。それを突きつけられている。
 まあ、それは自分で折り合いをつけてもらいたいものだ。

「あなたは王の甥であり、正統な後継者なのですよ。どうして拒むんですか」

「それは魔女一人だ。その魔女が選んだ人が王なんだよ」

「魔女もなぜ選ばなかったのか。
 それならば王へもう一度戻せばよかったのに。娘なのだから、父に従うべきだった」

 ……こういうの、まだいっぱいいるのかな。ここだけで終わらせてほしいな。
 まあ、この先は、後で誰かに吐かせよう。オスカーもほどほどの位置についたようだし。

 ウィリアムと目くばせし、ひとまず手近なところから。

「な、なにを」

 一人を始末したところで悲鳴じみた声が聞こえた。

「大人しくしてくださいね。
 手が滑るかもしれない」

 なんか、変な動きしてんなと思ったら。
 偉そうな男の首元に短剣が突きつけられている。もう横スライドしたら首切れるくらいの。
 それをしたのは斜め横に立っていた男だ。

「誰が取り立ててやったと」

「その節はお世話になりました。
 ですが、女王陛下のほうが重いのはお判りでしょう? それから、別に同士になってないので」

「どういうことかしら」

 なんか、もう、誰かがちらついているどころじゃないんだけど。

「諜報部というものがあるんですよ。陛下。
 引継ぎされていなくて申し訳ないですし、こんなところでお会いするつもりもなかったんです」

 神妙に謝る男に身振りで短剣を下ろすように指示する。
 それにあっさり従って、拘束に切り替えるあたりもう……。

「ここの監視をしていたのね?」

「自発的な奴ですけどね。うちの上司、ひねくれ者なので素直にお願いなんて言いだしやがらねぇ。あとで報酬せびってやります。
 それから、どこから来たかわかんないですけど、銃とかいうやつですよ。文献で見ました」

「……助かったわ。ありがとう」

 机の上に投げられたのは確かに銃だった。兄様が開発はしたけど、使わないと封じたもの。

「ナンバーついてる。
 これ、うちのだわ。誰が……?」

 嫁入り道具にも入っていない。
 思わず、オスカーを見るがぶんぶんと首を横に振っている。

「そうよねぇ。あんなの神々でもなければ」

 そう。
 やらかすような神が、面白半分で手をださなければここにこれはない。
 この場の混乱ももしや?
 殴るための準備をしたとあの方はいった。つまりは、一時的に野放しするよ、ということだったのだろうか。

 ……私には、罠の詳細というやつをきちんと説明していってほしいんですけどね……。
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